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49 ミステリー・オン・ザ・マーズ

「なにい!? 人面岩だと? ほんとうに、そんなものがあるのか?」


「あれ? ミスターは知らないの?」シンジがサタンを意外だな…というような表情でみつめた。


「知ってるとも! おれがいいたいのは、本当にあるのかどうかってことだ! ほんとうにあるんだな!」


「ある!」イチローが自信満々にキッパリと言った。


「ほんとか? ほんとなんだな! ここから見えるのか?」


「見える!」


 サタンとシンジが外に飛び出そうとするのを、『ちょっとまちなさい!』とトモミがふたりの服のすそをつかんでとめた。


「いいこと。ここは、ホンモノの火星ってわけじゃない。ここは、こいつがあたまのなかで、勝手に作った世界なのよ。なにが見えたって、それが本当にあるという証拠にはならないわ。そうじゃない?」


「言われてみれば、たしかにそうだ。で、なにか、証拠があるのか?」


「写真があるじゃないか! それも、何枚もある。それぞれ、違う角度から、撮ったものだ。太陽の角度だってちがう。それって、決定的な証拠だろ?」


「でも、NASAは“光と影のイタズラだ”って言ってるんでしょ?」シンジが反論した。シンジのなかにも、それがほんとうの人面岩だったら…と思いたい気持ちはたしかに存在する。しかし、シンジはNASAの信望者でもあった。そのNASAがそう言っているんだから…


「NASAがなんと言おうと、それは嘘っぱちだ! そもそも、NASAなんて、ほんとうのことはなにも発表していない。これまで、いくつもの火星探査機が打ち上げられたが、そのほとんどが、行方不明になっている。なぜだ? なぜ火星だけ? ヴォイジャーなんか、火星よりはるかに遠くまで行ったが、いまだに通信を送ってきているじゃないか。でも、火星探査機は、火星に到着すると、必ず交信が途絶える。おかしいと思わないか?」


「ああ、たしかにおれもへんだとは思っていた」サタンが同意した。「最初におかしいと思ったのは、ヴァイキング1号の写真だった。なんと、空が青かったんだ。地球の空とまるっきり同じじゃないかって思ったもんだ。ところがどうだ。そのあとに発表された写真は、空がピンク色に変わってた」


「でも、あれは、白黒からカラーに直すときに、フィルターだかをまちがえたんでしょ?」シンジが質問した。


「ああ、そういうことになってる」サタンは素直に認めた。「だが、おれには、あとから発表されたほうの写真のほうが、フィルター処理が間違っているように見えるね」


「ということは、どういうこと? NASAが写真を改ざんしたって言いたいの?」トモミが、シンジが言いたくとも言い出せないでいる疑問を、シンジのかわりにサタンになげかけた。


「さあな。ほんとうのことはだれにもわからん…」


「そうでもない」イチローが言った。「サタンさんもシンジも大事なことを忘れてる。火星の大気圧が、750パスカルしかないってことだ。地球の大気圧は約1000ヘクトパスカル。1ヘクトパスカル=1000パスカルだから、火星の大気は、地球の百分の1もないってことになる。それはもう、地球で言えば、成層圏っていってもいいような量の大気しかないっていうことになる。そんな大気中で、空が青かったりピンク色だったり…ということはありえない。真っ黒に映るはずなんだ。スペース・シャトルから宇宙を見たのと同じように…」


「つまり、それって…」NASA信望者のシンジが、おそるおそる訊いた。


「NASAは大嘘をついている。火星にはじゅうぶんな量の大気があるってことだよ。猛烈な砂嵐が起きている事実が、それを間接的に証明している。たった750パスカルじゃあ、砂嵐が起きて、砂に風紋を残すなんてことはない!」


「まさに、そのとおり! おれは、全面的におまえを支持する!」サタンがイチローの背中をドンとたたいた。「ところで、おれたち4人とも、カウンターの奥に立って、並んで立ってしゃべっているが、これってへんじゃないか? おれたち三人は、いちおう客だから、カウンターのむこうでいすに腰掛け、おまえとはカウンター越しに話すってのが筋ってもんじゃないか?」


 イチローが納得したので、三人はカウンターの反対側にまわり、背の高いスツールにそれぞれ腰かけた。本来なら、この時代の酒場のカウンターはスタンディング・スタイルのはずだが、きょうのところは勘弁してやる…サタンは偉そうにそう考えたが、すぐにとんでもない間違いに気づいた。なんてこった! このバーをつくったのはおれじゃないか! 指摘しなくてよかった。とんだ大恥をかくところだった…。


「あれ? そういえば、西部劇の酒場って、カウンターに椅子なんかあったかな…。みんな突っ立って飲んでいたような…」


 えい! くそ! シンジめ。またおれの心を読みやがったな。


「ああ、たしかにそうだが、あるところにはある! そういうもんだ。立っているよりも座ってるほうが楽だろ? こいつとは、じっくりと話さなきゃならんのだ。そのあいだ、ずーと立ってるつもりか?」


「わかったよ。そうムキにならないでよ。ちょっとからかっただけなんだから」


「わかればよろしい…」まったく! おまえがからかっているのは、泣く子も黙るサタン様なんだぞ! おれ様をいったいなんだとおもってるんだ?


「ミスターって、おもしろいでしょ?」とトモミがバーテンの格好のイチローに言った。


「ミスターって? サタンのこと…。ああ、そうか! ミスター・サタン!」


「おい! おまえたち! いいかげんに、その呼び方はやめろ! ところで、さっきの続きだが、マーズ・パスファインダー計画っていうのがあったな。あのとき、着陸したローバーが送ってきたパノラマ写真があっただろ? あれに、山が二つ写っていたな。“ツイン・ピークス”なんていう名前までついてた」


「もちろん、知ってる」イチローがこたえた。


「あれが、ある瞬間から、ぱったりとテレビに映らなくなったことも知ってるな」


「ああ、もちろん」


「その理由は、あれが、ピラミッドだったからじゃないのか? どうなんだ?」


 ええーっ! ピラミッドォォォッ!? シンジとトモミが声をそろえて訊いた。


「たぶん、そうだとおもう」


「やっぱりなっ! おれもそうだとおもったんだ! じゃあ、おれがここにきて、最初に見たアレも、やっぱりそうか?」


「あれは、D&Mピラミッドと呼ばれている。発見者であるディピードロとモレナールの頭文字さ。ふたりとも、JPLの研究者だよ」


「人面岩を最初に発見した研究者だな?」


「そう。そして、彼らは、そのすぐ近くに、まるで都市の廃墟のようなモノがあるのも発見した…」


「それが、ココってわけね!」トモミが話をまとめた。「で、いったい、どこのだれが、この都市を作ったの?」


「わからない。はるか遠くからやってきたエイリアンだというひともいるけど、ぼくはエイリアンなんて信じない…」


 こいつはおどろいた! オカルトマニアが、エイリアンとかUFOを信じていないなんてことがあるのか? やはり、こいつはただのオカルトマニアじゃないな。サタンはおおいにこの男に興味をもった。


「じゃあ、だれなんだ?」


「火星人」


「そんなばかな! 50年代のSF映画じゃあるまいし!」シンジがあきれたような口ぶりで言った。「ミスターもおかしいとおもうでしょ?」


「いいや。おれはそうはおもわん。そういうこともありうる…とおれはおもう。なぜなら、エジプトのピラミッドは、おまえたちの本に出ている年代の遥か前から、あそこにあったからだ。大洪水が起きる前から、ピラミッドはあそこにあった。いつ、だれが、なんのために造ったのか、それはわからんが…。ただ、吉村作治先生には大変申し訳ないが、ファラオの墓として造られたわけではないのは確かだ。もしかすると、火星が起源の人類のような存在があって、それが、どうやったかはわからんが、地球にやってきて、ピラミッドをつくった…。それだと、納得がいく。すべてがしっくりとくるんだ」


「あんたとは、気が合いそうな気がするよ、ミスター!」イチローがうれしそうに言った。


「すべてがしっくりくるって? いったいなにが?」シンジが訊いた。


「火星にも、ピラミッドがある理由。それどころか、月にだってピラミッドはある。それ以外のモノも…。金星にだってあるかもしれん。地球が起源ではない超古代文明の形跡は、あちこちにあるんだ。まえに話そうとしたが、おまえはくだらんテレビ番組に話をすりかえて、聞こうともしなかった。いいか、地球にも超古代文明がほんとうにあったんだ」


「アトランティス!」シンジが叫んだ。


「そうだ。ノアの大洪水で、海のそこに沈んだが…」


「ちょっとまって!」イチローが話に割って入った。「ノアの大洪水って、本当にあったのか? いつ?」


「いまから、1万2千年ほどまえだ」


「やっぱり! エジプトのピラミッドにも、そして、スフィンクスにも、大量の水で浸食されたあとが残ってるんだ。それが、ちょうど1万2千年前なんだよ。そうか、ほんとうにあったのか!」


「聖書にそう書いてあるだろ? 旧約聖書に書いてあることは全部本当のことさ。そのあとに書かれたものは、大嘘だが…」


「アトランティスって、いったいどの程度、文明が進んでいたの?」シンジが訊いた。


「文明? 科学技術という意味か? おそらく、いまの人類ができることは、アトランティスの連中もできただろうな。ただ、ほかの星に行く技術はなかったとおもう。飛行機はあったがね」


「ほんとうに? とても信じられない…」


「よく考えてみろ。いまの人類…つまり、大洪水後の人類は、約1万2千年かけて、ここまで科学技術を発達させたわけじゃない。150年くらいだろ? 蒸気を利用することに気づいて、まだそれから150年くらいしいかたっていない。それまでは、何千年も同じような生活をしていたんだ。そりゃあ、すこしづつは、新しい発見や発明があったが、急速に発展したのは、産業革命以後だ。アトランティスの連中に、それが起きたって、なんの不思議もないじゃないか。時間はたっぷりとあったんだから」


「ということは、神は、地球だけにヒトをつくったわけじゃなかった…ということになるね。そういうことでしょ?」


 シンジの問いかけに、サタンとイチローがうなづいた。


「火星や金星や水星にもつくった…」シンジがまるで自分に言いきかせるようにつぶやいた。


「おれだったら、ここいらの星全部につくるだろうな。だって、どこがいちばんいい…なんてわからないだろ? だから、とりあえず、ぜんぶにやってみる。そして、そのなかでいくつかの星で、科学技術が爆発的に発達したとしても、おれは驚かんね。そして、なんらかの理由で、その連中は滅びた。おそらく、クソ野郎の仕業だと思うが、そのまえに、連中はよその星に逃げた。たとえば、ここ地球にな。そして、住みついた…。おそらく、火星にあるピラミッドとエジプトのピラミッドは、おなじ種族の人間がつくったんだろう。メキシコや南米にあるピラミッドは、それとは別の星の種族がつくったんだとおもう。デザインがまるでちがうからな」



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