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第十五話 確かに、迷惑だったわ

堂本が目を覚ました時、目の前の風景が一変していた。


そこは野外ではなく、室内、それも寝室のようで、堂本はベッドに寝かされていた。


「おや、目を覚まされたようですね、堂本様」


どこかから、女性の声がした。


声のした方を見ると、短い黒髪に蝶の髪飾りをつけた、小柄で綺麗な女性が微笑みながら立っていた。


「僕の名前‥‥」


「天満様からお聞きしておりますから」


その名前を聞いて、堂本はかばっと跳ね起きた。


「そうだ、皆は!」


「心配なさらなくても、皆様いらっしゃってますよ。堂本様が起きてくるのを、今か今かと待っておられます」


「そうですか‥‥」


堂本がほっとしたような顔をすると、女性はクスッと笑った。


「あ、あの‥‥」


「ああ、すいません。話に聞いていた通りの人だったので、つい」


「話って‥‥誰に、何を?」


「轟さんから、自分より、他人を心配する心の優しい子だと」


「そ、そんな事‥‥」


「少なくとも、普通なら目を覚ましたらまず、ここはどこか聞くと思いますよ」


女性はそう言うと、扉の方を歩いていく。


「まぁ、今はとりあえず皆様にお会いになるのが一番先だとは思いますけど。皆様一日中心配していましたし。窪塚様は、全く寝ておられないようです」


堂本はそれを聞くと、急いでベッドから飛び降りようとする。


しかし、掛かっていた布団が足にひっかかり、おもいっきり床に顔面ダイブする。


「大丈夫ですか?」


「は、はい‥‥」


堂本は鼻を押さえたまま答える。


「ちょっと明日菜、何騒いで――って、堂本君!?」


物音を聞き付け、部屋のドアを開けた桂里奈が興奮気味に叫ぶ。


「目、覚ましたのね!」


堂本は答えようとする間も与えられず、桂里奈に抱き着かれた。


「良かった‥‥!」


桂里奈がぽつりと、安堵の言葉を呟く。


「全く、いつまで寝ているつもりだ」


御主人様(マスター)!」


「起きたか坊主!!」


桂里奈の声を聞き付けた美聖達三人も、急いで部屋に入って来た。


「どこか痛いところとか、ないですか?」


リリムはまだ不安なのか、オロオロしながら訊く。


「全く、情けないなお前は」


美聖は相変わらず悪態をつく。


リリムが美聖を睨むが、全く気にした様子はない。


(あんな事言ってるけど、凄く心配してたのよ)


桂里奈が耳元で囁く。


「‥‥何を話したんですか?」


「別に~?」


桂里奈はニヤニヤ笑いながら答える。


美聖よりも近い位置にいたリリムと北斗には聞こえたらしく、二人も同じようにニヤニヤ笑っている。


「‥‥気持ち悪いな」


「ま、ともかく堂本様が無事目覚めてくれてよかった、という事で」


すでに桂里奈が言った事を話していた女性は、堪え切れずにくすくす笑っている。


美聖はため息をついて堂本の方を向いた。


「で、調子はどうなんだ」


「あ、はい。もう大丈夫ですよ」


「顔面から床に突っ込むくらいですからね」


女性はくすくす笑ったまま言う。


「そのくらい動けるなら、心配なさそうね」


桂里奈も笑って堂本から離れた。


「あの‥‥」


その瞬間、堂本が頭を下げた。


「ごめんなさい。皆さんに心配かけて‥‥」


それは、誰も想定していない謝罪だった。


美聖も、笑っていた桂里奈達も、呆気にとられた。


「迷惑かけて‥‥足引っ張っちゃって‥‥ごめんなさい」


堂本は頭を下げたまま、さらに謝る。


その場にいた誰も、堂本を責める気などなかった。


ただの少年が、必死に頑張って桂里奈達について来たのだ。


北斗や女性は、彼が謝る理由を全く理解出来なかった。


しかし、二人より長い間彼を見ていた美聖達は、彼が謝る理由は分かった。


御主人様(マスター)が謝ることなんてないですよ。御主人様は真面目すぎます」


リリムは優しく言葉をかけた。


「今まで殆ど魔法を使ってこなかったお前が、ここまで出来たんだ。上出来だ」


美聖も、素直ではないものの、彼を褒めた。


だが、桂里奈は違った。


「‥‥そうね。確かに、迷惑だったわ」


しっかりと堂本に告げた。


「ちょっと、アンタねぇ!」


リリムは桂里奈に向かって叫ぶ。


美聖も、桂里奈を睨んで、彼女に向かって一歩踏み出す。


だが今度は、桂里奈と付き合いの長い北斗が、彼女の真意に気付き、リリム達を制止した。


「急に倒れちゃうんだから、びっくりしたわ」


「‥‥ごめんなさい」


堂本が三度(みたび)謝罪の言葉を口にする。


「だからね」


桂里奈は堂本の顔を両手ではさみ、無理矢理上げさせた。


「今度から、しんどくなったら、無理しないで正直に言う事。分かった?」


桂里奈には、拒否を許してはくれなさそうな迫力があった。


「は、はい」


「それと」


桂里奈は手を離すと、頭を下げた。


「えっ‥‥」


「無理させて、ごめんなさい」


「あ、謝らないで下さい! 僕が足引っ張ったのが悪いんであって、桂里奈さんは」


堂本が慌てて謝罪を止めさせようとするが、桂里奈は首を横に振った。


「足手まといだなんて事ないわ。あなたは十分強いもの。だから‥‥その強さに甘えすぎた。守りたいって気持ちに‥‥甘えてた。本当なら、私達があなたを守らないといけなかったのに」


「それは僕が勝手に」


「その無茶を止めなきゃいけなかったの、私達は‥‥あなたが魔法を使い続ければこうなる事、分かってたのに‥‥」


桂里奈は、かなりへこんでいるようだった。


「‥‥」


堂本は、何を言っていいのか分からなかった。


謝罪を受け入れていいのか、慰めていいのかすら、分からなかった。


だから、一言だけ。


「ありがとうございます」


感謝を告げた。


桂里奈はその言葉を聞き、堂本を見た。


堂本は、笑みを浮かべ、そして


「ありがとうございます」


再び、その言葉を告げる。


「何で‥‥」


「僕の事、守ってくれました。優しくしてくれました。‥‥止めなきゃって、思ってくれました。ですから、ありがとうございます」


「‥‥でも、結局こうなって」


「僕はこうやって、また桂里奈さんと話せてます。それだけで充分です」


そして、また笑う。


「後は、僕がこの力をコントロール出来ればいいだけですから」


桂里奈は少しの間だけ、呆気にとられていた。


だがすぐに、堂本と同じように笑った。


「馬鹿みたいに優しいのね、君は」


「優しい人には優しいんです。僕は」


堂本は笑みを浮かべたまま答える。


「なら、魔法を完全に身につけてもらいましょうかね」


桂里奈はそう言うと、女性の方を向いた。


「それ、どういう‥‥」


「申し遅れました。私、柳井明日菜(やないあすな)と申します。職業は教師‥‥魔法、特に魔法のコントロールについて教えさせていただいております。以後おみしりおきを」


柳井は、優しく微笑んだ。


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