FILE1:少年
あたりは夕闇に包まれていた。
空と同じように暗い海の上を一隻の客船がいく。
甲板は明るく照らされていて、乗客のほとんどが船室から出てきていた。
何が、というわけではなかったが、その船はやけに心地がよかったのだ。
乗客のひとり、トレイン・ルービンも、ノートパソコンを部屋から持ち出し、甲板に出て潮風に当たっていた。
「あ〜・・・気持ちいいな・・・部屋戻りたくねー・・・」
金髪にピアス、首元にじゃらじゃら付いたアクセサリーと、見た目はただのアウトローだが。
少年トレインは、実はとても素直な性格だった。
アクセサリーなどは、友人にかわいがられた結果付けられたものだ。
取り外すのが面倒だったし、何より友達からのプレゼントなのでそのままにしておいたというわけだ。
そんなわけで、トレインは見た目と違って子供らしい少年と言える。
そのトレインが、パソコンから突如流れた音に反応した。
「メール・・・っと。母さんか」
届いたメールを開くと、トレインは心配症な母からのメッセージを読み始めた。
「『トレイン、元気?』
元気だよ。
『旅行はどう?楽しんでる?』
・・・まだ一日目だって。
『予定通り、南の島に着いたら連絡してね』わかってる。
『そうそう、言い忘れてた。・・・卒業、おめでとう・・・』・・・・・・
・・・恥ずかしいな・・・・・・」
普段、こうも母親に関心を寄せられることがないので妙に照れるトレイン。
離れると子煩悩になるというか親バカになるというか。
トレインが、ハイスクール卒業記念に一人旅をしてくると言った時もえらく心配された。
旅と言っても、南の島に一週間ほど観光に行くだけだ。
そう告げるとようやく、安心したらしく、彼女は笑って送り出してくれた。
にも関わらずこうやってメールをよこすとは。
トレインは苦笑しながら、安心させるために返信メールを書いた。
「・・・よし」
送信すると、トレインはぱたんとパソコンを閉じた。
海の風に当たり、一人旅気分を満喫しようと思ったのだ。
しかし。