表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第7章 解放

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/76

203Y年3月4日 フィリピン海

203Y年3月4日 フィリピン海


日米豪の潜水艦隊にとって、PLANの│対潜掃討網《A S W》は、もはや脅威ではなかった。TAOによるサイバー攻撃は、水上艦の防空システムのみならず、艦隊全体の「音響統合処理システム」をも再起不能に陥れていたのだ。


対潜ヘリや駆逐艦のソナーが捉えた微かな音響データは、バグによって「クジラの鳴き声」や「海流のノイズ」として処理され、あるいは全く異なる方角の│虚像ゴーストとして表示される。最新鋭の〇五五型駆逐艦ですら、目と耳を塞がれた状態で、死神たちの接近を許していた。


「ターゲット、中国海軍〇七五型強襲揚陸艦『広西』。距離四〇〇〇。一八式長魚雷、一番から四番、放て」


海上自衛隊のたいげい型潜水艦の内部には、静寂の中に注水音だけが響く。放たれた一八式長魚雷は、航跡を一切残さず、獲物の直下へと滑り込んだ。

次の瞬間、海中で巨大な空白が生まれた。

船体の直下数メートルで魚雷が炸裂。爆発によって生じた巨大な気泡が、一気に膨張して数万トンの強襲揚陸艦を海面へと突き上げる。これが「バブルジェット現象」の第一幕だ。

台湾東岸への「進駐」に備えて揚陸艇やヘリを詰め込んだ三万トンを超える巨体が、玩具のように宙に浮く。直後、気泡が急激に収縮し、船体の中央部は支えを失った。自らの重さに耐えきれず、強襲揚陸艦の│竜骨キールが、バキリという、腹に響くような金属音を立てて断裂した。

「背骨」を折られた巨艦は、V字に折れ曲がりながら、大量の海水とともにフィリピン海の底へと引きずり込まれていった。


一方、北方に位置する空母「福建」の周囲もまた、地獄と化していた。

三本の電磁式カタパルトを備えた中国最新鋭の巨艦を狙っていたのは、米海軍のバージニア級原子力潜水艦「ミシシッピ」である。

「福建」の艦橋では、艦長が狂ったように叫んでいた。


「なぜソナーが反応しない!? 回避しろ、取り舵いっぱい!」


しかし、火器管制システムに潜伏していたエクスプロイトが、操舵系にまで誤作動を誘発させていた。舵は中央に固着し、電磁式カタパルトからは異常放電の火花が飛び散る。


「魚雷発射。北京に自由の音を聞かせてやれ」


「ミシシッピ」から放たれた四発のMk.48 ADCAP重魚雷が、福建の右舷喫水線下を正確に捉えた。

一発、二発と命中するたびに、艦内に海水が奔流となって流れ込む。三発目が弾薬庫の直下で爆発。バブルジェットの衝撃が、空母の巨大な船体を「福建」という名の鋼鉄の棺桶へと変えた。

電磁式カタパルトへの電力供給が断たれ、格納庫内の航空燃料が誘爆。甲板上に並んでいた殲《J》35が、爆風で次々と海へ転げ落ちる。

「不沈」を誇った八万トンの空母は、一度もその真価を発揮することなく、無慈悲な重力に従って傾斜を深めていった。

「山東」と「福建」の沈没は、中国軍が構築した封鎖体制の「外壁」が完全に消滅したことを意味していた。


フィリピン海上空は、目に見えない電磁波の嵐と、目視不可能な距離から放たれる「死の矢」が飛び交う、史上空前のハイテク戦場と化していた。


「こちらレッドイーグル01! レーダーがフリーズした! データリンクが同期しない、敵の位置を送れ!」

「……ザザ……レッドイーグル、こちら『福建』……管制不能……各自の判断で……」


中国海軍航空隊の最新鋭ステルス機・殲35のコックピットでは、パイロットが狂ったように再起動操作を繰り返していた。空母の火器管制を司る基幹OSに潜んでいたNSAの「論理爆弾」は、艦載機のデータリンク端末にも牙を剥いていたのだ。

彼らが誇る「情報優位」は、今やただのデジタル・ノイズに成り下がっていた。

そこへ、日米連合の「狼の群れ」が音もなく背後を取る。


『こちらウィザード01。目標捕捉。│射撃許可クリア・トゥ・エンゲージ。一、二番機は正面のJ-35、三、四番機は低空のJ-15を仕留める』

『こちらハヤテ01、了解。FOX3!』


米空軍F-22や航空自衛隊のF-35がウェポンベイの扉を一瞬開き、AMRAAM空対空ミサイルを次々発射した。

中国側のJ-35は、自らのレーダーが何も捉えていないにもかかわらず、ミサイル接近を告げる警報だけが鳴り響くという地獄に叩き落とされた。母艦からの管制支援を失った彼らは、ただの「空飛ぶ標的」でしかなかった。次々と火だるまになり、海面へと吸い込まれていく。

しかし、戦場が一方的な虐殺で終わるほど甘くはなかった。

台湾の南、バシー海峡を低空で迂回し、フィリピン海へとなだれ込んできた影があった。中国空軍の増援部隊である。


「雷鳴01より全部隊へ! 海軍の連中はシステムトラブルで壊滅したようだが、我々のリンクは生きている。奴らに背後を見せるな!」


中国空軍の殲20および殲16の編隊は、海軍とは異なる独自の独立ネットワークを使用していたためサイバー攻撃の影響を免れていた。彼らは海軍機とは対照的に組織的な編隊飛行を維持し、連合軍の側面に食らいついた。


「敵増援、方位一八〇より接近! J-20を含む多数の編隊です!」

「ちっ、空軍の奴らは生きてるのか! 全機、旋回! 迎撃しろ!」


米海軍のF/A-18E「スーパーホーネット」のパイロットが叫ぶ。

空軍機は海軍機の無念を晴らすかのように、執拗な電波妨害を仕掛けつつ、中国版長距離ミサイル「│霹靂《P L》15」を放ってきた。

空域は一転して、音速を超えた│混戦ドッグファイトの様相を呈する。


「ターゲット・ロック! FOX3!」

「回避! フレア放出!」


フィリピン海の空に、複雑に交差する白い航跡と、爆発の閃光が幾重にも刻まれる。中国空軍のパイロットたちは、もはや勝ち目がないことを悟りながらも、必死の覚悟で連合軍の防空網に穴を開けようと奮闘した。それは、母国が築き上げてきた軍事大国のプライドをかけた死に物狂いの抵抗だった。

しかし、圧倒的な数の差、そして宇宙の衛星から海上のイージス艦までが一つに繋がったJADC2の壁は厚かった。


『敵増援部隊も燃料限界。包囲を縮める。全機、掃討せよ』


多勢に無勢。連携を欠いた海軍機が先に掃討されたことで、空軍の増援部隊は完全に孤立していた。燃料計が赤く点滅し、帰るべき空母が沈みゆく中、最後の一機まで食い下がった殲20もAMRAAMに翼を捥がれ、夕闇が迫る海原へと墜落していった。

フィリピン海上空を舞うのは、もはや連合軍の翼のみとなった。

海面には、中国海軍が誇った「鉄の輪」の残骸と、最新鋭機の破片が、燃え盛る重油の煙と共に漂っていた。


「……こちらハヤテ01。敵機、全滅を確認。……空域を確保した」


パイロットの報告は、静かだが、歴史の転換点を告げる重みを持っていた。


「こちら連合艦隊司令部。全領域での敵艦隊制圧を確認。……これより、台湾への海上補給路の確保へ移行する」


朝日が昇り始めた東シナ海。暗雲を切り裂いて差し込むその光は、文字通り「黎明の剣」が切り拓いた、自由と勝利の輝きであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ