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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第4章 窒息

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203Y年2月16日 台北

203Y年2月16日 中華民国/台湾 台北市


台北の街は「絶望」を日常として受け入れ始めていた。海上封鎖が始まってから数週間。計画停電の合間、人々はわずかな物資や情報を求めて外出し、あるいは行く当てもなく、かつて繁栄の象徴だった広場や駅にたむろしていた。しかし、その昼下がり。台北の心臓部は、物理的に、そして完膚なきまでに切り刻まれた。それは単なる封鎖を越えた、社会基盤そのものを崩壊させる「超限戦」の火蓋であった。


午後2時00分 中正(ジョンジェン)区 台北車站(台北駅)


最初の爆轟は、台湾最大の交通の要所、台北車站で上がった。吹き抜けになった巨大な中央ホールの北側付近、物資配給の情報を求めて数千人の市民が密集していた場所だ。ベンチの下、あるいは放置された荷物に紛れ込ませていたのは、高性能な軍用プラスチック爆薬「C4」と、殺傷能力を高めるための数万個の鋼鉄製ボールベアリングを仕込んだ即席爆発装置(I E D)だった。爆発の瞬間、猛烈な過圧(オーバープレッシャー)がホール内に伝播した。堅牢な大理石の床は一瞬にしてめくれ上がり、爆風はホールを囲むガラスの壁を粉砕。さらに台北駅の象徴である格子状の巨大な天窓が、衝撃波によって耐え切れずに崩落した。かつて旅人が座り込んでいた白黒のチェック模様の床は、一瞬にして数千の鋭利なガラスの雨と、黒煙、そして無数の人々の叫び声に覆われた。視界はコンクリートの微塵によって数メートル先も見えない、文字通りの地獄へと変貌した。


万華ワンホア区 西門シーメン


ほぼ同時に、若者の文化の聖地・西門町の入り口、MRT西門駅6番出口付近の広場でも爆発が起きた。設置されたのは、指向性を持つ成形炸薬だった。ターゲットは、西門町の入り口に聳え立つ巨大なデジタルサイネージの支柱だ。爆圧によって支柱がねじ切れ、電力を失い色彩を欠いていた巨大なスクリーンが、轟音と共に歩道へと崩落した。さらに、デモ隊と反対派が睨み合っていた広場の中央、マンホールの直下に仕掛けられたRDX爆薬が連鎖的に炸裂した。地下のガス管が誘爆を起こし、アスファルトを突き破って巨大な火柱が上がる。周辺の古い雑居ビルの窓ガラスは一斉に粉砕され、通りは飛散したコンクリートの破片と、無残にひしゃげた看板の残骸で埋め尽くされた。かつて「台湾の原宿」と呼ばれた色彩豊かな街並みは、一瞬にして爆煙の灰色に飲み込まれていった。


午後2時05分 信義シンイー区 信義商圏


さらに数分後、台北101を望む最新鋭の商業地区、信義商圏が火を噴いた。新光三越や微風ブリーズ・センターといった大型商業施設を繋ぐペデストリアンデッキ。閉鎖された店舗の軒下で、寒さを凌いでいた避難民や物資を待つ列を狙うように、デッキの構造上の接合部に仕掛けられた複数のTNT爆薬が連鎖爆発を起こした。 構造を支える鉄骨が剪断され、空中に浮いていた遊歩道が、避難民ごと地上へと叩きつけられる。高級ブランドのショーウィンドウは、内側から膨れ上がる爆圧によって弾け飛び、洗練された都市のデザインは、煤け、焼け焦げた鉄骨が剥き出しになる廃墟へと成り果てた。空からは、爆風で巻き上げられた数千、数万のパンフレットや紙屑が、まるで街の死を悼む灰色の雪のように、ひらひらと舞い落ちていた。


午後2時10分 中正区 善導寺(シャンダオスー)駅周辺


 「……危ない!」  


忠孝東路の一角、MRT善導寺駅の入り口付近を歩いていた桜木祐希は、背後から迫る異様な圧力を感じ、隣を歩く雨婷を歩道に押し倒した。刹那、世界が反転した。善導寺駅の向かい、行政院に近い位置にある古いオフィスビルの低層階が、凄まじい閃光とともに爆発したのだ。


 「……あ、……ぁ」


耳を劈く爆音の直後、祐希を襲ったのは完全な「無音」だった。爆風による急激な気圧の変化で鼓膜が悲鳴を上げ、脳が音を拒絶していた。視界は一瞬にしてオレンジ色の火炎と、それに続く濃密な灰色の煙に支配された。 爆風でなぎ倒された街路樹の太い枝が、路上に駐車されていたスクーターを飴細工のように押し潰している。近くの飲茶店の看板が文字通り吹き飛び、路上には鋭く尖ったタイルやガラスの破片が、散弾銃の弾丸のように降り注いだ。二人が訪ねようとしていた共通の友人の住むマンションも、衝撃波で全ての窓が失われ、黒い口を開けた不気味な骸のように立ち尽くしている。


祐希は朦朧とする意識の中で、顔を上げた。雨婷は彼の腕の中で震え、灰を被って真っ白になっていた。彼女の頬には、飛んできたガラスの破片で切ったのか、一筋の鮮やかな血が流れている。


 「……雨婷、大丈夫か? 動けるか?」


自分の声が、どこか遠い深海から聞こえてくるような感覚。視界の先、善導寺駅の出口からは、煙に巻かれた人々が這い出し、空を仰いで声にならない悲鳴を上げている。かつて平穏な信仰の場であった善導寺の白い外壁は、爆風で煤け、その威厳を失っていた。


台北。この美しき首都の至る所で、黒煙が幾重にも立ち昇り、冬の空を重く塞いでいた。もはや「封鎖」という言葉では生ぬるい、住民の心理的限界を破壊し、社会を機能不全に陥らせるための、明白な「殲滅」の意志。祐希は、震える雨婷の手を強く握り締めた。アスファルトから伝わる不気味な震動と、遠くで鳴り響き始めた無数のサイレンが、この組織的なテロがまだ序章に過ぎないことを予感させていた。



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