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第十八話 認めています

「それにしても‥‥本当にこっぴどくやられましたね」


柳井はそれまで出していた殺意を一気に消して堂本と美聖を見る。


その顔にはいつも通りの笑顔が浮かんでいる。


「大丈夫‥‥では、なさそうですね」


「‥‥すみません」


女性が動かなくなると同時に拘束から解放された美聖がうなだれる。


「私に謝られても困りますよ」


柳井はそう言うと、美聖が矢で射ぬかれた肩に触れる。


逆再生(リ・ワイン・ドゥ)


その瞬間、傷口から真っ黒な液体が噴き出し、柳井の手の中で球体になる。


液体が噴出し終わると同時に、美聖の傷は完全に塞がった。


柳井は完全に球体になった液体を握り潰すと、球体はパチンという音をたてて消え去った。


「さて、堂本様は‥‥」


柳井は堂本の側に行き怪我の様子を見る。


「喋れますか?」


堂本はゆっくりと首を横に振る。


「これだけの傷だと、私では無理ですね‥‥」


「なら、私が」


「窪田様ではなおさら無理です。そもそも先程まで毒が体内にあったんですから、絶対安静ですよ」


「もう大丈夫です」


美聖が強い口調で返すと、ゆっくりと立ち上がる。


柳井は呆れたような顔で見るが、溜め息をついた。


「では、天満様を呼んで来て下さい。彼女でないと治療出来ませんから」


柳井がそう告げるやいなや、美聖は家の中に戻った。


「全く‥‥無茶な子ですね」


柳井はぼやくような口調で、しかしどこか嬉しそうな感じがした。


柳井はそのまま、再び堂本の方を向く。


「堂本様は、ゆっくりおやすみください」


柳井が堂本の顔に手を翳す。


そこで、堂本の意識は途切れた。




堂本が再び目を覚ました時、またしても目の前の風景が一変していた。


「お目覚めのようですね」


また、柳井の声がした。


「この短時間に続けて倒れるのは、なかなか珍しいことですよ」


柳井はフォローのような事を言いながら、堂本のそばに寄る。


「すみません」


「堂本様が謝る事ではありませんよ。守りきれなかった私達の責任です」


柳井は堂本の顔を覗き込む。


「‥‥体は、大丈夫ですか?」


「はい」


堂本はそう言ってベッドから起き上がる。


「みんなは‥‥」


「また外で待っていますよ。窪田様は相当落ち込んでいるようですが」


「そう、ですか」


堂本は視線を落とす。


美聖があそこまで追い込まれていたのは、自分を守ろうとしていたからだと思ったからだ。


美聖の強さを、堂本は実際に戦い、そして戦いを見た事で知っている。


彼女があんなふうにはいつくばるような人ではない事を知っている。


もし、自分がいなければ、矢を防ぎきり、あの炎球で相手を倒していただろう。


だが、実際にはそうはならなかった。


美聖には何本も矢が突き刺さり、相手の魔法で拘束された。


それが、どうしようもなく辛く、悔しく、悲しかった。


「堂本様」


急に、堂本の目の前に柳井の顔が現れた。


堂本は後ろにのけ反る。


「な、なんですか?」


「窪田様に守られた事、気にしているんですか?」


柳井の言葉はいきなり核心をついた。


堂本は素直に頷く。


柳井は呆れたような顔で堂本の隣に座った。


「それと、窪田様を傷つけてしまった事も、ですね」


堂本が再び頷くと、柳井は堂本の手を取り、下から覗き込むように身を少しかかめる。


「確かに、窪田様は敵を廃除するのではなく、誰かを守る戦いという経験は少ないですから、戦い方を知らなかったという部分はあります。ですけど、そもそも窪田様の得意な魔法は炎球や爆発の魔法といった野戦のように広い範囲を攻撃する事に秀でたもので、狭い建物の中で使える魔法ではないんです。ですから、建物の中で襲われた時点で不利な状況だったわけです」


確かに、思い返せば、美聖が魔法を使っていたのは、あの初めて出会った広い空間や外だけで、屋内では肉弾戦だった。


「堂本様がいなくても、窪田様は苦戦していたと思いますよ」


柳井はそう言うと微笑む。


「でも‥‥」


堂本は柳井から赤らんだ顔をそらす。


理屈では理解出来る。


だが、それでも体のどこかが、それを拒否するのだ。


自分がもっと強ければ、美聖が苦しむ事はなかったはずだと、どこかで考えていた。


そんな堂本を見て、柳井は溜め息をついた。


「‥‥どうして、そんなに自分を追い込むんですか?」


「え?」


堂本が訊き返すと、柳井が真剣な表情で堂本を見る。


「堂本様が頑張っている事は、誰もが認めています。今だって‥‥窪田様を守ろうと全力を出して、頑張っていた」


「でも、結果は」


「初めから何もかも上手くいくなんて、有り得ませんよ」


柳井の顔に笑顔はない。


「今の堂本様には、出来ない事が多いです。何もかも背負い込むには‥‥実力は足りません」


「そんなこと――」


分かっている、と堂本が言う前に柳井が堂本の口の前に指を当てる。


「だから、堂本様の強くなりたいという気持ちは理解出来ます。そして、堂本様の才能も、轟様や堤様から聞いています。ですが‥‥どれだけ才能があっても、一人で強くなったところで、たかがしれています」


「‥‥何が言いたいんですか?」


堂本の問いに、柳井はようやく笑みを浮かべて、


「自分だけで頑張らないで、もっと私達を頼ってください」


と答えた。


「今でも、十分頼ってますよ」


「なら今よりももっと頼って下さい。全員の力が同じ方向に向かなければ、何かを成し遂げる事は難しいですから」


「‥‥そうですね」


堂本は笑みを浮かべて頷く。


しかし、柳井は気付いていた。


きっと、この子はまた人のために無茶をするだろうと。


誰かを守れなければ、自分を責めて、自ら追い込むだろうと。


(さて‥‥どうしましょうかね)


柳井は心の中で溜め息をつき、次の手を考えていた。


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