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21 いまこそ真実を語ろう…

『いまこそ話そう。2000年間にもおよぶ猛勉強のすえにどりついた真実を!』


(とは言ってみたものの、いったいなにから話せばいいんだ?こいつはまだ、おれのことを100パーセント信じたわけじゃない。サタンに全幅の信頼をよせるやつなどいないだろうからな。いったいなにから話そうか・・・・。質問してくれると助かるんだがなあ。)


 ──あなたはいったいなにものなんです?


(やったー、たすかった。そうか、こいつはまずおれに自己紹介をさせたいわけなんだな。そうだった。ひとはまず、話をはじめるまえに、自己紹介をするんだった。でも、それはもう済んでるんじゃなかったか?)


『えーと、サタンだけど・・・・まえにも言わなかったか?』


 ──それはきいた。でも、ほんとうはちがう。ほんとうのことがしりたい。


『サタンだといったら、サタンだ。ミスター・サタンではないぞ。サタンいがいの名前などない。サタンはいうなれば、地獄の王様。キング・オブ・キングス・・・・じゃない、えー、デビル・オブ・デビルズだ。だが、そうはいっても地獄なんてものはじっさいにあるわけではないぞ。肩書きだけだ。幽霊会社の社長みたいなもんだ。とうぜん、天国なんていうものもない。』


 ──じゃあ、神様は?


『やつはいる。たしかに実在する。おまえたちが〈主なる神〉とか〈全知全能の神〉などと仰々しく呼んでいるやつはな!おれが実在するように・・・・。まったく!全知全能の神だなんて笑わせてくれるぜ。やつはおれみたいに勉強好きじゃないから知らないことだらけだし、できることよりできないことのほうがはるかに多い不器用なやつだ。実際のところ、邪魔なはずのおれを消すことすらできん』


 ──あなたはいま、ぼくの同級生の格好をしてるけど、本当はどんな姿なの?


(ふう、やれやれ・・・。こいつが質問好きでたすかるな)


『ほんとうの姿だと?そんなものはない。おれたちは・・・・たちというのは、おれと、便宜上〈神〉と呼ぶことにしておくが、その神のふたり・・・・ふたりというのもほんとうは正しくない。ひとではないからな。おれたちは、ひと言で言うと〈存在〉・・・・〈精神〉かな、・・・・それとも〈知識〉?』


 ──ひと言じゃないじゃないか!いったいなんなのさ!


(うるさいなあ、おれにもよくわからんのだ。ちょっくらあいつが書かせた本から拝借するとしよう)


『〈意思〉!』

 

(どうだ?ばれてないか?こいつは聖書は読まないといっていたから、おれが引用したことにもきづかんだろう)


 ──意思?『神のご意思・・・とかいうときにつかうあの〈意思〉?


『悪魔のご意思だな。悪魔のなかの悪魔のご意思だ。下っ端の悪魔とまちがえられるといかんからな』


 ──あいかわらず名前をつけるのがへたくそだね。長ったらしいし、言いにくい!サタンのご意思でいいんじゃないの?


『・・・・それでいい。〈サタン様のご意思〉でいい』


 ──チェツ!だれもサタン様なんて言ってないのに!


(でもへんだな。サタンのご意思っていうのはたしかに語呂が悪い。ご意思というからにはサタンにも様をつける。では、神のご意思というのは、なんで違和感がないんだろう。そういえば、神よ、救いたまえ!とか、全能なる主よ!とか、神様のことをけっこう呼び捨てにしてるけど、これでいいのか?最大限に敬意をはらわなければならないはずなのに、みんなけっこう呼び捨てにしてる。なぜだろう。日本語だからそうなるのか?英語やドイツ語ではマイ・ゴットとかマイン・カイザーのように、私のという意味の単語をつける。ダース・ベイダーもシディアス卿のことをマイ・マスターと呼んでいた。だから、マイ(わたしの)というのは英語なんかでは最高の敬語ということなのかもしれない。日本語で「私の神」なんていったら、かえっておこられそうだけどな)


『おまえ、なにひとりでぶつくさ言ってるんだ。時間が無いといっとるだろう』


 ──あれ?この言い方、いまの言い方・・・・どこかできいたことがある。どこできいたんだろう。


『ひとのはなしをきいてるのか?ボケーとしやがって』


 ──えーと、なんだっけ?


『おまえはおれの本当の姿をおしえろと言い、そんなもんないとおれは答えた・・・・』


 ──そうだ。ひとつ、確かめなくちゃならないことがあった。あなたが、ぼくを殺すつもりなどないということはさっききいた。じゃあ、トモミさんは?


『トモミさん?おまえの友だちのあの女のことか?』


 ──ともだちだなんて!そんなんじゃないよ。ちくしょう!耳がまっ赤だ。でも、せっかく言うんだったら、恋人とかいってほしかったな。


『まったくおまえにはおそれいる。その余裕がいったいどこから出てくるんだ?そのちっぽけなからだのどこに詰まってるんだ?いま、自分のおかれている状況をわかっているのか?』


 ──ERで治療中・・・・なんでしょ?


『ちがう。おまえはシカゴカウンティー病院のERなんかにはいない。グリーン先生もハサウェイ婦長もいない。ほんもののおまえは、ボロ雑巾のようにアスファルトのうえに横たわり、いまにもくたばっちまいそうな切羽詰った状況だ。しかし、そんな状況でも、おまえの精神状態はいたって健康。信じられんことだ。おまえはよくこんな状態で、その精神状態を保っていられるもんだ。感心する。それがおまえの〈能力〉なんだな、きっと。どんなに追い詰められても、どんなにボロボロになっても、決して希望はすてない。それどころか、逆におれをこんなふざけたところに引き込んでなんどもダメージを与え、時間稼ぎをするとともに、おれの口から情報を引き出そうとする。しかも、それを楽しんでやがる。ぶつくさ文句を言いながら、全身ケガまるけのくせにジョークを飛ばして、最後はテロリストをやっつける〈ダイハード〉のマックレーン刑事みたいなタフな精神力をおまえは持っている。その余裕は、あのだだっ広いあの倉庫からきてるんだな。太平洋を逃げ回るクジラをたった一隻の船で追い掛け回しているみたいなもんだ。ぜったいに捕まえられん。やれやれ、まいったよ。たいしたやつだ」


 ──ほめられてるのかな?


『わからんのか!ほめているんだ!ジョン・マックレーンみたいにタフだというのは、おれの最高の褒め言葉なんだぞ!おれはああいうやつが大好きだからな』


 ──あれ?映画は観ないんじゃあ・・・・


『ダイハードシリーズは観る。とくに3が好きだ。サミュエル・L・ジャクソンが好きなんでな。あー、だから、タランティーノの映画も観る。とにかく、ぶつくさ文句を言いながら、やることはキチンとやるやつが好きなんだ』


 ──へー、映画の趣味はぼくとおんなじだ。たぶんトニー・スコットの映画も観るな。


『もちろん観るとも!兄貴のほうはあまり観んが・・・・といっても、エイリアンとブレードランナーは好きだな。あとブラックレインも!この映画のなかの大阪の街を見たとき、あっ!ブレードランナーだ!と思わず叫んじまったぜ!』


 ──なんだかんだいったって、けっきょく映画好きなんじゃないか!


(ブレードランナーが好きだなんて、よっぽどのマニアじゃなけりゃいえないよ。なぜかって?あの映画が好きだというのは、マニアのあいだでは宣戦布告のようなものだから。どこがいいんだ?と訊かれたときにちゃんと理由がいえなくちゃならない。2019年にロスの街に日本の習慣や言葉が溢れかえってる背景を説明できなくちゃならない。相手の目がギラギラ光っていたりしたら要注意だ。そいつは筋金入りのSFマニアにちがいないから。おれはデッカードもレプリカントじゃないかと睨んでるんだがおまえはどう思う?なんていうようなはなしを延々聞かされる羽目になる。しかも、ただ聞いてるだけではぜったいに許してくれないんだ。でもぼくは、そんなことはどうだっていい。こまかいことはどうでもいい。好きだから好き。このひとはどんな反応をするんだろう。ちょっと、不安だが訊いてみようかな・・・・)


 ──ブレードランナーのどこがいいの?(きいちゃった。筋金入りのマニアだったらどうする?)


『なに?ブレードランナーの?・・・・全部いいにきまってるじゃないか!』


 ──よかった、ぼくとおなじこたえだ。バトルスター・ギャラクティカのアダマ司令官が、ブレードランナーのデッカードの相棒のガフだって知ってるのかな?おしえてやろうかな?


『そんなことは知っていて当然!ところで、ギャラクティカのアポロ大尉役ジェイミー・バンバーがSAS英国特殊部隊に出ていたことしってるか?』


 ──もちろん知ってる。バンド・オブ・ブラザーズのフォーリー少尉役だってこともね!しかも、マラーキー軍曹はERのレギュラーだし、ガルニア軍曹はLAXというロス空港が舞台のドラマにでてる。


『なんだと?そうか、ERもいがいにあなどれんな・・・・ガルニアは空港ドラマか。スカパーに加入するかな。LAXなんてのはスカパーでしか見られんだろ。テレビもあなどれんな。こんなによこのひろがりがあるとは・・・・』


 ──なんだかんだいったって、けっこうテレビも観てるじゃないか。


(でも、このひと、ぼくがこんな状態でなかったら、じっくり話してみたい気がするな。きっと話があうだろうな。そのときは、こいつ、いま入り込んでいるこいつじゃなくて、ほかのだれかにとりついてくれないかな。できれば、トモミさんに・・・だって、話す話題に事欠かなくてすむじゃない?ところで、そうだ。トモミさんだ。トモミさんのことを訊かなくちゃ!)


 ──ねえ、トモミさんを殺そうとしたのはなぜ?


『なんだって?だれもそんなことしとらんぞ!失敬な!おれは人を殺したりしない。殺そうと思ったことすらない。口ではけっこう「ぶっ殺す!」と言ってるかもしれんが本気じゃない』


 ──でも、犬を蹴ったでしょ?


『なんのことだ。おれはそんなことした覚えなどない。だいいち犬なんてどこにもおらんじゃないか!』


 ──そうか、このひとが覚えてないのも当然だ。犬を蹴った1回目は、ぼくがなかったことにしたんだ。覚えているのは最後のときだけ、ぼくがこうなる直前のことだけだ。覚えているというのはへんだな。実際にはそんなことは起こらなかったことになっているんだから。


『ちょっとまて!1回目だの、起ったの、なかったことにしたのだの・・・・・おまえまさかこれを・・・』


 ──まさかって?(これ?・・・・これって、もしかして・・・)


『これをつかったのか?』


 グリーン先生は上着のボタンのあいだからなかに手を突っ込んだ。そして、胸のところから取り出したのは、シンジのよおーく見覚えのある代物だった。




 えええーっ!な、なんでそれをもってるのおー!


 (しかも、便利なひも付きだ・・・)

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