Who is my boss?
誰がボスかと考えた。
「今日は海老入りだぞー。ゆっくり食べろよー、シロ」
餌をくれる人がボスなのだとしたら、それは間違いなく轟さんだ。
確かに、朝ごはんに猫缶を盛ってくれるのは紘さん。大学に行く日は昼ごはん用にドライタイプキャットフードをセットしてくれるのも、紘さん。でも紘さんは、紘さん自身のごはんを用意する時と同じように、それを日課のひとつくらいにしか考えていない節がある。轟さんみたいに優しい言葉をかけてくれる訳でもなく、「はいはいはいはい今用意するからねー」とまるでいなしているかのようなのだ。
「取り合う相手がいる訳じゃないのに、いっつもがっついてるよなー」
名前を付けてくれた人がボスなのだとしたら、それは間違いなく千歳さんだ。
以前はトラ次郎と呼ばれていたのだけれど、紘さんは気に入らなかったらしい。改名会議が開かれた時に「シロでいいじゃないですか」と言い出したのが千歳さんだった。強硬に反対する紘さんが新しい名前を考える間にも千歳さんはシロ、シロと呼び続け、結局定着した。千歳さんはそれにえらくご満悦の様子だ。
「二人がいい餌ばっかりあげるから、最近こいつら味を覚えてきちゃったじゃないの」
住処を提供してくれる人がボスなのだとしたら、それは多分、紘さんだ。
多分というのは、基本的には紘さんの部屋にいるのだが、合コンとか飲み会だとかで夜遅くなる日は轟さんや千歳さんの部屋に預けられたりするからだ。紘さんに用事の無い日でも、散歩やパトロールがてらしょっちゅう入り浸っている。おかげで二人とも、ベランダ側のカーテンをちょっとだけ開けておいてくれるようになったから、いつ覗いてもすぐ気付いてもらえる。
紘さんは轟さんがつけてくれたごはんから、三分の一くらいを別の小皿に移した。
「僕、不思議に思ってたんですけど……ひろさんってたまに、そうやってシロの餌を分けますよね。それにさっき、こいつ『ら』って言いませんでしたか」
「聞きたいの?」
質問した轟さんの頭を掴んだ千歳さんの手は、強引に首を横に振らせている。
野良猫には鼻が悪いとか病気になりやすいとか、家猫よりも障害を抱えていることが多いらしい。両方を持ち合わせていた弟は、冬の寒さに耐えられなかった。相変わらず痩せた小さな身体で、紘さんが取り分けてくれた餌にかぶりついている。今までの様子からすると、轟さんと千歳さんはこの弟が見えていないようだ。
弟が満足していなくなると、小皿の方も食べても紘さんに怒られなくなる。両方平らげてから轟さんの膝に直行した。紘さんや千歳さんと違って、うたた寝している間、轟さんは絶対に動かないでいてくれる。充分堪能して膝を降りた後はいつも、呻きながら脚を揉んでいたりトイレに駆け込んだりする。邪魔なら別に降ろしてくれていいんだけど。
快適な轟さんの膝に寝そべりつつ、千歳さんが振っている猫じゃらしに適当に手を出す。こういう時に、紘さんがこのお二人をはべらせている理由が何となくわかる。お二人のボスが紘さんなら、自分のボスはやっぱり紘さんなのかもしれないな。
「シロって、遊んでくれてたと思ったらふと夢から醒めたような顔でスタスタどっか行っちゃったりするんだよなー。いかにも気がなさそーにあしらわれたりするしさ、ほんっとに誰かさんそっくり」
紘さんの部屋では、よく物が飛ぶ。千歳さんの呟きが終わるか終わらないかのうちに、泡のついた箸が頭上を通過していった。それを嬉しそうにしている千歳さんはまるで、棒を投げてもらってる飼い犬のようだ。いいんですかそれで。
チャイムがリンロンと鳴った。皿を洗っていた紘さんは、キッチンから首を伸ばして千歳さんを呼びつける。
「千歳ー、新聞勧誘だったら追い返してくれない? あいつ、新聞はいいからデートしませんかとか、うるさいったらないの」
好意を知ってて煽ってるなら策士めと思うのだが、ただ単に本当にうざったくて出たくないから頼んでるに違いない。途端に険しい顔つきで立ち上がる千歳さんの様子を見れば一目瞭然だと思うんだが、紘さんは見ちゃいない。
千歳さんも千歳さんで、オスならさっさと実力行使に出りゃあいいのに。
何かばたばたしたやり取りの後、紘さんの素っ頓狂な声が聞こえた。
「万智子さんっ?」
「明細見てびっくりしちゃったわ! 救急車で運ばれて入院してただなんて、もう心臓が止まるかと……」
「はいはいごめんなさい」
洗い物を放棄したらしい。紘さんはさっきよりも数段うざったそうな顔をしてずかずか部屋を横切ってくると、どすんとベッドに座った。その後ろを追いかけて入って来たのは、見たことのないおばさんだ。紘さんのクローゼットには絶対入っていないであろう、花柄のすっきりしたワンピース。ふわりと漂う優しい匂いと輪郭の柔らかさは、タンポポの綿毛を思わせる。髪型もメイクも、紘さんのシャープさとは対照的なメスらしさだ。
「紘ったら、どうして電話の一本も……あらこんにちは」
「こ、こんにちは……」
花が咲くような優雅な微笑みを投げかけられ、轟さんは慌てて立ち上がろうとしたらしい……が、こっち、すなわち膝の上を見下ろして困ったような顔をしている。しょうがない、どいてやるか。
「あ、これ轟。あっちが千歳。で、それシロ」
簡潔極まりない紹介で、お二人は揃って頭を下げた。
「この人、万智子さん」
紘さんと一体どんな関係なのかと不思議に思っているのがありありと伺えるお二人に、万智子さんと紹介されたおばさんは深々とお辞儀した。
「紘の母でございます」
ええっ、と意外そうなオス二人の声をよそに、紘さんは渋い顔だ。
「別に病気じゃないし大した怪我でもないし、必要ないと思ったからー。わざわざ来なくっていいのに」
「冷たいんだから、紘ったら」
泣き出しそうな万智子さんと怒ったような紘さんを見ながら、轟さん千歳さんは額を寄せ合っている。
「普通、母親を名前で呼ぶか……?」
「お若いお母さんみたいだし、なんか、友達同士みたいな感じなんじゃ」
それも紘さんの方が強そうな感じだ。
「この部屋、椅子ないんだから来たら腰痛が悪化するって何度も言ってるじゃん」
「俺んとこからテーブルと椅子持ってきますよ」
雰囲気を和らげようとしているんだろう、間延びした口調が割って入った。既に玄関に向かいかけている千歳さんに、頷きながら轟さんが続く。紘さんも黙ってすたすたついていく。
「あら、大丈夫よ。お気遣いなく」
「いいから座ってて」
知らない相手と一人と一匹っきりにされるのは居心地が悪い。慣れた三人を追いかけて、ドアの隙間をすり抜けた。
「ありがと、千歳」
千歳さんの部屋は置物が多くて遊びにくい。その最たる障害物が紘さんの部屋へ移動するらしい。ずっと置きっぱなしにならないことを祈る。
「ひろさん、良くないですよ。せっかく心配して来てくれてるのに、あんな」
始まった、とばかりにすくめた肩に椅子を担いで、紘さんは呆れ顔だ。
「優しく出迎えたりしたらますます頻繁に来るでしょ。その度に腰が痛くて寝込む羽目になるんだから。ちゃんと生活してるってのに何がそんなに心配なんだか」
「ちゃんと生活できてないって自覚がないからじゃないですか」
ゴンと鈍い音がした。紘さんが千歳さんをしつけているのは良く見かけるが、今の音はかなりキツい仕置きだった気配だ。椅子で殴られたのかもしれない……。しかしそれさえも嬉しそうにしている千歳さんって一体。
三人はそれぞれ家具を抱えて出て行ったが、すぐに轟さんと千歳さんだけが戻ってきた。
「お互い心配しあってんのに、通じてないよなー。ひろさんが素直じゃないんだな、あれは」
テーブルと椅子が無くなってがらんとした空間を見下ろす千歳さん。
「そうかなあ。黙って赤くなってる時もあるけど」
膝から追い出した埋め合わせか、轟さんは高い背を屈めて抱き上げてくれた。遠慮なく抱きつかせてもらう。家猫になって良かったとしみじみ思う瞬間だ。
「そりゃ轟だからだろ。さっきだって見ただろ、ひろさんって俺が心配したっていつもウンザリって顔するんだぜ、何でおまえだと素直なんだよ」
轟さんの腕の中にいると、千歳さんの拗ね顔が間近だ。確かに、お二人に対する紘さんの可愛がり方には違いがある。千歳さんとはじゃれてて、轟さんとはひなたぼっこしてるみたいな。
「千歳もひねくれてるからじゃないかなあ」
正しい意見だ。
それから轟さんは、くすりと笑った。こんな風に、面白くて仕方ないような顔をするのは珍しい。
「病院から電話もらった時の千歳、ひろさんに見せてやりたいけど」
「バラしたらぶっ殺す!」
上目に睨んでくる千歳さんから遠ざかりながら、轟さんはひそひそ話し出した。
「教えてあげようか、シロ。千歳のやつ、ひろさん切らないでって必死に訴えてたんだぞー」
ほほう。それは確かに面白くて仕方ないかも。
「心配してんのに心配させるなんて俺アホだ、って頭抱えてたんだぞー」
情けない……。
千歳さんは自分でもそう思っているらしく、苦々しげに呻いている。
「あの時チャンスだったんじゃないか? 聞こえなくなっても好きです、って言えば良かったのに」
「言ったんだよ! いや、ストレートなのはつまんないから言わないけどさ……キスしたんだけど」
おおっ、実力行使してたのか。意外だ。
「あれって、相手は実は友紀だったんじゃないっけ」
轟さんのひどく同情的な顔から察するに、千歳さんは痛い目に遭ったらしい。
「……それじゃなくて。飲み比べで酔っぱらったひろさん送った時に、部屋で」
えええ、聞いてないと詰め寄っている。
「なのにけろっと忘れられた」
痛い目に遭っているのは一回じゃないらしい……。
「……酔ってる時なんかにするから……」
小さな溜息が耳をかすめた。
確かにマタタビに夢中な時にしたことは、後から怒られても思い出せないかも。
でも千歳さんは不服らしい。
「するだろあれは! 聞こえなくなったら友達いなくなるとか言うんだぜ? そんなこと言われたら、おまえだってするだろ」
「しないって。姉さんか妹みたいなもんだって言ってるだろー」
のんびり轟さんが答えると、ちょっと間があった。
「……引っかかんねーな、おまえ」
つまらなそうな舌打ちが聞こえた。
「ほんっとは、轟もひろさん好きなんじゃねーの?」
「千歳の思い込みだってば」
でも轟さん、心臓どきどきしてるの伝わってきますけど?
その時、何かが鳴り出した。この音は千歳さんの携帯だ。
「あ、ひろさんだ。へい毎度、今度はどんな家具をお探しで? ……紅茶切らした? ありますよー持って行きます」
千歳さんのキッチンにはやたらと缶がある。噂に聞く、通い妻の遺産というやつだろうか。そのうちの一つを持って千歳さんが出て行くのを見送る轟さんの顔は、ちょっと寂しげに見えた。にゃあと鳴いてみる。
「いいんだよ、シロ」
撫でてくれる轟さんの手に、頭を擦り付けた。
轟さんにあんな顔をさせた仕返しに困らせてやろうと、夜ごはんは弟の分から食らいついてやった。
「こらっ、ダメでしょシロ。兄弟なんだから仲良くしなさいっ」
親子でおかしな口喧嘩してる紘さん、叱れる立場にないくせに。
「あーもう! ほら弟、こっちおいで」
小皿で弟を釣りながら、紘さんは玄関から出て行ってしまった。ばたんと閉まるドアを見やる三人の顔は複雑そうだ。
「ごめんなさいねー、あの子、おかしな子で……」
万智子さんが恐縮しきりで首をすくめている。普段なら激しく同意しそうな千歳さんだけれど、この人相手には轟さんと揃っていえいえと否定してみせていた。
「自炊してるのかと思ったら、轟くんに作ってもらってたのねえ……」
「僕たちも一緒に食べるんで、いいんです。作るの好きですし慣れてますし」
にっこりなだめた轟さんの笑顔も、あまり効果がないようだ。はあ、と溜息をついて万智子さんは部屋を見回す。
「これが年頃の女の子の部屋なのかしら……がらーんとしてて。おかしなもの供えてある仏壇なんかあって」
すっかり気の抜けたコーラ、煙草、薬瓶が並んだ仏壇に万智子さんは再び嘆息した。轟さんと千歳さんも今回はフォローのしようがないらしく、口ごもっている。
「あの子、ほら……変なこと言うでしょう。幽霊とか」
しんとした部屋に、轟さんが料理している鍋のぐつぐつ言う音が響いている。
「物なんか、どうせ向こうに持ってけないんだからなんて、妙に悟ったこと言うんですよ。耳もね、わたし気付いてやれなくて、治らないって分かった時に申し訳なくって。なのに、どうせ置いてくものだしってあっけらかんとして」
猫なんて、これは自分のだなんて主張できるものはない。弟は痛みばかりだった身体から解放された。紘さんの気持ちも分かる気がする。
「それは、言い方はぞんざいだけど……気にしないで欲しかったからじゃないですか。僕たち、ひろさんのそういうの何となくわかってますし、耳のこと不安に思ってるのも知ってますし、無茶させないように気をつけますから」
勢い込んで言ってから、轟さんはしょぼんとうなだれる。
「今回の入院だって、僕たちがちゃんとしてれば怪我しないですんだかもしれないのに……すみませんでした」
轟さんが頭を下げると、万智子さんは座っていた椅子から慌てて腰を浮かせて手を振った。
「まあ、謝って頂くことじゃありません。こちらこそ、紘をどうぞよろしくお願いしますね。本当に手のかかる男の子みたいで申し訳ないんですけど」
頭を下げあっている三人を、紘さんに見せてやりたい……。
「あ、それに、こだわりがないわけじゃないですよ。ひろさん、時計好きじゃないですか。ブランド好きじゃないくせに詳しいし」
思い出したように千歳さんが言い出す。そういえば紘さんって、部屋の中でも腕時計しっぱなしだっけ。
「ああ、腕時計……ですか」
万智子さんは困ったように笑った。
「時計が好きなんじゃなくて、音を聞いてるんです。時計っていつも同じ音で、同じ音量でしょう。だから耳の調子を測るのに利用してるんですよ。デジタルじゃなくて、ちゃんと針の音がするのを使ってるでしょ。腕時計することで、聞こえてるんだって安心するみたいです」
一瞬凍りついた後、弾かれたように千歳さんは出て行った。それを見た万智子さんは、しんみり俯いてしまっている轟さんに楽しそうに声を掛ける。
「あら、千歳くんって紘のこと好きなのかしら。紘はお友達って言ってたけど」
「片思いみたいですけど、頑張ってますよ」
二人で嬉しそうに内緒話をしている。轟さん、本当に満足してるのかなあ。
「だから安心して下さいね。心配したくてしょうがないのが、こんなに近くにいるんですから」
そうね、と万智子さんは笑った。
「ダメだってば、シロに餌とられちゃうんだからー」
「いいからこっちにいて下さい」
戸惑い顔の紘さんが、千歳さんにぐいぐい手を引かれて帰って来た。
「ひろさん、もう絶対、沙悟浄賭けさせたりしないから。どんな常連さんからでもおごらせません」
「はい? いきなりどうしたの。あっ、シロってば……何なの、弟を成仏させたくないわけ?」
どきりとした。
お尻を叩かれないうちに弟用の小皿から逃げて、さっさとベッドの下へ避難する。
「お、弟って」
「やっぱりもう一匹いるんだ……」
うすうす勘付いてたらしい。轟さんと千歳さんは不安げな顔できょろきょろしている。
「柄がそっくりだから弟だと思うんだけど。すっごく飢えてた感じなの。シロと餌を取り合うから分けてたんだー。でも最近、餌いっぱいあげてたでしょ。だんだん顔が落ち着いてきたから、そろそろ成仏してくれるかなーって思ってたんだけど」
「まあ、猫も成仏するのねえ」
紘さんの発言に慣れているのか、オス二人と違って万智子さんは呑気に感心している。
「そしたらシロが邪魔する回数が増えてきたの。ひょっとしたら、気付いてるのかもね。そのうち満足して、弟がいなくなっちゃうこと」
指摘されるとますます寂しい。にゃあう、とベッドの下から鳴いてみると紘さんは困ってしまったようだ。さっきまで困らせたかったのに、いざそんな風に怒らずに大人しい紘さんを見ると元気出して、と擦り寄りたくなってくる。
「ずっと仲良くしてたいから、冷たくしちゃうなんて……根性曲がってる」
「そんなとこも飼い主に似てるんですねえ」
ふとそんな台詞を漏らした轟さんは、紘さんに睨まれて慌てて謝っている。擦り寄らずに済んだ。
「そうですよ。おうちにはちゃんと連絡くらいしなくちゃ、ひろさん」
千歳さんはそう言って万智子さんを振り返ったけれど……轟さんが言ってるのは、千歳さんあなたのことだと思うんですが。
多分、紘さんは千歳さんの好意を本能的に察してる。でもそうやってオスとメスになっちゃったら、兄弟みたいにはいられなくなる。だからきっと、無意識にあれは好意じゃないってガード張ってるんだろう。
でもね、紘さん。所詮オスとメスなんだから、いつまでもそういうわけにはいかないと思うよ。
「好きで飼ってるんじゃないならちょうだい、紘。可愛がるわよー」
「……やだ」
渋々連れて来たような顔して、放任主義のくせして、紘さんは即座に断った。
「つれなくしてるじゃないの」
「そんなことないけど」
焦ることないのに紘さん、からかわれてることに気付かないんだろうか。
「ほら、この部屋じゃ狭すぎるんじゃないの?」
「あげないったら! いなくなったら困るの!」
あぁ紘さん好きです、ついてきます……。怒鳴られて嬉しいなんて、千歳さんの気持ちが分かっちゃったかも。
紘さんって、轟さんと千歳さんに対してもそんな風に思ってるんだろう。コックとパシリみたいに扱ってるように見えて、実は二人がいなくなったら心が困ってしまうんだろう。
ご機嫌斜めな紘さんをよそに万智子さんはふふふと笑って、その話題を流してしまった。
「轟くんと千歳くんがいてくれたら安心だけど、たまには電話ちょうだいね、紘」
不満そうに紘さんは腰に手をあて、唇を尖らせた。
「いてくれたらって、何よ。わたし一人じゃ安心できないわけ」
「できません」
万智子さんに断言されて、紘さんは口をあんぐりしてる。不穏な雲行きを感知した轟さんが、おずおず二人の間に入った。
「あの、何かあったら僕たちがご連絡しますから。電話番号を教……」
「轟までそういうこと言うの? ちょっと千歳、何か言ってやってよ万智子さんに!」
催促された千歳さんはおもむろに頷いて、ずいと万智子さんの方へ踏み出した。
「俺にも電話番号下さい」
「この裏切り者……」
揃って携帯を取り出すオス二人は、背中に紘さんの突き刺さるような視線を感じてるに違いない……。一方の万智子さんは楽しそうに肩を揺らして笑い出した。
「あら、電話番号を聞かれるなんて、いい男二人にナンパしてもらってるみたいだわ」
「万智子さんっ!」
それから何日かして、紘さんの仏壇には猫缶が増えた。
紘さんは喧嘩っ早い。メスらしくない。凶暴だ。怒ってばかりだし。
でも愛すべき、我らがボスなのだ。




