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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第8章 奈落

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203Y年3月6日 北京/東京

203Y年3月6日

中華人民共和国 北京市

北京の時刻が正午を回った瞬間、中国中央テレビのすべてのチャンネルが通常放送を中断し、真っ赤な背景に国章が浮かび上がる特別画面へと切り替わった。画面に現れたのは、軍服に身を包んだ中央軍事委員会の報道官であった。その表情は硬く、瞳には隠しきれない敵意が宿っている。


「中華人民共和国中央軍事委員会は、全世界に向け、以下の重大声明を発表する」


報道官の声は、冷徹な響きを伴ってスピーカーから流れ出し、同時通訳を通じて瞬時に世界中へと拡散された。


「第一に、わが国が台湾海峡において人道的な見地から実施していた防疫措置を、日、米、英、豪の四カ国は軍事力をもって組織的に無効化し、公衆衛生上の危機を全世界に広める暴挙に出た。これは国際社会に対する重大な挑発であり、人類の安全を危険にさらす犯罪行為である。わが国はこれら四カ国に対し、自衛反撃の権利を留保し、適切な時期に相応の報いを与えることを宣言する」


画面が切り替わり、炎上する厦門の港や、破壊された福建省沿岸のインフラの映像が映し出された。


「第二に、わが国の大陸本土、福建省の平和的な港湾施設に対し、台北当局は不当かつ卑劣な軍事攻撃を敢行した。これは『一つの中国』の原則を根底から破壊する侵略行為であり、断じて許されるものではない。わが人民解放軍は、国家の主権と領土の一体性を守るため、台湾解放に向けた軍事行動を断固として継続する。抵抗を試みる勢力は、歴史の必然によって粉砕されるであろう」


ここで報道官は一度言葉を切り、カメラを真っ直ぐに見据えた。その背後の空気が、一段と重く沈み込む。


「最後に、わが国は自らの主権を守るための『最終的な手段』を保有していることを改めて強調する。中国の核抑止力は、国家の存亡が脅かされる事態において、単なる飾りではない。わが国の警告を無視し、戦火をさらに拡大させようとする者たちに対し、我々はあらゆる手段を講じてこれに対抗する準備がある。火遊びをする者は、必ず自らその火に焼き尽くされることになるだろう」


それは、実質的な「核の使用」を示唆する、明確な核恫喝であった。

放送が終わった後、全世界のインターネットとメディアは一瞬にして沈黙に包まれた。日米英豪による封鎖突破という勝利の余韻は、北京が突きつけた「最終兵器」という名の奈落の予感によって、一瞬にして冷酷な緊張へと塗り替えられた。ワシントン、東京、ロンドン。各国の司令部には、これまでにない戦慄が走り抜けた。独裁者は今、自らの権力を維持するためだけに、世界を第三次世界大戦の業火へ、そして核の冬へと引きずり込もうとしていた。


203Y年3月6日 午後3時

日本・東京都千代田区 総理大臣官邸

先ほど全世界に流された中国中央軍事委員会の声明――事実上の核恫喝――の余波が、国家安全保障会議を、刺すような緊張感で満たしていた。円卓を囲むのは、高城沙奈子総理、森・内閣官房長官大泉防衛大臣、そして持田外務大臣。彼らの前には、暗号化されたブリーフィング資料と、刻一刻と変化する米軍と中国軍の動静を映すモニターが並んでいた。


「……周主席はついに、最後の一線を越えようとしています」


沈黙を破ったのは、持田外相だった。その冷静な声の中にも、微かな震えが混じっている。


「『あらゆる手段を講じる』というレトリックは、これまでの威嚇とは次元が異なります。北京は、自らの体制崩壊を阻止するためなら、限定的な核攻撃さえ辞さないという狂気に陥っている。もはや、これまでの『外交的圧力』では、彼らの指先をトリガーから引き離すことはできません」


大泉防衛大臣が、深く、重いため息をつきながら言葉を継いだ。


「直ちに核攻撃に結びつくとまでは評価されていませんが、電波傍受により、中国軍の核施設や核兵器運用部隊において、即応態勢を強化する動きも観測されています」

「外相の言う通りです。現状、わが国のミサイル防衛網は世界最高水準ですが、飽和攻撃、ましてや核弾頭を搭載した極超音速ミサイルを完全に阻止できる保証はない。総理、今、国民の命を守るために必要なのは、『撃たせないための物理的な抑止力』です」


高城総理は、組んだ両手の上に顎を乗せ、二人を真っ直ぐに見つめた。


「大泉大臣、あなたの考える『物理的な抑止力』とは、具体的に何を指しているのですか?」


大泉は一瞬、視線を落としたが、意を決したように顔を上げた。

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