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第三話 マズイかもしれません

堂本は轟に言われた通りに堤に教会を案内してもらっていた。


「はい、ここが食堂です。基本的に食事の時間は決まってないので、好きな時に食べて下さい」


「意外と‥‥ルーズなんですね」


堂本が歩きながらぽつりと漏らすと、堤が苦笑いをしながら答える。


「まぁ、元々はきちんと決められてたんでしょうけど‥‥今はトップがあの人なので‥‥」


「轟さん‥‥ですか?」


堤は頷く。


「轟さんはS級修道女の中でもかなり異端ですから、修道女や修道士が全員あんな感じではないんですよ」


「その‥‥S級修道女って‥‥なんですか?」


堂本が質問すると堤は一瞬驚いたような表情になるが、すぐに苦笑いをする。


「そうですか、そちらにはいないんですか‥‥」


堤はそう言うと立ち止まる。


「この世界では、教会に仕える者は全てランク分けされています。EからSまで、全部で六段階あって‥‥S級修道女というのは、修道女という職業の中のトップ、というわけです」


「なんで‥‥そんな階級が‥‥?」


「この世界の教会というのは‥‥困っている人を助け、報酬を貰う場所なんです。そこに"勤める"牧師や修道女は、能力に応じてランク付けされる"商品"なんですよ。当然ランクが上がれば上がるほどの依頼費は高いですが、その分大きな仕事を任せることが出来ます。ランクが下がればその逆、というわけです」


堤はそう言うとまた歩きだす。


「S級にもなると、依頼者以外にも、修業のために多くの人が集まって来るんですよ」


「堤さんも‥‥ですか?」


堂本が言うと堤は首を横に振る。


「私と美聖さんは‥‥修道女ではないんですよ。ちょっと‥‥ワケありで」


堤はそこまで言うとある部屋の前で立ち止まった。


「ここは‥‥?」


「『魔導室』です」


堂本が訊くと堤は聞き慣れない単語をさらっと答える。


「まど‥‥う?」


「魔法を使うには、『魔導書』という物が必要なんです。ここにはその魔導書が保管されてるんです‥‥入りますよ」


堤はそう言いながら何か呪文を唱えられると、扉がゆっくりと開く。


中は図書館のようだった。


「では、これに触れて下さい」


堤は真っすぐに部屋の奥に行くと、木の箱から透明なケースに入ったままの本を取り出す。


「これ、は‥‥」


「『道標シルベの魔導書』です。素手でこれに触れた人が、どんな魔法に向いているかが分かります」


「で、でも僕は‥‥」


「堂本さんが気を失っている間に色々と調べましたが‥‥書物によると、こちらから堂本さん達の世界に行く人達だけでなく、おそらく、堂本さん達の世界からこちらに来たと考えられる異世界の人達も何人かいたそうです。ですが、この世に存在出来たのは魔力――魔法を使うエネルギーを持つ人達だけで、魔力を持たない人は形を成すことができなかったらしいんです」


そう言いながら堤は手袋をしながら本を取り出す。


「しかも、この世界で起きる革命や戦争といった‥‥世界を変える転機には、必ず異世界から救世主が現れる、という記載もあります‥‥勿論、全て信憑性には乏しいですが‥‥万が一、ということもありますし」


堤が本を堂本の目の前に持って行く。


「どうぞ‥‥」


堂本は目の前の本に、ゆっくりと手を伸ばし、恐る恐る触った。


その瞬間、堂本の指先に電流のようにビリッと痛みがはしり指を離すと、本が様々な色に光出す。


それは普通の反応ではなかったらしく、堤も目を見開いて驚いている。


「これ‥‥は‥‥」


堤は本を手放し手袋を外す。


『我統べるは沈静の漣、真実を隠し事実を滅す光、"氷光結封フリーズカシェット"』


堤が呪文を唱えると、堤の手から光が放たれ、本を包み込む。


すると、本自体の光が消え、次第に堤が放った光も消えて行った。


「これは‥‥少々マズイかもしれません」


「え‥‥?」


「と、とりあえず轟さんに相談しないと‥‥」


堤はそう言うと急いで部屋を出て行く。


堂本は一人取り残され、仕方なく、無意味に部屋をうろうろしてみる。


部屋には様々な色や形の本があり、背表紙を見る限り堂本が理解出来る言語で書いてあるようだった。


部屋を歩き回っていると、他の本棚とは異質なオーラを放っているような感覚の本棚があった。


他の本棚とは違い、大きさも色も全て同じで、その色も他の本には一冊もなかった灰色をしていた。


興味が湧いた堂本がゆっくりと手を伸ばし、その本を手に取った瞬間。


本はまるで生気を取り戻したかのように一瞬で鮮やかな紫色に変わる。


と同時に、堤が慌てて部屋に戻って来た。


「い、言い忘れてましたけど大変なことになるので本には触わらないでくだ――っ!!」


堤が言った時には既に手遅れだった。


紫色になった本はあちらこちらからヒビが入ると、ボロボロと砕けながら目が開けていられないほどの光を放った。


光が消え、堂本が目を開けると、見たことのない妖艶な女性が立っていた。


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