プロローグ
凄い初心者ですが、宜しくお願いします。
この月ノ宮学園に入学してから二ヶ月程たった今、
春の匂いも、あの気持ち悪い毛虫たちもとうにどっかへ消えて、蒸し暑い夏をだらだらと過ごす日々が続いている。
もうすぐ梅雨と考えると、ほんとにだらだらと過ごすしかなさそう、と。
学園の中庭のベンチの上で、そんなたわいもない日常を気だるくシンキングしながら人待ち中の私は、
松原 テトって言う。
月ノ宮学園一年A組所属、友人の間ではボケ担当と言う事になっているらしい。
それにしても外は暑いです。
こんな炎天下の中、何で待ち合わせ場所が中庭なんだろう。
クーラーの効いた教室にすればいいのに。
ハンカチで額をぬぐうと、私は腕時計を見た。
五時を回っていた。
はあ、と溜息一つもらして見る。
そうすれば彼が早く来てくれる、訳ないか。
「テトーっ、遅くなってすまんな」
うわっ、ほんとに来た。溜息端ねえ。
私は振り返って、待たせた事について文句の一つでも言ってやろうと思ったけど、
「……凄井?」
私がここで待ち合わせしていた人は、
凄井 麻貫と言う名の男子クラスメイトだけど、
そこにいたのは凄井じゃなかった。
いや、凄井なんだけど、
「…………死んでる」
思わず某ギャグ漫画のようになってしまった私は、首を突き出し、目を見開いて彼に問いかけた。
そう、目の前に居る凄井の頭の上には、天使の輪っかの様な金色のリングがついている。
それどころか、凄井の身体は地に足がついていない状態で、空中を浮遊していた。
一体何があった……?
「あ?ああ、実はさ、俺。踏み切りの遮断機でリンボーダンスの練習をしてたんだけど、そしたら電車に轢かれちゃってな。まあ、そんな訳で幽霊になっちゃったんだ」
凄井は何のためらいもなくそう言うけど、
幽霊になっちゃったんだ、どころの話っスかそれ。
まあいいや、それより。
「早くデート済ましちゃおうよ。さ」
私はあっさり立ち上がって、凄井の手を掴んだ。
私と凄井は恋人同士。王様ゲームで決まってしまった。
まあ、恋人は昔から欲しかったし、凄井とは友達以上の付き合いだったから、とりあえず恋人って事にしている。
あまり恋愛感情無いけどね。
んで、恋人同士のスケジュールとして週一回デートをする事になっている。
「ここって、牛丼屋?」
「ああ。ここのにんじん牛丼がもう美味いんだ」
凄井の提案でとりあえずこの牛丼屋、「牛栗亭」に入ることになった。
やっぱり店の中はクーラーが効いていて涼しい。
天国にでも来た気分。
でもって私の彼氏はいつでも天国に昇れるのか。
「おばちゃん、にんじん牛丼二つ」
私が席を取っている間に、凄井は素早くカウンターへ行った。
間抜けだけど気が利くんだな。
「あら、麻貫君。また来てくれたのね」
カウンターに立つおばさんは、どうやら凄井の事を知っているらしい。
でもまぬけくんって。おばさん、出来れば上の名前で呼んであげて。
「あ?ああ、来たけど。今日は彼女も一緒。あそこに居る。テトって言うんだ」
おばさんは「あら」と言って、こっちに向かって挨拶をしてくれた。
一応頭を下げる。
「でもごめんね。今ちょっとにんじんが売り切れ状態なの」
「あ?まじか」
凄井は口をぽかんと開けた。
「最近にんじん牛丼を買い占めるお客さんが居てねえ。この店も困っている所なの」
その言葉にまいったな、と頭をぽりぽりやる凄井。
そしてこっちへ戻ってくる。
「わりい、俺のお勧め無いんだとさ。違うのにしよ。ほいメニュー」
凄井はそう言って私にメニューを軽く渡した。
私はメニューに目をやって、箇条書きされた牛丼の種類を上から見ていった。
温卵牛丼、ごまだれ牛丼、蟹牛丼、海鮮牛丼、
モー丼、焙煎牛丼、サイダー牛丼、マヨネーズパン牛丼
………、
はっきり言わせてもらうけど、どれも美味しそうだな。
「私、マヨネーズパン牛丼にするね、凄井は?」
「ん~。じゃ、ごまだれ牛丼で」
オーダーする物が決まった所で、私と凄井は世間話でもする事にした。
「そういえば、明日学園に転校生が来るんだって」
言ったとおりそういえばの事で、担任のシャーベット先生からそんな情報を聞いている。
「へー、初耳。また変わった奴が来るんかね」
凄井はそう言って、片手でお冷を一口飲んだ。
そして、あー、とだるそうに息を吐いた。おやじくさい。
「月ノ宮学園に入学してからまともな奴にあってねえ、ま、うちの学園はそれで成り立ってんだけどな」
「そうだね。てか、まさかこんな学校があるとは、思ってもいなかった」
私はそう言って、凄井に肯定した。
「そんな訳で、俺達は無事高校生になれたっつーことだ。全く、校長に感謝だな。あ、オーダー、来たみたいだぜ。ほらよ」
その後は普通に牛丼を食べ終えて、私達は寮に戻ることにしました。
「足りない……」
長い耳がぴくりと動いた。