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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第5章 逆転

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203Y年2月19日 東京/ニューヨーク

2月19日 

日本 東京都/アメリカ合衆国 ニューヨーク州ニューヨーク市

その朝、世界のスマートフォンの画面は、一斉に同じ「呼吸」を始めた。

封鎖開始から二週間、世界が耳にしていたのは、北京が流す「防疫隔離」という名の無機質なプロパガンダか、あるいは台湾当局による悲壮だがどこか距離を感じる公式声明のテキストだけだった。しかし、マークが発見した「十五分間の針の穴」を通り抜けたパルス状の動画群は、日米のSNSプラットフォームという巨大な増幅器によって、瞬時に数億人の脳裏へと叩き込まれた。

情報の波は、周到に用意された「導火線」に火をつけた。祐希やマークの知人たちのコミュニティから若者の間へ情報が徐々に広がっていったのも事実だが、より大きな役割を果たしたのは、台湾の代表処から事前に「真実の映像が届く」と耳打ちされていた日米の親台派議員や大手メディアの記者たちだ。彼らは未検証の情報を恐れることなく、一斉に拡散の先陣を切った。


発火点の一つは、祐希の地元、神奈川県の与党衆議院議員、佐々木の事務所だった。


「……私の有権者が、あそこで死にかけている」


画面の中で泥にまみれ訴えかける桜木祐希の姿を見た佐々木は、震える指で投稿した。


『これは私の地元、横浜市XX区の大学生、桜木祐希さんの台北からの決死の訴えです。政府は何をしているのでしょうか! 「遺憾の意」という言葉で、この若者の呼吸を止めるつもりか。我々はこれ以上、隣人の、そして自国民の悲鳴を黙殺してはならない』


続いて、防衛大臣経験者の重鎮議員も重厚な書斎から声を上げた。


「これはプロパガンダではない。戦場からの『目撃証言』だ。これを見ても動かぬのなら、日本国政府は存在意義を失う」


参議院の外交防衛委員会に所属する、本来は防衛政策に慎重なはずだったリベラル系の野党議員も呼応する。


「平和主義とは、虐殺を傍観することではない。現行法で可能なあらゆる手段を講じ、艦船を出すべきだ。与那国島、そして台湾の人々が、我々の決断を待っている!」


一方、夜明け前のワシントンDCでも、マークの地元カリフォルニア州選出の連邦下院議員ジュディス・レドモンドが、CNNの生放送で激昂していた。


「いいか、これは我々の誇るべき息子、マーク・ミラーが現場から命懸けで送ってきた『真実』だ! ポーカー大統領、ホワイトハウスの沈黙はもはや中国共産党《C C P》と同罪だ。今すぐ第七艦隊を動かし、この卑劣な封鎖を粉砕せよ! 自由を叫ぶ学生兵士を、我々は決して見捨てない!」


連邦上院の重鎮ハリス議員も、マークが撮った「暗闇の病院」の映像を背に会見を開いた。


「諸君、これを見たまえ。北京が隠したがっていた『隔離』の正体だ。我々が守るべきは株価でも貿易額でもない。『台湾関係法』を履行せよ。これ以上の躊躇は、独裁者への白旗と同じだ」


大手メディアも、この濁流に飲み込まれた。日本最大の発行部数を誇る日刊紙の記者は、編集局内で叫んだ。


「例の動画が来たぞ! 国際部、すぐに検証班を回せ。当局のプロパガンダじゃない、本物の台北の映像だ!」


モニターを見つめる若手記者が声を震わせる。


「これ、ニュース速報で流すべきです。検証を待っていたら、彼らの声はまた闇に葬られてしまう!」


米NBCのプロデューサー、サラもスタジオで指示を飛ばす。


「マークの配信を拾いなさい! ホワイトハウスの記者団に伝えて。ポーカー大統領に、この映像を見ても『当事者意識が持てない』と言えるのか問いただせと。これは民主主義の最前線が窒息している光景よ!」


東京のJR山手線車内、通勤ラッシュの静寂を無数の通知音が切り裂いた。


「……これ、今の台北なのか?」

「嘘だろ、無差別テロじゃないか」


あちこちで驚きと困惑の声が上がる。#TaiwanBreathing のハッシュタグは瞬く間に世界トレンド1位を独占した。渋谷のスクランブル交差点では、大型ビジョンの速報を見上げる人々が足を止めた。


「隣の国でこんなことが起きてるのに、俺たちはまだ『様子見』なのか?」

「与那国島もどうなっているんだ? 同じことが起きているんじゃないか?」

「いつまで中国の蛮行をそのままにしておくつもりだ?」


凍てつくマンハッタン、タイムズスクエア。巨大な電光掲示板に映し出された学生兵士の横顔に、若者たちが足を止めた。


「自由(Freedom)……。彼らは、俺たちが当たり前だと思っているもののために死のうとしている」

「これは民主主義への攻撃だ。なぜ彼らを窒息させたままにする?」


昼過ぎ、東京の永田町は凍てつく北風を吹き飛ばすほどの熱い殺気に包まれていた。日比谷公園から国会議事堂へと続く大通りを、数万人の群衆が埋め尽くした。

「……もう、見て見ぬふりはできない」

 

即席のプラカードを握りしめる女子学生が涙を拭った。


「祐希君の動画を見た? 私たちと同じ、昨日まで大学で笑ってた人が、あんな瓦礫の中で……。それなのに政府はまだ『注視』だけ? 恥ずかしくないの?」


 群衆の怒号が石造りの建物を震わせる。


「自衛隊を派遣せよ! 台湾の封鎖を突破しろ!」

「与那国を見捨てるな! 自国民を守れない国に未来はない!」

「総理、今こそ防衛出動を!」


国会正門前で「対話による解決を! 台湾への軍事介入は全面戦争を招く!」と叫ぶ平和主義団体の老活動家に対し、一人の若者がスマホを突きつけた。


「これを見ても同じことが言えるのか? あんたたちの言う『平和』は、台湾人と与那国島住民を見捨てて自分たちだけ助かるための逃げ口上だろうが!」


周囲からも「卑怯者!」「独裁者の手先か!」と激しい罵声が飛ぶ。圧倒的な「真実を知った国民の怒り」を前に、反戦グループは後退を余儀なくされた。

SNS上では、自衛隊員やその家族からも決意の投稿が相次いだ。


『最高指揮官の命令が下れば、我々はいつでも行く』

『与那国の同胞を救い出させてくれ』


これに数百万の支持が連なり、世論という名の猛獣が完全につま先立った。


「いいですか、これは他国の戦争への介入じゃない。日本の、我々の平和と尊厳を取り戻すための戦いなんです!」


演壇に上がった保守系の与党議員が叫ぶ。


「政府はただちに自衛隊に対し、与那国島救援および台湾周辺の航行の自由を確保するための『防衛出動』を命じるべきだ!」


わあぁぁぁ、という地鳴りのような大歓声。その熱気は、官邸の厚いカーテンを越え、総理の執務室まで物理的な振動として届いていた。


「……動かなければ、国民に焼き殺されるな」


官邸の窓から眼下の群衆を見下ろし、ある高官が低く呟いた。

デジタルな「呼吸」から始まった波は、ついに国家という巨像を動かす物理的な力へと変貌を遂げたのである。


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