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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第6章 奪還

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203Y年2月22日 東京/与那国

日本 東京都千代田区 総理官邸


「……『トロフィー』確保。核の牙は抜かれました」


特殊作戦団からのバースト通信が、日本最西端の地から衛星を経由して官邸に届いた瞬間、地下センターの凍り付いていた空気が一気に弾けた。モニターに並ぶ閣僚や将官たちが一様に安堵の表情を見せる中、高城総理は深く椅子に背を預け、一度だけ短く、しかし重い息を吐き出した。

日本最西端、与那国という「人質」を取られた二週間。ようやく、反撃の前提が整った。


「……長かった。よし、統幕長。ただちに奪還作戦第一段階を開始してください。南西諸島周辺の海空優勢を、実力をもって確保します」

「了解いたしました」


村井統合幕僚長が力強く応じ、直通の受話器を取る。命令は市ヶ谷の統合作戦司令部を経由し、秒単位の遅滞もなく横須賀の海上自衛隊、潜水艦隊(S B F)司令部へと流し込まれた。

横須賀の地下バンカーでは、電子のパルスが青白い火花を散らしていた。


「潜水艦隊司令官より各艦へ。作戦開始。……バースト送信」


海中を透過する極超長波《V L F》によって放たれた指令は、東シナ海の暗黒の海中を駆け抜け、深海で息を潜める「静かなる狩人」たちの耳へと届けられた。


沖縄県与那国島沖 水深120メートル


海上自衛隊たいげい型潜水艦「はくげい」の艦内は、外部の世界と切り離された、赤暗い戦闘照明レッド・ライトに染まる異質な空間だった。リチウムイオン蓄電池による静粛潜航は、ディーゼルエンジンの唸りも、シュノーケル吸気音も一切排除している。そこにあるのは、墓地のような静寂と、精密機器が吐き出す微かな熱気、そして百名近い乗組員たちの、皮膚を伝うような緊張感だけだ。


「……司令部より受信。『作戦開始』。符牒は『曙光』です」


通信士の囁くような報告に、艦長・中谷一等海佐がゆっくりと頷く。潜望鏡の下、彼は全方位モニターに映し出されるパッシブ・ソナーのウォーターフォール表示を凝視した。


「ついに来たか。――総員、戦闘配置。これより与那国海域を封鎖する敵艦艇を排除する。各員持ち場を死守せよ」


「はくげい」を中心とした潜水艦隊三隻――そうりゅう型の「じんりゅう」「せいりゅう」を含めた「狼の群れ(ウルフパック)」が、扇状に展開し、中国海軍東海艦隊の輪形陣を内側から食い破るべく、死神の歩みを開始した。


「パッシブ・ソナー、目標補足。方位一〇五、距離一万二千。目標一、敵ミサイル駆逐艦、ルーヤンIII級。二軸推進、高速プロペラ音……キャビテーション音から察するに、速度二十ノット以上。……目標二、方位一二五。さらにその奥に、不自然な低周波振動を放つ大型民間船を確認。偽装貨物船です。船底の吃水が不自然に深く、ジャミング装置らしき電波源を伴っています」


ソナー員の報告は、冷徹な機械音のように発令所に響く。敵は防空能力の高い駆逐艦を外周に配し、内側で電子妨害と兵力輸送を担う貨物船を守っていた。与那国島の久部良港を封鎖し、日本の介入を物理的・電子的に阻む「灰色の檻」だ。

「駆逐艦の可変深度ソナー(V D S)は強力だ。だが、この海域の水温躍層(サーモクライン)は深い。奴らのアクティブ音はこの層で屈折し、我々までは届かん。……各管、一八式魚雷装填。目標一から三まで、全門同時雷撃を行う」


「はくげい」の艦首、六門の魚雷発射管に最新鋭の一八式長射程魚雷が吸い込まれる。画像認識機能と、デコイを瞬時に見破る高度な音響処理能力を備えた、世界でも類を見ない「AIを搭載した自律狩人」だ。


「一番から四番、発射用意。――撃てッ!」


ドシュッ、ドシュッ……!

重厚な衝撃音とともに、高圧水が魚雷を海中へと射出した。

「一番、発射。二番、発射。……全管、正常に射出を確認」


海中へと解き放たれた魚雷は、当初は親艦から伸びる細い光ファイバーを通じて誘導される。一八式魚雷は、水温や塩分濃度の変化を読み取りながら、海面を滑る駆逐艦のスクリュー音へと吸い寄せられていく。目標まで残り四〇〇〇。魚雷は光ファイバーを切り離し、自律アクティブ・シーカーを起動した。


「……目標、魚雷接近を察知! 敵駆逐艦、 音響デコイ射出! 急激な転舵を開始!」


敵駆逐艦のパッシブソナーも、魚雷が放つ高周波のアクティブ音を捉えたようだ。海中に大量の気泡と偽の音源が撒き散らされる。かつての魚雷なら、ここで目標を見失っていただろう。しかし、一八式魚雷のAIは「目」を持っていた。


「一八式、目標を再捕捉。画像認識ソナーによりデコイを排除。本物の艦影(シルエット)へ軌道を修正しています……突入まで、十、九、八……」


ドォォォォォン!!

深海から伝わる巨大な振動が、「はくげい」の船殻を鋼鉄の太鼓のように打ち鳴らした。

魚雷は敵駆逐艦の船体中央、水線下のガスタービン機関室直下で炸裂した。爆発そのもの以上に恐ろしいのは、その直後に発生する「バブルジェット現象」だ。

海中で発生した巨大な気泡が膨張と収縮を繰り返し、数千トンの鋼鉄艦を紙細工のように持ち上げ、次の瞬間、支えを失った船体の龍骨キールを自重で叩き折る。


「……目標一、爆発音確認。船体、完全に折損。沈没音、聞こえます」


続いて「じんりゅう」と「せいりゅう」から放たれた魚雷が、もう一隻の駆逐艦、そして電子妨害の元凶であった偽装貨物船を捉えた。貨物船は、船倉に隠し持っていた弾薬と燃料が誘爆。巨大な火柱が夜の海をオレンジ色に染め、その衝撃波は与那国島の西崎灯台の窓を揺らした。


「……全目標、沈黙」


中谷艦長が潜望鏡を上げると、モニターには燃え上がる中国艦艇の無惨な最期が映し出されていた。かつて島を囲んでいた灰色の檻は、深海のサムライたちが放った一撃によって、跡形もなく消え去っていた。


「方位三一五、針路一八〇。潜航深度一五〇。……全艦、静粛移動に移る。敵の対潜ヘリが来る前に、この海域を離脱するぞ」


「はくげい」は再び深い闇の中へと消えていく。その姿は、勝利の余韻に浸ることもなく、次の獲物を探す沈黙の影そのものだった。


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