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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第7章 解放

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203Y年3月4日 高雄/花蓮


203Y年3月4日 夕刻

一カ月に及んだ「鉄の鎖」がついに断ち切られた。 高雄港のシンボルである「高雄85ビル」は、度重なるサイバー攻撃と電力不足により、今は巨大な墓標のように黒い影を海面に落としている。しかし、その足元にある岸壁には、絶望を塗り替えるほどの熱気が渦巻いていた。


高雄の西端、寿山ショウサンの山影が長く伸び、夕日が波間を朱色に染める。かつて観光客で賑わった西子湾スーズーワンの展望台や、旗津チージン島を結ぶフェリー乗り場には、痩せこけ、疲れ果てた数万人の市民が詰めかけていた。


「見ろ……あれを! 幻じゃないぞ!」


誰かの叫び声に、人々が一斉に沖合を指差した。 水平線の彼方、黄金色の光を背負って、巨大な鋼鉄の城が一つ、また一つとその姿を現す。 先頭を行くのは、米軍がチャーターした超大型RORO船「シルバー・スター」だ。その巨大な船体には、弾痕一つない星条旗が誇らしげに翻っている。その後方には、オーストラリア海軍の快速輸送船「スピリット・オブ・アンザック」、フィリピン海軍の輸送艦「タラック」、そして燃料を限界まで積載したパナマ船籍の巨大タンカーが、連合艦隊の駆逐艦に守られながら、堂々たる陣列で進んできた。


さらに人々の涙を誘ったのは、その船団の中に、戦争前はよく見慣れた、台湾の大手海運会社の貨物船の姿があったことだ。封鎖によって外洋で足止めを食らっていた彼らも、ついに母港へと帰還したのである。


「シルバー・スター」が、タグボートに導かれて高雄第二コンテナターミナルへと滑り込む。巨大な船体が岸壁に触れるか触れないかのうちに、数えきれないほどの旗が振られた。


「美軍加油! 台湾加油!(米軍頑張れ、台湾頑張れ)」


地鳴りのような歓声が、潮風に乗って響き渡る。


「接岸確認。ランプドア開放準備」

了解コピー。船内、第1から第4甲板の緊急軍事支援物資、および食糧ユニットの搬出を優先せよ。台湾陸軍誘導輸送隊とリンク確立」


重厚なランプドアが、轟音と共に岸壁へと降りた。 真っ先に飛び出してきたのは、米軍の補給部隊と、それを受け止める台湾軍の兵士たちだ。彼らは言葉を交わす暇もなく、フォークリフトを走らせる。


運び出されるのは、山積みの小麦粉、米、乳幼児用の粉ミルク、そしてインスリンなどの緊急医薬品だ。しかし、それだけではない。船倉の奥からは、最新鋭の防空ミサイル、ペトリオットPAC-3やNASAMSの予備弾コンテナが次々と陸揚げされていく。これは「人道支援」であると同時に、二度と封鎖を許さないという「意志」の荷揚げであった。


「ありがとう……本当に、来てくれたのね……」


岸壁の柵越しに、ボロボロの毛布を纏った女性が、作業を一時休止した若い米軍兵士の手に、震える手で触れた。兵士はヘルメットを脱ぎ、額の汗を拭うと、彼女の手を力強く握り返した。


「遅くなって済まない。もう大丈夫だ。この船には、君たちのためのパンと、自由が詰まっている」


愛河アイハーの河口付近では、市民たちが持っていた最後の一瓶の水を、警護に当たる連合艦隊の兵士たちに差し出す光景が見られた。かつては観光客の笑い声が絶えなかった高雄の街に、今、飢えと恐怖の影を払拭する「勝利の味」が広がろうとしていた。


寿山の頂にある灯台が、夜の帳が下りる中で力強く回転を始めた。


203Y年3月4日 夕刻

中華民国/台湾 花蓮県 花蓮港


背後に3,000メートル級の峻険な中央山脈を背負い、目の前には水深数千メートルの深い太平洋が広がる花蓮。その独特の断崖絶壁に囲まれた港湾にて、日米の軍事力がついに1970年代の日台・米台断交以来初めて、台湾本島に公然とその「足跡」を刻む瞬間が訪れた。


夕刻の薄明の中、花蓮港の北側に位置する景勝地・七星潭チーシンタンの海岸線には、黒い人だかりができていた。

今、水平線を埋め尽くしているのは、敵の影ではない。 最新鋭のイージス護衛艦「まや」を先頭に、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」、そして米海軍のドック型輸送揚陸艦「サマセット」が、花蓮の高く切り立った断崖を背に、堂々たる陣列で入港してきた。


「サマセット」の巨大な船体から、独特の重低音を響かせて吐き出され、水しぶきを上げて花蓮港のコンテナターミナルに乗り上げたLCACのランプドアが、重々しく開く。


そこから姿を現したのは、ハワイ海兵隊基地から急派された、米海兵隊第3海兵師団、第3海兵沿岸連隊の精鋭たちであった。


「全ユニット、迅速に揚陸を開始せよ。ここから先は、敵の打撃圏内だと思え」 「NMESIS一分隊から四分隊、先行して海岸線に陣地を構築。射撃準備に入れ」


砂塵を巻き上げて現れたのは、無人車両に発射機を搭載した最新鋭の地対艦ミサイルシステム、NMESISだ。それに続き、デジタル迷彩の戦闘服に身を包み、最新の光学機器を備えた小銃を構えた歩兵たちが、次々と台湾の土を踏んだ。


これまでは海と空からの支援に留まっていた米軍が、ついに地上部隊の「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」を断行したのだ。台湾本土はまだ直接の地上侵攻を受けていない。しかし、この海兵隊の展開は、「これ以上、中国の侵略を一歩も許さない」という不退転の決意を世界に示すものだった。


海兵隊が防衛線を構築する傍らで、海上自衛隊の「おおすみ」からは、白い「国際緊急援助隊」の横断幕を掲げた陸上自衛隊のトラック群が降り立った。


「飲料水供給、および臨時医療所の設営を開始する。急げ、一刻を争うぞ」


「自衛隊だ……日本の自衛隊が、本当に来てくれた……」


少年が、迷彩服を着た自衛官の手に、大切に持っていた小さなキャンディを握らせた。自衛官は膝をつき、少年の目線に合わせて深く頷いた。


「ああ、遅くなってごめんな。もう大丈夫だ。お腹いっぱい食べていいぞ」


自衛隊の野外炊事車からは、温かな湯気と共に、花蓮の冷え込む潮風を溶かすような炊き立ての米の香りが漂い始めた。


港内には、米軍や自衛隊の艦艇に続き、中華民国の青天白日満地紅旗を掲げた貨物船や、オーストラリア軍がチャーターしたパナマ船籍のコンテナ船など、東アジア一帯から駆け付けた支援船団が、続々と入港を待っていた。


花蓮の街中では、電力不足で消えていた街灯が、船団から供給された緊急電源によってポツポツと灯り始めた。中央山脈の影に沈む夕日は、もはや絶望の象徴ではない。海を埋め尽くす日米連合艦隊の灯火と、港を埋める救援物資の山。


「黎明の剣」作戦の真の勝利は、ミサイルの数ではなく、この花蓮の岸壁で交わされた数えきれないほどの、言葉を超えた抱擁の中にあった。


台湾東部の要衝・花蓮。険しい山々と深い海に守られたこの地は、今、日米の強力な絆によって、二度と破られることのない「自由の要塞」へと変貌を遂げようとしていた。

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