第1話 最強教師と最弱彼女
放課後。
教室には、俺と宮下と、担任の黒崎先生しかいなかった。
宮下は俺の隣で俯いている。
小柄で、眼鏡もかけていない。目立つタイプでもない。
そして――声が妙に低い。
「……ねえ」
「ん?」
「……今日、一緒に帰ろ」
「いいよ」
「……へへ」
嬉しそうに笑う。
俺の彼女。
それが宮下だった。
ただし、俺たちの関係には一つ問題がある。
黒崎先生だ。
先生は俺たちをじっと見ていた。
「あなたたち、付き合っているのよね?」
「はい」
俺が答えると、宮下が小さく頷く。
「……うん」
黒崎先生は少しだけ笑った。
「そう」
そして――
「なら、私も告白しないとね」
「……え?」
宮下が顔を上げる。
黒崎先生は俺を見る。
「私は、あなたが好きです」
教室が静まり返る。
宮下の口が少し開いた。
「……先生……?」
「ええ」
先生は平然としている。
「だから聞きます」
俺の目を見る。
「あなたは、私と宮下さん。どちらを選ぶ?」
宮下の顔が青ざめる。
「……」
俺は宮下を見る。
普段は何をするにもおどおどしている。
喧嘩なんて絶対にできない。
俺より力が弱いどころか、たぶん女子の中でもかなり弱い。
そんな宮下が――俺の袖をそっと掴んだ。
「……私……」
声が震える。
「……私は、君が好き……」
俺は黒崎先生を見る。
そして、答えた。
「宮下が好きです」
宮下が目を見開く。
「……え」
黒崎先生は黙っている。
俺は続ける。
「オレは宮下と一緒にいる」
「……」
先生の表情から笑みが消える。
「そう」
一歩。
先生が近づく。
「あなた、本当にそう言える?」
「言えます」
「後悔しない?」
「しません」
黒崎先生はしばらく俺を見つめ――
やがて、笑った。
「……分かったわ」
宮下がほっと息を吐く。
だが。
先生は続けた。
「では、ここからが本番ね」
「……?」
先生が教室の扉へ向かう。
そして振り返る。
「あなたが本当に宮下さんを選び続けられるのか」
「……」
「見せてもらいましょう」
ガラッ。
先生が教室を出ていく。
扉が閉まった。
宮下が俺を見る。
「……怖かった」
「大丈夫だよ」
「……ほんと?」
「うん」
俺が笑うと、宮下も少しだけ笑った。
「……じゃあ」
俺の袖を握る。
「……一緒に帰ろ」
「ああ」
俺たちは教室を出た。
――このときの俺は、まだ知らなかった。
宮下が、本当に「最弱」なのか。
そして黒崎先生が、本当に俺たちの敵なのか。
何も知らなかった。




