203Y年3月2日 金門/馬祖
203Y年3月2日
中華民国/台湾 金門県 金門島
太武山の岩盤をくり抜いた地下要塞の重厚な防爆扉が、油圧の低い唸りを上げて開いた。未明の霧の中から、長大な砲身を水平から仰角へと持ち上げたM109A2自走榴弾砲が、その無骨な鋼鉄の巨体を滑り出させた。同時に、島の北岸に隠蔽されていた、米国製M142HIMARS多連装ロケット砲と、台湾国産の多連装ロケット砲「雷霆二〇〇〇」が、あらかじめ選定された射撃位置へと展開を完了した。
車内の射撃管制端末には、米国の衛星コンステレーションから転送された誤差数センチメートル単位の標的データが、暗号化されたデジタル符号として流動している。
「こちら観測班。目標、厦門海滄港第十四号岸壁。軍徴用船『三沙三号』。座標、四二ノ七六ノ九一。射撃諸元入力。……撃て!」
射撃指揮官の号令と同時に、M109A2が火を噴いた。一五五ミリ砲身から放たれた精密誘導砲弾エクスカリバーは、火薬燃焼の凄まじい衝撃波で周辺の土砂を巻き上げ、放物線を描いて幅数キロの狭い海域を飛び越えた。
中華人民共和国 福建省厦門市海滄区 厦門港
数分後、対岸の厦門で地獄が顕現した。接岸中だった一万トン級の大型RORO船の船橋に、音速を超える速度で誘導砲弾が垂直に突き刺さる。GPS誘導により、十センチの狂いもなく急所を穿たれた弾頭は厚い鋼鉄の装甲をバターのように貫通し、積載されていた数千箱の重火器弾薬が集積された船倉内部で炸裂した。
爆発の瞬間、密閉された船体内部の圧力は臨界点を超え、外板を固定していた数万本のボルトが弾丸となって周囲に飛散する。連鎖的に誘爆を開始した弾薬は、船体を内側から膨れ上がらせ、巨大な鋼鉄のクジラが腹を裂かれるようにして断裂した。火柱は高度百メートルを超え、吹き飛ばされた数トンもの鉄板が赤く熱した刃となって降り注ぐ。隣接するコンテナクレーンは衝撃波で支柱を一瞬でへし折られ、断末魔のような金属音を立てて、炎上する船体へと倒れ込んだ。
中華人民共和国 福建省 漳州市 漳州招銀港
金門島南部の地下坑道から放たれたHIMARSのGMLRS精密誘導ロケット弾が、マッハ三の速度で漳州招銀港へと殺到した。
「目標、招銀港区第〇五集結地。〇五式水陸両用戦闘車の一群。信管、空中炸裂。弾着、いま!」
六連装のキャニスターから次々と放たれたロケット弾は、目標の高度数十メートルで計算通りに時限信管を起動させた。次の瞬間、空中で炸裂した弾頭から、一発あたり数百個におよぶタングステン合金の小型球体が、音速の数倍という物理的暴力となって地上へと降り注いだ。地上で給油と弾薬補給を行っていた装甲車列は、このキネティック・エネルギーの豪雨を正面から浴び、エンジンブロックから兵士の身体に至るまで、あらゆる物質が無数の穴に穿たれ、粉砕された。装甲を貫通したタングステン球が燃料タンク内で火花を散らすと、霧状になった軽油が瞬間的に気化爆発を起こし、埠頭全体が巨大な火炎放射器と化す。爆発の超高圧は周囲の倉庫の屋根を紙細工のように空高く吹き飛ばし、コンクリートの地面には、熱せられたタングステンが食い込んだ無数のクレーターが赤く光っていた。脱出を試みた兵士たちの影は劫火の中に一瞬で吸い込まれ、その実体すら残さず消滅していった。
203Y年3月2日
中華民国/台湾 連江県 馬祖列島 南竿島
金門島のさらに北、馬祖列島の地下陣地からも「雷霆二〇〇〇」がその咆哮を上げた。地表に出現したランチャーは、人民解放軍の激しい砲撃で抉られた岩肌を背に、発射筒を西へと向けた。
「目標、福州江陰港物流センター。標的ID、チャーリー三〇二。ロケット全弾斉射!」
四十五連装のランチャーから放たれたロケット弾の群れは、夜明け前の空に巨大な白煙の尾を引き、福州の江陰港へと突き刺さった。
江陰港第十八号埠頭に集積されていた大量の野戦糧食、予備燃料、そして重機群が、一瞬にして爆轟の渦に飲み込まれた。高性能爆薬による熱圧波は、防波堤を越えて海水を沸騰させ、埠頭に並んでいた数百台の軍用トラックを木の葉のように宙へ舞わせた。一発のロケット弾が巨大な円筒形の軽油貯蔵タンクを直撃すると、鋼鉄のタンクは一瞬にしてオレンジ色に膨張し、爆発的な気化燃焼とともに「熱の壁」となって周囲を焼き尽くす。キノコ雲のような黒煙が高度数百メートルまで立ち昇り、港湾全体の通信タワーは衝撃波で根元からねじ切られた。侵攻軍の生命線である補給物資は、物理的に消滅したのである。
203Y年3月2日 午前6時40分 福建省・泉州市 珊園軍用飛行場
金門島最北端、馬山観測所付近に再展開したHIMARSが、最後のトドメとなる長距離打撃を執行した。
「目標、珊園軍用飛行場、第一および第二ハンガー。標的、攻撃ヘリ編隊。……発射!」
精密誘導されたロケット弾は、台北の総統府や新竹のTSMC工場といった台湾の重要施設を空中から強襲し、暗殺・破壊や占拠する特殊部隊を低空から支援するはずだった、Z―10攻撃ヘリ六機が格納されている強化コンクリート製ハンガーの屋根を正確に貫いた。
内部で炸裂した高性能爆薬の破壊エネルギーは、狭い格納庫内で反射を繰り返し、壊滅的な破壊力を増幅させた。ヘリの複合材製のメインローターは一瞬でスクラップの破片へと変わり、高価なアビオニクスは数千度の高熱で融解した。格納庫全体が内側から吹き飛び、コンクリートの破片が周囲数キロにわたって弾丸のように降り注ぐ。隣接する特殊部隊の宿舎も爆風で窓ガラス一枚残らず粉砕され、指揮系統は物理的な肉体の死とともに完全に麻痺した。
「全ユニット、ミッション完了。陣地変換。反撃が来る前に地下へ戻れ。……撤収!」
数分間の苛烈な精密打撃を終えた台湾軍の火砲群は、エンジンを全開にして、再び地下の迷宮へと姿を消した。その数分後、中国側からの報復砲撃が金門の地表を叩き始めたが、そこには既に動くものの影はなかった。後に残されたのは、燃え盛る中国沿岸の侵攻インフラと、北京が誇った「鉄の包囲網」が内側から崩壊していく凄惨な光景であった。




