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わたしの異世界食配達物語  作者:
お菓子と神話
14/58

12

「ふぁ~~~~うまかったぁ~~~~~!」

 

「満足満足」

 

満足そうにお腹を叩くリカルド君。

口の周りを拭きながら私の用意したお茶を口に運ぶ魔術師さん。

ちなみに袋に入った砂糖をはじめて見たリカルド君は物凄く驚いていたし、それを紅茶に入れて飲むということにも驚いていた。

そして本日一番の驚きは一番大きなタッパーにきっしり詰まったクッキーは十歳の少年と年齢不詳の魔術師さんの二人がほぼ全部平らげてしまったことだ。

 

「にゃ~~~~あまりの迫力に五枚しか食べられませんでしたぁ~~~~」

 

そして苛烈な食物の取り合いに負けた敗者であるざくろちゃんがテーブルの端で煤けた背中を見せていた。

 

「くっきーというのもうまい。さくっとした歯ごたいの後にほろり崩れた生地から感じられる上品な甘さというのか果物では出せない深みが砂糖というものにはあるな!それにそれに………!」

 

あ、リカルド君がグルメリポーターモードに入った。

 

早口で感想を捲くし立てるリカルド君。どうやら彼は美味しいものを食べて感動するとその時の気持ちを早口で捲くし立てる癖があるようだ。

 

「とにかく!お前の作る料理は美味い!」

 

「ど、どうも………」

 

今日、最初に出逢った時の態度が嘘のように興奮で頬を上気させながら私の鼻先にまで顔を寄せたリカルド君が大絶賛してくれる。

だけど詰め寄られて捲くし立てられる側としては対処が難しいんだけど!

リカルド君の背中越しにテーブルに臥せってバンバン叩きまくっている爆笑魔術師さんとその側でこちらと魔術師さんを見比べてどうしたらいいのかわからないらしいざくろちゃん。

 

たすけて


口パクでどうにか伝えてみる。


ざくろちゃんの場合。

 

「にゃ………」

 

一応、リカルド君の服の裾を引っ張るなどの努力はしてくれていたが興奮している相手には全く効き目がございません!

あ、自分の無力を嘆いていじけた!お願い煤けてないで助けてぇ!


魔術師さんの場合。

 

「あはははははははっ!」

 

描写するまでもなく、馬鹿受けしているため救助は求めるだけ無駄であると私は悟った。


ううっ!頼れるのは自分のみっ!いざ、まいる!

 

「り、リカルド君!」

 

「すごいなぁ!お前、まるで神話に出てくる「食の女神」みたいだ!」

 

は?なにその大食堂の守護神みたいな女神様。


予想外の言葉に思わず言おうとしていた言葉を飲み込んでしまう。

リカルド君の言葉に魔術師さんが納得したように手を打つ。

 

「ああ、確かに。似ているかもね。未知なる食材を人間にもたらし、類まれなる料理を人々に振舞って戦乱に明け暮れていた人間達を平和へと導いた食の女神………たしか名前はアリエルだったかな?」

 

お~~~い。魔術師さんや~~~~い。突っ込みどころ満載の台詞ですよ~~~それ。

 

食の女神ってなに?料理で平和に導いたって何!

どんな神様よ!それ!

それに私、別に戦乱をおさめたりなんてしてないし!

食でおさまる戦乱って何!おかずの取り合いならうち、激烈ですけど!?

それをおさめるのはむしろご家庭の女神………「お袋さん」ですよ!

 

「こ、この世界の神さまって………」

 

声がひび割れてしまうのは仕方がないよね?

 

「まぁ、食の女神の話は本当にこの世界の創世記、前文明が生まれたばかりの頃の話だからね。眉唾ものではあるけど」

 

眉唾物なのか!

胸中にて本日一番の突っ込みが入りました~~~~!

 

「なんなのよ。その食の女神やら創世記やら前文明やらって………」

 

「うん?知りたいかい?」

 

え、別にそこまで知りたいわけじゃ………。

 

「というか、語らずとも君の中に知識としてはあるはずだけどね………まぁ、僕の言葉で語りましょうか」

私の返事、待っていませんね?話したいんですね?魔術師さん?

魔術師さんが小さな沈黙の後、語りだす。

いつもの幼さの残る声の中に含まれる人を小ばかにしたような棘がなくなり、ただ静かに言葉を紡いでいく。

それは小さくて弱い女神様のお話だった。

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