第十一話 却下かな
堂本達五人は桂里奈が指示した場所に向かって、家に車輪と運転席をつけたような車、魔法家に乗って移動していた。
「あ、あの‥‥ひ、姫様‥‥?」
「そんなよそよそしい呼び方なんてしなくていいわよ。桂里奈で十分」
「え、桂里奈さん‥‥あの‥‥」
「どうしたの? 歯切れが悪い言い方して。言いたい事があるならちゃんと言わなきゃダメよ?」
「あの‥‥離してくれませんか?」
堂本が、後方から抱き着いている桂里奈に向かって言う。
本来なら顔を見てはっきりと言いたい所なのだが、桂里奈が強く抱きしめているため、動く事が出来ない。
「うーん‥‥却下かな」
桂里奈はそう言いながら堂本の頭の上に顎を乗せる。
豊満な胸がより強く頭に当たる。
「えーっと‥‥」
堂本が真っ赤になりながら何か言葉を探す。
しかし、何一つ出てこない。
「あなた、本当に姫なの?」
堂本の横に座るリリムが、呆れたような顔で桂里奈を見る。
先程と違いベタベタしないのは、反省したのではなく、桂里奈がくっつきすぎてベタベタできないからだ。
「ええ、そうよ。なんなら証拠見る?」
桂里奈がポケットに手を突っ込んだ瞬間、運転をしていたはずの北斗が桂里奈の頭をコツンと軽く叩く。
「そんなもんホイホイ出すんじゃないっつうの!!」
「いいじゃない、減るもんじゃないんだし」
桂里奈は不満げに呟くと、ポケットから手を出す。
「まぁ、そもそもそんな物見たところで、私には分からないんだけど‥‥ってか、アンタ運転しなくて大丈夫なの?」
リリムは北斗にそう言いながら堂本の手を引き、桂里奈から自分の方に引き寄せる。
「あ、ちょっと!」
「いいでしょ、あなたは十分堪能したじゃない」
リリムは桂里奈と同じように堂本を抱きしめる。
「り、リリム」
「離しませんよ」
リリムが堂本が言うよりも先に拒否する。
「まだ何も言ってないのに、可哀相じゃねぇか!?」
「聞かなくても、何言おうとしてるか分かるもの」
リリムはそう言うと、堂本をより強く抱きしめる。
「私の御主人様なんだから。そんなことより、私の質問に」
「下僕のくせに、主人を困らせていいのか?」
リリムが再び訊こうとすると、反対側に座って本を読んでいた美聖がリリム達を睨んでいる。
一目見て分かるくらい、不機嫌オーラを纏っている。
「あら、困らせてなんてないわよ」
「私の目にはそうは見えないんだが」
リリムと美聖の間に不穏な雰囲気が流れる。
「やけにその子の事になると食ってかかるな、お前!!」
北斗が美聖達の方を向かずに言うと、美聖が一瞬だけ表情が引き攣る。
「あんたデリカシーないわね‥‥」
「はァ!? 何が!?」
桂里奈は呆れた顔でため息をつく。
「そんなの、啓介君の事が好きだからに決まってるじゃない」
「違う!!」
美聖がすぐに否定すると、堂本は泣きそうな顔になる。
「ほら、そんな強く言うと、啓介君が可哀相じゃない」
桂里奈が堂本の頭を優しく撫でる。
「‥‥すまない」
美聖が素直に頭を下げる。
「いえ、全然」
「ダメですよ、御主人様。こういう時はもっとグイグイいかないと」
堂本が慌てて答えようとするが、リリムが食い気味に言う。
「グイグイって‥‥」
「御主人様は積極性が足りないんですよ。弱みに付け込むくらいの事しないと、女を落とせませんよ」
リリムは真剣な表情で言う。
「えっと‥‥」
堂本は苦笑いを浮かべる。
「子供に何教えてるんだ、お前は」
「子供じゃないです」
美聖がため息まじりに言うと、堂本が珍しくムッとしたような表情で言う。
「そういえば、いくつなの?」
「えっと‥‥14です」
堂本は一緒答えるのに躊躇しつつも、素直に答えた。
「なんだ‥‥まだまだ子供じゃないか」
「まぁ、確かにここにいる人間では一番年下ね。そこのサキュバスちゃんの年齢は知らないけど」
「年齢なんか覚えてないわよ」
リリムはぼやくように呟くと、美聖の方を向く。
「アンタはいくつなのよ」
「18」
すっと出て来た数字に、堂本とリリムは呆然とする。
「‥‥え?」
「嘘?」
「‥‥その反応はどういう意味だ」
美聖が二人を睨みつける。
「え、いや、その」
「そのままの意味よ。どう見ても18になんか見えないわよ。いくつサバ読んでるのよ」
堂本はあたふたとしていたが、リリムは素直に答える。
「アハハハハハ! 残念ね、美聖!」
「貴様‥‥!」
桂里奈が手を叩いて笑い、美聖が怒りをあらわにして立ち上がった瞬間。
魔法家が、大きく揺れた。
「ちょっと、アンタ運転してなさいよ!」
リリムがキレ気味に北斗を睨む。
しかし、北斗は先程までの笑顔を消し、真剣な表情で運転席に向かう。
先程まで大笑いしていたはずの桂里奈や、怒りに震えていた美聖も、真剣な表情で身構えた。
「ど、どうかしたんですか?」
「さっきのサキュバスちゃんの質問だけどね‥‥この車。行き先を指定しておけば運転しなくてもちゃんと移動するのよ。急停止するのは車の異常か急に歩行者か飛び出して来るか、あるいは‥‥」
「車に異常はねぇ!! 前に人影もねぇぞ!!」
桂里奈が喋っている途中に、北斗が運転席叫んだ。
「あるいは‥‥?」
「‥‥敵に襲われた時だ!! また来るぞ!!」
美聖が叫んだ瞬間、部屋全体が大きく揺れた。