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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第7章 解放

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203Y年2月28日 北京/金門/馬祖

2月28日

中華人民共和国 北京市西城区 中南海

与那国島と尖閣諸島での衝撃的な敗北のあと、人民解放軍は大失態を挽回すべく、昼夜を問わず急ピッチで、とある作戦の準備を進めていた。軍事的にも敗北し、経済的にも日米との細々とした貿易がいよいよ全面ストップとなり、焦る周華平の中央軍事委員会緊急会合での発言は、全くの偶然ながら、もともと軍部が更に数日後に提案する予定だった計画に沿っていた。


「看板が必要だ。国民に、そして世界に提示できる、圧倒的で象徴的な『歴史的勝利』の看板が」


周は、地図上の台湾本島ではなく、そのすぐ脇に浮かぶ小さな点――金門島を、折れそうなほど強く指差した 。


「かつて毛沢東同志も決着をつけられなかったあの島を、今こそ完全に掌握せよ。金門、馬祖を『解放』し、勝利の既成事実を打ち立てるのだ。全軍に命ずる。日の出とともに強行着上陸を開始しろ」


かつての英雄たちも成し遂げられなかった悲願を、敗北の隠蔽のために利用する。 独裁者の最後の一言は、海峡を隔てた島々を、数十年ぶりの焦熱の地獄へと突き落とした 。


中華民国/台湾・金門県 金門島

金門島の背骨をなす太武山。その強固な花崗岩をくり抜いて造られた地下坑道は、腹に響くような連続的な振動に揺れていた。対岸、福建省厦門周辺の砲兵陣地から放たれた数千発の榴弾が、冬の海霧を切り裂き、金門島全域に降り注いでいるのだ。


「……震動、さらに激化! 敵、三〇〇ミリ多連装ロケットによる面制圧を開始しました!」


情報の海がノイズで埋め尽くされる中、金門防衛指揮部のオペレーターが絶叫した。

周囲の海は中国海警局の不気味な白い船影、「海上民兵」が乗船した漁船団の青い群れとに覆い尽くされ、対岸の厦門、大嶝ダードン島、小嶝シャオドン島の砲兵陣地からは、人民解放軍のPHL-03ロケット砲が狂ったように火を噴いている。冬の重い海霧を切り裂き、金門島全域に降り注ぐ榴弾の雨。地下深くの防空壕では、避難した市民たちが膝を抱え、天井から落ちる埃にまみれながら震えていた。 かつては「観光地」として平和を享受していた古寧頭の街並みや、馬山観測所の周辺は、今や無慈悲な鉄の雨によって地形ごと削り取られようとしている 。

金門防衛司令官は、大型モニターに映し出されるレーダー波の残像を睨みつけた。


「……始まったか。奴ら、砲撃で海岸線の地雷原を強引に啓開するつもりだ。だが、我々はもう一九五八年の頃の軍隊ではない」


島の地表は、人民解放軍の熾烈な砲爆撃によりかつての緑が消え失せ、まるで月面のようなクレーターの山と化していた。金門防衛指揮部は、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第五十九条の規定に基づき、島の西部と南部の居住区のうち内陸部二か所を、一切の軍備を置かない「無防備地区」と宣言し、限られた回線で中国側および国際社会に通知、地下壕への避難を望まない民間人を集中退避させていたが、それ以外の全域は文字通り鉄の暴風によって粉砕されつつあった。中国軍は、この島に反撃の能力など一欠片も残っていないと確信するはずだ。


司令官は、手元の端末を操作し、秘匿されていたコマンドを起動した。


「全ユニット、起動。……『蜂の巣』を解き放て」


凄まじい着弾音が止んだ直後、金門島北岸、かつて一九四九年の戦役における人民解放軍の上陸地点と全く同じ三ヶ所―湖尾フーウェイ壟口ロンコウそして古寧頭の海岸線は、舞い上がった土砂と硝煙が冬の海霧と混じり合い、視界を遮る灰色の壁と化していた。中国人民解放軍の指揮官たちは、この世のものとは思えない密度の面制圧によって、島の防御網は完全に沈黙したと確信していた。

侵攻部隊の主軸、東部戦区陸軍第七十二集団軍、第一二四水陸両用機械化旅団の歩兵大隊指揮官が叫ぶ。


「目標、海岸線まで一〇〇〇! 全艇、速度を上げろ! 偉大なる祖国統一の旗を打ち立てるのだ!」


しかし、波打ち際に乗り上げようとする〇五式水陸両用戦闘車のハッチから兵士たちが目にしたのは、廃墟となったトーチカではなく、空を覆い尽くさんばかりに湧き出した「黒い意思」の群れであった。

太武山の堅牢な岩盤の隙間から、そして地下深くのサイロから、数千機という単位で放たれた自爆ドローンのスウォームは、物理的な質量で攻め寄せる大陸の軍隊に対し、情報のアルゴリズムという非対称な刃を突き立てた。


「……何だ、あの数は! 対空火器、迎撃せよ!」


かつて一九五八年の砲撃戦で数万発の砲弾に耐えたこの島は、今やそれ自体が巨大な自動迎撃システムへと進化を遂げていたのである。海上を埋め尽くす人民解放軍の輸送艦隊は、あまりにも巨大で、あまりにも鈍重だった。高性能なレーダーを搭載した最新鋭の駆逐艦でさえ、海面スレスレを不規則な軌道で飛来する、安価なカーボンファイバー製の小鳥たちをすべて捉えきることはできない。

一機のドローンが、十数人の精鋭兵を乗せた水陸両用車の薄い上面装甲を、正確に狙い撃ちにする。爆発は連鎖し、一両の炎上が隣の車両の視界を奪い、さらなる混乱を招いた。


海霧の向こう側では、翟山坑道の闇から解き放たれた無人の自爆水上艇が、数トンの高性能爆薬を抱えたまま波を切り裂いて、二百五十名の機械化歩兵部隊を載せた、東海艦隊所属の072型輸送揚陸艦の腹部へと吸い込まれていった。轟音とともに火柱が上がる。満載排水量四千八百トンの重厚な船体は無残にひしゃげ、黒い重油が不気味な模様を描きながら広がっていく。

大陸側が誇る圧倒的な物資と人員の「質量」は、この狭い海域において、回避不能な巨大な標的という弱点へと反転した。


なんとか自爆型ドローンに被弾せず波打ち際へ接近する車両の下部でも、次々と爆発が起こる。遠浅の海底に埋め込まれた「水際地雷」の仕業だ。

壊滅的な損害を出しながらも、いくつかの戦闘車が壟口の砂浜に乗り上げた。


「下車戦闘! 急げ、ハッチを開けろ! 散開して遮蔽を確保―」

「足が! 足をやられた!」

「地雷だ! まだ残ってやがる!」

地獄はそれだけではなかった。砲撃で沈黙したはずの古寧頭戦史館の廃墟や、粉砕された民家の影から、今度は手のひらサイズの小型ドローンが蜂のように襲いかかった。


「伏せろ! 上から来るぞ!」


兵士が叫ぶ間もなく、小型ドローンに組み込まれたカメラのアルゴリズムが軍用ヘルメットの頭部を認識し、ピンポイントで数十グラムの炸薬を爆発させる。古寧頭の砂浜は今やデジタル制御された無数の「死神」が支配する殺戮の場と化し、一九四九年の国共内戦時と同様、共産党軍兵士の無残な死体で埋め尽くされた。


「旅団司令部へ、こちら第一大隊! 敵の抵抗は予想を遥かに超えている! 指揮系統が混乱、これ以上の進出は不可能だ! 撤退の許可を、撤退を――」


通信は凄まじい爆発音と共に途切れた。

古寧頭の白い砂浜は、上陸した兵士たちの足跡ではなく、無惨にねじ曲がった装甲板と、黒焦げになったディーゼルエンジンの残骸で埋め尽くされた。馬山観測所から見下ろす海面は、沈みゆく艦艇から漏れ出す炎で赤く染まり、まるで地獄の釜が開いたかのような光景を呈している。

対岸の厦門にある高層ビルの窓からは、かつて平和な観光の夜景の一部であった金門島が、火柱を上げる巨大な墓標へと変わる様が克明に捉えられていた。大陸のSNSには、最新鋭の兵器群が名もなき小型ドローンの群れに屠られる動画が、検閲の壁を越えて濁流のように流れ込み、無敵を信じていた大衆の熱狂を凍り付かせた。


地理的な近接性と圧倒的な軍事バランスの差を前提とした侵攻作戦は、皮肉にもその「密集度」ゆえに、台湾側が用意した非対称戦の罠に自ら嵌まる結果となった。

鉄屑の山となった海岸線に打ち寄せる波は、かつての砲戦の記憶を塗り替えるほどに赤く濁り、金門島という「不沈空母」が、今や侵略者にとっての「不沈の棺」であることを世界に知らしめていた。


中華民国/台湾 連江県 馬祖列島

金門島での激闘と呼応するように、北方に位置する馬祖列島の中心、南竿島でも侵攻の火蓋が切られた。

馬祖防衛指揮部が置かれた南竿島は、金門島に比べ険峻な地形が続く要塞島である。金門への大規模侵攻の陰で、中国軍は東部戦区所属の特殊作戦部隊を乗せた高速特攻ボートと、海上民兵が搭乗する偽装漁船の群れを南竿島の北側、清水チンシュイ港および福澳フーユー港に向けて突入させた。


「敵高速舟艇、複数を検知! 距離三〇〇〇、本島へ直進してきます!」


南竿島の高台に位置する指揮所のモニターに、霧を切り裂いて接近する無数の光点が映し出される。しかしここでも、台湾側が配備していた「非対称戦」の牙が剥かれた。

港湾を囲む断崖に隠された自動発射装置から、小型の対艦ドローンと、自律型の水中機雷が次々と放たれた。


「……各個に獲物を仕留めろ。一隻も接岸させるな」


南竿の険しい岩肌を縫うように低空飛行するドローン群は、複雑な地形を利用して解放軍のボートの死角から襲いかかった。海面が爆発の炎で照らされる中、福澳港の目と鼻の先で、特殊部隊を乗せたボートは次々と沈黙し、黒い煙を上げて波間に消えていった。

わずか数時間の戦闘で、南竿島への着上陸を企てた小規模な侵攻部隊は完全に粉砕された。

台湾海峡西部は無慈悲な自動迎撃システムの実験場と化し、大陸側に「物理的な距離の近さは、もはや優位性ではない」という残酷な事実を突きつけたのである。

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