3.馬子にも衣装といいますが
新しい制服に袖を通す。スカートの丈も一応ひざ上。パリッとしたシャツは首元が苦しい。鏡に映る自分をみて、シャッとカーテンを開ける。叔母さんと定員さんがまぢまぢと袖やらスカート丈やらいじる。
「ちょっと、スカート長くない? おばちゃんどう思う?」
「長いかぁ? もう1個下のサイズ出してくるから待ってな」
今日はるんるんの叔母さんに捕まって制服合わせに来ている。学校前の商店のおばちゃんが測ってくれるらしい。叔母さんと気の知れた仲なのかめちゃめちゃ気さくに言い合ってる。私は長いくらいがいいかなって、二人が話している隙に後ろの鏡に映る自分を写真に残す。
スカートの長さなんて、学校によって基準がある筈だ。靴下の色とかなんだと。だから通ってる奴に聞くのが丁度いい。
LINEに今撮った写真を送りつけ、スカートの長さはこんなもんかと聞く。
すると返事はすぐに来た。
[知るか]
優しくないな。炒飯作ったついでに連絡先を交換した黒崎さんだ。数少ない私のLINE友達はとっても冷たい。
[今日学校なんでしょ。女子のスカート位みろ、おこぼ]
既読無視。本当に優しく無いんだから。
「ゆあはスカート短い派? 長い派?」
若い子は足出してなんぼよねなんて持ってきて貰ったスカートを当てる。こんな田舎で足出してどうするのか。 叔母さんは私の視線に気が付いて続ける。
「足出せるのなんて若い内に出さないでどうすんの。この年になると出す機会ないのよ、ねぇ」
「それは一理あるわね」
おばちゃんと二人で盛り上がってる。振り返り鏡を見る。紺のヒダが四つしかないスカート端を持ち上げてみる。折角なら、記憶の端にちらつく姿は似ても似つかない方がいいんじゃないのか。なんて考える。
「短くする。てか、先生なのにいいの?」
「制服なんて可愛くてなんぼよ」
会計会計とおばちゃんとレジに向かう。受け取ったスカートに履き替える。膝上五センチが通常スタイルはいいんだろうか? なんて少し考えたが深く考えず着てた服を持って出る。壁に寄りかかりLINEを確認する。
[膝隠れる位じゃね]
スカート見てくれたのね。遅かったな。
「ゆあ! 手続きいくわよ」
「はーい」
おばちゃんと別れて前の交差点渡れば目の前が学校だ。田舎にそぐわないコンクリート調の大きな建物。外の看板には町立図書館の文字。
自分の職場だけあってづかづか進んで行く。
「今日は教科書受け取って終わり。他の面子は離任式の準備してるけど手伝う?」
「急に名前の知らない人間が混じってたら割とホラーじゃない? 皆顔見知りなんでしょう?」
赤と白の垂れ幕がかかった入り口から入る。中履きなんて持ってるはずもなく、来賓用のスリッパを拝借する。下駄箱に入っている小さい靴を思わずまじまじと見てしまう。綺麗靴箱に並んだ靴達。目の前に置かれた机には白い布がかけられて花瓶には百合の花が飾ってある。
「取り敢えず職員室ね」
ぱこぱこと踵が抜けそうなりながら何とか付いていく。壁には卒業のメッセージやお便りなんかが貼り付けてある。
「失礼しまーす。川西先生いる?」
がらがらと教務室と書かれたの扉を開ける。教務室? なんて疑問を口にする前にずかすか中に入っていく叔母さんの背にせっせと付いていく。見渡しても中にいる先生は川西先生と呼ばれた方一人だけだ。
「斑目先生の声は通るんですからボリューム下げてください」
「通るってことはいいことでしょ、先生。紹介するわね、姪の甘崎結愛よ。高校生普通科担当は先生かなと思って」
「相変わらずの適当さですね。こんには。高校生普通科担当の川西和敏です」
塩顔の月九とかに出てきそうなビジュの先生だな。絶対生徒に手を出してる。
「…君、失礼な事考えてるね。斑目先生の姪ってだけあるね」
よく分からないが目茶苦茶心を読まれたので曖昧に笑って受け流す。
「甘崎結愛です。三年間お世話になります」
伸ばされた手と握手する…と手を離して貰えない。
「スカート短くない?」
「ですよね? でも、叔母さんが選んだんで苦情はそちらに」
ジト目で自分の席に戻った叔母さんにちらりと視線を向けると、隣の席の椅子を寄せて私を座らせた。
「斑目先生はそーゆー所が人気なんですけど。僕からしたら目の上のたんこぶって言うか」
パソコンの電源を落とすと、書類を手渡される。軽く視線を通しながら、さっきの疑問を解消したい。視線は書類に落としたまま質問を投げかける。
「職務室って、職員室のことなんでしょうか? 本当は入る前に叔母さんに聞けば良かったんですが、質問する間もなくて」
「そうですね。そう言えばこれも方言なんですかね? 僕も隣町出身ですが、県外に出たのは大学の時だけで」
二枚目の書類は個人情報の取り扱いだ。三枚目に移る。
「先生はここに赴任して長いんですか?」
「四年目ですね。それまでは隣町の高校にいたので。この辺に住んでる先生はここと隣町の高校いったり来たりが多いですね。通えない事もないので」
全ての書類に目を通し、視線を先生に戻すと私の視線に朗らかな笑みを浮かべ話し出した。
「君の事情は斑目先生から簡単に聞いてるよ。出来るだけ早く馴染めるように協力するから。いい意味でも悪い意味でもここは狭いから、必要以上に他に語る必要は無いし、真実を語る必要はない」
廊下から生徒のじゃれた声が聞こえてくる。
「特進科はほぼ外から来た人間で構成されてるからトラブルは少ないと思う。でも、普通科はどうしてもずっとここに住んでる人が多いから気を遣うことが多くなると思うけど斑目先生の血縁者に変な事をする勇者はいないと思うから」
叔母さんは家だけで無く、学校でももしや女帝なのか。校長室側にある叔母さんに視線を向けると席で一生懸命何か作業していてこちらの視線には気付いていない様だ。
「斑目先生の所は隣に特進科の男子皆住んでるから、女子からのやっかみがあるかもだけど、居住スペースは別なんだよね?」
「はい。特段遭遇する可能性は低いと思います」
(部屋に籠もってれば)
「そっか、そっか良かった。年頃の男女が同じ屋根の下はちょっとね。彼等はどうしても目を引くしね」
私は取り敢えずにっこり笑っておいた。先生がクラスを案内してくれる事になり、書類を鞄にしまい椅子を隣に戻す。
出る前に職員室を見渡すと、先生用の机が数台しか無いが広く清潔感のある職員室だった。校長室への扉は明けっ放しだが。
前通っていた所は職員室なんて暗くて、すれ違うのもやっとで誰かしら怒られていたりしたので印象が百八十度違う。
先生の隣を歩きながら窓の外を見ると雪が降り始めた。
「今日は冷えましたからね。三月でも雪が降るのは少し勘弁したいです」
そう言って、土日は解放され図書館となる図書室や音楽室なんかを回る。白い廊下は解放的だ。こっちの棟は特別教室棟というらしい。
「クラスは小学生二クラス、三年生までと六年生までで分けています。中学は一クラス。高校は別の所から通ってる子達もいるので特進科はまとめて一クラス。普通科は学年ごとで一クラス確保出来てます」
ぎりぎりですけどねと、普通教室棟に繋がる廊下を進んでいく。廊下の窓からクラスで準備をする生徒の姿がちらりと見える。高校生が小学生の子を持ち上げて窓に紙花を貼り付けてる。学年の垣根を越えた仲なんだろうな。
「叔母さんの所に通ってる人達中学から通ってたって聞いたんですけど、最初は皆と一緒のクラスだったんですか?」
あの、一癖も二癖ある人達が地元の子供達と一緒に勉強してたとか想像つかないんですが。あの濃さは東京でも中々出くわすレベルではない。
「そうですね。中学生は学校敷地内に寮があって、単身赴任中の男性教師と一緒に生活してます。希望すると斑目先生の所に入れるんですが、何せ空きが限られてるので。あそこは成績順で入れるんです」
一階が小学生と中学生の教室。二・三階は高校生の階だと言う。階が上がるにつれ、人も増えて視線を感じる。私は気付かないふりして、先生の後ろに続く。
「進学率百パーセントって本当なんですか?」
「進学クラスは今の所、全員大学にいってますね。普通科はそんな事無いですよ。就職する子もちらほらいます。自営業なんかとくに」
生徒会室の扉の前で立ち止まった。
「失礼しますね。会長いますか?」
「川西先生、どうされたんですか? 甘崎さんもこんにちは。制服似合ってるよ」
真中の席に一人座っている湯沢健児さんがいた。彼は自分が生徒会長と言っていたっけ? 先生の横に並び会釈する。私だってどうしてこんな所になんだ。
「もうすぐホームルームなのですが、準備が出来ていなくて。彼女に学校の事教えてあげて貰えないかい? ホームルームは遅れるって見附先生には伝えておくからさ」
「それは勿論いいですよ。ただ、説明するのにホームルームより時間がかかるかもしれないのでその用に伝えて下さい」
「本当に君は」
先生は少し呆れたように呟いた。やれやれと頭をかくと言った。
「今回だけですよ。湯沢くんは少しさぼり癖があるの見附先生も気にしてましたよ」
私の方をみて、行かなくてはいけないのでと行ってしまった。二人っきりになった生徒会室で、湯沢さんに椅子を引かれそこに落ち着く。
教室よりひと回り小さい空間に会議用デスクが四台四角になるように組んであり、各役職の札が置いてある。端にはコーンや旗などの用具が置いてある。
「学校見学はどんな感じだったかな? 案外、綺麗だよここは。非行に走らなきゃ大概見逃してくれるしね」
なんて、ウィンクしながらお茶のペットボトルを渡される。湯沢さんと面と向かって話すのは初めてだ。年上で顔が整ってて頭がいい。こんな優良物件がこんな田舎にごろごろいるの知ったら女子が群がりそうだ。
「湯沢さんは煙草やお酒するんですか?」
「するようにみえる?」
「ここで言う非行が何なのか気になりました」
「僕は吸わないし、お酒は飲まないよ。こんな所で経歴に傷をつけるのは馬鹿がすることだと思ってる。でも、ここに通う生徒の中にはそれがかっこいいと思ってる奴もいるから」
目の前にいる彼は何を捨ててここにいるんだろうか。わざわざこんな僻地に缶詰にされてこの人は今年で六年目なんだ。窓枠に腰をおき、夕日にさらされた姿は様になっている。
「ここの人嫌いですか?」
「凄い質問だね。そうだな。ここで流される奴らは何処に居ても変わらないよね」
ホームルームの始まりを知らせる鐘がなる。廊下は静かになり、壁伝いに声が伝わってくる。久し振りに集まったから積もる話が沢山あるのだろう。ちらっと彼の顔色を伺うと微笑み返される。
「クラスメイトと会わなくていいんですか?」
「後一年はずっと一緒なんだから。春休みはゆっくり過ごしたいね」
「…人気者は大変って話ですか?」
「甘崎さんは面白いね。一つだけアドバイス。君は僕達と同じ境遇だろうから」
窓を閉めカーテンを閉めながら言う。
「一番は僕達と関わらないことかな。でも、亜久里が新しい住人にテンション上がっちゃってるから難しいかもね」
私にコートを着るように促す。
「普通科クラスなんて中学ぶりだからなんとも言えないけど、明さんに守って貰えば三年間乗り越えられるんじゃないかな? したら、帰ろうか」
この人はあんまり地元の人間が好きではないんだろうなって言うのが言葉の端々から感じる。それに、関わらない方がいいと言いながら一緒に帰ろうとする。
暗に君の生活がどうなろうが関係無いと言うことだろう。助けてくれる人がいるなら依存するといいと。
「もう少し、回ってから帰ります」
「そう? じゃ、お先に失礼するよ」
彼は生徒会室の鍵を閉めると階段を降りて行った。私はどうしようか。虚勢を張った自覚はある。家からしっかり外に出たのは初めてなのだ。ちらっと、教室の方を覗くとわいわいと生徒同士で盛り上がっている。
「私も外に出ようかな」
そうして、階段を下まで降りて玄関で靴を履く。外は雪なのだ。叔母さんの車で来たから傘が無いんだった。
鐘がまたなった。きっとこれが終わりの鐘だろう。どうしたものか。取り敢えず叔母さんには歩いて帰りますと連絡入れておこう。歩いて三十分位なのだ。あの、急な坂が無ければ。
こっちに来てから初めての雪に思わず見惚れる。しんしんと静かに、コートに着いた雪は綺麗に結晶が見えた。惚けて見惚れる。こんな時間があっても許されるんじゃないかそんなこと考えてたら声をかけられた。
「傘、忘れたん? 昼過ぎまで晴れてたもんな。俺、折りたたみあるからつこーて傘」
差し出される傘に視線を向けると茶髪のポメラニアンみたいな男の人がにこやかに差し出していた。思わず固まる。まさか、人に話しかけるなんて思ってなくて。
「…だ、大丈夫です。フードついてるので」
「そうか? あ、初めて見る人だよね。俺、小千谷光っていいます!」
はじめましてと傘を持ってない方の手を差し出される。恐る恐るその手を掴むと勢いよく上下に振る。ぶんぶんと。
「甘崎結愛です。はじめまして」
ぞろぞろと玄関に人が増えてきた。どうしようか。
「てか、女の子と手繋いでしもうた!! 桐哉と聖に報告しなあかんわ!!」
未だに繋がれた手に私はどうしたものかな? と玄関を覗くと丁度よく黒崎さんが見えた。もう、必死に視線で助けを求める。あ、気付いた。
「手離せ、光」
「お? 桐哉! 知らない人いたから声かけてたんよ」
「お前さ、聖に言われてたろ」
「おぉ、知らない人にがっつかないやろ? がっついてないよな? 傘貸そうと思って」
中々離されない手を黒崎さんが無理矢理外してくれる。して、小千谷さんにデコピンした。この二人は仲良しさんやな。
「方向一緒だから俺が送ってくから。聖、少し遅れるって」
「急に何するんだよー! 出会いが肝心なんだべ!!」
はいはい、じゃあなと傘さして黒崎さんは歩き出した。私はどうすればいいの? やっぱりちょっと目立ってるし。そうだよなぁ。ほぼ皆さん顔見知りですものね。
すると、小千谷さんがこそっと耳打ちをする。
「桐哉が女子に親切にするとかないからレアな対応やよ。はよー追いかけな」
ばいばいと手を振られ、私もフードを被って追いかける。黒崎さんは曲がり角の所で待っていてくれた。開口一番に言われたことそれは。
「スカートどうした? 痴女か」
「ほーん。お前がさっさと連絡くれんかったから叔母さんにたらかせれたんじゃぼけ!!」
どつく勢いで傘にお邪魔する。私もちらっと女子制服みたよ。私だけだよ膝丈上。
「黒崎さん桐哉って名前なの忘れてたよ。守門さん達以外にも友達いるんだね? いいなぁ」
「スーモは多分、女子といるんじゃないか。俺達だって今日までは一般クラスでクラス別れんのこれからなんだよ。甘崎も進学だろ?」
「へ? 私は普通科って聞いたよ、川西先生から。あぁ、だからこの前守門さんも同じクラスって言ってたのか」
「先入観なんだよな。都会からくるやつは皆進学クラスって。わりぃ」
「黒崎さんは何でもかんでも謝りすぎ。でも、湯沢さんには釘刺されたよ。近付き過ぎない方がいいって。そんなにギスギスしてるの??」
あぜ道を進む。人通りが少ない道を選んでいるのか他に誰もいない。遠くの屋根の上に雪下ろしてる人がいるくらい。
「正直、よくわかってねぇ。高校に上がるとトラブルが何件かあるのは本当。新しいメンツも増えるし…困ったことあったら言えよ」
信頼はお互いほぼゼロなのに、黒崎さんは顔面に似合わず面倒見がいい人だ。金髪で目つき悪いのに。これは女子が惚れちゃう訳だ。
「黒崎さんは彼女いないの?」
この質問に彼は立ち止まって、怪訝な顔をする。急にプライベートな話に話題チェンジしてごめんって。たださ。
「強面に優しくされると女子はころっと言っちゃうんだよ? 黒崎さんはちと簡単に懐に入れ過ぎ。私とか?」
少し悩んだ彼は言った。
「お前はこっち側の人間だから。それだけだろ」
こっち側ね。
「仲良くなったら暴露大会しようね」
はいはいと再び彼は歩き出す。彼も彼で私のあしらい方を覚えてきたらしい。坂の手前まで来るとなんだか騒がしい軍団と出会した。私の様子に気付いたのか黒崎さんもあちら側からは見えない位置で立ち止まってくれる。
じっと凝視すると中心にいるのは守門さんの様だ。背が高いだけあって、頭一つ分抜けている。
「言っただろ、女子といるって」
「にしても、いすぎじゃない? そんなに人いないんでしょ?」
「スーモはそーゆー感じだよ」
「じゃあ、二人は足して割ったら丁度いいね」
心底汚い物を見る目で無言で見下される。酷い。して、寒い。どうしてコート一枚しか防寒してこなかったんだろう。手袋とかマフラーとか必須だよね。
「ほら、ホッカイロ。もっとけばあったかい」
「至れり尽くせりでこれ他の女子に見つかったらリンチなのわかる」
ギロリと視線でいらねぇーのかと。
「ありがとう」
「わりぃのはあいつだろ」
きゃっきゃっうふふの集団を見る。でも、気持ちは分かるなぁ。あんなイケメン滅多に拝めるもんじゃないし。しかも、気さくで話が弾む。
「でも、嬉しいよね。構ってもらえると」
カイロを頬にあて暖を取る。楽しそうに話す女子達。私もあそこに紛れるだろうか。一緒の場所に住んでる先生の姪ってパワーワードだよね。私だったら関わりたくないかも知れない。
「あっ! 桐哉に結愛ちゃんじゃん何してるの??」
後ろを振り返ると笹川・滝谷・塩沢の二年ずが揃っていた。顔がほんのり赤いのはこの寒さの性だろう。三人一緒に下校とは仲良しだ。それか、黒崎さんに人望がないか。
意味深な視線に気付いた黒崎さんに視線で威嚇される。
「また旅斗がハーレム築いてるの? あそこ通ると僕等も捕まるんだ。荷物持つよ」
私が黒崎さんとあれこれしてる間に手に持っていたいた荷物をスマートに取られる。あちら様だって荷物持っていると言うのに。
「だ、大丈夫です」
そう言って手を伸ばせばいいからいいからとやんわりかわされる。
滝谷さんは無言でマフラーを外して私の首に巻きつける。なんだろう。このむず痒さは。
「あの、私お二人の妹とか身内じゃないですよ。見てください、あの視線の先にいる女子と一緒って…いない。え? さっきまでいたよね?? 黒崎さんいたよね??」
視線の先にあったハーレムが無くなっている。守門さん何処行ったんだ。
思わず黒崎さんのコートをひっぱる。え? 幻覚??
「皆集まって何してるの? 俺も仲間にいれてよ?」
「っ」
声にならない悲鳴が出た。いつの間にか守門さんまでもが集団の一部に混ざっていた。いつの間にかこちらも中々の集団になっている。
「てかてか、桐哉と結愛ちゃん距離近くない? 何で!
来てたんなら俺と帰ろーよ」
「そうそう。俺も仲間に入れてよ」
久し振りの大人数に目が回りそうだ。ぞろぞろと坂を登り始める。笹川さんは今日あったことを楽しそうに話しているし、黒崎さんと守門さんは一番後ろで言い合いながら付いてくる。
「滝谷さん、寒くないですか? マフラー返しますよ」
マフラーを外しながら問う。ただでさえ白い顔が真っ赤なのだ。これで三月なら私はここので冬は大分しんどいことになりそうだ。
「いいから、つけてろ」
そう言って、また巻き直される。本当にむず痒い。私、高校生なんですが。塩沢さんにはにこにこして見守られる。
「星羅が女子に物を貸すことなんてないから甘えても罰は当たらないよ」
その台詞聞くのは本日二回目だ。
「玄関であったポメラニアンみたいな男子生徒にも言われました。黒崎さんが女子に優しくするのレアって。皆さん性格破綻者の集まりですか?」
この言葉に塩沢さんと守門さんがたかが外れた様に笑い出した。えぇ。急に笑い出して怖いんですが。縮こまる私に少し前を歩いていた笹川さんが駆け寄り突進の如く体当たりしてきた。思わず後ろにいた黒崎さんに支えられる。
「そんなことないよ!! どの辺が破綻してるの!! 二人だけだよ、人間性可笑しいの!!」
めっちゃ悪口。絶対傷付いたって。うん年間一緒にいたか知らないけど、そんなにドストレート言われたきついって。
「ポメラニアンって誰?」
「光」
「確かにあいつ犬っぽいねぇ」
後ろでごにょごにょ話してる。何時までも黒崎さんに寄っかかってる訳には行かないので自力で踏ん張る。でも、笹川さんの圧に結局黒崎さんに寄りかかったままだ。
「あぐりん先輩離れて下さい。黒崎さんに迷惑かかってます。ここ、坂の途中ですよ」
「ゆあちゃんが酷い事言うからじゃん! こんなに仲良くしようって愛想振りまいてるのに、愛想ゼロの桐哉と仲良くなってて解せないよ」
思わず寄っかかったままになってる黒崎さんを見上げる。向こうも私を見下ろす。無言だが思ってる事は一致してるはずだ。
(私達、仲いいか?)
「ほーら! また見つめ合って! 先にいこー!」
手を捕まられて走り出した。またこのパターンだ。もうすぐ家に着く所で良かった。私、そんなに体力無いんだから。
はぁはぁと息が上がる。急に走るの駄目絶対。大丈夫? なんて私の背中を擦る笹川さん。
「あぐりん先輩は元気ですね」
マフラーを外しながら母屋の玄関先で皆さんが上がってくるのを二人で待つ。なんせ、私の教材は塩沢さんが持ってるのだ。
しんしんと雪はまだ降っている。
「元気だけがとりえだからね。急に走ってごめんね。怒った?」
申し訳無いようにこちらを覗き込む。
「怒ってないですけど、私は体力無いので加減して下さい」
はーいと元気に返事をする。分かってるのだろうか本当に。彼は徐にスマホをポケットから出した。
「連絡先交換しよ? 駄目?」
「いいですよ。LINEでいいですか?」
うんっと追加用コードを直ぐ様表示させる。私もポケットからスマホを取り出し読み込む。するとピーマンのアイコンが表示された。
「ピーマン好きなんですか?」
「去年、育てたピーマン。愛着湧いたからアイコンにしてるんだ! ピーマン好き?」
「苦手ですかね」
すると笹川さんは大袈裟に声を上げる。
「今年は一緒に作ろうね。好きになるよ絶対」
「楽しみですね。雪がなくなったら」
そんなこんなで話してると雪景色の中に見知った人影がやってきた。私は駆け寄る。返すものは返さないと。
とっとっと駆け寄ると笹川さんも着いてきた。
「滝谷さんマフラーありがとう御座いました。塩沢さんも荷物、持たせてしまってすみません。随分と楽をしてしまいました」
渡すものを渡し、貰うものを貰って部屋に入ろうとしてさようならを言おうとした時だった。守門さんが口を出したのは。
「スマホ今手に持ってんね。連絡先交換しよ?」
守門さん、目敏いな。でも、そろそろ寒くて私は限界だ。
「黒崎さんと笹川さんと交換してあるので教えて貰って下さい。寒さがピークなので、お先に失礼します」
振り向かず一心不乱に玄関の鍵を開け、中に駆け込んだ。叔母さん達には悪いが荷物を一旦玄関の端に置かせてもらって居間に駆け込む。掘り炬燵の電源を入れて潜り込む。
この寒さで三月は可笑しいと本日何度目かの疑問が頭をよぎりながら、夢の世界へ。
―――
「俺だってさっき聞いたのになんで桐哉が知ってんの!」
「…成り行きで」
「ほら、取り敢えず僕達も中に入ろう」
暴れる亜久里の襟元を来季が襟元引っ張ってこちら側の玄関に向かう。その後を全員付いていく。
「桐哉、手はやくね?」
桐哉の肩に腕を回しながら旅斗が言う。
「ひっつくな、気持ち悪い。お前に言われたくねぇんだよ」
「可愛くねぇな」
ぞろぞろ動き出した時、猛スピードで赤いバンが玄関前に突っ込んできた。見覚えしかない赤いバン。バンッと扉を勢いよく閉めて、明さんが飛び出してきた。
「丁度いい所にいて良かった。結愛は一緒じゃないの? 嘘。電話も出なくて、もう一回学校戻る??」
今までに見たことない位慌てた姿に全員が動けなくなる。また、車に飛び乗りそうになる明さんに急いで声をかける。
「結愛ちゃん、一緒に帰ってきたよ! 今、家の中入った!」
「迷子の小学生でも無いんだからちょっと落ち着きなよ。深呼吸して。すーはー」
旅斗が大股で明さんの元に行き、一緒に深呼吸を始める。大きく吸って、吐いて。
「ご、ごめんなさいね取り乱して。あの子ここに来て三日だし。過保護なの分かってるんだけど、何があるか分からないじゃない? リハビリ中で体も強くないから、送り迎えする予定で」
そっか、家の中いるのねと心底安心した用に車に寄りかかる。
「あんた達と一緒なら安心だわ」
しゅんとした亜久里が申し訳なさそうに口を開いた。
「俺、走らせちゃった。大丈夫かな?」
「長距離じゃなきゃ大丈夫なのよ。心配いらないから。私がただ心配性なだけ」
「僕達が気を付けることはある?」
「あの子が一人になる時間を作らない様にしてほしいの。聡いし逃げ回ると思うから、視界に入ってる時だけお願いね」
ほらほら、あんた達も中に入りなさいと明さんに玄関に押し込まれる。玄関を開けると、洗面台から健児が出て来た。
「君達本当に仲良しだね。今日のご飯は茶碗蒸しだから早めに降りておいでじゃ」
とスタスタ自室の方へ戻っていった。各々、靴を脱いで手を洗いに行く。亜久里は下宿人グループに結愛のLINEを共有する。自室には戻らず、談話室のソファーに落ち着く。結愛のアイコンは初期設定のまま真黒。背景も無しだ。
以外だった。結愛は見た感じ友達は少なからずいそうで、こんな無機質なのは凄く違和感だ。
「あ、あぐりんせんきゅー。もう共有してくれてる」
「ん? 全然いいよ。旅斗はどう思うこのアイコン」
「別に何とも思わないかな。逆にこれがお洒落だったりするし」
亜久里の横に失礼しますと腰を下ろす。手慣れた手付きで追加して、メッセージを送ってる。 腑に落ちなくてソファーに深く座り込む。
「おっ、なんだあぐりがふくれてらぁ」
「ちょっとありまして。LINE見ました?」
談話室にやってきた小春にスマホを指さす。LINEを開いてグループを確認した彼は理解出来ないように呟く。
「結愛ちゃんのLINEが共有されてるだけやない。ここのどこにあぐりがふくれる理由あんねん」
そう言って向かいのソファーに腰を下ろす。何してたんですか? と旅斗が尋ねると、夕飯の仕込みをしてたと答える。
「初期設定のままなのが気に食わんみたいで」
「なんやそれ。健児は無関心過ぎると思うけど、お前は気にし過ぎや。うさぎや無いんやから可愛すぎると逃げられんで」
「ちょ、流石にうさぎに例えるんはやめなよ小春ちゃん」
不機嫌そうに亜久里は小春を見つめ続ける。
「だって、俺らは仲間がいるけどあっちはいないじゃん」
「ん? あの子進学クラスやないの。見附ちゃんめっさ張り切ってたけどな数少ない女子」
ピンクに染まった髪を手で持て余す。それはちと大変かもなと小春は思った。中学まではここの地元のメンバーしかいないから案外どうにかなるもんで。色々あったが俺達もなんだかんだ乗り越えてきた。
でも、高校に上がると町外からも人が集まるからいかんせんトラブルが多い。一カ月前まで健児がイライラしながら問題収拾に走っていたのは記憶に新しい。
「健児が言ってたの実践するがいいかもな。学校では関わらん。すれば、女子からのやっかみは少ないべ」
「そんなん、友達じゃないもん。やだ」
「あぐりん今回執着するね。あの子も帰りに言ってたけど、クラスの女子と何も変わらないよあの子」
俺等のこと人格破綻者呼ばわりしてたし。それを聞いて小春は思わず笑ってしまった。俺達を表す最も素敵な言葉かもしれない。
「変わらなかったらこんなとこ居ないのわかってる癖に」
腕までくんでほっぺ膨らませぷんぷんモードに突入だ。
「じゃあさ、沢山写真撮って結愛ちゃんのLINE染め上げればいいよ。自分色に染めるのって楽しいよ?」
「それだ! 旅斗はいいアドバイスくれるから嫌いじゃない、あおはると違って」
あっかんべーを小春にして、自室への階段を駆け上がっていった。嵐の様だった。
「俺にはそんなに可愛い意味に聞こえんかったけど?」
「それは小春ちゃんの心が廃れてるからじゃない?」
そう言って、旅斗も部屋に引っ込んでいった。一人残った談話室で、結愛と亜久里のチェキを見つめる。
「俺はどっちかっていうと健児派かな」




