運命が存在しない証拠
初めまして。僕は日本人ではありません。日本語を勉強中だけです。何か間違いや誤りがあるかもしれません。その時はどうかご容赦ください!
この小説を読む皆さんは楽しい時間を過ごすように一生懸命にがんばりました!ぜひ最後まで読んでください!
「ヒダマリ」そう名乗った孤児院の住人たちにとって、太陽が昇るたびに、終わりは少しずつ近づいている。もちろん、これは地球に住むすべての人間に言えることだが、ここにいる子供たちは特にその感覚に敏感だ。こんな場所は他所の人に「賞味期限切れ間近の子供たちの孤児院」と呼ばれている。もうすぐ死ぬ子供たちはみんな、ここに引き取られる。両親はそんな子供に金も、力も、時間も、そして何より愛情も注ぎたくないのだ。後腐れなく、簡単にほっぽり出して、新しい子を作ればいい。この世でその行為は「普通」と思われている。
こうした施設の子供たちは、まともな教育すら受けられない。政府は、将来その金を返せない子たちに、予算から無駄金を使うまいと決めたからだ。こうした子供たちのほとんどは読み書きさえできない。彼らが毎日やっていることは、ぼろぼろで壊れそうのおもちゃで遊び、もういつでも壊れてもおかしくない状態のテレビでアニメを見て、二十人ともに狭い部屋で寝ることだけだ。もし「賞味期限が長い」子供たちなら、この広さの部屋を自分の両親の家で独り占めできたんだろう。
この孤児院の子供たちの世話をするのは、教育者というより、刑務所の監視人のような役割を果たす特別な人々だ。ここでは子供たちはほとんど何をしても許される。誰かが喧嘩を始めても止めない。何かを壊しても罰せられない。考えようによっては、まさに楽園だ。しかし、一つだけ鉄則がある。それには絶対に従わねばならず、破れば恐ろしい罰が待っている。そのタブーとは「相手の頭の上に見える数字を、決して口にしてはならない」。
いったいどんな数字なのか? その数字は、地球に住むすべての人間の頭の上に浮かんでいる。生まれた時に現れ、決して変わることがない。死ぬまでずっと付きまとう。しかし、一つだけ「ただし」がある。誰も自分の頭の上にある数字を見ることはできない。鏡でも自撮りでも、何をしても無理だ。それを知る唯一の方法は、他の人に聞くことだけだ。その言葉に信じるかどうかは自分次第だ。
そんな孤児院で一年過ごすうちに、子供たちは約五十人の仲間や友人を失う。他の人間にとっては恐ろしく異常なことでも、これらの子供たちにはごく普通で自然なことだ。たとえ今日、親友が死ぬと分かっていても、どうすることもできない。それを彼に伝えることさえ許されない。夕方、散歩から施設に戻ると、彼はもうそこにいない。もう二度と戻ってこない。
しかし、そんな無学で愚かな子供たちの中にも、「天才」と呼んでも過言にならないくらい者が時折現れる。その子たちにはもう少し時間があれば、本当にそうなれたかもしれない。そんな子供の一人が、命川学という名前の少年がいた。この名前は両親からではなく、孤児院の監視人たちがつけたものだ。孤児院で見つけられるわずかな本を、自由時間のすべてを捧げて読んでいたからだ。
親友の田中聡と共に、自力で平仮名と片仮名を覚え、十二歳になる頃には、ほぼ全ての漢字を読めるようになっていた。彼らの毎日は、新しい知識を得ることで満たされていた。ホコリと蜘蛛の巣に覆われた小さな図書室にある全ての本を読み終えたとき、二人はそれだけでは物足りないと悟った。
もっと多くの知識を求めていた。そこで、二人とも十歳になったのを機に、空き時間にできる簡単な仕事を手に入れた。学は街頭でチラシを配り、聡はそれを貼って回った。稼いだお金は全て、本屋で新しい本を買うために使った。それは小説から分厚い学術書まで、何でもありだった。彼らの目を引くものは全て買い集めた。
二人はそれぞれ、大人の世界で重要な人物になれたかもしれないが。宿命はもう別の道を用意しておいた。聡が十五歳になったとき、彼は高校に行きたいと言い出した。このアイデアを親友に話して、でも学は自身も同じような考えを抱いていた問わずにどう対応すればいいのか分からなかった。
読んできた本を通して、学はすっかり学校生活に惚れていた、その素晴らしさを自分の身で体験したいと願っていた。それでも彼は、あえて聡の前でそれを口にしなかった。それでその時二人の少年の間に言い争いが生じ、危うく取っ組み合いをま免れることができた。それは二人とも、非合理的だと結論づけてやめた。その後、聡は友人に説明を求めた。なぜ学校に行くことに反対するのか。その時、学は人生を変える選択に迫られていた。
その選択とは、友人から真実を隠すか、それとも話すか。だが、その場合タブーを破ることになる。一晩中考え抜いた結果として、学は二つ目の選択肢を選んだ。もし別の選択をしていたら、学の運命にどうなっていただろうか。しかし、この物語は、孤児院の神聖な法則を破ることから始まる。
真実はこうだった。聡の頭の上には、新学期の日が表示されていた。もし聡と学が高校に進学していたら、入学式が行われる正にその日だった。
その後、すべてが変わった。聡の態度は著しく悪化した。彼は本を読むのをやめ、親友とまったく時間を過ごさなくなった。施設の監視人たちは、少年に異変が起きていることに気づいた。聡は尋問され、監視人たちは事の次第を聞き出した。そして学には罰が待っていた。
罰とは、孤児院から外に放り出され、二度と近づくことを禁じられることだった。以前学は、彼らが脅す罰とは恐ろしく酷いものだと想像していたが、実際には、学はむしろこの展開を喜んでいた。ただ一つだけ除いて、彼は親友を失い、二度と聡に会えなくなった。
しかし学はすでに、自分が何をすべきか分かっていた。もはや何にも縛られない今、彼はついに高校へ行ける。自分と聡の分まで学び、彼に上から見られていて、かつて親友だったことを誇りに思ってくれるようにしようと決意した。
だがまず、学には難しい課題が待っていた。本に全ての金を費やして住む場所も、食べ物を買うお金すらなかった。まずこれらの問題を片付けようと、学はこれまでの様々なアルバイトの経験を活かして簡単にファミレスでのウェイターの仕事を見つけた。しばらく路上や、働いているファミレスで寝泊まりした後、彼はようやく古い家の小さな部屋を借りられるの金を稼いだ。
学は一人暮らしになったが、孤児院の頃と何も変わっていなかった。家賃と食料を除いた残りの給料をほとんど本に費やし続けた。高校の学費のためにほんの少しだけを貯金していた。新しい本を買って、その日のうちに読み終えた。
それでようやく高校の入学試験の準備も始めた。しかし、中学生が高校入試に備えるための参考書を何冊か購入して、彼はあることに気づいた。そこに書いてあることは全て、ずっと前から知っていたのだ。数学の方程式や問題も、解くのに何の苦もなかった。
学は先に試験を受け、中学生レベルの知識を証明して、高校の入学試験を受ける資格を得た。ついに、中学を卒業する全ての生徒が高校入学のために試験を受ける時期が来た。
そのとき、学は初めて周囲からの奇妙な扱いに直面した。学校に着く前から、生徒たちはがささやいて、自分を指差していることに気づき始めた。最初は、何が自分と違うのか理解できなかった。孤児院に住んでいたときは、この現象に一度も遭遇したことがなかったのに。皆、彼を普通の人間として扱い、決して見せ物にしなかった。
全ての生徒たちが自分だけの話をし、自分だけを見ているという感覚は、最後まで学から離れなかった。試験が終わり、家に帰る道すがらも、彼は他の生徒たちからの奇妙な視線に遭遇した。しかし今は、そんなことはどうでもよかった。彼は全ての課題を正しく解き、全試験で満点を取ったという確信を持って帰っていた
学の予感は学のことを裏切られず、彼は最高得点で学校に合格した。この学校の長年の伝統により、入学試験で最高点を取った生徒が歓迎のスピーチを行うことだった。そして規則に従えば、その生徒は絶対学であるはずだった。しかし、式の前に西園寺校長自らが学にそう言った「あなた代わりに別の生徒がスピーチをする」と。
「なぜ俺じゃないんですか? 俺は最高点を取りましたよね?」
「命川君、すまないが、私はそれをどうしても許可できない。あなたはこの学校に入学できたこと自体、私に感謝すべきだ。」
「どういう意味だ? 何に感謝しろという? 俺は自分の努力でこの席を勝ち取ったんだ!」という考えは学の頭をよぎった。そしてそれを口に出そうとしたその時、隣にいた別の教師が校長に代わって言った。
「全ての教師が、命川君を受け入れることに反対していた。君がここに入学できたのは、西園寺校長のおかげだ。感謝しなさい。」
同世代の誰よりもはるかに賢かったにもかかわらず、学はこれらの言葉の裏にある意味を理解できなかった。だからその日の残り、彼はその言葉について考え続けた。
入学式の日は頭の中の余計な考えでいっぱいだったので新しいクラスメートとろくに知り合えなかったため、初登校の日、学はたくさんの友達を作り、できるだけ多くの時間を彼らと過ごそうという意気込みで学校へ向かっていた。彼は、多くの本で読んだ通りの日々が来ると信じていた。たくさんの友達を作ったり、放課後に彼らと時間を過ごしたり、互いの家を訪ね合ったり、一緒にテスト勉強をしたり、修学旅行に行ったり、そうしたかった。それが学の叶えたい唯一の夢だった。
この学校だけでなく日本中の他の全ての生徒にとって、それは何気ない日常だった。最も普通の日常。彼らはそれを大きな意味もなく生きていた。しかし学にとっては、それはどんな犠牲を払ってでも見つけたい宝物のようなものだった。
しかし学の夢は、新学期初日に打ち砕かれた。どのクラスメートに近づいても、誰も無視して避けた。代わりに、学の陰で皆が彼のことだけを話していた。彼の名前は学校の隅々から聞こえてきた。
ついに学は、自分の何がおかしいのか理解した。彼は、自分が通う学校の他の生徒たちとは違っていた。その違いは、彼らの頭の上にある数字だった。学自身はそれを見ることができないが、賢い頭脳で自分の置かれた状況を理解できた。そのとき、入学式の日の校長の言葉が学の頭の中で響いて、その日は理解できなかった意味ようやく分かった。
学が恋い焦がれた学校生活は、始まる前に壊れてしまった。学が人生で過ごすことを夢見ていた学校生活から残されたのは、授業と放課後のファミレスでのアルバイトだけだった。そうして一日一日が過ぎていった。それにつれて学の噂は小さくなっていた、やがて完全に消えた。
少年は来る日も来る日もごく普通の生活を送っていた。学校に行いて、そこからアルバイトに行いて、家に帰って、寝る前に帰り道で買った本を読む。学の夢から残されていたのは、ホコリと蜘蛛の巣をかぶった小さな希望を持っていた日々。その希望は「いつか全てが変わる」と学に言っていた。そして彼が高校進学したころから数週間が過ぎていた。
そんなある日、社会の授業で先生が言った。
「今日のトピックは『寿命』です。」
教室中の全ての生徒の頭が、瞬時に学が座っている方へ向いた。しかし学はとっくに全てを知っており、そのことで思い悩んではいなかった。
「ご存知の通り、誰の頭の上にも特定の日付が見えます。その日付はその人が死ぬ日を示しています。その日付は人間が運命から与えられたものであり、全ての人間は、運命によって定められた寿命より一秒早くも遅くも生きることはできない。この小さな細かいおかげで、私たちの社会は今のような発展を遂げました。この数字のおかげで、私たちは適切な人生のパートナーを選び、老後に一人で取り残されないという確信を持てるのです。このおかげで、日本は長く生きられない子供や病人に多大な費用をかけることを節約できるのです。自分でも考えてみてください。もうすぐ死ぬと分かっている人を助けようと思いますか? どんなに治療しても、他に結果が変わらないのに、大金をかけてその命を救おうと思いますか?」
この言葉を聞いて、学は冷静さを失った。彼は、人生と宿命についての偏った見解に基づくこのような出鱈目を、これ以上聞き続けるわけにはいかなかった。学はまだ聡と一緒にいた頃から、親友を救う方法はないかと考え始めていた。「どうすれば、定められた死の日に彼が死なないようにできるのか? もし聡が何が原因で死ぬのか分かっていれば、どうにかして救うことはできるのか? 自分の手で運命を変えることはできるのか?」と学は孤児院にいた頃から、これらの問いについて考えて始めた。
生まれて初めて怒りと激情に駆られた学は、何ヶ月も溜め込んできた不満を先生に直接ぶつけた。
「どうしてそんなに冷静にそんなことが言えるんですか!」と学は隣の教室にも聞こえるほど大声で叫んだ。
「え?!」
「どうして他人の命のことを、そんな冷たい口調で話せるんですか? 先生は何も知らないです! 誰も何も分かっていないです! もうすぐ死ぬと分かっているから治療しなくていい、とはどういう意味ですか? 治療しなければ死ぬのは当然じゃないですか! その人は、どの医者も努力を惜しんで、そもそも治療しようとしなかったから死ぬんです! 誰かが、たった一人でも、この呪われた、皆さんが崇拝してる『運命』と呼ぶものを変えようと試みていたら、もしかしたら救えたかもしれない命が、どれだけあったでしょう!」
学の教室は静まり返った。先生でさえ、聞いたばかりのことに対して何か言い返す言葉が見つからなかった。学は教室の中央に黙って立ち、先生の目をまっすぐに見つめ、その言葉に対する全ての憎しみと嫌悪を表現していた。隣のクラスの生徒たちでさえ、自分の教室を出て、何が起こっているのか見に来た。
この不気味な静けさを破ったのは、学の左隣に座っていた女の子だった。
「キモイなんだけど。本当は死が怖いだけなんだから、運命を『呪い』って呼ぶのはやめたら? もしあなたが私たちの側で、長い寿命を持っていたら、そんな言葉は口にしなかったでしょうね。その時あなたがそんなに憎んでいるその運命のことを『祝福』と呼んでいたはずよ。あなたは本当に気持ち悪い。早く死ねばいいのに。」
この言葉を聞いて、学は言葉を失った。「もし彼女の言う通りだったら? もし自分が死ぬことを怖がってただけの偽善者なら? もし今までずっと、聡を救いたいと思っていたのではなく、ただ必死に自分の命にしがみついていただけなら?」学はもう学校という建物の中にいることをできなくなっていた。教室を飛び出し、学は家へ向かって走った。
いくつか眠れぬ夜を過ごした理由は以前のように本を読むためではなく、自己内省と自分の感情の探求のためだった。学は三昼夜、徹夜した。その間、彼はアルバイトにも学校にも行かなかった。ただ、クラスメートの女の子の言葉が真実なのか嘘なのかを理解しようとしていた。
四日目、学は自分の感情について結論を出して、学校に行く決意を固めた。いや、正確に言うと、ただ学校に行っただけだ。彼には恐れるものは何もなく、学校に対しても女の子に対しても、何の嫌悪感も抱いていなかった。むしろ逆で、学は彼女が正しい道を示してくれたことに感謝していた。
学校に近づくと、学は再び周りの皆が自分を指差し、陰でささやいているのを感じた。この三日間、彼が授業に現れなかった間に、学校では彼が二度と姿を現さないという噂が広まっていた。しかし学はそんな些細なことで学校を休むほど弱くやつではなかった。この三日間、彼が授業を休んだのは、クラスメートの前に出るのが恥ずかしかったからではなく、自分の感情と将来の計画を整理する時間が必要だったからだ。
入学試験と入学して最初の数日の学校生活に次いで、学が周囲の生徒からの自分への過剰な関心を感じたのはこれで三度目だった。三度目だが、決して最後ではなかった。しかし四度目が起こったのは、この出来事から一年後、学が二年生に進級した時だった。
その四度目は、これまでの全ての中で最も激しいものだった。しかし今回は、彼の学校の生徒だけでなく、通りすがりの人々でさえも、彼を見て恐怖の表情を浮かべ、できるだけ早く彼のそばから去ろうとしていた。学は愚かな者ではなかったので、すぐに全てを理解した。理解したくはなかったにもかかわらず、理解した。
一年半前、学がまだ孤児院にいた頃、学は自分の死の日付を知りたくないと決めた。なぜならそれを知れば、親友の人生を変えたのと同じように、自分の人生も変えてしまうかもしれないと思ったから。そして学は、親友の運命を繰り返したくなかった。しかし周りの人々の奇妙な行動から、彼は気づいた「今日がその日なのだ」と。学が死ぬ日だった。
学は生徒や教師に迷惑をかけたくなかったので、その日はやはり授業に行かないことにした。学校の敷居のところで向かっている方向を変えて、校門を出て、うろうろし始めた。
学は死にたくなかった。将来医者になって、他の人々の命を救いたいと願っていた。自分と同じように運命に見捨てられた人々を。しかしそれを実現するためには、まず自ら運命に逆らって、自分の人生を変えなければならなかった。しかしまだ、そのために何をすべきかは分かっていなかった。学は怖かった。もうすぐ全てが終わってしまうのが怖かった。
クラスメートの言葉を聞いてからの一年間、学はどうすれば自分の運命を変え、運命が定めた日に死なないで済むかを考え続けていた。「ただ家に閉じこもっていれば、何も起こらないだろうか? 誰にも見つからないどこかに隠れればいいのだろうか?」という考えはずっと学の頭をよぎっていた。
今日、それらの考えはかつてなく鮮烈に彼の頭の中で燃え上がって、学はどこへ行っても居場所が見つからなかった。ついに彼は、親友が真実を知ったときに何を感じたのかを理解できた。そしてなぜそのようなタブーが設けられたのことも。全ては子供たちを守るためだ。
最も驚いたのは、「賞味期限が長い」の人間に他人の人々には他人の死の日付を明かすことが禁止されていないことだった。なぜなら、自分の死の日を知ることは、たとえ九十歳であっても、それに備えるのは辛いだ。
学が死、運命、人生、そして他の人々について考えを巡らせているうちに、彼は無意識に習慣で、バイト先んも場所に来ていた。彼は一日中街を歩き回り、今はもうほとんど夜だった。学はそう考えた「もしかしたら今日は自分の死の日ではないのかもしれない、自分はまだ生きているのに。」ファミレスの入り口に長蛇の列ができているのを見て、中に入って接客を手伝おうと思った。今日は金曜日で、たとえ自分のシフトでなくても、余分な手は間違いなく役立つだろう。
「学くん? ここで何してるんだ? 」とマネージャーさんが尋ねた。
「長い列が見えたので、手伝ったほうがいいかと思って入りました。」
「君がホールに出ても、お客さんが逃げちゃうよ。家に帰って休みなさい。」と、その時マネージャーは少年の額の少し上を見て、やや悲しげな口調でそう言った。
「やはり、今日なんだ」と、学はバイト先を出ながら思った。学は本当に死にたくなかった。彼は夢を手に入れて、そのために毎日努力してきた。それがこんなに突然終わってほしくなかった。だから家に帰る途中、彼は非常にゆっくりと歩いて、あちこちを見回して、道路を渡るときは地平線に車が全く見えない時だけにした。
学はまだ、この状況でどのように自分が死ぬなのか理解できなかった。静けさと平和の一分一分が、彼をますます怖がらせたり、不安にさせたりしていた。学は、自分が必死に避けたいと願っている避けられない運命が、一分ごとに近づいていることを理解していたが受け取りたくはなかった。
夜の街を歩いていると、学は突然、はっきりとした豊かな香りを嗅いだ。左に顔を向けると、「Arcobaleno」という名のレストランが見えた。イタリアンレストランだった場所からその香りは学を惚れさせて、一瞬だけで全ての問題を忘れさせてくれた。
しかし、この軽やかで穏やかな状態は長くは続かなかった。学の耳に、先ほどの香りとは正反対の感情の音が届いた。
「誰か! 助けて! 誰か、お願い!」
建物の角の向こうから聞こえる少女の叫び声だった。ついに学は、自分がどうやって今日死ぬか理解した。死に背中を向けて、学は反対方向へ走り出した。
しかし突然、何かが彼を止めた。それは人間でもなく、動物でもなく、音でもなく、光でもなく、香りでもなかった。それは学の夢だった。医者になって人の運命を救うという夢だった。彼はそう考えた「彼女を確実な死に置き去りにして、自分の身を守るために逃げ出した自分が医者を名乗れる資格が絶対ない」と。彼は自分自身に嫌悪感を感じた。その瞬間、自分をズタズタに引き裂きたい気持ちになった。しかしその感覚はすぐに消えた。
そして学が何が起こっているのか理解した時には、もう自分の死へ向かって走っていた。路地に駆け込むと、先ほど助けを求める叫び声が聞こえた場所で、地面に倒れている若い女性と、ナイフを手に持ってもうすぐ刺そうとしている男を目にした。
考える間も惜しんで、学は女性を救うために飛び込んだ。彼は武道に関する多くの本を読んでいたおかげで、理論的に何をすべきかを完璧に知っていた。しかし実践の不足があったから全ては計画通りにはいかなかった。
学はなんとか男の手からナイフをもぎ取ることができたが、その代償として腹部を二度刺された。しかしそれでも彼は地面に倒れず、なんとか立ち続け、先ほど奪い取ったナイフで相手をに脅して追い払った。
学は自分の使命を果たした後に、バランスを崩して地面に倒れた。彼は空を見上げて思った。「そういうものなのか……あんたのやつは、運命……ごめんね……」学が最後に見たのは、自分が救ったばかりの女性の涙に濡れた顔だった。彼女は救急車を呼び、誰かに助けを求めていた。「誰かの運命を変えられて、本当に良かった」って、彼の最後のささやき言葉だった。
ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。
学は目を開けた。目の前には真っ白な天井があった。辛うじて首を左右に回すと、自分が病院にいることに気づいた。彼の隣には点滴と、体に繋がれて脈拍と血圧を示す医療機器が置かれていた。学はベッドに横たわってて、その隣の棚には花束が置かれていた。
「ここは天国か? それとも地獄か? でもなぜこんなに現実的でリアルなんだ?」と学は混乱して、自分がどこにいて、何が起こったのか理解できなかった。
しばらくすると、看護師が彼の病室に入ってきて、少年がようやく意識を取り戻したことに気づいた。そのときナースはすぐに病室から飛び出し、医者を呼びに行った。一分もしないうちに、学の病室には自分を除いて七人がいた。来た医者の一人が話し始めた。
「命川学君。合ってるかな?」
「はい、俺です。」まだ弱々しい声で学は答えた。
「教えてくれ、君はいつから『ああいう』状態になったんだ?」
「『ああいう』? どういう意味ですか?」
「いや、君の寿命のことだ。いつから『ああいう』状態になったんだ?」
「何のことかよくわかりません。」
「つまりね…」
「ちょっと待ってください! その無駄な尋問はもう十分よ。私はあなたたちをそんなことで呼んだんじゃないわ。」と先ほど学が意識を取り戻したのを見つけたナースが言った。「やっと意識が戻ったばかりなのよ。まだ何も覚えていないのは当然でしょう。彼をほっといてください。皆さん、出てって!」と、正に看護師にそぐわない権限を持っていたナースは学を医者方から守った。
その言葉の後、明らかに少年についてもっと知りたがっている不満そうな医者方の声が聞こえた。
「大丈夫ですか? 気分はどう? どこか痛むですか?」
「いえ、大丈夫です、ありがとうございます。俺ここにどれくらいいるんですか?」
「今日で六日目です。」
「六日目か……なぜ俺はまだ生きているんだ? あの路地でナイフの刺し傷で死ぬはずじゃなかったのか?」学は途方に暮れた。なぜ生き残ったのか、自分がこれほど憎んできた運命からの贈り物に値するのか理解できなかった。
「その隣の花は何ですか?」
「ああ、それはね、あの夜命川くんが救った女性が持ってきてくれたのよ。本当に男らしい行動でしたとね。彼女は毎日あなたに会いに来ていたわ。今日もたぶん来るはずよ。きっと彼女は歓喜のあまり我を忘れるわね!」
「あの女の子が…彼女は無事なんですね。本当に良かった。」と学は小声で呟いた。
「私の名前は星野桜です。何かあったら言ってください。さあ、命川くんは今休んで体力をつけないとね。」そう言って彼女は病室を去り、学は一人になった。
全てはナースが予想した通りに進んだ。数時間後、学は大きな足音を聞いた。かかとの音のように聞こえたが、驚いたことに、その音は歩いている人間のものではなく、全力で走っている人のものだったようだ。ようやくかかとの音は学の病室の前で止まった瞬間、ドアはものすごい勢いで開けられた。
「意識が戻ったんだね! 本当に嬉しい!」と女性は叫び、手から花束を落とし、学に駆け寄って、力を込めて抱きしめた。
学はこれまで異性からこれほど多くの注意と関心を向けられたことがなかったので、少年は慌てて、この状況でどう振る舞えばいいのか全く分からなかった。彼はただベッドの上で途方に暮れて座り、渦巻く思考を整理しようとしていた。
ついに彼女は学を離して言った。
「私の名前は鈴木美桜。命川くんはたぶん私のこと覚えていないよね。でも六日前、あなたは私を救ってくれた。命川くんがいなければ、私はあの日確実に死んでいた。だから命川くんが私の恩人だ!」
「そうだったんですか。良かった。ナースから、ずっとお見舞いに来てくれてたって聞きました。ありがとう。」
「お礼を言うのは私の方よ! これくらいは私にできる最低限のことだもん!」
学は、医者になる前から誰かの命を救い、人の運命を変えられたことを心から嬉しく思った。しかし突然、一年前に先生が言った言葉が彼の頭をよぎった。「全ての人間は、運命によって定められた寿命より一秒早くも遅くも生きることはできない。」
その後、学はそう考えた「これは自分が運命に勝ったということなのか?」 それを確かめるために、彼は女性の頭の少し上を見た。そこには、今後四十年近く訪れない日付があった。すると学は、誰かの運命を変えられたのかどうか疑い始めた。しかし星野さんはそれに気づいて言った。
「これはね、命川くんのおかげだよ。その日、私の頭の上に新しい日付が現れたの。六日前、私は本当に死ぬはずだった。でも命川くんが私の事救ってくれたわね。」
「え? ほ……本当ですか?」学が今自分の耳に届いた言葉に信じられなかった。
「本当よ。そのせいで、今まで普通の人間関係を築けなかったの。自分でも考えてみて、誰も、二十五歳で死ぬ人と家族を作りたいとは思わないでしょ。馬鹿みたいだもの。両親が私を孤児院に引き取らなかったことに、もう感謝しないといけないわね。でもあなたのおかげで、私は新しい人生を得られたの。ありがとう!!!」
その言葉を聞いて、学は泣きそうになった。やはり、全てに意味があったのだ。運命や死や人生についての彼の苦悩や葛藤には、意味があったのだ。学は運命に勝ったのだ! しかし突然、彼の頭にある考えがよぎった。「彼女の頭の上に新しい日付が現れたなら、自分の頭の上にも同じように新しい日付が現れているはずだ」と。
そこで学は女性に、自分の頭上にある数字を教えてほしいと頼んだ。今までは、自分の死ぬ日をわざと知りたくなかったが、今は全てが変わった。学は知りたかった、運命に対する勝利の証を聞きたかった。今は彼にはトロフィーやメダルが必要だった。自分の力の前に運命が敗れたことを証明するものを欲しかった。
しかし学は質問への答えを得られなかった。星野さんは少しパニックになり、すぐに用事があるからとごまかして病室を去ってしまった。学はその慌てぶりが何によるものか理解できなかったが、彼女に本当に急ぎの用事があったのだろうと思ってすぐにその状況を忘れた。
夕方になり、学はトイレに行こうとした。しかし彼はそこにたどり着けなかった。道すがら、聞き覚えのある声を聞いた。それは朝、質問を持って病室に来た医者の声だった。声が聞こえてくる診察室に近づくと学は、その医者が誰かと電話で話しているのを聞いた。
「今日、意識が戻りました。まだ結論を出すのは難しいですが、観察を続けながら質問していきます。そちらも引き続き調査をお願いします。私たちは原因を突き止めなければなりません。それを理解すれば絶対に永遠の命の謎を解くことができるです!」
聡明な学の頭脳は、自分が話題になっていることを理解するのに時間を必要としなかった。自分に何か実験や試練を課されるのではないかと怖くなった彼は病院から逃げ出して自分の家へ向かった。
自分の部屋に入ると、学はショックを受けた。そこは空っぽで、彼の持ち物は一つもなかった。家具もベッドも、計り知れない本のコレクションも、全てが消えていた。「まあ、そうなるよな……」と少年は思って、一階に下りて大家に自分の持ち物はどうなったのか、どこかで見つけられないのか尋ねようとした。しかしドアが開き、男が生きている学を目の当たりにした瞬間、大家は大声で叫んだ。
「あああ! 幽霊だ! 幽霊だあああ!」
「ちょっと落ち着いてください、お願いです。俺は幽霊じゃありません。俺の手を触ってみてください。生きている人間です。」
「幽霊じゃないだと?! じゃあ一体何なんだ?!」 そう言って大家は学の目の前でドアを閉めた。
少年には他にやることもなく、空っぽの自分の部屋に戻り、床に横たわって眠った。朝起きると、学は病院にいたときにも持っていた通学カバンを手に取り、学校へ向かった。
そして再び、学を見た通りすがりの人々は怖がり、彼の存在に恐怖を感じて、できるだけ早く少年から遠ざかろうとしてた。学には自分に何か変なことあるか悟ることできなかった。
六日前は学の死の日だったから避けられていたとは当然だが、今は美桜の頭の上と同じように、自分の頭の上にも新しい日付が現れているはずだった学は混乱していた。学校に近づくと、彼の目に入ったのはこれまで以上に恐怖に怯えた生徒たちだった。
通り過ぎる人に比べて生徒たちの反応は学にも理解できた。彼らにとって、学はまるで幽霊、生き返ったゾンビのように見えたのだ。少年が学校に着く頃には、彼に関する噂は学自身よりもずっと早く学校に着いてそこにもう広まっていた。
学のことは「生き残った少年」と呼ばれた。やがて彼の学校の生徒だけでなく、テレビや様々なウェブサイトでも、そのあだ名で呼ばれるようになった。学はわずか三日で、全ソーシャルメディアで最も言及される、日本全国で最も有名な人間になった。
しかし全国的なスターになる前に、学には他の問題も待っていた。教室に入ると、クラスメイトたちが彼を見つめたが、誰も言葉を発することができなかった。やがて先生が教室に入ってきて、学を見ると非常に驚いてすぐに彼を職員室に呼んだ。そこでは他の全ての教師と校長が生き残った少年を待っていた。先生方は説明を要求してた。
そこで学は全てを話した。この六日間どこにいたか、どのように女性を救ったか、自分自身もなぜ生き残ったのか分からないこと含めて。彼の話を聞いた後、学は教室に戻された。校長と教師たちはこれからどうするべきか話し合い始めた。
教室に向かう途中、学は一人の少年に出会った。その顔は、学を見つけた瞬間、満面の笑みに変わった。彼は学に近づいて言った。
「死んだはずなのに今でも生きているって聞いて、今朝からずっと探していたんだ! 君はたしか命川学だよね? 僕は渡辺拳! よろしくね!」
しかし学は拳を無視して、通り過ぎた。拳はその態度に驚いたが、それでも諦めずに会話を続けた。
「ね、ね、命川くんが六日前に死ぬはずだったって、本当なの? 命川君が学校に来なくなったとき、生徒の一人が死んだって噂が学校中に広まったんだよ。でも君は生きてるどころか、元気いっぱいじゃないか!」
「もしあんたが、他の全ての生徒たちと同じように、陰で俺を指差して悪口を言っていたのに、今になって友達になりたいなんて思っているなら、大間違いだけど。」
「いや、違うよ!違うんだ。僕は命川くんが死んだその日にこの学校に転校してきたんだ。つまり…その…君が死ぬはずだったその日にね。そしてクラスメートから、同じクラスに今日死ぬはずの生徒がいると聞いて、君を見つけて友達になりたいと思ったんだ!」
「じゃ、もし同情から友達になりたいなんて言うなら、それこそもっと悪いよ! もう放っておいてくれ!」
「だ~か~ら!命川くんは全部勘違いしてるよ! 同情じゃなくて、嫉妬からなんだ!」
学は拳の言葉をはっきりと聞いていたが、自分の耳を疑い、耳が彼を裏切っているのではないかと思った。そこで聞き間違いではないかと尋ねることにした。
「し…嫉妬? 俺に嫉妬してるのか?」
「うん、そうよ。」
「で…でもなぜなんだ? 俺は死ぬはずだったんだぞ?」
「ああ、だから嫉妬してたんだ。」
学はこの言葉に衝撃を受けた。彼は常に何よりも命を大切にしてきた。自分は死にたくない、できるだけ長く生きたい、できるだけ多くの人の運命を変えたいと願ってきた。そして今、誰かが自分の死ぬはずだったことに嫉妬していたと直接言われて、学は言葉を失った。学は目の前の人間の頭の中で何が起こっているのか理解できるわけがない。
チャイムが鳴り、二人は授業に間に合うように急がなければならなかった。そこで学は昼休みに屋上で会うことを提案した。自分とは反対の思考を持つ人間について、できるだけ多くのことを知りたかったからだ。それで拳は学と友達になりたかったので、この提案に喜んで応じた。
昼休み、学は拳に自分の子供時代、孤児院、聡、そして死ぬはずだった日について全て何にも隠さずに話をした。病院で盗み聞きした医者の会話についても隠さず話した。
「なんか、これはまずいじゃないの。こいつらは命川くんをモルモットにしたいんだろ、分かってるよね?」
「もちろん分かってるよ、馬鹿じゃないからな。でもどうすればいい? 実験されるために生き残りたかったわけじゃないんだ。自分自身が他の人の命を救いたいんだ!」
「なんて素晴らしい夢だ! 命川くんのその意気込みと人生への情熱に敬服するよ。僕にはそんなことはできないからな。」
「そうか?ところで、さっきから一つ分からないことがあるんだけど。なぜその医者が求めているのが俺なのか、なぜ簡単に寿命が伸びたあの少女を放っておいているのかさっぱり分かんない。」
「あ!」
「どうした?」
「たぶん、僕、分かった!」
「え?本当? どうして?教えて!」
「確かに、僕もさっきそれを変だと思ったんだ。でも命川くんが気づかさせたんだよ!ついに分かったよ!」
「だから何なんだ?! 」学は大声で叫んで気になる質問への答えを早く聞きたがった。
「『それ』がいないんだ。」
「何がいないんだ?」
「命川くの寿命が…なんか…いない。」
「え?どういうこと?」
「額の上にそこにいるはずなのに、空っぽなんだ。命川くんの頭の上には虚無しかない。まるで自分の寿命が見えない自分自身を鏡で見ているかのようだ。」
ついに学は、今朝全ての人々がなぜ自分を避け、変な目で見たのかを理解した。そして昨日大家がなぜ自分を幽霊だと思ったのことも。今、学の頭の中で全てのピースが組み合わさった。
「もしかして、寿命がないということは、永遠に死なないという意味なのか?」
「う~ん、難しい質問だな。でも今はっきりしたよ。あの医者が永遠の命の謎について言っていた意味が分かった。それにどうしてその医者方が命川くんをモルモットとして欲しがっているのも。」
「なんてこった。一つの災いから逃れたと思ったら、すぐに別の災いがやってきたよね。」
この疑問はもちろんまだ学を悩ませていたが、彼はついに自分の本当の目的を思い出した。それは拳をこの話に誘った理由だった。
「そうだ、一つ気になることがあるんだ。渡辺くんは言ったことについて。俺に嫉妬してると。俺がもうすぐ死ぬ、あるいはもう死んだことに嫉妬してるってことだよね?」
「ああ、そうだけど。」
「どうしてか、さっぱり分からないよ。俺にとって命は何よりも大切なものだ。決して他の何かと交換できるものじゃない。なのに渡辺くんは、もうすぐ死ぬ人間に嫉妬してると言っている。なんで? 」
「ははは。なるほどな。そう考えると、命川くん混乱してる当然でしょう。僕たちの世界の誰もが、最初から自分の「死亡日」を知って生きている。それに基づいて、正しいと思う様々な決断を下している。でも考えたことはあるかい? 誰も自分の死の日を知らなかったら、どうなるか?」
「誰も自分の死の日を知らなかったら?」
「うん、そうだ。今は子供たちが小さな頃から、自分が六十、七十、八十歳まで生きることを知っている。もしかすると運が悪くて三十や三十五歳までの者もいる。そして最も運が悪い者は、命川くんのように、病気や事故で幼いうちに死ぬ。もし誰も自分の死の日を知らなかったら、世界は根本的に変わっていただろう。誰もが打算ではなく、心の赴くままに選択をするだろうな。誰もが本当にやりたいことをするだけ。そして僕はある結論に達したんだ。」
「どんな結論?」
「人は自分の「死亡日を知った瞬間、その運命は自動的に決定されてしまうということだ。人は死から逃れようとするが、それによってむしろ死に近づくだけ。もっと長く生きようとし、逆に自分を死に近づけていること。」
「逆に死に近づける…? ではあの夜、俺にいったい何が起こったの? 人間が死を遠ざけると思っている行動は、逆に俺たちを死に近づける。もしかすると、その逆も…」と学は考え込んだ。
「だからね、僕はこの世界にうんざりしているんだ。逃げ出したいよ。誰か他の人間に、自分自身ではない誰かに、僕の運命を決めてほしくないんだ。」と拳は続けた。
「でも渡辺くんは自分で何をするか決めているじゃないの?」
「そう思うところだが!どの決断でも、どの選択でも自分の死の日を知っていることに基づいた偏ったものになる。どんなに頑張っても、そこからは隠れられないし逃げられない。命川くんも同じだったんだろう?」
その時学は、拳の言葉について考えた。そしてそれらが真実であることに気づいた。今日が自分の死の日だと知るまでは、学はごく普通の生活を送っていた。もうすぐ死ぬと分かっていても、パニックにはならず、それについて思い悩むこともなかった。まだ生きたい、生き残った後に他の人々を救いたいと願っていた。しかし今日が自分の「死亡日」だと知った瞬間、学は恐怖に包まれて負けた。」
聡を思い出して後、学は拳の言葉の真実性を再確認した。二人の友人が自分の死の日を知った瞬間、どんなに賢くても、恐怖は常に学と聡の脳と体を支配してしまった。
「しかし、早く死ぬ運命にある人々に嫉妬しているというこの人はどうなんだ? なぜ彼は恐怖に支配されないのか? この人はむしろ早く死にたいと思うのか?」と学は目の前の話し相手に完全に困惑していた。一見すると成績の悪い単純者に見えたが、実は地球上で最も賢い人間かもしれない。
学の耳に届いた言葉の一つ一つが、彼の頭の中で何度も反響して一度では理解できない隠された意味を次々と生み出していた。
「あのね、実はね、僕は自分の人生を終わらせようとしたんだ。できなかったけど。」
「な…何? 自分の人生を終わらせる?」
「そう、僕はその行為を『自殺』って呼んでいる。」
「ジサツ?何それ?」
「自分を殺すって意味。だから『自殺』んだ。」
「自身の手で自分の人生を終わらせる? 『自殺』? この人は何を言っているんだ?」学は完全に混乱していた。いや、むしろ壊れちゃった。拳の口から出ていく言葉につれて、ますます話し相手の思考から離れていた。
「命川くんと同じように、僕も運命に挑戦したんだ。」
「運命に挑戦した?」
「そう。ただ僕は負けた。命川くんとは違ってね。」
「良く分からないよ。渡辺くんが何を言おうとしているのか。」
「僕は運命に挑戦したんだ、命川くんと同じように。でも逆の方向に。命川くんは自分の命を延ばそうとした。逆に僕が定められた寿命より早く死のうとした。でもうまくいかなかった。」
「な…何だって?! 」学はその言葉に衝撃を受けて大声を上げた。「自分の寿命を短くする…」そんな無謀で恐ろしいことをどうやってしようと思うのか。
学には拳の思考の流れが全く理解できなかった。しかしそれだからこそ、この話し相手は学にとってますます研究対象として興味深いものとなっていた。拳はこれまで学が関わってきた全ての人々とは違っていた。彼は「変わっていた」。
「どうやって『自殺』をしようとしたんだ?」
「五階から飛び降りたんだ。でも足を骨折して頭を打っただけだった。三ヶ月後に退院して学校に戻った。それは二年前だった。一年前には川で溺れようとした。でも気を失っただけで、岸に打ち上げられて、誰かに見つかって、また生き残った。両親はただ、僕の運命が良かったから二度も命を救われたと言って喜んでいた。でもそれが自分でやったことだとは全く気づかずにね。」
「…」学はこの状況で何と言えばいいのか分からなかった。彼は完全に言葉に詰まった。この世で生きている人間の中で誰一人として、この人の言葉を信じられないだろう。誰も、学を除いてだけ。完全に衝撃を受けて拳の話の全てに圧倒されながらも、学はその一言一言を疑うことなく信じた。
なぜなら、拳が先ほど語ったあの偉大な考えや思想からだ。それは学を紛れもなく衝撃させた言葉だった。それは拳が今まで全ての過酷な経験を通らなければ到達できないものだった。
その日の終わりまで、学は新しい友達から聞いた話のことしか考えられなかった。やっと授業が終わると、拳が学に近づいてきて、非常に興味深い理論を話し始めた。
「ね、学くん。君の話を聞いて考えてたんだけど、一つ変な点があるんだけど。」
「どんな点だ?」
「学くんがそれに気づかずに、何も疑わなかったことに驚いてるんだ。」
「もったいぶらないでくれる? 」と学は不満と焦りを込めた口調で言った。
「学くんが病院に運ばれたとき、なぜ手術されたんだ?」
「それはどういう意味な… あっ! そうか! どうして自分で気づかなかったんだ? 俺はなんて馬鹿なんだ! これこそ、俺が探している答えへの鍵に違いない!」
二人の少年は、学が六日間昏睡状態にあった病院へ急いだ。彼らは、この六日間ずっと学の世話をしてくれたあの親切なナースと話すことにした。星野さんは、学と彼の新しい友人の頭の中に漂う謎の問題を解くために必要な存在だった。
しかし学が病院に入るのは危険だった、医者方の一人に見つかって捕まるかもしれないから。そこで病院には拳だけが行った。彼は星野ナースを見つけ、裏庭に出てくるように頼んだ。そこでは学が待っていた。
「あなたが失踪した時、本当に心配したんだから! どこに逃げたの、命川くん? 中村医長もあなたを心配してたよ!」
「その人が心配していたのは俺の命じゃなくて、実験のための貴重な材料の方でしょうね。」
「え? どういう意味?」
そこで学と拳は、星野さんに、学が病院であの夜中村医長から聞いた話と、なぜ逃げ出したのかを話した。ナースの顔は恐怖に覆われた。
「そ…そんなはずない! 私の知っている中村医長は、絶対にそんなことはしません! 命川くんは本当にその時あの人の声だって確信できるの?」
「はい、あの声だけは覚えています。それに、死をなくす薬を作って世界中で有名になるチャンスは、誰の目もくらませるでしょうからね。」
「そうだけど…信じたくはない、本当に…」
「すみません、その話を後でしませんか? 僕たちにはとても重要な用事があるんですが。」と拳が会話に割って入った。彼はもう何時間も自分を悩ませていた質問への答えを早く知りたがっていた。
「うん、分かった。ごめんなさい。なんでも聞いて。」
「なぜ中村医長は俺の手術をしようと決めたのですか? 通常、今日死ぬと分かっている患者を、助けようとしないはずです。なぜ中村医長は俺を救おうとしたのですか? それとも彼は最初から死をなくす薬を作りたくて、出会った患者を全て手術しているのですか?」
「いいえ、そういうことじゃないの。命川くんが病院に運ばれた時はもう頭の上にはもう「死亡日」はいなかったのよ。だからその時点で命川くんは病院中の全ての医者の興味を引いたのよ。」
「え? その時点で寿命が消えた? でもそれはどういう意味ですか? 俺は手術で医者に救われたと思っていたのに。つまり俺は…」
「学くんは病院に着いた時点で、その日に、もう死ぬはずではなかった…」と学の言い終わらない言葉を拳が続けた。
「でもどうやってそれが可能なんだ?」
「さあな…もし知っていれば、ノーベル賞を取れてたかもしれない。」
「つまり鈴木さんを見つけて、あの夜俺が彼女を救った時、俺に寿命が見えていたかどうかを聞かなければならない。そうすれば、いつ寿命が消えたのか分かるかもしれない。」
「その通りだね。でももう一つ、答えが出ていない質問がある。なぜ彼女の寿命は延びたが、学くんの寿命はただ消えただけなのか?」
「そうだよな…俺たちの中で大きいな違いがある」
星野ナースと別れた後、二人ともは家へ帰った。それは、別々の家ではなく、拳の家へ。学にもう寝る場所がなくなったので、事前に両親に許可を得て学を自分の家に泊めるよう誘った。
彼らは拳が両親と住んでいる高い三十階マンションに到着した。拳は、父親の仕事の事情で、いつも一つの場所から別の場所へ引っ越さなければならず、だから家を買う意味はないと説明した。しばらく賃貸に住み、そして新たな県へ引っ越す。
その夜、二人ともは深夜まで、学に起こったこの変な現象について話し合った。しかしこの糸玉のような謎を解くために引っ張れる、どんな小さな糸口も見つけられず、寝ることにした。
星野ナースに鈴木美桜の電話番号を事前に聞いていた学は、彼女にメッセージを通して今日の夕べに会いたいと伝えた。そして二人の少年は学校へ向かった。
学校では、誰もが相変わらず学のことを話題にし、彼を「生き残った少年」と呼び、学を一時間ごとにとますます人気者にしていた。
二時間目の授業の途中、学と拳の教室に、学を逮捕する意図を持った警察官たちが乱入した。その時拳は友人を失いたくなくて、最初に頭に浮かんだことを口にした。
「窓から飛び降りるぞ! 跳べ!」 そう言って彼は学の目をまっすぐに見つめ、窓の方へ走り始めた。
「と…飛び降りる?! 頭がおかしいんじゃないの?」と学は恐怖のあまり叫んだ。
「大丈夫だって。たかが二階だぞ。僕が話したことをもう忘れたのか?」
昨日の屋上での会話を思い出した学は友達の例に従って窓に向かって走った。そこから飛び降りると、若くてしなやかな体のおかげですぐに立ち上がって学校から遠くへ走り去った。
ようやく学校から十分に離れたところに来ると、二人は立ち止まり、乱れた呼吸を整えた。呼吸が正常に戻ると、学が話し始めた。
「ね、拳くんのおかげで、新しい夢を見つけたよ。」
「え? 新しい夢?なにそれ? しかも僕のおかげで? 医者になって他の人の運命を救うっていう夢はどうしたんだ?」拳は困惑して言った。
「ああ。俺は証拠を見つけたいんだ。運命は存在しないっていう証拠をね。」
「運命は存在しない証拠? どういう意味なんだ?」
「拳くんのおかげで、あることが分かったんだ。いつか話すよ、拳くんは自身も全てをわかるからね! それまでは待っていてくれ!」
その後、二人ともは街をぶらついた。その間、学の携帯にメッセージが届いた。それは鈴木美桜からの返信だった。学は彼女と会う約束をしようとしたが、拳がそれを止めた。
「ちょっと待てよ、罠かもしれないぞ! 今頃彼女は警察と一緒にいるんじゃないの?」
「いや、でも俺は彼女の命を救ったんだよね。鈴木さんは俺のことを恩人とよんでいた。そんな恐ろしいことが出来るとは思えないけど。」
「僕は信用しない方がいいと思うけど。少なくとも学くんの夢が叶うまではな。その後で好きにすればいい。こんな状況で、モルモットになりたくないだろ?」
「まぁ、うん。分かったよ、拳くんの言う通りにしようかな。」
その後、二人ともは拳の家へ行った。エレベーターで二十八階まで上がって、部屋に入ると、拳の母が作ってくれた温かい夕食が待っていた。しかしドアが閉まってから五分も経たないうちに、ドアベルが鳴った。ドアの向こうには、学を連れに来た警察官たちが立っていた。
しかし学は、自分の人生がモルモットのようになることを何としてでも望んでいなかった。その時、拳が昼休みに屋上で言っていた言葉を思い出した。「誰か他の人間に、自分自身ではない誰かに、僕の運命を決めてほしくないんだ」この言葉の本当の意味は学には、最初は奇妙で、野蛮で、風変わりだと思っていたが、今は完全に悟った。
バルコニーに出て、学はこう叫んだ。
「もし誰かがもう一歩でも近づいたら、ここから飛び降りますず!」
「ははは! 何を言ってるんだこいつ? 早く捕まえろ! 」と警察官の一人が叫んだ。
「ね、拳くん。約束してくれ! これから言うことを必ず果たすと約束してくれよ!」学は友達に向かってそう叫んだ。
「うん、分かったよ! 約束する!」
「拳くんの夢を俺が叶える。そしてお前が俺の夢を叶える。約束だな?」
「学くんの夢?」
「そうだ! 運命は存在しない証拠を見つけろ!」それが、学が友達の夢を叶える前に言った最後の言葉だった。
十一年後
「ねえ、せ~んぱ~い!どうしていつもこんな古い資料を漁ってますか? 一体何を探そうとします?」
「証拠が必要だ。」
「またその言葉ですか。毎日毎日、同じことばかり言ってるですよね。でも何を探しているのかは決して言わないし、そろそろ言ったらどうですか? 私も手伝えるかもしれないでしょう」
「自分でも何を探しているのか分からないから混乱するよ。」
「え? 私のことを馬鹿にしてるんですか?」
「とんでもない。ただ本当のことを言っているだけだ。」
「それで先輩は本気で、警察署の刑事になって、その全ての勤務時間をホコリをかぶった古いアーカイブで過ごし、正体さえ分からない何かを探すために働くためここに来たわけですか?」
「あっ!」
「うわぁ。なんなんですか?今の叫び?」
「見つけた! やっと見つけた! 五年ぶりに、ついに見つけたぞ!それに年月日は同じ!同じだぞ!」
「何を見つけたんですか、いい加減に言ってくださいよ!」
「証拠だ!」
「もう!その言葉を聞き飽きました! 読ませてください。ん? 何ですかこれ? 十一年前の事件か? 『「Arcobaleno」というレストラン付近での事故。飲酒運転のドライバーが制御を失い、有名なイタリアンレストランの近くの信号機に衝突。運転手を除き、負傷者なし』…何なんですかこりゃ?
読んでいただいて本当にありがとございます!
感情を首を長くしてお待ちしております!
僕の小説が気に入ったらこれほどの喜びはないです。よかったら他の小説も読んでください。
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