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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第6章 奪還

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203Y年2月23日 与那国

与那国町 東牧場上空

海からの湿った風が吹き抜ける東牧場の草原。その上空に、地を這うような重低音を響かせてC-2輸送機の群れが到達した。


全員起立(スタンドアップ)! フック・アップ! 装備点検チェックイクイプメント!」


機内の赤暗いライトの下、ジャンプマスターの怒声が響く。第1空挺団の隊員たちは、一糸乱れぬ動作で自動開傘索スタティックラインを機内のケーブルに掛け、自らの背嚢とパラシュートの安全を確認する。


「装備点検終了! 右足前(スタンドインザドア)!」


機体後部のカーゴドアが全開になり、時速二百キロを超える激しい気流が機内に流れ込む。ジャンプマスターの傍らで、緑色のランプが点灯した。


「……グリーンライト、行けッ!」

「降下ッ! 降下ッ! 降下ッ!」


一番スティックが、朝焼けの空へと吸い込まれていった。NVGを装着した隊員たちの視界には、緑色に沈む風景の中に、真っ白な一三式空挺傘の華が次々と咲き誇る光景が広がった。

熊本から飛び立った二個普通科大隊、数百名の精鋭。彼らは海風を読み、巧みに操縦索を引いて牧場のなだらかな草原へと着地した。


「着地! 傘離脱、速やかに完了せよ!」


地面を転がり、衝撃を逃がした瞬間に隊員たちはパラシュートを切り離した。即座に二〇式小銃を構え、周囲への全周警戒に移行する。夜明けの霧が漂う牧場には、無数の「死神」たちが集結し、瞬く間に小隊・中隊ごとの戦闘隊形を整えていく。


「こちら空挺指揮官。東牧場への着陸完了。会合点(R P)での集結率九十五パーセント。これより敵の背後、祖納地区に向けて進撃を開始する。……日本の国土を、我々の手で掃討するぞ!」


草原に低い唸りのような怒号が響く。


与那国町 比川浜

ドラマ『Dr.コトー診療所』の舞台として知られる比川地区。普段はエメラルドグリーンの海と白い砂浜、そして背後に迫る緑豊かな丘陵が織りなす穏やかな楽園は、今や鉄と火、そして硝煙が支配する「キリング・ゾーン」と化していた。


「こちらウルフ03。比川浜を見下ろす北側高台、敵観測所および機関銃火点を捕捉。レーザー目標指示装置(L T D)照射開始。コード・一六八八。……『鉄槌』を要請する!」


比川浜の西側に位置する断崖の頂に、特殊作戦団の観測班が潜んでいた。彼らが手にするターゲット・ディジグネーターから放たれた目に見えないレーダーの糸が、敵陣地を正確にマーキングする。

数秒後、沖合五キロに展開する海上自衛隊の護衛艦「はぐろ」の五インチ単装砲が咆哮を上げた。

ズドォォォォン!!

超音速で飛来した一二七ミリ砲弾が、比川浜を見下ろす丘の頂を正確に直撃した。一瞬にして土砂とコンクリートの破片、そして偽装網が爆風で巻き上げられ、敵の観測拠点は木っ端微塵に粉砕された。精密な艦砲射撃は、比川の集落や診療所のオープンセットを傷つけることなく、敵の防御拠点だけを次々と薙ぎ払っていく。


しかし、煙の中から現れたのは、中国軍の中でも精鋭中の精鋭とされる海軍陸戦隊の残存部隊だった。彼らは艦砲射撃の直撃を免れたサンゴの石垣やコンクリートの残骸に身を潜め、上陸部隊を待ち構えていた。


「上陸開始! 全車、波打ち際まで一気に突っ込め!」


第1水陸機動連隊を乗せたAAV7水陸両用装甲車の群れが、白波を蹴立てて浅瀬を爆進する。車体が砂浜に乗り上げ、後部ランプドアが油圧音を立てて開いた瞬間、待ち構えていた敵のPKM重機関銃が火を噴いた。

バリバリバリバリッ!!

砂浜に飛び出した先遣隊の隊員たちを、猛烈な銃火が襲う。


「三名被弾! メディック、メディック!」

「第二班、右翼の岩陰へ回り込め!」


砂浜に倒れ込み、赤く染まる隊員。一瞬の逡巡が死を招く極限の状況下で、水機団の隊員たちは一歩も引かなかった。二〇式小銃の鋭い発射音が鳴り響き、AAV7の四十ミリ自動擲弾銃が敵の銃眼を正確に叩き潰す。


「負傷者を収容しろ! 一分隊、火力を集中しろ。力ずくで押し切るぞ!」


砂を噛み、泥にまみれながらも、彼らは圧倒的な練度で敵の抵抗を排除していった。比川の砂浜に流された血は、この島が再び日本の主権下に戻るための、重く苦しい代償であった。

比川浜の橋頭堡が辛うじて確保された直後、沖合の輸送艦「おおすみ」から放たれたエアクッション揚陸艇(L C A C)が、巨大なプロペラ音を轟かせて砂浜へ突入してきた。

「第十五即応機動連隊、主力上陸! 機動戦闘車、発進!」

LCACのランプから、第十五即応機動連隊の一六式機動戦闘車(M C V)がその長大な八枚のタイヤで力強く砂を掴み、戦線へと躍り出た。

ドォォォン!!

百五ミリライフル砲が火を噴く。比川小学校方面へ逃走を試みる敵の軽装甲車両を、MCVの一撃が真っ向から撃抜いた。爆発四散する敵車両を尻目に、八輪の鋼鉄の獣たちは、時速百キロに近い快速で比川の狭い路地を抜け、内陸へと進撃を開始した。


「第十四旅団長より全軍へ。比川浜の上陸成功を確認。これより旅団主力は北部祖納および西部久部良へ向かう。東側の空挺団と歩調を合わせ、敵を完全に包囲・殲滅せよ!」


与那国の空に、鮮やかな朝焼けが広がっていく。

 

東(空挺団)、南(水陸機動団・十五連隊)。二方向から絞り込まれる鉄の挟撃が、祖納地区に立てこもる侵略者たちを逃げ場のない奈落へと追い詰め始めていた。

日本最西端の地に再び日の丸が掲げられるまで、あとわずか。

比川の潮騒は、勝利を確信する自衛隊の進撃の足音にかき消されていった。


与那国島中央部 県道215号線・宇良部岳北麓

南部・比川浜への強行上陸から三時間が経過した。

宇良部岳を背後に抱く島の中央部は、湿った潮風とジャングルのような濃密な緑、そして重厚なディーゼルエンジンの排気音に支配されていた。第十四旅団長の指揮の下、奪還部隊は精密なクロックワークのように連動し、島全域を制圧するための「網」を確実に絞り始めていた。


「各隊、予定のフェーズラインに到達。データリンク安定。これより敵を北部・祖納と西部・久部良へ完全分断・封鎖する」


旅団司令部の冷徹な号令が、各部隊の戦術端末へデジタル符号として送られる。陸上自衛隊の精鋭たちは、防衛省情報本部と陸上自衛隊教育訓練研究本部が事前に作成した精密地図を頭に叩き込まれ、与那国の起伏に富んだ地形を「盾」としても「矛」としても完璧に使いこなしていた。


東牧場への夜間降下を完遂した第一空挺団の二個普通科大隊は、夜明けの霧が漂う山間部の獣道を迅速に突破していた。

隊員たちは重さ数十キロの装備を背負いながら、急峻な斜面を音もなく移動する。二〇式五・五六mm小銃を構え、熱線映像サーマルゴーグルで密林に潜む伏兵をあぶり出しながら、島北部の与那国空港および祖納地区の東側外郭へ到達した。

彼らは「ナンタ浜」を見下ろす高台の有利な射界を確保。対戦車誘導弾(L A M)を配置し、敵の東側への退路を断つ強力な「重し」の役割を果たしていた。


一方、比川浜から上陸した水陸機動団と第十四旅団主力は、島を南北に縦断する唯一の幹線、県道215号線を中心に北上を開始した。


「一分隊、左方の林縁を警戒。機動戦闘車(キ ド セ ン)、前進。歩戦協同を維持せよ!」


比川から北の祖納市街地へ向けて突き上げる部隊は、点在していた「琉球共和国」を装う中国海軍陸戦隊の小規模陣地を、圧倒的な火力で次々と飲み込んでいく。

さらに、比川で進軍を開始した部隊のうち、第十五即応機動連隊のMCVを中心とした快速部隊は、島中央部で北上部隊と分かれ、西端の要衝・久部良地区へと急行。複雑にうねる西側の断崖沿いの道路を遮断し、敵を港湾エリアに釘付けにした。


中国軍は、未曾有のパニックに陥っていた。

島の周囲の味方艦艇とは、洋上で猛烈な炎と煙を上げているところが見えてから全く連絡がつかず、市街地のミサイルサイトは電子戦と精密爆撃により無音のうちに沈黙させられた。


「敵部隊、祖納市街地および与那国空港、そして西部の久部良港周辺へ後退中。重装備の放棄を確認。組織的な抵抗は減退しつつあります」


上空を舞う自衛隊の偵察用ドローン『スキャンイーグル』からの高解像度映像が、赤外線と光学の双方で敵の惨状を司令部へ伝えていた。敵は人質が集中する北部の祖納・空港エリアと、西部の久部良エリアの二箇所に完全に分断され、互いの連絡すら断たれている。


「よし、網を絞れ。だが、住民被害を絶対に出すな」


第14旅団長は、モニターに映る祖納の古い街並みと、民家のすぐそばに隠れる敵兵の姿を見つめながら命じた。


「直接の市街地掃討は最終手段だ。まずは周囲の火力を誇示し、外圧を維持せよ。奴らに『投降』の二文字を突きつけるための、逃げ場のない鋼鉄の檻を完成させるのだ」


祖納の街を見下ろす景勝地、ティンダバナの巨大な天然の絶壁。

そこからは、南の山道から砂塵を上げて迫るMCVの八枚の巨大なタイヤが地面を噛む音と、東の牧場から斜面を滑り降りてくる空挺隊員たちの影が、はっきりと確認できた。

与那国の朝の陽光が、祖納の街並みを照らし始める。

それは、暴力によって奪われた平穏が、自衛隊の圧倒的な「プロの仕事」によって取り戻されようとしている歴史的な瞬間を、静かに、しかし鮮明に描き出していた。



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