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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第6章 奪還

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203Y 年2月24日 与那国

2月24日 与那国島

祖納の集落を一望する天然の要塞、ティンダバナの巨岩。その断崖の裂け目には、周囲の植生と完璧に同化した特殊作戦団の狙撃班が潜んでいた。

彼らが手にするHK416の光学サイトは、人質が収容されている祖納公民館からわずか数十メートル離れた路地に、無造作に積み上げられた敵の弾薬箱と燃料ドラム缶を鮮明に捉えていた。


「ターゲット、敵物資集積ポイント・ブラボー。……シュート」


サプレッサーから放たれた弾丸は、乾いた風切音と共に燃料ドラム缶を穿った。直後、もう一人の隊員が放った焼夷弾が漏れ出した燃料に引火し、激しい爆発が起きた。公民館の石壁を揺らすことなく、敵の継戦能力だけを正確に削り取る。


「……次だ。ドローンを投入せよ」


上空からは、水陸機動団の先遣隊が放った小型の徘徊型弾薬(自爆ドローン)が、蜂の群れのように飛来していた。

ドローンは、敵が小学校の校庭に停めていた指揮通信車両を捕捉。建物の影に隠れた標的に対し、真上から垂直に急降下し、ピンポイントで粉砕した。

爆辞の炎が校庭を包み、敵兵たちが混乱して建物から飛び出す。しかし、彼らが足を止める間もなく、ティンダバナからの精密狙撃がその喉元や心臓を貫いた。


「人質を傷つけるな。だが、一歩でも外に出る奴は逃すな」


ウルフの冷徹な指示が無線に飛ぶ。特殊作戦団の狙撃とドローンの波状攻撃により、中国軍陸戦隊は「公民館という盾」の周辺から一歩も動けない、文字通りの籠の鳥と化していた。

物理的な打撃と並行し、陸上自衛隊は、敵の戦術無線網に致命的な毒を流し込んでいた。


「……『琉球共和国』、いや、中国人民解放軍将兵の諸君へ告げる」


敵兵たちのスマートフォンや軍用無線機に、突如として鮮明な映像が流れ込んだ。それは、数時間前に潜水艦部隊によって撃沈された、中国海軍052D型駆逐艦が爆発炎上し、黒潮の底へと引きずり込まれていく無惨な姿だった。


「貴様らを支える艦隊は全滅した。与那国周辺の制空権も、すでに日米が掌握している。核の牙も、ミサイルの盾も、我々がすべて抜き去った」


スターネットの広帯域通信を介して、島内のあらゆるデジタルデバイスにこの真実が拡散される。

自分たちの国が負け、完全に見捨てられた。その認識は、最前線の兵士たちにとって、いかなる砲撃よりも重い精神的打撃となった。


「旅団長、祖納地区の敵通信に極度の混乱が見られます。士気が急速に低下中」

「よし。網をこれ以上ないほどに絞れ」


第十四旅団長は、モニター越しに祖納の街を見据えた。


「物理的、精神的に逃げ場を失わせた。あとは奴らが自ら崩壊するのを待つだけだ。人質救出の最終局面に入るぞ」


市街地を包囲する機動戦闘車の砲身が、ゆっくりと、しかし確実に敵の潜伏拠点へと向けられた。

日本最西端の奪還は、もはや戦術的な必然へと変わりつつあった。


2月24日 

与那国島 祖納地区・中国軍仮設指揮所


祖納の集落を一望する高台に建つ、頑強なコンクリート造りの公民館。その地下に設置された中国海軍陸戦隊の臨時指揮所は、今や絶望と混乱の坩堝に叩き落とされていた。

換気システムの停止した室内には、焦げた電子機器の臭いと、数十人の将兵が発する濃密な汗の臭気が立ち込めている。壁に掛けられた大型モニターは、自衛隊の電子攻撃(ジャミング)とドローンによる物理破壊で半分以上が砂嵐に変わり、辛うじて映る映像も、燃え盛る自分たちの物資集積所を映し出すのみであった。


「弾薬集積所、完全に消失! 市街地各所に配置した狙撃班からの連絡も途絶しました。狙撃により、一歩も外へ出られません!」

「東海艦隊との通信、依然として回復せず! 本土からの商用衛星画像を受信……我が駆逐艦の残骸らしき浮遊物を、石垣島沖三十キロ地点で確認しました……」


オペレーターたちの悲鳴に近い報告が響く。指揮官である大校(大佐)は、血走った瞳で拳を地図机に叩きつけた。日本最西端を「琉球共和国」として切り離し、北京への輝かしい献上品にするはずだった壮大な計画は、今や二千人の島民を盾にして、暗い地下室で震えるだけの無様な籠城戦へと成り下がっていた。

その時、沈黙していた戦術無線機のスピーカーが、最高優先度の暗号通信を告げる鋭く高いビープ音を鳴らした。


「……静粛に! 東部戦区司令部からの『レッド・コール』だ! 暗号キー、正常に認証!」


ノイズが走り、重厚で威厳に満ちた「あの声」が室内に溢れ出した。それは、与那国島及び台湾方面作戦の指揮統制権を中央軍事委員会から委任されている、中国人民解放軍東部戦区司令員、張遠平(ジャン・ユエンピン)上将その人の声であった。


『……与那国駐屯部隊、全将兵へ告げる。私は、中国人民解放軍東部戦区司令員、張遠平である』


指揮官以下、将兵たちが反射的に直立不動の姿勢を取る。その場の空気が、司令員の重苦しい語り口に支配されていく。


『……戦局は我々の想定を超えた。島を取り囲む東海艦隊は日米の卑劣な奇襲により、再編不可能な打撃を受けた。これ以上の抵抗は、我が祖国が誇る精鋭である諸君の生命を無益に失うだけでなく、党の無謬性を汚す結果となる。……現時刻をもって、人質の安全を確保したまま、日本軍に対し武装解除に応ずることを命ずる。屈辱に耐え、再起の時を待て。これは、国家主席、中国共産党総書記にして中央軍事委員会主席、周華平同志じきじきのご決断である』


その瞬間、指揮所内の時間は凍り付いた。

指揮官の顔からみるみる血の気が引き、愕然とした表情でマイクを見つめる。


「……我々は、見捨てられたのか。北京は、我々を切り捨てる決断をしたのか」


彼らには、この命令を疑う余地はなかった。使用された暗号キーは最新の軍事用であり、声の抑揚、特有の北京訛りの癖、そして司令員しか知り得ないはずの極秘の部隊識別コードまでもが完璧に一致していたからだ。


「……全部隊に通達。武器を捨て、白旗を掲げろ。人質には指一本触れるな。……党の命令だ。我々は、命令に従う」


祖納の市街地各所で、中国兵たちが呆然とした表情で建物の陰から姿を現した。彼らは愛銃を地面に置き、両手を頭の後ろに組んで、じりじりと網を絞っていた自衛官たちへと身を委ね始めた。



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