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T-DAY:台湾戦争  作者: 中央国家安全委員会主席
第3章 混沌

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203Y年2月5日 ソウル/ホルムズ海峡 

2月5日

大韓民国・ソウル特別市 龍山ヨンサン区 合同参謀本部

大韓民国国軍・合同参謀本部の地下バンカーに位置する戦闘指揮室の空気は、沸点寸前の圧力に達していた。

巨大なマルチスクリーンの中央には、半島を南北に分かつ、北緯三十八度線の非武装地帯(D M Z)が鮮血のような赤い線で表示されている。その北側、北韓(北朝鮮)軍の陣地に灯る無数の光点が、かつてない密度で南へと這い寄っていた。


「……情報司令部より緊急報告です。北韓軍の通信パターンが劇的に変化しました」


若手情報将校が、震える指先でタブレットを操作し、音声波形のデータをメインスクリーンに転送した。


開城ケソン方面の北韓第二軍団、および沙里院サリウォン方面の第四軍団において、戦時暗号を用いたバースト通信が爆発的に増加しています。これは『暴風』、すなわち全軍進撃の最終待機命令と酷似したシグナルです」

「後方軍団の動きはどうなっている」


合同参謀議長であるカン大将が、鋭い眼光を地図に向けた。


平壌ピョンヤン第三軍団、そして咸鏡道ハムギョンドの後方に控えていた第六、第七軍団の主力部隊が、既に列車および自動車での南下を開始しました。第一〇五戦車師団の熱源が、既に黄海北道ファンヘプクドの集結点へ到達したことを米国の衛星が確認。……これは単なる挑発ではなく、全正面からの南進を前提とした兵力展開です」


その報告を裏付けるように、DMZ全域から悲鳴のような警報が相次いだ。


坡州パジュ、第一歩兵師団前方の警戒所(G P)に対し、北韓軍の高射機銃による十数発の射撃が発生! 我が方の第一師団捜索大隊は直ちに重機関銃で応射、現在も断続的に交戦中です!」

江原道カンウォンド、第七歩兵師団セクターでも北の迫撃砲弾が飛来! 師団砲兵連隊のK9自走砲が、即座に対砲兵射撃を開始しました!」

「……始まったか」


カン議長は低く唸った。 西は開城から東は高城コソンまで、二百四十キロに及ぶ鉄のカーテンが、一斉に火を吹き始めたのだ。


西海ソヘNLLでは、北側の複数の海岸砲兵部隊が砲門を開放しているのが視認されました。延坪島ヨンピョンド近海で我が方の哨戒艇が、北の『ノンゴ級』ミサイル高速艇からロックオンを受けました。一触即発の状態です」

「警察庁からの報告では、仁川インチョン市内の海岸で不審な黒いゴムボートや水中スクーターが遺棄されているのが発見されており、北の工作員が浸透している可能性が」


その時、司令室のスピーカーから、さらに一段高い警戒アラートが鳴り響いた。


順安スナン付近より弾道ミサイル発射! 種類は火星ファソン12型改良型、中距離弾道ミサイルと推定。……方位東、日本列島・北海道方面へ飛翔中! 速度マッハ十五を突破しました!」

「日本越えか……これで日米の視線は完全に南西諸島と北の二正面へと引き裂かれる」


カン議長は、モニターに映る「北の怪物」の軌道を凝視した。 北韓軍の背後には、間違いなく北京の影がある。中国が台湾を飲み込むための『露払い』として、北韓に韓半島を地獄に変えろと命じたのだ。


「全軍に『珍島犬チンドッケ一号(最高レベルの非常警報)』を発令せよ。特に第七機動軍団は、北韓領内への反攻に備えて即時戦闘準備。首都防衛司令部は、北のソウル砲撃やテロに備えて関係当局と民間防衛計画を準備しろ。……我々は一歩も退かん」


ソウルの地下深く、カン議長の決断は、直ちに軍用回線を通じて、いくつもの前方師団で勤務する数十万人の将兵へと伝わった。 鉄原チョルウォンの平野では、第五歩兵師団のK2戦車『黒豹』がエンジン音を轟かせ、迫りくる北の機甲部隊を迎え撃つべく、その鋭い砲身を北へと向けた。


2月5日 ホルムズ海峡 国際水域


ペルシャ湾の出口、オマーン領ムサンダム半島の険しい岩肌と、イラン領ララク島に挟まれた世界で最も緊迫した水路――ホルムズ海峡。そこは、世界中の原油の約五分の一が通過する、人類の生命線とも言える「喉元」である。


その中央部の国際水域を、パナマ船籍の巨大タンカー「フォルモサ・エメラルド」が、三十万トンの原油を満載して低速で航行していた。船体には、台湾の大手海運会社のロゴが誇らしげに刻まれている。


 「……船長、水上レーダーに多数の不審な反応! 北、イラン領海側から高速で接近してきます!」


 ブリッジに二等航海士の悲鳴が響いた。ベテランのフィリピン人船長が双眼鏡を覗き込むと、エメラルドグリーンの海面に白い航跡を引いて突進してくる、十数隻の小型ボートの群れが視界に入った。イランイスラム革命防衛隊(I R G C)海軍所属の高速攻撃艇だ。


 「こちらイラン・イスラム革命防衛隊海軍である。貴船は不法な環境汚染の疑いがある。直ちに停船し、臨検に応じよ。繰り返す、直ちにエンジンを停止せよ!」


VHF無線の国際緊急周波数(ガードチャンネル)から、荒々しいペルシャ語訛りの英語が飛び込んできた。


 「こちらは国際航路を航行中の商用船舶だ! 汚染の事実はない。我々には航行の自由がある!」


船長が必死に叫ぶが、高速艇の群れはタンカーの巨大な船体を嘲笑うかのように、至近距離まで接近。一隻が、船体に向けて一四・五ミリ重機関銃を乱射した。


バリバリバリッ! という鋼鉄を削る乾いた音が響き、タンカーの分厚い外壁に火花が散る。同時に、上空から別の地鳴りのような轟音が近づいてきた。IRGCの旧ソ連製Mi-17ヘリコプターが、タンカーのデッキ上空でホバリングを開始したのだ。


 「……強行着船してくるぞ! 全員、ブリッジをロックしろ! パニックルームへ退避!」


船長の指示が完遂されるより早く、ヘリから吊るされたファストロープを伝って、黒いタクティカルウェアに身を包んだ革命防衛隊の兵士たちが、次々とデッキに降り立った。 彼らの手には、使い込まれたAK―47突撃銃が握られている。


「ドアを開けろ! 抵抗すれば命の保証はないぞ!」


兵士の一人が、ブリッジの強化ガラスを銃床で激しく叩きつけた。わずか数分後、制圧されたブリッジでは、船長たちが床に跪かされていた。


「……貴様ら、これが国際社会でどんな意味を持つかわかっているのか! これは国際法違反だ!」


船長が睨みつけると、IRGCの指揮官は、血の気の失せた冷たい瞳で窓の外、遥か東の方角を指差した。


「法律だと? そんなものは力を持つ者が決めることだ。……お前たちの会社は、北京の友人に多大な迷惑をかけている。我々はその『手伝い』をしているに過ぎない」


「フォルモサ・エメラルド」は航路帯を大きく外れ、イラン南部、ホルモズガーン州バンダレ・アッバース港を目指してゆっくり回頭していった。


遥か高空を旋回するMQ-9B「シーガーディアン」無人偵察機の高性能望遠カメラでこの光景をつぶさに把握していた米国中央軍(USCENTCOM)司令部と、在バーレーンの米国海軍第五艦隊司令部は、即座に中東域内の全部隊に警戒レベルの引き上げを指示し、アラビア海から遥か東方の台湾海峡へ向かっていたアーレイバーク級ミサイル駆逐艦二隻は、今度はホルムズ海峡へと舵を切った。

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