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わたしの異世界食配達物語  作者:
家族団欒には手作りの料理を
30/58

28

見慣れない場所、見覚えのない服、使い方の分からない道具………知らない世界。

いま、自分がいるのが生まれた世界ではないことを嫌でも痛感させられる。

ナツによって強制的に異世界での暮らしを余儀なくされたリカルドは最低最悪の気分で異世界での最初の日を終えようとしていた。


「おまえ………どこで暮らしていたんだ?」


部屋を共有することになったナツの上の弟、高梁家長男ハルトが布団(と呼ぶのだと教えてもらった)を床に引きながら(床に引くというのも最初に聞いた時には驚いた)呆れていた。


「シャワーの出し方を知らないわ電話の音に物凄くびびるわガスコンロに騒ぐわ………」


「うっ………」


指を折りながらハルトの言ったことは全部今日一日リカルドが起こした行動なので言い返せない。

魔術師と知識を共有しているナツとは違いざくろによって通話の魔法を掛けられただけのリカルドにはこちらの世界の言葉は分かるが知識などはないし、読み書きもできない。


『にゃ~申し訳ないです。私の力は召喚主様ほど強くないので言葉が分かるぐらいしかできないです………』


なのである程度の知識があったナツとは違い知識ゼロのリカルドは一々こちらの世界の常識に驚く破目になったのだ。


「うるせぇ!」


ぷいっ!と顔を逸らせば「やれやれ」と肩を竦められた。

なんだか駄々をごねる子供を見るような目で見られて益々ムカムカしてくる。


「はいはい。引き終わったぞ」


ぽんぽんと枕を叩いたハルトにのそのそと布団に入るリカルド。固い寝心地を覚悟していたのだが………。


「………あれ?意外に固くない」


ベットではなく床に寝具を引いて寝るというのに抵抗があったのだが横になってみると固くはなく想像以上に柔らかい。

よく干してあるのか布団はふんわりとしており、日光の香りがした。


「電気けすぞ~~~」


ハルトが天井にある丸い笠から垂れていた紐を引っ張ると笠の中にあった光る輪が不意に光を消す。

精霊か………?と思いかけたがこの世界に精霊はいないと思い直す。

驚いたことに魔法のように水やら火やら光を生み出しているのは魔術や精霊ではなく「科学」と言われる技術なのだそうだ。その科学は魔力などの特殊な力がなくても誰でも気軽に使えると教えられた時には度肝を抜かれたものだ。

自分の世界でも確かに魔術を掛けられた道具などは流通しているがそれらを作れるのはやはり魔術や精霊の力を扱えるもののみだ。

理の違う世界。

それを痛感させられる。


「おい。リカルド起きているか?」


「?なんだ?」


ごろりと寝返りを打ってハルトの方を向くと男にしては整った顔が難しそうな表情を浮かべて自分を見ていた。


「なぁ、お前、さ。なんでうちに来たんだ?」


「………ナツから聞いてないのか?」


「聞いたよ。事情があって預かることにした。以上。なにも聞くなって言われたよ」


「なら、それでいいんじゃないか?」


「よくない。姉貴があんな態度を取る時は絶対に何かやらかしている時だ」


ハッキリと言い切ったハルトの顔には妙に確信があった。

彼がその確信を抱くまでにあった諸々を思うと同情してしまうものがある。


「うちの姉はお節介だ」


「まぁ、そうだな………」


押し付けがましいお節介を焼かれた身としては同意する以外できない。


「しかも厄介なことに覚悟を決めたお節介だ」


「はぁ?」


ハルトの言っている意味が解らず思わず眉を顰めてしまうリカルド。

そんな彼に言い聞かせるようにハルトは布団を跳ね除け握りこぶしを作った。


「姉貴はなぁ!お節介でお人よしだ。それは間違いない!しかし姉貴の厄介な所は自分に対して不利益があると理解して直、首を突っ込む所なんだよ!」


「………どういう意味だ?」


「つまり、だ!お節介を焼いた挙げ句、恨まれようが嫌われようがそれらを全て覚悟の上でお節介を続行しちまうんだよ!」


普通なら、嫌われたりした時点で手を引くだろうにナツは………あの姉は一度首を突っ込んだら事態が収束を見せるまでどんなに自分の身に悪意が向けられようと絶対に手を引かないのだ。

色々な意味で性質が悪いし、厄介な女である。


「だから今回のお前のことも絶対に何かやらかしている気がしてな………」


はぁ~と零すため息が物凄く重い。


「…………」


「言いたくない、か?」


「いや………ナツは規格外だと痛感していたところだ」


「人の姉になんて認識を……って言ったの俺だけど」


そこで納得するのかと呆れればそうせざる得ない姉なんだとしみじみと言われてしまった。

なんとなく笑いがこみ上げてきて二人で声を潜めて笑った。

そして笑いが途切れたとき、リカルドは静かに語りだしていた。


ここが異世界で。

聞いているのが自分のことをほとんど知らない人間で。

夜の空気がほんの少しだけ彼の心をさらけ出してくれたのか、その言葉は意外なほど穏やかな声で語られた。


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