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第二話 ファンタジーの世界‥‥?

堂本が目を覚ますと、見覚えのない天井が目に入って来た。


起き上がると、自分がベットで寝させられていることに気がつき、自分が今まで何していたか思い出す。


「あ、起きましたか。大丈夫ですか?」


横からの声がした。


声のした方を見ると、やや小柄の、かわいらしい少女が横に立っていた。


「あの、えっと‥‥」


「あ、申し遅れました、私の名前は堤恵つつみめぐみです。あなたのお名前は‥‥」


「あ、堂本啓太どうもとけいたです」


堂本は名を名乗るとニコッと笑った。


「あら、素敵な笑み‥‥」


「え、あ、その‥‥」


堂本の顔はあっという間に赤くなり、慌てふためく。


「ふふ、随分とウブなんですね‥‥ところで、お体の調子は大丈夫ですか?」


「あ、はい‥‥あの、さっきのあの二人は‥‥」


「大丈夫ですよ。今はお説教中‥‥かな?」


堤はそういうと悪戯っぽく笑う。


「説教って‥‥僕のせい、ですか?」


「い、いえ違いますよ! あの人はいつもやり過ぎるから‥‥」


堂本が落ち込んだ様子を見せると、堤は慌ててフォローを入れる。


「でも‥‥」


「いつものことですから、大丈夫ですよ! だから‥‥そんな悲しそうな顔、止めて下さい」


堤はそう言うと俯く。


「あ、ご、ごめんなさい‥‥」


「ごめんなさい、もナシです」


「え、あ、ごめんなさい、じゃない、えっと‥‥」


堂本がどうすればいいか分からずオロオロしていると、堤は吹き出した。


「堂本さんって、面白い人ですね」


「そ‥‥そうですか?」


堂本が困惑したまま堤に訊くと、堤は笑顔で頷いた。


「まぁ、だからあの人も‥‥」


堤がそこまで言った時、ドアがコンコンとノックされる音がした。


『入っていいかしら』


ドアの外から轟の声がする。


「はい、どうぞ」


堤がそう答えるとすぐに轟が入り、やや遅れて不満げな表情をした美聖が入って来る。


「大丈夫だったかしら?」


「あ、はい、大丈夫で――っ!?」


全て言い終わる前に、轟が堂本を抱きしめる。


「‥‥何馬鹿なことやってるんですか」


美聖が怪訝そうな表情で轟を見つめると、轟はニヤリと笑う。


「だって、この子、かなり美形じゃない、ちょっと小さいけど‥‥美聖も抱きたいの?」


「違います!」


美聖が真っ赤な顔で否定する。


「だいたい、答えになってないじゃないですか!?」


「だから、今のうちに私の体でメロメロにしちゃおうかなって思って」


「なんですかその痴女みたいな欲望は!!」


「あら、いいじゃない別に‥‥もしかして、あなたこの子に惚れちゃった?」


轟がニヤッと笑いながら言うと、美聖は赤い顔をさらに赤らめ、逃げるように部屋から出て行った。


「図星‥‥かしらね」


轟は全く気にせずに堂本を抱きしめる。


「あ、あの、そろそろ離してあげたほうが‥‥」


堤が苦笑いをしたまま轟に言うと、轟は無言で頷き、堂本を解放した。


「どうかしら、お姉さんの胸。あの子より大きいのよ」


「えっと‥‥」


堂本は真っ赤な顔で俯く。


「ほら、お姉さんの顔見なさい」


轟はそう言いながら堂本の顔を下から覗き込むような体勢を取る。


当然、そのような無理な体勢をとればボリュームのある胸はさらに存在感を増し、直視出来ない堂本は視線を逸らした。


「あら、嫌われちゃったかしら‥‥」


「え、いや、違っ、その、これは‥‥」


轟がしょんぼりとした声で言うと、堂本は慌てて弁解しようとする。


「大丈夫ですよ、堂本さん。この人、あなたをいじって楽しんでるだけですから」


「あぁもう、バラしちゃだめじゃない、恵」


轟は一瞬でにへらっと笑う表情に変える。


「あ、遊ばれてたんですか‥‥」


「ごめんごめん、ほら、これお詫びの印」


轟はそう言うと指を鳴らす。


すると、堂本の目の前に紅茶の入ったティーカップが出現した。


「あ、あれ‥‥?」


堂本が素直に驚くと、轟は満足そうな笑みを浮かべる。


「貴方達の世界ではこういうの、超能力とか言うらしいわね。"こっち"の世界では魔法と言うのよ」


「‥‥魔法? それって、どういうことですか? それに、貴方達の世界って‥‥」


堂本が一気に訊くと、轟は苦笑いする。


「一度に訊かれても答えられないわ‥‥まぁ、気持ちはわからないでもないけど。一つずつ答えていくわ」


轟がそう言いながら指をパチンと鳴らすと、今度は小さな容器がいくつか出現した。


「何か入れる? レモンとかもあるけど」


「あ、いや、いいです‥‥」


堂本は紅茶を一口飲む。


「まずは魔法からね‥‥と言っても、言葉自体は"そっち"の世界にも存在するんでしょう? えぇっと‥‥ファンなんたらとか言う物語に」


「もしかして‥‥ファンタジーのことですか?」


「ああ、そうそう」


轟はそう答えると、魔法を使い紅茶を出現させ、一口飲む。


(もしこの人の言う通りなら‥‥この世界って‥‥ファンタジーの世界‥‥?)


「あなた達からするとそういうことになるんでしょうね」


轟は堂本の心理を読んだかのようなことを言うと、また紅茶を一口飲んだ。


「それで、私達の世界の話なんだけど‥‥私達の住む『人間界』、魔物の住む『魔界』、精霊達が住む『精霊界』に分かれているの‥‥あ、魔物とか精霊って分かるでしょ?」


「はい、なんとなく‥‥」


「そう、じゃあ、続けるわね‥‥人間界の中もいくつかの国に分かれてるんだけど‥‥魔界と人間界と精霊界はもっとくっきり分かれてて、滅多なことでは行き来出来ないようになってるの。普通は魔物や精霊は人間が召喚魔法を使った時だけ、人間界に姿を表すの。まぁ、事故みたいな感じで扉が開いたりはするけど‥‥」


そこまで言うと轟はまた紅茶を飲み、堂本の方に向き直す。


「あなたからはこっちの世界で感じたことが無いようなオーラを感じるの。だから、この世界の住人じゃないと思ってるの。勿論、仮説だけど‥‥」


轟はそこまで言うと、再び魔法を使い、一冊の本を出現させた。


「この本は、私達にとってのファンタジー‥‥異世界について書いた小説。こっちの世界からしたら荒唐無稽な話、ということになるんだけど‥‥その本の作者が晩年、この物語は実体験に基づく実話だと言っていてね。あなた達の世界は魔力の代わりに"化学"って力で色々な"機械"って道具を動かしてる‥‥そうじゃない?」


「ええ、まぁ、そんな感じです」


堂本がそう答えると、轟は笑顔で、堤は未だ疑い半分といった感じで堂本を見る。


「やっぱり‥‥あなた、私達から見たら異世界人ってことになるわ」


「異世界人‥‥ですか」


「私、この作品が好きでね。作者が事実だって公表してから、ちょこっと調べ始めてたの。だから美聖や堤よりは詳しいの‥‥と言っても、知ってるのはほんの僅かなことだけどね」


「じゃあ、僕の帰る方法も‥‥」


堂本が期待半分、不安半分で轟に訊く。


「残念だけど、私は知らないわ。でも、帰る方法は分かるかもしれない」


「どういう‥‥ことですか?」


「私にあなた達の世界を教えてくれた人‥‥彼に会えば、何か分かるかもしれないわ」


轟はそう言うと、紅茶の残りを一気に飲む。


「そう‥‥ですか」


「あら、嬉しくないの?」


「嬉しくないことはないですけど‥‥せっかく知り合えたのにすぐ別れてしまうのは寂しいかな‥‥なんて」


堂本がそう言ってはにかむと、轟は僅かに頬を赤く染める。


それをしっかりと見逃さなかった堤がニヤリと笑いわざとらしい声で訊いた。


「あっれぇ、どうしたんですか、轟さん? 顔赤くなってますけど?」


「‥‥まぁ、そう言ってくれるのはありがたいけどね。あんまりそう言うこと女性に言わない方が良いわよ」


轟は堤を無視し堂本に注意すると、堂本は俯いて「ごめんなさい‥‥」と謝る。


「あ、いや、気にしなくていいわよ。全然大丈夫だから、その‥‥あんまりそんな悲しい顔しないでくれる? こっちまで悲しくなっちゃうから‥‥」


「えっと‥‥僕、そんなに悲しい顔でした?」


堂本は轟だけでなく、堤にも訊く。


「はい、さっきと同じくらい、すっごい悲しそうな表情でした」


「なんか、この世の終わり、って感じくらい悲しそうだったわよ」


「そ、そうですか‥‥ごめんな」


「ほら、その顔」


堂本が謝りかけた時、轟がピシっと堂本の顔目掛けて指を差す。


「それが駄目なの‥‥私達のこと助けてくれた時みたいに、笑顔でいてくれるとありがたいんだけど‥‥」


「は、はい。分かりました」


堂本はそう言うと、微笑みを浮かべる。


「うん、やっぱりあなたの笑顔はいいね‥‥で、話戻すけど、私にあなた達の世界のことを話してくれたのは、ここからしばらく行ったところに住んでる人なんだけど‥‥」


轟はそこまで言うと、あいまいな表情を浮かべて頬を掻く。


「今すぐには行けないのよね‥‥ごめんなさいね」


「いや、別にいいですけど‥‥でもなんで駄目なんですか?」


「行く方法がないのよ、船を使わないと行けない場所なんだけど、最近治安が悪くてほとんど船の行き来がなくなってねぇ‥‥海賊って知ってる?」


「えっ‥‥」


堂本は言葉を失った。


勿論、海賊は知っていた。


自分がいた世界にも、いることを知っていた。


だが、それは自分には関係ない世界の話だと、ずっと思い込んでいた。


それが――今、自らを阻む障害となった。


別に目の前にいるわけではない。


襲われると決まってもいない。


だが、それでも恐かった。


「‥‥その様子だと、知ってるみたいね。まぁ、そんなわけだから、すぐには行けないのよ。まぁ、一週間もあれば船を用意出来るから‥‥そこまで待ってもらえる?」


「で、でも‥‥海賊に襲われたり‥‥」


堂本が不安げに言うと、轟が微笑む。


「大丈夫よ‥‥しっかりと護衛つけるから」


轟はそう言うとウインクする。


「護衛‥‥」


堂本が堤を見ると、物凄い勢いで首をぶんぶん横に振る。


「私は無理ですよ!」


「分かってるわよ」


轟が間髪いれずに答えると、堤は不満げな顔をする。


「それもどうかと思いますけど‥‥」


「あ、ちなみに私でもないから。私はここを離れられないから」


轟は堤を無視し話を続ける。


「え、じゃあ‥‥」


「おーい、美聖、話聞いてたんでしょ?」


轟は扉の方を向くと、名前を呼んで手をパンパンと二回叩く。


すると、顔をまだやや赤らめたままの美聖が部屋に入って来る。


「別に、聞きたくて聞いてたわけじゃ‥‥たまたまここを通りかかっただけで‥‥」


「はいはい、分かってる分かってる」


轟が適当にあしらうと、堂本の方を見る。


「この子は窪田美聖(くぼたみさと)。魔法に関しては超がつくほどの天才よ。この子が君について行くわ」


「は、はぁ? なんで私が!?」


美聖が叫ぶと、轟はさも当然といったような表情で返す。


「この子に助けてもらったのに、殴って意識飛ばすなんていう蛮行におよんだ罰よ。あなたお礼も言ってないでしょ?」


「それは‥‥」


「とにかく、もう決めたから。じゃ、話があるから美聖はここに残って、恵は彼をこの教会を案内してあげて」


「あ、あの!」


轟がテキパキと指示をしている中、堂本が口を挟む。


「何? もしかして、護衛が美聖だと不満? それとも、まだ動けない?」


「い、いや、それは大丈夫ですけど‥‥僕、まだあなたの名前、聞いてないので‥‥」


堂本がそう言うと、轟はニコっと微笑む。


「あ、そうだったわね。私は『ジェネシス』のS級修道女(マスター・シスター)轟楓(とどろきかえで)よ。よろしくね、堂本君」


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