第六話 あなたにも協力して欲しいの
堂本は、数秒間、呆気に取られていた。
数秒後、何とか冷静な思考を取り戻した堂本は、言われた言葉を自分の中で反芻する。
「『救世主』になってくれって‥‥どういうことですか?」
「そのままの意味よ」
堂本が尋ねると、轟は真剣な表情のまま答える。
「政府の連中を一掃するために革命軍で入るのでもなく、自分の身を守るために政府に加担するんじゃなく、私達と一緒に、この国を変えて欲しいのよ」
轟はそう言うと指を鳴らし、何人かの名前が書かれた紙を出現させる。
そこには、轟、美聖、堤の名前も書かれている。
「悲劇の連鎖を断つ者 ‥‥革命軍でも、政府の組織でもない、対革命軍、対政府の第三勢力、革命軍とは違うやり方でこの国を正す、それが私達のグループ。今はまだ火種にすらなれない小さなグループだけど‥‥」
轟はそう言うと、再び指を鳴らし、紙を消す。
「さっきも言った通り、この国は腐りきって滅びかけてる‥‥今の状況を打破しないといけない、それは誰にでも分かってること。でも、だからって、今の力で強引に事を成そうとする革命軍のやり方は間違ってる。勿論、何かを変えるんだから戦いを避ける事は無理ってことは分かってるわ。でも、今の革命軍のような力づくで、必要以上に色んな人に迷惑をかけるやり方じゃ、傷つく人間が多過ぎる。多分、今の革命軍が政府に勝って、政権を奪って善政を行おうとしても、傷ついた国民の支持を得られず、またすぐに政権を奪おうとする連中が現れる。それで傷つくのは、結局平民。だから、私達は出来る限り彼らを傷つけないようにしながら世界を変えたいの」
「全員じゃないのね」
リリムが三人に冷やかな視線を向けながら呟くと、轟の顔が歪む。
「理想を言えばそうなんだけどね。皆が無傷で、というわけにはいかないってことは分かってるわ」
轟は吐き出すように言う。
それは自分の言葉を自身が納得しているようには全く見えなかった。
それは他の二人も同じようで、二人共苦虫を噛み潰した顔をしていた。
「まぁ、そういう訳だから‥‥あなたにも協力して欲しいの」
「そういう訳って‥‥僕は何も協力出来ることなんてないですよ!? だいたい僕はこの世界の人間じゃないんですよ!?」
堂本は動揺してうろたえているが、轟は小さな子をなだめるように優しい声色で答える。
「だからいいのよ。別な世界から来たってことは、別な視点があるってことじゃない。つまり、私達では見えない物が見せるってことでしょう?」
「そう‥‥ですか?」
「ええ。それに、あなたが何も出来ないってのは間違いよ」
「え?」
「言ったでしょ? あなたには、魔法の才能があるわ」
「でも、僕は‥‥」
「大丈夫ですよ」
堤が何かを言おうとした堂本を遮る。
「今はまだ、魔法のこと何も知らないでしょうけど、私達がしっかりと教えてあげますし、きっちり鍛えてあげますから」
「仕方なく、だがな」
美聖が付け加えると、轟が呆れた目で見る。
「またあんたはそんなこと言って‥‥」
轟はそこまで言うと美聖に聞こえないような小さな声で、
(本当は堂本君と一緒にいられて嬉しいくせに)
と付け加えた。
「それで、どうですか?」
堤が堂本に尋ねるが、堂本は未だ困った表情のままだ。
「でも‥‥」
「言っておくが、どれだけ理由をつけた所で、お前に断る権利なんてありはしない」
美聖が我慢しきれなくなったのか、あからさまに苛々を表に出す。
「ちょっと美聖さん‥‥」
「私は事実をありのままに言っているだけだ」
堤が美聖を責めるように言うが、美聖は全く気にしていない。
「お前が私達に協力しなければ、私達もお前に協力しない。そうなれば、その魔物の力を借りても、今のお前では政府や革命軍の手から逃れられんし、おそらく元の世界に戻る方法を見つからないだろう。そもそも‥‥本来ならば私達はお前を政府に引き渡さなければならないんだ。仲間にならないのならリスクを負ってまでお前をここにいさせる理由は一つもない」
「ちょっと美聖、言い過ぎよ」
轟が美聖をたしなめるが、美聖はそれを無視する。
「アンタ‥‥御主人様を売る気?」
リリムが美聖を睨む。
「最悪そういうことになるだろうな」
「させないわよ」
リリムが構える。
しかし、美聖はそれを見て呆れたような顔になる。
「さっきも言っただろう。『‥‥別に私達は邪魔にならなければ、この子に手を出すつもりはない』と」
美聖は堂本の方を向く。
「お前が私達に味方するなら、お前の力になる。私達に味方しないなら、お前を政府に引き渡す。どちらを選べばいいか、子供でも分かるだろう?」
「‥‥分かりました。皆さんに協力します」
堂本はそう答えるとリリムを見る。
「リリムも、それでいい?」
「御主人様が良いとおっしゃるなら‥‥ですが、本当によろしいんですか?」
「うん。美聖さんの言う通りだもん。こっちだけ協力して貰うなんて、虫がよすぎるよ。それに、今の僕じゃ何も出来ないしね」
「‥‥分かりました」
堂本はそう言うと、リリムは不満げな表情のまま、しぶしぶ頷く。
「それで‥‥僕はこれから何をすればいいんですか?」
堂本は三人の方を向いて尋ねる。
「そうね‥‥これから、私達の仲間にあってもらうわ‥‥クセのある奴もいるから、気をつけてね」