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1.はじまり

 痛い。寒い。心臓が煩い。動かない体。視界がぼやけて何も見えない。一つだけ確かなのはまだ生きていること。どんどん暗くなっていく視界にもう目覚めることが無いことを願って。けたたましく響くサイレンと呼びかけられる声が聞こえなくなった。


―――


 トンネルをぬけるとそこは雪国だったとは誰が残した言葉だったか。東京から新幹線で二時間。在来線に乗り換えて一時間。路線バスに乗り換えてさらに一時間かけて辿り着いた場所は三月も終わると言うのに道の端々に雪が残っていた。見渡す山々も頭の方は白い帽子を被っている。知らない世界へ迷い込んだみたいだ。思わずスマホを取り出して写真を撮る。スマホの電波が二本しか立っておらずそれもまた衝撃だ。ここは日本で間違えないだろうか。


 雪国カルチャーショックを受けているのは東京という檻から初めて外に出たシティガール。肩まで伸ばした黒髪の少女の名前は甘崎結愛(かんざきゆめ)。気分は叔母を訪ねてまさに三千里。それくらい彼女は東京から一歩も出たことが無かった。

 

 バス停の待合所( といってもベンチだけ )に腰を下ろしてLINEを確認する。すると叔母さんからもうすぐ着くと連絡が入っていた。着きましたと連絡を入れておく。


 叔母さんを一言で表すと女帝だ。または隙のない美人。ここよりも東京が似合う女性という記憶が強い。海外で賞を取るようなハープ奏者で私自身顔を合わせるのそう多くない。三年前の結婚報告しに家に挨拶をしにきたのが最後。


『この度、甘崎明(かんざきあかり)斑目久二(まだらめひさじ)と結納する運びとなる事を報告します』


 あの時の凛とした薔薇の用に美しい女の人が私の叔母だ。結婚して今はこの雪国の小さな町で先生をしている。旦那さんの久二さんは町役場の職員だったはず。叔母さんとは正反対ののほほんとした優しい雰囲気をした男性。ひと息つける人を叔母さんは伴侶としたのかな。それは仕事捨て、住む場所を変えても大切にしたかった人。


 視界に真赤なバンが止まる。助手席の窓が開き、声をかけられる。


「ゆあ! 大っきくなったね。叔母さん吃驚した。ほら、助手席乗りな」


 小麦色の肌に何故か筆で纏められた髪。そこには私の知らない叔母がいた。驚いて動けない私に叔母も続ける。


「え! 私だよ、明。前よりこんがりしたけどね」


 ただ、一つ言うならば。


「叔母さん、凄く素敵だね」


「本当?? そーいって貰えて嬉しい。ささ、荷物のせて!」


 後ろの座席にキャリーやら持ってきた荷物を積む。そして助手席に乗り込んだ。車の中は至る所にチェキが貼ってあったり吊るされたり。叔母さんの人柄みたいな車内の様子にまじまじと見てしまう。


「はるばるお疲れ様。これから家に向かうからね」


「お願いします」


 車を発車させた叔母が私の疑問を解消してくれる。


「写真だらけで吃驚した?? 学校の子供達の写真飾ってるのよ」


「先生してるんでしたっけ? それにしては年齢層が幅広いんですね」


 飾ってある写真は小学生から私より少し上の子供達が写っている。


「ちょっと、敬語は無しよ。今日から一緒に住むんだからそこのとこよろしく。他の奴らに聞かれたら可愛い姪っ子によそよそしくされてるって思われちゃうでしょ」


 にこにこ笑って私のほっぺを突っつく。

 

「ここの学校一つしか無くてね、一貫校なのよ。だから上から下まで皆一緒。四月からはゆあもそこに通うのよ。気になる奴いた?? 顔が良いの多いから」


「顔って。叔母さんミーハーなの? 着いたら叔父さんに言っちゃお」


「ひーくんも知ってるわよ。なんせ隣に住んでんだからね。ここの学校里山学級っていって色んな所から学生集めててその子達の下宿やってんのよね。こんな所に来るのは男しかいないんだけど、大学進学率百パーセントってやばいよねぇ」 


 ん?? 聞き間違えか。隣が下宿で男だらけ??


「え? 叔母さん達下宿してるんだね。聞いてなかったな」


 言って無かったけなんておとぼけて。絶対意図的に言わなかったやつでしょ。まあ、一緒の建物でないなら関係ないな。


「そこがね、イケメンばっかりで叔母さん目の保養になってて。ゆあ彼氏いるの?? 居なかったらチャンスね捕まえな」


「こんな所訳ありしか来ないでしょ」


 無言でほっぺ摘まれた。


「あー、可愛く無いことを言わないのよ。後、叔母禁止! 明ちゃんってよんでね」


 語尾にハートつけて。叔母さんもとい明ちゃんは面倒事上等なんだろう。だから、私を引き受けてくれたんだと思う。


「はーい。明ちゃん」


 あぜ道をゆっくりと走る。町中に向かうにつれぽつりぽつりと家が増えてきた。今のところ人より熊に遭遇する確率の方が高そうだ。窓を空けて風にあたる。


 「何にもないでしょ。本当は隣町の学校と合併なんて話も出てたんだけど、外から子供を連れてくる政策を町長が始めてねぇ。なんとかやってんのよ」


 草木の泥臭い香り。立ってる家の屋根は皆急だ。屋根付きの車庫完備。


「家も皆同じ形で車庫も皆ついてるね」


「よく気付いたねぇ。屋根が斜めだと自然落下してくれるからね。雪の降るとこだと車も痛むし車庫必須ね。限界集落だけあってお年寄りの一人暮らしもおおいからね。冬はゆあにも雪かき手伝ってもらうからね」


 今も雪が残るくらい雪が降る町なのか。雪なんてこんなにまじまじ見たのも今日が初めてなのに。


「覚悟しないさい。 ハンバーガー屋さんもアイス屋さんもすし屋さんも隣町行かないとないからね。車必須なのよ、ここは。だから休みの日はあのこ達乗せて隣町に行くこと多くてこのバンな訳」


 あのこ達とはきっと噂の下宿人達の話なんだろう。ここに私も慣れることが出来るんだろうか。スマホの電波もぎりぎりで娯楽が極めて少ないこの町で。


「私やっていける?」


 私の不安を汲み取ってか、明ちゃんは間髪いれず言い放った。


「この町で退屈なんてしてる暇ないわよ。なんせ、私が住み着いた場所なのよ。覚悟しなさい!」


 本日一番の笑みでそう言われて、私も思わず笑みが溢れる。


「覚悟した!」


 ここに来ることに何にも感じる事は無かった。行きたくないとか楽しみだとか何も。でも、今はわくわくしてるから本当に明さんは不思議な人だと思う。


「着いたよ。さぁ、荷物下ろして部屋に案内するから」


 そこは茅葺屋根の大きな日本屋敷で開いた口がふさがらない。時代劇みたいな家に住んでるんだな。リノベーションカフェなどで古民家が人気は知っていたがまさか、叔母さん夫婦の家だなんて。 

 開いた口がふさがらない私に叔母さんが車の扉を空け、降りるように促す。


「ちょっと古すぎた?? 中は綺麗だから」


 叔母さんは家が古すぎて驚いてると思ってるみたい。わくわくがどんどん募っていく。そう。興奮しているのだ。


「明ちゃん違うよ。夢みたいで感動してるの」


 その言葉に叔母さんはまた笑みを浮かべた。住んでる家を褒められるのは嬉しいんだろう。


「ひーくんに挨拶するから降りなさい。本当にゆあは可愛い」


 なんて言われながら車から降りまじまじ家を見つめ、ふと視線を右にずらす。隣は下宿と言っていたから。そこで私は気付く。隣に家なんてない。正確にはほぼくっついている母屋より小さな二階建ての木造建築。これをお隣というのは語弊あり過ぎる。これはもう同居では?

 私が徐に家の右側から顔を動かさない事に気付いたね叔母さんは無理矢理母屋に押し込んだ。確信した。これは確信犯だ。


「…下宿はお隣だって。これ、ほぼ一軒家だよね?」


「一応、廊下で別れてて鍵かかるから。気になるならこれからは鍵かけるねぇ。騙してた訳じゃないのよ。見てもらった方が早いかなぁって」


 もう目が完全にいっちゃってる。私だって居候の身分で言えた口じゃないが、年頃の男共と三年間共同生活って外聞悪くありませんか?

 話すことも無いだろうけど。田舎ってそーゆーの緩いのかな??

 

 玄関で一向に立ち止まって中に入ってこないのが不思議だったのか奥の暖簾から優しそうな茶髪で眼鏡姿の男の人がやってくる。私の記憶が正しければ叔父の斑目久二さんだ。挨拶しなきゃとは思うのだが、未だに開いた口がふさがっていないのだ。視線は明けっ放しの廊下に釘付けだ。


「明おかえりなさい。ゆあちゃんもお久し振りです。そんな所に立ち止まって無いで中に入るといいよ。その調子じゃ、明が黙ってたんだね。本当にそーゆー所あるよねぇ」


 そう言って叔父さんは荷物を中に入れてくれる。明ちゃんは少しバツの悪そうな顔して先に靴を脱いでる。


「そーゆー所ありありで驚きが隠せません。久二さん、今日から三年間お世話になります」


 改めて二人に頭を下げる。なにはともあれ厄介者は私だ。自分の子供じゃないのに面倒見てくれる人達だ。そんな私の姿に二人は顔を見合わせてくすっと笑うと声を揃えて出迎える。


「「こちらこそ、相田千町(あいだせんちょう)にようこそ」」


 大きな玄関に靴を脱ぎお邪魔させて貰う。一枚板で出来た玄関はまるで高級旅館のようだ。この、視界の端にみえる明けっ放しの廊下が無ければ。上がる時にもう一度覗くと廊下の渡った先にも扉があったそちらは閉まっていた。私は行くことないと思うけど。


 荷物を一旦自室に置いてこようとの事でお茶を淹れに行った叔母さんと別れ叔父さんに付いていく。玄関横の階段を登り三階まで上がった右角の部屋。本当に広い。


「明って結構ガサツだろ? 大雑把って言うか。僕はそんな所に惹かれたんだけど、話通じてないかもって思ったら気軽に僕に言ってくれて構わないから」


 扉を空けながら叔父さんは続ける。


「僕達はまだ子供もいないし、普段は男ばっかりだから至らない所もあるかもだけど仲良くなれたら嬉しいな」


 キャリーを端に置いて、叔父さんは窓方へ案内する。私も荷物を下に置いて駆け寄る。


「見える? あそこの湖見えるよね。あそこの近くに学校があるんだ」


 思ったより登ってきたんだなと一番に感じた。ここは高い場所にあり、町を一望出来るみたいだ。まだ残ってる雪が日の光を浴びてきらきら輝いていた。


「見えます。こんなに高い所にあるなんて吃驚しました。凄く景色がいいです」


 私の少し上がったテンションに気が付き、叔父さんの目尻が更に落ちる。遠くの方を見ながら言った。


「僕はこの町が好きなんだ。生まれ育った町だから。だから、ゆあちゃんの第二の故郷になれるといいな」


 叔父は私の頭をぽんぽんと撫でると下で待ってるねと部屋を出ていった。叔父さんを見送り窓枠をゆっくりと撫でる。工事した跡がある。前は全開に開けることが出来たはずの窓はくるくると回すと少しだけ開く用に変えられていて、叔母さん達には迷惑をかけているなと。もう一度遠くを一瞥して下に降りようとした時、右下の部屋から視線を感じで見ると誰も居なかった。位置的にそこは下宿場所で、素敵な部屋素敵な立地だがそちら側のカーテンは閉めておこう。と何となく思った。


 ベッドに勉強机に衣装棚。ここの部屋は私が居なくなったら将来子供部屋になるのだろか。未来の赤ちゃんごめんね。お先に少しお邪魔します。


 とっとっと登ってきた階段を降りると目の前の扉が閉まっていた。叔父さんが閉めたんだろうか。玄関前の屏風の後ろに進む。叔母さんはこっちの方へ行ったはず。

 数歩進んだ所で空いてる扉から叔父さんが顔を出す。


「こっちだよ」


 手招きさせられて入った部屋には沢山人が居て一瞬怯んだ足は数秒遅れて敷居を跨ぐ。叔母さん、叔父さんを除いて計七人。私達含めて計十人居て、居間はやっと満杯だ。空いている叔母さんとちょんまげ頭の男子の横にちょこんと潜り込む。


 え、怖い。この数分で何があったの? 扉閉まってたのこの人達がこっち来たから閉まってただけじゃん。いつかは挨拶しなくちゃいけないとは思ってたけど急に?? 


「えー。女の子だ! 明ちゃんの姪っ子なんだってね! はい、握手」


 隣のちょんまげくんと手を繋いでいる。否、掴まれている。


「手、ちっちゃいね。俺、笹川亜久里(ささがわあぐり)だよ。高校二年生! 妹欲しかったんだ。だから、仲良くしてね。しよーね」


 異性に手をにぎにぎされている。視線を彼の方に向けるとこれまた満面な笑みに怯む。え? 年頃の男女のコミュニケーションってこんな高かったか??

 明るい茶髪におでこ出して。


「ちょ、あぐりん初対面の人との距離感可笑しいよ。絶対可笑しいよ。手を離そうねぇ。明ちゃんの顔若干般若だよ。ごにょごにょ」


 その隣にいたくすんだ金髪ロン毛くんが慌てて私の手とあぐりと言う人の手を離す。そして、耳元で何か囁いてる。私は自分の手をまじまじと見る。


「旅斗。誰が般若? 聞き間違いよね?」


「般若なんて言う訳ないよぉ。町一番の美人さんにさ」


 なんて、言いながら笹川さんと若干震えてる。ここでの権力一位はやはり叔母さんらしい。


「まぁいいわ。今日集まって貰ったのは自己紹介する為です。はい、こちら私の目に入れても痛くない姪っ子の甘崎結愛よ。自己紹介して」


 円卓から刺さる視線。自己紹介ってどうしてこんなに緊張するのか? すうっと一呼吸。これが終われば関わることの無い人達だ。


「甘崎結愛です。三年間お世話になります。趣味は裁縫です。穴が空いたら直します。暇なので」


 最後ににこっと微笑む。可もなく不可もなく。突っ込まれる要素は無いはずだが、隣の笹川さんは目をきらきらさせて質問する。


「暇なの! 後で一緒に町にいこ。案内するから」


 なんだろう。この人の後ろに尻尾が見える。全力でふりふりしてる。私が曖昧に微笑むとどんどん自己紹介が続く。勿論笹川さんは飛ばしスタートだ。なんせ、人数が多い。


守門旅斗(すもんたびと)だよ。よろしく。多分春からクラス一緒だから仲良くしてねぇ」


 顔にかかる髪を優雅に耳に掛けながらそう言う彼は年上かと思いきや一応同学年らしい。ずっと笹川さんの面倒みてるから一見すると逆に見える。


「で、こっちのむすっとくんが黒崎桐哉(くろさききりや)。照れちゃって自己紹介なんて、出来ないもんなぁ。あ、因みに同じ学年だよ」


「あぁ? 黙れスーモ」


「え?? むすっとくんに言われる筋は無いかなぁ」


 守門さんは何故かこちら見てうぃんくした。むすっとくん基黒崎さんは関わるなオーラ全開で。目の覚める様な金髪で、守門さんと並ぶ姿はまるでチンピラだ。絶対隣に並びたくない。


「二人とも落ち着いて。僕は二年の塩沢来季(しおざわらいき)よろしくね。勉強で分からない所があったら聞きにおいで」


「ありがとう御座います。その時はぜひ」


「え? 俺にも聞きに来てね。俺だって頭いいよ」


 隣が一々眩しい。ピュア振りまき中。塩沢さんはこのメンツの中では大分普通だ。あくまでもこの中では。縁のない眼鏡にゆるっとした髪型で勉強出来るお兄さんなイメージだ。


「二年の滝谷星羅(たきやせいら)だ」


 その人は何処となく知り合いに似てるなと。口数は多分余り多い方ではなくて。黒髪がとても似合っている。


「三年の青島小春(あおじまこはる)や。名前が一人アオハルなのは堪忍な。一緒に青春作るんは大歓迎さかいなかよーしてや」


 この人の頭はピンク。この町一番目立つ人なんじゃないか。ちゃんと似合ってるのが何とも言えない。


「三年で生徒会長してます。湯沢健児(ゆざわけんじ)と言います。困ったことがあったらここでも学校でも頼って下さい」


 品がある人だ。染めてない短い黒髪。私服がまさかの甚平。着こなしてるのがまた何とも言えない。


「その時はお世話になります」


 私がそう言うと花が綻ぶように笑った。本当に絵になる人だな。


「したら、解散! ゆあが来たから夜は鍵かけるから。忍び込むとか厳禁だかんね。解散」


 叔母さんの合図で全員動きだす。名前、ちゃんと覚えたか怪しいけど関わることも無いしと思い私も立ち上がった筈だった。それより先に手を掴まれて声を出すまもなく引っ張られる。頭が追いつかない。遠くから叔母さんの遅くなる前に帰るのよって声が聞こえた気がする。


 たったったと誰よりも早く駆け抜けて閉まっている扉を空けて廊下を進む。あぁ、ここは入りたくなかったのにと思いながら付いていく。手を掴まれている以上付いてくしかないのだ。選択肢はない。勿論引っ張ってるのは笹川さんだ。


「とーちゃく! はい、ここに座って」


 廊下を抜けた先、下宿人の人達のフロワにお邪魔する羽目になる。見渡した感じここは談話室か何かなのか。オセロや花札、UNOなんかが揃ってる。

 私は指定された所に座る。


「あの、ここは?」


「俺らの住居区域だよ。鍵しめちゃうって言うからゆあちゃんこっちにいれば関係ないよね?」


「大アリです。貴方たちが変態になるか私が痴女になるかが変わっだけです」


「俺、難しい事分からない」


 なんて、眩しい笑顔で言ってのける。暇なのは嘘ではないからいいかなんて。周りをぐるっと見渡すとここにも沢山チェキが貼ってある。私のそんな様子に彼はまた言葉を繋げる。


「よくチェキ残すんだ。撮ったらすぐ出て来て便利なんだよ。ぺたぺた貼ってて気になるよね? そーだ、一緒に撮ろ。今誰の部屋にあるかな? 待っててね」


 本当に忙しい人だ。取り残された部屋。窓際に行くとそこには写真立てで叔父さん叔母さん含めた記念写真が飾ってあった。ふと、視線を上げるとカーテンの閉まった私の部屋が目に入る。

 ここから見られてたのか。


「あ、ゆあちゃんじゃん。早速あぐりんに置いていかれたの? したら、俺と遊ぼ~」


 この人は同じ学年の守門さんだ。いつの間にか入り口に立っていて声をかけられた。笹川さんよりたっぱがある様でもう少し見上げる。


「暇なんですか? したら、笹川さんと遊んであげて下さい。私、写真撮ったら部屋に戻るので」


 連れないなぁなんて言って目の前に来るこの男。私と20cm位は差がありそう。なんて、呑気に見上げる。


「はい、ちーず」


 ぱしゃ。急に肩を組まれて写真を撮られた。本当によく分からない。思わずきょとんと彼を見返せば興味が無くなったみたいで手を振って出ていった。本当に何だったんだ。


「ん? ゆあちゃん窓際で何してるの? ほらほら、座って座って」


 彼は私の後ろに回って所謂バックハグして1枚ぱしゃりと撮った。私はもう何となく理解した。この人達に常識を求めたら行けない。  

 笹川さんは出て来た写真をパタパタしてる。私は突っ込むのは心の中だけにして離脱を図る。


「そろそろ、戻りますね。写真撮ったしいいですよね?」


 ダメダメと服の袖掴んでしょんぼりする。この人は絶対わかってやってるのに。何だろう抗えない。次は外へ行こうとこっち側の玄関に連れて行かれる。廊下ですれ違った湯沢さんもにこにこして笹川さんに遅くならないようにねなんて声かけてた。助けてくれ。 

 とんとんと笹川さんは靴を履き早く行こうと手を引く。こればっかりは絆されないぞ。こっちに私の靴なんて無いんだからな。私はここに来て初めて踏ん張った。じゃないと私は裸足でランデブーだ。


「こっちに私靴ないので」


 そっか! と手を叩いて靴箱を漁る彼。そしてどこぞから便所サンダルを出した。これはどこから見ても便所用だ。本当にどこから持ってきた。


「これ、一番小さいからこれで行こ! 遠くまで行かないから」


 なぜか見える全力で振られる尻尾に私は恐る恐る足を入れる。ぶかぶかだ。これは確かに遠出は無理だ。 


「ゆあちゃん足ちっちゃいね! さぁ、いこう!」


 私は今日帰れないのを覚悟して外へ繰り出した。



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