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わたしの異世界食配達物語  作者:
異世界へはプリン・アラ・モードと共に
10/58

8

「本当になんか、こんなすごいものを頂いて、逆に申し訳ない気が」

 

手元の手鏡を見つめながら言う。なんていうか自分の手にあること自体信じられないのにこれが私のもの?

 

有り得ない有り得ない。

 

家に帰ったらお母さんの仏壇の裏にでも隠そう。そんでもって高梁家の家宝として代々伝えよう。そうしよう。

 

そう私は決心した。

 

「こちらの都合で振り回したのだ。その手鏡だけで済ますのも心苦しいのだが………」

 

「やっぱり、何か追加したほうが………」

 

「いえ。いいです。大丈夫です。これだけでおつりがきます!」

 

放っておいたら宝物を追加の侘びだといってドンドン持ってきそうな勢いの親子を必死に止める。

ここで止めないと本当に実行されそうで怖い。

 

っていうか親子だね。

 

思考回路がそっくり。

 

ついつい生暖かい目で目の前の親子を見てしまう。

 

「はいはい。そこまでそこまで。男が一度決着をつけたことをいつまでもウジウジとみっともないよ~~~」

 

パンパンと叩きながら私たちの間に割って入ってくる魔術師さん。

 

あの。私が言うのもなんですが………。

 

「「お前が言うな」」

 

あ、親子で声が揃った。

 

ですよね~~~~。貴方だけには言われたくないお言葉ですよ。魔術師(張本人)さん。

 

「反省していないのか、お前は」

 

「そもそもの元凶がなに他人の顔をしているんだ!」

 

「え~~~~~?お説教?そんなことよりも、ナツを早く帰してあげないといけないんじゃないかなぁ~~~~~~~?」

 

魔術師さんのへらっとした言葉に苦々しそうな顔をしながらも私を帰すことを優先してくれたのか魔術師さんへのお説教はとまった。

 

魔術師さんが私の前に立つ。

顔の見えない魔術師さんの唯一の感情が浮かぶ口元が軽く緩んでいた。

 

「さて、時間も時間だし、君を元の世界に帰すよ」

 

「はい」

 

不思議な体験をしたけど家に帰れるのは嬉しい。

巻き込んだって王様やリカルド君は気にしていたけど長い人生一度ぐらいこんなことがあってもいいと思う………。

 

「次の料理も期待して待っているね。ナツ」

 

ね?

 

ん?

 

んん?

 

なんですかその台詞。

まるで私がまた、ここにくるみたいな言い方。

 

魔術師さんを見る。

 

笑っていた。

 

笑い返してみた。

 

ヘラヘラと笑い合った。

 

深呼吸をして、よし。

 

「………魔術師さん。今、なんていいましたか?」

 

「次の料理も期待して待っているね。ナツ」

 

「………ありがとうございます」

 

「いえいえ。どういたしまして」

 

一言一句正確に言い直してくださった魔術師さんにお礼を言いつつ私は首をかしげた。

 

あれ?おかしい。

 

私、帰るんだよね?帰れるんだよね?

 

なのになんでまた、ここに戻ってくるようなことを魔術師さんは、言うの?

 

「魔術師さん。魔術師さんの言い方ではまるで私がここにまた来るように聞こえるんですけど………」

 

「間違ってないよ。君はまたここに来るよ?」

 

「………え?」

 

「おい、魔術師!」

 

魔術師さんの言葉を聞いていたリカルド君が声を荒げて私たちの間に割って入ってくる。

魔術師さんを見るリカルドくんの目はきつい。

 

「お前、なにいってんだよ。どういう意味だ」

 

「何ってそのままの意味だよ~~?いやだなぁ~~王子が僕に望んだんじゃないか~~~食べたことのないような料理を食わせろって」

 

「それはさっきの………」

 

「プリン・アラ・モード!あれはおいしかったね!でもね、彼女の世界にはまだまだ僕たちが“食べたことのない”料理がたくさん、あるんだよ。王子」

 

意味ありげな魔術師さんの言葉にリカルド君の顔色がさっと変わる。

 

「おまえ、まさかっ!」

 

「珍しいよ~~~~僕達じゃ思いつかないような調理法ばかり。しかもこれほどまでに食が発達している世界もまた珍しい。王子の望み、叶えるにはどれぐらいの時間がかかるのかなぁ~~~~」

 

そこまでの会話で私もやっと気づく。

 

気づいて頬に汗が流れた。

 

まさか、魔術師さん。

 

個数制限されてなかったから私の世界の料理、食べ尽くすまで私を召喚し続けるつもり~~~~!

 

「魔術師さん!」

 

思惑に気づいた私が魔術師さんに詰め寄り勝手に決めないで欲しいと言うよりも早く魔術師さんが

「あ、そうだ。忘れていた」と手を叩いて雰囲気を変える。

 

「ナツに紹介しなきゃいけない子がいたんだった」

 

「へ?」

 

「きっと、仲良くなれるよ」

 

ぱちん。

 

魔術師さんが指を鳴らすと空中に小さな光の魔方陣が現れる。

一瞬の内に描かれた魔法陣から黒い丸いものが飛び出し、空中で一回転したのち地面に降り立つ。

 

ちりんと涼やかな鈴の音色がその動きで可憐な音を鳴らす。

 

ピンと立った黒い耳。

 

黒い尻尾には鈴をつけ。

 

首元には赤い可愛いリボン。

 

ちょこんと私の前に座っているのは紛れもない黒い小さな猫。

 

石榴の実のような綺麗な赤い瞳がきらきらと輝きながら私を見上げている。

 

「あちらとこちらを行き来するための扉を開いてくれる使い魔だよ」

 

「はじめまして!ご主人さま!未熟者ですが精一杯努めさせていただきますわ!」

 

知識の共有って絶対に記憶まで共有している。

 

私は確信した。

 

だって、そうでなきゃ、こんな………こんなっ!

 

「な、ナツ?」

 

若干おびえたようなリカルド君の声も私の耳には入らない。

 

「かわぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~!」

 

無類の猫好きな私の好みど真ん中の子を見せたりしないわ!

 

可愛いという私の言葉に照れているのか猫さんはしきりに尻尾を動かし、お澄ましした顔でだけどひげはぴんっとしていた。

 

あ~~~。駄目だ。駄目だ。理性がとろける。可愛い。物凄く、可愛い。

 

顔面崩壊上等な気分でネコさんを見ている私に魔術師さんは話しを進めていく。

 

「さっき渡した手鏡が二つの世界とをつなげる………君の世界の言葉では「てれびデンワ」かな、その役割をするよ。そうだな………あ、この壁掛けの鏡がいいね。この鏡とその手鏡で会話が出来るようにするね。それで連絡があったら君は料理を作ってこの使い魔と一緒にこっちに来る。大雑把にはそんな流れでいいんじゃないかな」

 

「ちょっ!待て魔術師!お前そんな勝手に決めるな!」

 

「そうだ。彼女の意見を無視するな」

 

「んっ?そう言うのなら本人の意思を確かめてみますか………ナツ。君はこの話受けるのいや?」

 

「へ?」

 

「受けてもらえないとこの子には二度と会えないよ?」

 

私の前からひょいと黒猫さんが取り上げられる。

 

え、あ、え?

 

物欲しそうな顔をして手を伸ばす私から逃げながら魔術師さんは続ける。

 

「君の世界で言うところの宅配さーびす?というのをやってもらいたい。もちろん材料はこちら持ちで報酬も出す。君の都合優先。もちろんちゃんと君の世界には帰すし安全も保障する。どう?やってもらえる?」

 

ぷらーんぷらーんと黒猫さんを揺らしながら魔術師さんが選択を迫ってくる。

 

ちりんちりんと鳴る黒猫さんの尻尾の鈴が私に決断を急かす。

揺れる黒猫さんを目で追いつつ提案されたことを考える。

えっと鏡で連絡があった時に料理を作ってこの黒猫さんにこっちの世界に送ってもらって料理を届ければいいんだよね?

 

材料は向こうもち。うちの家計には影響はない………。

 

ちゃんと元の世界には戻れる。

 

そして何よりも………。

 

「うにゃ?」

 

この提案に乗れば可愛い可愛い黒猫さんとの薔薇色の生活が待っている!

 

「な、ナツ殿。よく考えろ。魔術師の罠があるぞ。一時の感情にながされたら………」

 

王様が何か言っていたが私の耳には届かない。

 

無駄にテンションマックスになっていた私は大音声でこう宣言したんだ。

 

「やります!異世界宅配!受けようじゃあ~~~りませんか!」

 

仁王立ちをして胸を盛大に叩いて宣言した私にリカルド君と王様が揃って頭を抱えて、魔術師さんはそれはよかったと満足そうに頷いていた。


告白します。無駄に興奮していたんです。理性が本能に負けていたんです。

 

今は猛省しています………。


 

「本人の了承も得られたってことで。詳しい話はまた鏡で伝えるね」

 

愉しげに笑う魔術師さん。

 

ちょっと待てと王様親子が何か言い出すよりも早く黒猫さんを私の腕の中に戻してくれた。ふかふかな毛並みと温もりに状況を忘れてへにゃりと顔が緩んでしまう。

 

「さて、それじゃ、またね」


息がかかるぐらいの至近距離、フードの中が見えそうなほどの距離まで顔を近づけた魔術師さんがそう囁いた途端、私の腕の中にいた黒猫さんが「にゃあ」と一声鳴いた。

その瞬間、覚えのある光が足元に出現してそのまぶしさに目をキツク閉じてしまう。

 

「ごらぁ!魔術師!勝手に話しを進めるなぁ~~~~~~~~~!」

 

とても子供とは思えないほどドスの効いたリカルド君の怒声が響いたけどその時にはもう、私の体は光に完全に包まれてしまっていた。

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