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第十四話 戦います

「御主人様、横になられてはどうですか?」


リリムが木に寄り掛かっていた堂本に言う。


「いや、大丈夫だよ。全然平気」


「休める時に休んでおきなさい。心配しなくても、あなたを傷つけさせたりはしないわ」


堂本がくたびれた笑顔を浮かべると、桂里奈が笑顔で堂本の頭を撫でる。


「えっと、その‥‥」


「何? どうかしたの?」


桂里奈が堂本を撫でている手を止める。


「その、気持ちは嬉しいんですけど、でも僕は、二人が傷つくのも嫌なんです。だから」


堂本は真剣な表情で、続けた。


「戦います、僕も。二人を守るために」


僅かな間、沈黙が流れた。


そしてすぐに、桂里奈が吹き出した。


「な、何ですか! 僕は真剣ですよ!」


「だって、そんな恥ずかしい事真顔で言うから」


桂里奈が笑いをこらえながら答える。


しかし、その顔がほんの僅かに赤らめているのを、リリムは気がついていた。


「私と初めて出会った時も、同じような事言ってませんでしたっけ?」


「何だ、誰にでもそうゆう事言っちゃうの?」


桂里奈がむくれたような表情をする。


「違いますよ! 本気でそう思ってるんです!」


堂本が真剣な表情で二人を見る。


桂里奈は僅かに赤面する。


「墓穴ね、完全に」


リリムが呆れたように呟く。


「う、うるさいわね」


桂里奈はリリムにそう言うと、堂本の方を向く。


「そういう事を真剣に言ってもらえるのって、幸せな事だと思うわ」


そう言うと、堂本を軽く抱きしめた。


「ありがとね」


「は、はい」


堂本は顔を赤らめながら小さい声で答える。


「あなた、女王なんでしょ? そのくらいの事頻繁に言われてるんじゃないの?」


「女王じゃなくて皇女ね。女王は私の母親」


「女王の下が皇女なんですか?」


堂本は元々いた世界とは違う使い方をする言葉を訊いた。


「そうよ。どうして?」


「と、とくに意味はないんですけど」


堂本が慌てて答える。


「で、どうなの? その皇女様は、皆に守られてるんじゃないの?」


「好きでもない人に仕事で守られるのと、好きな人に命を守るのじゃ、全然違うわよ」


桂里奈は、なんでもない事のように、さらっと言った。


「えっ‥‥」


「あなたは素直なのね」


リリムもまた、それが当然の事のように言う。


「まぁ、北斗がいなけりゃ隠す必要ないし」


「無様ね、あの男」


「いや、北斗の事も好きよ、結婚してもいい程度には」


「あ、あの!」


堂本が会話に入れないうちにどんどんと進む会話に、無理矢理割って入る。


「あの‥‥好きって‥‥」


「あら、気付かなかったの? 結構アピールしてたつもりなんだけど」


桂里奈はニコッと笑うと、


「好きよ。君の事」


日常会話のように、あっさりと告白した。


「え、え、で、でも」


堂本は顔を真っ赤にしながら、しかし真剣な表情で桂里奈を見つめる。


「楓からしっかりと聞いてるわよ。あなたの能力の事」


「だったら」


「それがどうしたの?」


桂里奈は笑顔で堂本の頭を撫でる。


「ど、どうしたって‥‥だって」


桂里奈が抱いている好意は、おそらく自分自身の『魅了』の能力によるものだ。


自分の事が、本当に好きなわけではない。


だから、堂本は桂里奈の告白を素直に受け入れられない。


そんな思いを察したのか、桂里奈は再び堂本を優しくを抱きしめる。


「あなたのその能力も、あなたの魅力の一つでしょ?」


「えっ‥‥?」


「女の子は、何らかの能力を持ってる人に魅力を感じるの。カッコイイという『能力』、性格がいいという『能力』、勉強が出来るという『能力』、背が高いという『能力』。あなたの『魅了』も『能力』の一つだと、私は思うけど」


「‥‥‥‥」

「どちらにしろ、あなたが気にする事はないと思うけど‥‥真面目ねぇ」


「そういう問題じゃ‥‥」


「そうです、御主人様(マスター)は真面目過ぎます」


黙って二人を見ていたリリムが、桂里奈が抱きしめている反対側から堂本を抱きしめる。


「リ、リリム‥‥苦しいよ‥‥」


堂本は二人から逃げるように離れる。


「あら、嫌でしたか?」


「い、嫌っていうか‥‥」


堂本は赤面したまま俯く。


「もう、本当に可愛いわね」


桂里奈がクスクス笑う。


「か、からかってたんですか‥‥」


「好きなのは本当だけどね」


桂里奈は笑みを浮かべたまま言う。


「あの女と違って素直に伝えるのは好ましいわね」


リリムが微笑を浮かべながら言う。


「あの女‥‥?」


「まぁ、あの子の場合は初恋だから。元々人付き合い不器用な子だし」


「あの子‥‥?」


堂本が誰の事を言っているのか気付かないまま、会話は進む。


会話についていけない堂本は、その場にぺたりと座り込む。


するとすぐに、今まで以上の疲労が張り詰めていた糸がいきなり切れたように、一気に彼を襲った。


いきなり異世界に飛ばされ、何も分からない場所で見ず知らずの人間と過ごしているうちに、知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたのかもしれない。


堂本を襲った疲労は、そのまま彼を眠りに誘った。


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