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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第7章 解放

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203Y年3月4日 北京/フィリピン海

中華人民共和国 北京市海淀(ハイディエン)区 中央軍事委員会聯合参謀部指揮センター

西山シーシャンの地下にある中央軍事委員会聯合参謀部指揮センターの大型スクリーンには、「鉄の輪」と称された封鎖艦隊の信号が次々と消えていく様が映し出されていた。


「……空母『福建』『山東』、共に轟沈。防空網は機能せず、一方的な虐殺です」


東部戦区司令員、張遠平上将の喉は乾ききっていた。モニターの向こう側では、中南海で執務中の周華平主席が、怒りに顔を歪ませている。


「貴様らは、我が国の威信を、数十年かけて築いた海軍を、たった数時間で藻屑にしたというのか! サイバー攻撃一つ防げず、何を『中華イージス』などと豪語していた!」

「主席、申し訳ございません。しかし、このままでは台湾への再侵攻どころか、本土防衛すら危うくなります。今こそ……ロケット軍による『飽和報復』の許可を。奴らの空母を、フィリピン海の底へ送り返さねばなりません」


沈黙が支配する。周主席の瞳に、冷徹な狂気が宿った。


「……許可する。米空母、英空母、そして日本の『いずも』。一隻たりとも逃すな。火の雨を降らせてやれ」


許可が下りるや否や、中国内陸部の山岳地帯に隠された中国人民解放軍ロケット軍の地下基地が、生物のように蠢き始めた。


「指令『火龍』発動。目標、西太平洋およびフィリピン海の連合軍空母打撃群。東風《D F》26を計40発指向せよ」


中国人民解放軍が長年築き上げてきた「接近阻止・領域拒否(A 2 ・ A D)」戦略。その核心であり、西側諸国にとって最大の拒絶の象徴が、対艦弾道ミサイル(A S B M)、DF-26であった。射程1,500キロから3,000キロに及び、「空母キラー」の異名を持つこの兵器こそが、米海軍を第一列島線の外側に押しのけ、西太平洋の覇権を中国側に傾けさせかねないと西側軍事筋が長年危惧してきた「ゲームチェンジャー」である。

その神話が、今まさにフィリピン海の荒波の中で試されようとしていた。

広大な山間の発射プラットフォームに、巨大な12輪駆動のTELが展開していく。


「ジャッキ設置完了。慣性航法装置独立起動」

「ターゲットデータ固定。北斗衛星航法システム、リンク確立」

「点火10秒前……5、4、3、2、1……発射!」


コールド・ローンチによって宙に突き上げられた10トンを超えるミサイルの巨体が、空中で第一段ロケットを点火。フィリピン海を目指す「死の矢」は、夜の帳を切り裂く巨大な火柱となった。

その発射の瞬間、高度3万6千キロの静止軌道上に浮かぶ米軍の早期警戒衛星|宇宙配備赤外線システム《S B I R S》が、地表の猛烈な熱源を感知した。


「中国本土より弾道弾発射を確認。ブーストフェーズ検知、数は40! 目標はフィリピン海の連合艦隊と推定!」


ハワイのインド太平洋軍司令部を経由し、情報は瞬時にフィリピン海の全艦艇へ共有された。


フィリピン海


「……レーダーに感あり! 方位一八〇、高度、速度マッハ15以上! 弾道ミサイル接近中!」


米空母「ジョージ・ワシントン」のCICに、悲鳴に近い報告が響いた。モニターが赤く点滅する無数の軌跡で埋め尽くされる。


「チッ、ASBMが出てきたか。艦隊壊滅の腹いせにしては贅沢な弾数だな」


第7艦隊司令官が、不敵な笑みの中に緊張を滲ませて命じた。


「全艦、BM戦闘、SM-3 Block IIAを準備。大気圏外で叩き落とせ。漏れた分はSM-6で処理する!」


しかし、物理的な迎撃に先立ち、連合艦隊は人類史上最も高度な電磁波の盾を展開した。


「SEWIP Block 3、フルパワー放射! 先進艦外電子戦装置(A O E W)展開、偽像を生成せよ!」


米駆逐艦から放たれた目に見えない大出力のマイクロ波が空を焼く。新型電子戦システム「NEMESIS」も起動した。海上のドローンや囮気球、電子戦機がネットワーク化され、弾道ミサイルのシーカーに対して、フィリピン海上に浮かぶ数百隻の空母という偽の戦術情報を流し込む。


「敵ミサイル、迷走しています! 過半数が目標を見失いました!」


高度数十キロ。大気圏に再突入し、マッハ15以上で機動するDF-26の弾道が不自然に揺らぎ始めた。精巧なセンサーは、本物の空母と、SEWIP電子戦装置が作り出した電子の巨大な塊の区別がつかなくなったのだ。


25発を超える弾頭が、空母から数海里離れた何もない海面へと吸い込まれていく。

激突の瞬間に海面が爆発し、極超音速の運動エネルギーが海水を一瞬で蒸発させた。数百メートルに達する白銀の水柱が、フィリピン海に幾本もそそり立った。


「残存目標、依然として突入継続! 『まや』『はぐろ』、BM戦闘、攻撃開始!SM-3 Block IIA発射されました」


「いずも」を護る海上自衛隊イージス艦のVLSから、噴煙と共にSM-3が夜空へ突き進む。


「第3段切り離し。キネティック弾頭分離」

「赤外線シーカー、ターゲット捕捉……ロック!」

「DACS点火。迎撃コースに乗った」


大気圏外の静寂の中で、数発の弾頭がSM-3のキネティック弾頭と激突し、爆発音のない凄まじい閃光と共に粉砕された。次々と赤色の光点がモニターから消えていく。

しかし、その中の一発が、物理法則の悪戯を引き起こした。


「目標04! SM-3、わずかに逸れた! 至近距離を通過!」


迎撃弾頭がDF-26の再突入体《M a R V》に激突せず、わずか数十センチの距離をマッハの相対速度でかすめたのだ。その際に発生した凄まじい衝撃波と、SM-3側のセンサーの残骸がDF-26のシーカーに埋め込まれた繊細な半導体を物理的に叩き壊した。


「DF-26、機体損傷! しかし生存しています! シーカーが狂ったまま……こっちに来るぞ!」

「目標、駆逐艦『ハワード』の模様! 総員衝撃に備えよ!!」


本来、米空母「ロナルド・レーガン」に向かうはずだった弾頭は、シーカーの故障により最も近くにあったアーレイバーク級駆逐艦「ハワード」の巨大なマストを、最後に見えた「目標」として誤認した。

「ハワード」の艦橋で、兵員たちが床に伏せる。 次の瞬間、空を切り裂く絶叫のような風切り音と共に、DF-26の残骸を伴う弾頭が、同艦の後部ヘリ格納庫付近を掠め、至近距離の海面へ激突した。


ズゥゥゥゥン!!


海面激突時の水圧と、極超音速の運動エネルギーが「ハワード」を激しく揺さぶった。船体後部の外板がひしゃげ、破片が上部構造物を蜂の巣にする。


「被害報告! 後部VLS区画浸水、右舷推進軸に歪み! 戦闘継続は困難……しかし浸水はコントロール可能です!」


「ハワード」は黒煙を上げ、艦体を傾けながらも、海面に踏み止まっていた。40発という空前の飽和攻撃に対し、連合艦隊が支払った代価は、駆逐艦一隻の「中破」に留まったのである。


北京のモニターを見つめる張遠平上将は、震える手で受話器を置いた。


「……我々の『槍』は、届かなかったのか」


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