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魔術師の魔法が起こした光が収まると同時に現われたのは見慣れない服装をした若い娘。
その手にはなにやら見慣れない食べ物が乗せられた盆が握られている。
まぶしさで目を瞑っていた娘が恐る恐る目を開き、しばし瞬きを繰り返す。
天井のシャンデリアを見上げ、口を開け、周囲を見て驚愕の表情を浮かべ、王座に座る王とその傍らに立つ王と王子に目を丸くし、最後に魔術師を見て胡散臭そうな顔をしたのちその場にへなへなと座り込んだ。
座り込んでも手の中の盆の中身は崩さないのだから地味にスゴイ。
見慣れぬ格好の娘を王子は静かに観察する。
黒い髪は長く背中でみつ編みしてたらしているようだ。
顔立ちは美人ではないが愛嬌があると言っていいだろう。
見たところ武器らしきものも携帯はしておらず、本人も何故、ここにいるのかわかっていないようである。
(魔術師が転移させたか)
恐らく彼女は王子の願いの対象である食物を持っていたがため転移に巻き込まれてしまったのだろう。
つまりは巻き添え、被害者。
正しく悪いのは魔術師だ。
しかし混乱しているであろう被害者に対して加害者は知らぬ顔。
フードからのぞく口元は相変らずニヤニヤと笑っていた。
「…………」
冷たい視線を送っているのに気付いているだろうにガン無視。
あわわっと恐慌状態に移行しつつある娘を悪趣味に見続けている魔術師。
駄目だ、こいつは、知ってたけど。
改めて魔術師の駄目さを実感しつつ王子は座り込んだままの娘に歩み寄る。
最大の加害者が動かない以上、願ってしまった自分が娘に声を掛けるべきだろうと考えたのだ。
魔術師に願った願いは実は結構投げやりで決めていた。
その投げやりな願いに巻き込まれてしまった娘に対して責任が生じているのは確かだ。
足音に気付いたのか俯いていた娘が顔を上げるのと王子が手を差し伸べるのはほぼ同時。
その瞳を確認して一瞬、王子は息を飲んだ。
それは相手も同じだったらしく驚きで目を丸くしていた。
そっくり同じな深い森を思わせる緑色の瞳がそんなお互いの姿を映し出していた。