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「君は合格だ」と言われて、私は不合格を告げた。

作者: 水餅
掲載日:2026/06/11

 フィオナ・ルヴェリアの婚約は、アルヴァイン侯爵邸の応接間で行われた。ルヴェリア伯の屋敷と比べて、いくらか高い天井に、豪奢な額縁やきめ細かな絨毯は、彼女が両家の差を知るには十分であった。


 そして、真っ直ぐな背もたれの大きな椅子。

 そこに座っていたのがレオン・アルヴァインだった。


「ようこそお出でくださいました。どうぞ、お掛けください」


 レオンは顔立ちの整った青年だった。笑顔は柔らかく、穏やかな話し振り。フィオナの目には申し分のない相手に映った。


 ルヴェリア伯は緊張しているのか、カップには一度も手を付けず、アルヴァイン侯と話している。その間、フィオナも婚約者となるレオンと視線を交わすと、彼のにこやかな笑みに、控えめな微笑みで応じる。

 

 やがて、話はまとまったのだろう。アルヴァイン侯がレオンに尋ねた。


「レオン、お前に異存はあるまいな?」


「もちろんです。僕にはもったいない相手かと」


 そうして、正式に婚約が結ばれた帰り際、フィオナをエスコートするレオンは声を落としてつぶやいた。


「フィオナ、君は合格だ」


 フィオナは馬車に揺られながら、先ほどの言葉は聞き違いではなかったかと振り返る。最初は侯爵家に嫁ぐのを認められたという意味かと考えた。だが、その答えにはどうしても違和感が拭えない。


 認められた、ではなく、合格。似ているようで、どこか違う言葉が、彼女の胸の奥にわずかな棘を残していた。

 

 それから二人は招かれる夜会に揃って出席するようになった。だが、受付を済ませるとレオンはフィオナを置いていってしまう。


 レオンを待っている間、フィオナは壁の花も同然であった。一人で佇んでいる令嬢に、すぐに周囲が気付く。扇で隠しているものの、好奇の視線が彼女に向けられる。


 それでも、フィオナは感情を出さないよう静かに彼を待っていると、若い貴族が声を掛けてくる。


「お一人ですか? よろしければご一緒しませんか?」


「申し訳ありません。連れがおりますので」


 フィオナが丁重に断ると、男は軽く肩をすくめて去っていく。その背中を見送っていると、入れ替わるようにレオンがすぐ後ろに戻ってきていた。


「やあ、しっかり一人でも待てたようだね。合格だよ、フィオナ」


 レオンが彼女の腰にそっと手をまわす。


「他の男に誘われても、ちゃんと断っていたじゃないか。えらいね」


 耳元で甘く囁かれる言葉は、褒めているようで、どこか品定めしているようでもあった。


「試していらしたのですか?」


「誤解だよ。君がどれだけ僕に相応しいか確認しているだけさ」


「不満があるなら直接仰ってください。このような子供じみた真似をなさらなくとも分かります」


「分かったよ。君の意見を聞き入れよう」


 レオンは不満を匂わせながらも頷いた。しかし、彼の試しは一度では終わらなかった。


 たとえば、舞踏会へと出席する日のこと。待てども、待てども、レオンはやってこない。


 やがて、主催する家の者が近づいてきた。レオンが体調不良で参加を辞退する旨を受けているという。そして、フィオナが一人で参加するつもりだということも。


 婚約者以外と踊れば、不義理と取られかねないため、彼女は壁際に立ち、人々が華やかに楽しむ様をただ見つめていた。


 やがて、主催者である公爵夫人が見るに見かねてか、心配そうに近づいてくる。


「フィオナ嬢、レオン卿は本当にいらっしゃらないの……?」


「はい。ご心配をおかけして申し訳ありません」


「そう……無理をしては駄目よ。気分が優れなくなったらすぐに言って頂戴ね」 


 フィオナは夫人の言葉に深々とお辞儀をする。


「フィオナ嬢」


 低い声で呼びかけられた彼女は声の主へと振り返る。そこには、すらりとした長身で、造作は整っているが、険が強い強面の男が立っていた。


「ヴェルド様……」


 ガルクシア伯爵家の令息であり、レオンとは腐れ縁である男の名をフィオナは知っていた。


「奴は?」


 言葉少なだが、意図を理解したフィオナが答える。


「レオン様は体調不良で戻られました」


 最初からいなかったのではなく、途中で退出した。そう言わねばならぬ状況が、彼女をより一層みじめにさせる。


「そうか……」


 それっきり腕を組んだまま、ヴェルドはむすっとした表情を浮かべている。傍目から見ても、機嫌悪そうにしているせいで、彼とフィオナに近づく者はいない。


「あの、ヴェルド様のお連れは?」


「一人で来ている」


 それきり、二人の間には沈黙が続いた。ヴェルドは黙ったままで、フィオナも口を閉ざしている。ただ、面識のある相手が隣にいるだけで、彼女は気持ちが幾分かは楽になっていた。


 そのまま舞踏会の終わりまで、ヴェルドは傍に立っていた。人々が退出し始めると、フィオナが馬車の座席に座るのを確認し、彼は悠然と去っていった。


 アルヴァイン邸に戻ったフィオナを迎えたのはレオンだった。体調不良という話はどこにいったのか。具合が悪そうな様子は少しも窺えない。


「うん、しっかり最後まで勤めを果たしたようだね。これなら僕の代理も任せられる。合格だ」


「……ありがとうございます」


 この時には、フィオナに芽生えた違和感は不信に変わっていた。


(この人は本当に私を愛しているのだろうか? 私でなければならない理由などなく、他の誰が婚約者でも良いのではないだろうか?)


 胸のわだかまりを表立って言えば、婚約を壊しかねない。そうなっては父親にも迷惑がかかってしまう。彼女は感謝の言葉を返す、返すしかなかった。


 それからしばらくして、他家で催された茶会でのことだった。その日は、レオンとフィオナは共に出席しており、会話も弾んでいるように見える。傍目には、問題のない婚約者同士に映っただろう。


「その言い方は良くないね」


「はい、申し訳ありません」


 その場でレオンの『試験』が始まるまでは。


 声は低く、周囲には聞こえないよう囁かれていたものの、空気をしらけさせていく


 向かいの席に座っていたヴェルドが、その様子をじっと見ていた。


「フィオナ。こういう場ではね」


「レオン、婚約者の教育をこの場で行うお前の方こそ無作法だ」


 さらに言い募ろうとしていたレオンをヴェルドが真正面から指摘する。


 思いもよらぬ方向からの指摘に、レオンは一瞬言葉が出なかった。周囲の視線が集まるが、それでも柔らかな笑顔が崩れない辺りはさすがと言えるだろう。


「ヴェルド。君には関係ないだろう」


「ある。お前がこの茶会に参加している限りな」


 それだけ言うと、ヴェルドは再び寡黙を保ち、茶を一口飲んだ。だが、視線だけはレオンに向けたままである。


 レオンは何か言おうとして、損得勘定からやめた。それでも、場の空気を読んで一礼したので、周囲も、これ幸いと和やかな雰囲気に戻すよう努めた。


 フィオナは目の前の、一部始終を静かに見ていた。自分のために、口を開いてくれたのが、婚約者でも、家族でもなく、レオンの幼馴染だったということが、何よりも雄弁にこの一年を物語っていた。


(ああ……もう私は、このままではいられない)


 婚約時から、胸の奥に刺さっていた棘が、するりと抜け落ちたような気がした。


 このまま黙って、彼の機嫌を取りながら、合格し続けるのは終わりにしよう。


 フィオナはそう堅く心に決めた。 


 二人でアルヴァイン邸に戻ったが、ヴェルドにやり込められたからか、翌日の『試験』はいつもにまして採点が細かかった。


 だが、フィオナはもはや合格には拘泥しない。厳しく接するレオンをやり過ごして、自分の思いを突きつける。


「父に婚約を解消するよう願い出ました」


 フィオナの言葉に、レオンがぽかんとした表情を浮かべた。


「……本気なのか?」


「はい、冗談で申してはおりませんよ?」


「早計にすぎる。一度、きちんと話し合おうじゃないか」


「では、お聞きしたいことがあります。幾度となく、合格を言い渡されてきましたが、あなた自身は誰から合格を頂いたのですか?」


 レオンがヒュッと息を鳴らす。思えば、彼の笑顔が崩れたのを見るのは、これが初めてかもしれなかった。


「そんな言い方はやめてくれ。僕の教育が君を傷つけていたことは理解した。改めよう。もっと君の心に沿うべきだった」


 フィオナはそれに、何も応えず、


「では父からの書簡をお待ちくださいませ」


 まだ、ルヴェリア伯の了解を取り付けてはいなかったが、フィオナはもはや婚約の破棄を諦めるつもりは毛頭なかった。


 その足でルヴェリア伯の邸宅へ戻るなり、父親の書斎へ向かった。


「お父様、アルヴァイン侯家との婚約を破棄したく」


 何やら書き物をしていた彼は筆を置いて、娘の顔を見据える。


「理由は……?」


「婚約してから今日まで、レオン様は一度も私を信頼してくださりませんでした」


 信頼できないのではなく、信頼したくない。レオンが求めているのは、いつまでもフィオナに合格を出す自分である。


「分かった。私からあちらへ婚約の解消を申し出よう」


「……お父様、ご迷惑をおかけします」


「迷惑ではない」


 ルヴェリア伯は立ち上がり、フィオナの肩に手を置く。


「お前たちの様子は漏れ聞こえていた。お前がそれを受け入れるなら見守るつもりだったが、今、ここにいる。理由はそれで十分だろう?」


 思わず、目頭が熱くなるのを覚えて、フィオナが目を伏せる。


 アルヴァイン侯家とルヴェリア伯家の交渉が始まると、両家はどちらが原因かを争った。


 互いに相手の過失を主張しては、原因を擦り付け合い、それにより賠償金の多寡が決まっていく。


 常であれば、家格の差もあり、アルヴァイン侯が勝つ争いも、それまでのレオンの迂闊な行動により、予断は許さなかった。


 婚約の破棄自体はそう珍しいものではない。一度目が終わっても、二度目、三度目と相手を探すことになる。


 レオンがフィオナに課していた『試験』は周知の事実であり、争えば争うほど、傷が拡がるのはアルヴァイン侯側であった。


 両家が争う中、レオンがルヴェリア伯家の門戸を叩く。


「フィオナと二人で話したい」


 彼の望みを叶える筋はどこにもなく、抵抗を示したが、結局は気の利いた家宰やメイドが立ち会った。


「フィオナ。僕が間違っていた。その上で願う、もう一度僕に機会をくれないか?」


 復縁の申し込みであったが、フィオナの心は動かない。ただ、じっと相手の目を見つめて、淡々と告げる。


「レオン様、私たちの婚約はもう終わりを迎えたのです。父とアルヴァイン侯爵が事を運ばれるでしょう」


「終わっていない! 君が戻ってきてくれれば、もう一度やり直せるんだよ!」


 レオンが語気を荒げると、控えていた者たちが張り詰める。しかし、それにも気付かず、レオンは自分の理屈を振りかざす。


 だが、フィオナも態度を軟化させることはなかった。


「では、いつぞやと同じ質問を致しましょう。レオン様、あなたは何を以って、私を合格としていたのですか?」


「それは関係のある質問なのか……?」


「もちろんです。お答えいただけないのなら、お話はこれまでです」


 レオンは膝に乗せていた拳に力を込める。けれど、激発させるわけでもなく、ぽつぽつと語り始めた。


「僕はアルヴァイン侯家の嫡男だ。迎える妻にも、相応の教育が必要になる。僕も両親から同じような教育を受けてきたんだ」


 レオンが絞り出すように言った。


「それは理解します。けれど、どうして私にも同じことを?」


「君が失敗すれば、それは僕の失敗でもある。だから間違えないように導いていたつもりだった」


 彼の思い上がりを諭すように、フィオナは静かに首を横に振る。


「導くことと試すことは違います」


 レオンがうめく。


「夜会での置き去りは教育でしたか? 他の殿方から誘われた私を、陰から見張るのが教育でしたか? 体調を崩したと偽り、一人で舞踏会に出席させることが教育なのですか?」


 黙ったままのレオンに、フィオナが続ける。


「違いますよね」


 フィオナは激高するわけでもなく、淡々と彼の所業を突きつける。


 レオンは認めざるをえないのか、否定しようとしているのか。ただ、彼の笑顔がこれほど長く消えているのは初めてだった。


「……そうだとして、それの何が悪いんだ。結果として、君も僕も貴族として良い評価を受けられる。君に損はないはずだ」


「それは否定しません。ですが、いつまで選ばれ続けなければならないのですか?」


 レオンが眉をひそめる。


「選ばれ続けるとはどういうことだ。それだけ君が認められてきた証左だろう」


「いいえ、私がどれだけ合格しても、次の試験がやってきました。あなたが求めていたのは……」


 次の言葉に備えてか、レオンがのどを鳴らす。


「合格したフィオナではなく、採点できるフィオナだったのでしょう?」


 が、受け止めきれず、レオンの口が呆けたように開いたままになる。


「私は良い婚約者、夫を得たいとは思いますが、採点者が欲しいとは思いません。あなたは私の夫として不合格でした」


「そんな……そんなつもりは……」


 口ごもるレオンから、反論の言葉は出てこない。


「お話は以上です。以降は父からの書簡をお待ちください」


 控えていた家宰が扉を開く。放心していたレオンは促されるまま、重い足取りで部屋を後にした。


 そのさなかに、彼が振り返る。


「…………」


 フィオナは何も応えず、彼の背中を見送った。


 両家の交渉が終わったのは、それから半月後のことだった。レオンの『試験』は周知の事実であり、ルヴェリア伯に有利な形で決着した。


 だが、婚約破棄は終わりではない。二人は次の相手を探さなければならなかった。もっとも、レオンの方は上手くいかずにいたが。


 社交界ではしばらくの間、フィオナたちの婚約破棄が注目された。彼女が受付を済ませて、会場に入ると見知った顔が視線を向けてくる。


 そして、向けられるのはフィオナだけではない。同じ会場に入っているレオンにも、である。


「この度は大変でしたね」


「ええ、巡り合わせが悪かったのでしょう」


 当たり障りのない応答を繰り広げられるなか、時には突っ込んでくる無粋な者もいる。


「やはり、試験が問題でしたか? 執拗に行われたと聞き及んでおりますが」


 フィオナの歓心を買いながら、レオンを当て擦る問いかけ。


「その家のやり方がありますわ。興味があるなら、学ばれてはいかがでしょう?」


 多少、辛らつな物言いをして、フィオナは夜風に当たろうと、バルコニーへ向かう。


「フィオナ嬢」


 涼んでいると、低い声で呼びかけられる。


 フィオナが声の先を横目で見やると、あの夜のように、ヴェルドが立っていた。


「苦労したようだ」


 その言葉は慰めとも評価ともつかない。


 フィオナが小さく息を吐く。


「そう見えましたか?」


「そう見えていなければ、ここには来ていない」


 即答だった。


 夜風が二人の間を通り抜ける。バルコニーの灯りは室内よりも遠く、声だけがやけに近く感じられる。


「ヴェルド様は、どうして私を助けてくださったのでしょうか?」


 彼は少し考える素振りを見せた。


「あれは、見ていて気分のいいものではなかった」


「正直でいらっしゃいますのね」


 はっきりと言うヴェルドに、フィオナが苦笑する。


「……ヴェルド様は」


 フィオナは言いかけて、その先の言葉に少しだけ悩む。


「私に何かお望みでしょうか?」


 今も傍にいてくれる彼に湧いた疑問。問題が解決した今、彼がそうする必要がなかったから。


 問われたヴェルドが彼女に視線を向ける。


「……言うべきか迷っている。俺は君といるのが」


「待て」


 どちらにも声の主がわかってしまう。


「……フィオナと何を話している、ヴェルド」


 ヴェルドもまた、レオンの方へ向き直る。


「話しているだけだが?」


「そんなはずがないだろう! 彼女は……」


 言いかけて、レオンは言葉を切った。彼女は自分の婚約者だったとでも言いたいのだろうか。しかし、それはもう成立しない言葉である。


「レオン様」


 声を聞いて、レオンの肩が揺らいだ。


「私はもう、あなたの婚約者ではありません」


「それはわかっている!」


「でしたら」


 フィオナがまっすぐに彼を見据える。


「友人との会話を止める理由はどこにございますか?」


「あるさ!」


 思いもよらない返しに、フィオナが目を瞬かせた。


「君は婚約を解消したばかりで、相手を見極められないかもしれない。そんな時に余計なことを吹き込まれるのはよくない!」


 ほとんど食って掛かるような勢いだった。


 彼女は思わず笑いそうになる。結局、この人は何も変わっていない。自分が正しく、自分が導き、判断する。その立場から一歩も降りていないのだ。


「レオン、それ以上はやめておけ」


「なぜだ、僕は間違ったことを言ってはいない」


「そう思うなら、こそだ」


 ヴェルドの静止にも聞く耳を持たない。


「レオン様」


 レオンが言い返すより早く、フィオナが口を差し込む。


「あなたは今、私を案じているおつもりなのですね」


「当然だ、君は傷ついている。だから冷静な判断が」


「確かに傷つきました。ですが、あなたに頼らなくとも、自分で考え、決めることができます」


「しかし!」


「どうかこれ以上、私を導こうとなさらないでください。もう、あなたは婚約者ではないのですから」


 その静かな宣告は二度目の不合格と同じ重みを持つ。それに耐えかねてか、血の気が失せた顔で、レオンがうな垂れる。


 長い沈黙の末。


「……そうか」


 ようやく納得したのか、それだけを残した。そうして今度こそ、振り返らずに踵を返す。


「ヴェルド様」


 レオンを見送った二人が、どちらからともなく見つめあう。


「先ほどのお話の続きを伺っても?」


 先程の言葉を思い返したのだろう。ヴェルドが難しい顔になる。


「君は婚約を解消したばかりだ」


 レオンのそれと似たような言葉である。だが、決定的に違う部分があった。


「だから、俺は待とう」


 含みを持たせるように彼が続ける。


「落ち着いたその時に、また話させてくれ」


「わかりましたわ。では、ぜひとも、その時にお聞かせくださいませ」


 その夜は、何事もなくお開きとなる。


 これ以降、レオンからの干渉はなくなった。だが、彼は父親からの叱責を免れなかった。


「女の手綱を握ることすらできんのか! それも恥の上塗りをしおって!」


 レオンは顔を伏せて、怒りをやり過ごそうとする。それで、アルヴァイン侯の腹立ちが収まるわけでもなかったが。


 新たな婚約相手が見つからないことで、アルヴァイン侯は選択を余儀なくされた。


(広く下級貴族にまで嫁の当てを探すか……?)


 思いついた考えに、彼はすぐに首を振る。


(いや、それでは我が家の格が落ちる……。であれば、縁戚から養子を迎える方法もあるが……)


 だが、これも彼には受け入れがたい。


「忌々しい! お前を合格とした、自分の不甲斐なさに腹が立つわ!」


 そう、レオンに吐き捨てながらも、注いだ時間と教育が惜しいのか、彼を切り捨てることはできない。アルヴァイン侯は身動きが取れないまま、時間を浪費していくのであった。


 一方で、フィオナにその時が、来るのは意外にも早く……。


「フィオナ様、招待状が参りました」


 メイドが差し出したのは印章で封蝋された書簡。検めるまでもなく、ガルクシア伯家のものだとわかる。封を切ると、中は無骨な書体で認められていた。


『身内でのささやかな茶会を開きますので、フィオナ嬢に於かれましては、よろしければご出席を』


 読み終えて、フィオナは瞳を閉じる。


「お召し物を新調なされますか?」


「気が利きすぎよ……そうして頂戴」


 フィオナはわずかにはにかみながら答え、視線を窓へ向ける。雨上がりの露が、庭の草花をきらきらと彩り、雲間から、陽の光が差し込み始めていた。


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― 新着の感想 ―
 こう言う試し行動は嫌なので主人公の判断は良かったです。信頼してくれなきゃこっちも信用できない。  まあすぐには決められないよね。
試し行為はろくな結果に繋がらないですからね…。 親が親なら子も子だということで、これはレオン氏は陰では合格君とか、一族は合格一家とか呼ばれて嗤われてそうですね。
ちょっと苦味がある感じで終わりましたが逆にリアルでよかったです レオンは…婚約破棄したらその後はそうなるよねーとは思っていましたが最後のレオンと父親のやりとりでレオンは父親の被害者だと思うとちょっと複…
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