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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第4章 窒息

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203Y年2月18日 台北

203Y年2月18日 台北市大安区 国立台湾大学


台北の街を巡り、地獄と誇りの断片を記録し終えた三人が大学のラボに戻ったとき、そこはもはや単なる学生の研究室ではなかった。暗幕で遮光された室内には、予備電源から引かれた数台のハイエンドPCが唸りを上げ、数人の男女が緊迫した面持ちで待ち構えていた。


「お疲れ様です。素材はすべてこちらへ。時間はありません」


声をかけたのは、国家安全局(N S B)第一処の国際情報工作専門家だ。その傍らには、外交部の北米司や東亜太平洋司で日米世論への広報(パブリック)外交(ディプロマシー)を担当する若手外交官たち、そして国営ニュースメディアである中央通信社(C N A)のベテラン国際部記者たちも控えていた。彼らは、マークが発見した「十五分間の針の穴」に、台湾の存亡を賭けた情報戦を仕掛けるための演出チームだった。


「いいですか、単に悲惨な映像を流すだけではダメです。それでは世界は数日で飽きる」


CNAの記者が、マークの撮影した「給水所に並ぶ老婆」のカットを繋ぎながら鋭く指摘した。


「日本人に届けるなら、感情的な共鳴が必要です。隣の国で、自分たちと同じ価値観を持つ人々が、これほど尊厳を持って耐えているという、静かな強さを強調してください。一方で米国人には、自由のための戦いと独裁による平和の虚偽を、もっとビビッドに突きつけるべきです」


外交部の女性外交官が、多言語字幕の作業を進める。


「英語字幕はより力強く、受動的ではなく能動的な言葉を選びます。日本語字幕は、現地のニュアンスを壊さないよう、丁寧かつ切実な表現に。……祐希さん、この日本語の言い回し、あなたの感覚ではどう響きますか?」 「……『助けて』ではなく、『私たちはここにいる』の方が、日本人の心には刺さるかもしれません。共に戦う仲間だと思ってもらうために」


祐希は、自らの母国の友人や家族の顔を思い浮かべながら、一語一語を吟味した。


チームは複数の短編動画を同時並行で制作していった。それらはすべて、マークが指摘した古いプロトコルでパケットを極限まで圧縮しつつも、スマートフォンの画面で最も衝撃的に映るよう、9:16の縦型動画へと最適化された。


台北駅の崩落した天窓の下で座り込む遺族、高性能爆薬C4が奪い去った「日常」との対比を描く、一分間の「台北爆破テロの真実」。

国立台湾大学医学院附設医院《N T U H》で予備電源すら底を突き、医師たちがペンライトを口に咥え、手動のアンビューバッグで患者の呼吸を繋ぎ止める執念の光景が映し出された「暗闇の病院」。

検問所に立つ予備役の青年や、炊き出しを行う西門町の店主の、「私たちは屈しない」という短い、しかし重い言葉を収録した「自由を諦めない市民たち」。


NSBの専門家は、単なる不特定多数への拡散ではなく、世界各国の「意志決定者」を直接撃ち抜かんとする拡散経路を提案した。


まず個人SNSアカウントから発信する。祐希、雨婷、マークの三人のアカウントを起点とし、友人や親族たちへ「拡散してほしい」という個人的な願いと共に送信する。だがそれだけではない。

政治家たちのアカウントにも、通信妨害の隙間を縫って奇跡的に届いた台湾在留邦人の悲痛な声として送り届ける。日本では、祐希の実家がある神奈川県内の選挙区を地元とする与党の有力議員、与党の外交部会や国防部会、あるいは保守系野党で親台湾・対中強硬派として知られる複数の中堅議員たちが対象だ。米国側では、マークの地元であるカリフォルニア州選出の連邦上院・下院議員や議会外交委員会の両党の重鎮たちへ。そして、NHKやCNN、BBCなど日米欧の放送局、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、日本国内の大手五大紙などの新聞社にも送信する。

台湾外交部は更に、山間部の限定的な秘匿回線を通じて東京とワシントンDCの「経済文化代表処」に予め連絡を取り、映像の送信先となる親台派政治家や記者たちに予め根回しをしておくよう指示していた。


「ハッシュタグを決めましょう。シンプルで、かつ現状を物語るものを」


NSBの専門家がホワイトボードに文字を書き込んだ。


#TaiwanBreathing (台湾は、まだ呼吸している)

#TaiwanSOS (台湾からの救難信号)

#VoicesFromDarkness (暗闇からの声)


「#TaiwanBreathing……いいですね」


雨婷が呟いた。


「窒息させようとする力に抗って、私たちがまだ生きていることを、世界中のタイムラインに刻みつける」


作業は深夜二時を過ぎても続いた。NSBの局員たちは、大陸側が現在どの帯域を重点的にジャミングしているかの最新データを、山岳地帯の観測拠点からリアルタイムで受け取っていた。


「……あと一時間。午前三時十五分に湿度がピークに達し、ジャミングの同期が一瞬乱れます。その瞬間、マーク君の端末から全パケットを一斉送信する」


ラボの外では、戒厳軍の兵士たちが銃を手に物理的な警備を続けている。その真ん中では、最も強力な武器――真実という名の弾丸が、装填されようとしていた。


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