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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第7章 解放

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203Y年3月4日 フィリピン海

203Y年3月4日 午前5時00分

台湾全土および台湾周辺海域

運命の時刻が訪れた。 日米英豪の連合艦隊、そして不屈の決意を固めた台湾軍が共有するJADC2のカウントダウンがゼロを示した瞬間、東シナ海からフィリピン海にかけての全域で、水平線が数百の火柱によって引き裂かれた。


「『黎明の剣』、全弾発射!」


台北、国防部の地下司令部から発せられたその号令は、自由を奪還するための歴史的な合図となった。

台湾各地の山壁に隠された地下トンネルから引き出された「雄風二型」および「雄風三型」の機動発射機が一斉に咆哮を上げた。超音速で飛翔する雄風三型が、独特の鋭い衝撃波を残して海面へと突き進む。同時に、花蓮・佳山基地や台東・志航基地を飛び立ったF-16Vの編隊が、ハープーン・ミサイルを次々と解き放った。

沖合では、米原子力空母「ジョージ・ワシントン」「ロナルド・レーガン」、英空母「クイーン・エリザベス」、そして海上自衛隊の「いずも」から発進したF-35B/CおよびF/A-18Eの群れが、最新鋭の長距離対艦ミサイル「LRASM」を投下。 陸、海、空の全ドメインから放たれた対艦ミサイルの総数は、実に千五百発を超えた。

「黎明の剣」が発動し、水平線からミサイルの奔流が迫る中、中国海軍《P L A  N》の指揮官たちには、一種の「慢心」に近い自信が漂っていた。


「敵ミサイル多数接近! 数は千以上、全方位から来ます!」

「慌てるな。我らには『中華イージス』がある」


最新鋭の〇五五型大型駆逐艦「大連」の艦橋で、司令官は冷徹に言い放った。〇五五型は一一二セルのVLSを備え、最新のフェーズドアレイ・レーダーと統合火器管制システムにより、世界最強レベルの防空能力を誇る。さらに、各艦は強力なデータリンクで結ばれ、一隻が捉えた目標を艦隊全体で共有し、最も効率的な迎撃を行う「協同交戦能力」を確立しているはずだった。


「全艦、防空戦闘。統合ネットワークによる最適迎撃プログラムを起動せよ。鉄のカーテンを見せつけてやれ」


しかし、その自信が「絶望」へと変わるのに時間はかからなかった。

数百発のミサイルがレーダーの有効圏内に入り、迎撃ミサイルが一斉に放たれようとしたその瞬間、全艦のコンソールが、血の気が引くような異変に見舞われた。


「な……なんだ、これは!? データリンクが切断されました!」

「レーダーにノイズ! 目標の識別ができません! 敵味方識別装置《I F F》がエラーを吐いています!」


艦橋に響き渡る悲鳴。さっきまで鮮明に映し出されていた戦術状況図《T A D》が、砂嵐のようなノイズと、意味不明な文字列の羅列に変わった。それは単なるジャミングではなかった。システムの「根幹」が、内側から腐り落ちていくような感覚だった。


この瞬間、周到に準備されていた米国国防総省国家安全保障局(N S A)の精鋭サイバー部隊「特別アクセス作戦部隊(T A O)」による、静かなる先制攻撃が結実していた。

遡ること三年前。TAOのオペレーターたちは、PLANのデータリンクの基幹OSを供給している中国最大のIT企業に対し、執念深い攻撃を仕掛けていた。

発端は、その企業のソフトウェアエンジニアへの、極めて精巧なフィッシングメールだった。技術カンファレンスの招待状を装ったメールからマルウェアを侵入させ、開発環境の内部ネットワークへと権限昇格を繰り返して潜入。彼らはコードの一行一行を精査し、将来の有事に備えて、開発者ですら気づいていないゼロデイ脆弱性を自ら発見し、攻撃用プログラム(エクスプロイト)を開発していたのだ。

それは「環境寄生型《Living off the Land》」と呼ばれる、標的のシステム内にもともと存在する正規のツールやコマンドを悪用する手法だった。セキュリティソフトに検知されることなく、彼らは数年にわたり「横展開」を続け、艦載システムのカーネル(核)へと深く浸透していた。

そして今、連合軍のJADC2から発信された特定のパケットが、眠っていた「論理爆弾」を起動させた。


「……信じられん、OSのカーネルがパニックを起こしている! 再起動も受け付けない!」

「ダメです! 全艦の火器管制コンピュータが同調を拒否しています!」


データリンクという「神経」を断たれた中国艦隊は、巨大な鋼鉄の塊と化した。本来なら連携して飽和攻撃をさばくはずの各艦が、隣の艦が何を撃ち、どこを狙っているのかさえ分からず、暗闇の中でバラバラに戦うことを強られた。


「目標捕捉不能! 近接防御火器《C I W S》、手動に切り替え……間に合いません!」


〇五五型駆逐艦「大連」の右舷至近距離に、海面を舐めるように飛翔してきた二発の「雄風三型」が突っ込んだ。超音速の衝撃波が艦橋を揺らし、防空の要であった中華イージスは爆炎とともに夜空へと吹き飛んだ。


「提督! 後方の駆逐艦3隻が被弾! さらに空母『山東』からも悲鳴が上がっています!防空網が完全に崩壊しました!」


統制を失った「中華イージス」は、もはや連合軍の「鉄の雨」に対する防波堤にはなり得なかった。レーダーが盲目となり、指揮系統がブラックアウトした海域で、中国艦艇は次々と火柱を上げ、その誇りとともに東シナ海の藻屑へと消えていく。

台湾南部の要衝・高雄を締め上げていた南海艦隊も、逃げ場を失っていた。  

海からは、時速八十キロを超える猛スピードで接近する沱江級コルベットが、十六発のミサイルを一挙に解き放つ。空からは英豪連合のF-35Bが、正確な精密射撃で敵艦のレーダーアンテナを次々と破壊していった。

海面上がミサイルの奔流と爆炎に包まれる中、海面下数百メートルの深淵では、全く別の、しかしより致命的な狩りが始まっていた。


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