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新・私のエッセイ:3号館(No.201~300)

新・私のエッセイ~ 第277弾:夏目漱石先生の『こころ』に思う・パート3

 ・・・この長い小説について書くのは、


 これで三度目である。


 高校の現代文の教科書の定番なので・・・


 誰しも、


 一度は読んだ経験がおありのことと思う。


 ぼくも、高校2年のときに、


 はじめて教科書で読んで、


 かなりの「衝撃」を受けたものだ。


 ・・・『K氏の自殺』という事件にね。


 ともすればこの作品は、


 その一点のみに意識や着眼点が集中・収束しゅうそくしてしまい、


 物語全体を読むことがおろそかになり・・・


 『1本1本の木を見ることも大切だが、森全体も見よ!』


 『個別の、強烈極まりない事件ばかりを、注視・注目するな!!』


 ・・・と、


 作者である漱石先生に、


 厳しく叱責しっせきされかねない事態である。


 だいたいにおいて、


 『なぜ、K氏は死んだのか?』についての議論・推測・推理・憶測おくそく・審議・判定等々が、むなしく「ひとり歩き」し・・・


 空中で、ステレオタイプの「共通の話題」として飛び交い、


 読書感想文や書評のカタチでもって、


 文字・文章が紙やデジタル媒体ばいたいへと刻まれ、


 「記録」されつづけてきた。


 ・・・ぼくにとってそれは、


 あまり重要ではない。


 物語の『中核』『核心部分のひとつ』ではあっても、


 ぼくを魅了・刺激しはしないのだ。


 この小説において、ぼくがこよなく愛しているのは・・・


 物語全体に流れる、


 おだやかで、


 しずかで、


 知的で、


 しめやかな空気感・・・


 そして、『この物語特有の世界観』なのだ。


 『春のにぎわい』や、


 『夏の喧騒けんそう』ではない。


 木々が枯れ、


 落ち葉が木枯らしに舞う晩秋や初冬のさなか・・・


 雑司ヶ谷墓地で、


 亡き友をしのぶ、


 『先生』の暗いたたずまい、


 『私と先生』の、おだやかで親密だが、


 どこか「不思議で奇妙な」関係。


 ・・・流れゆく日々。


 それらが、


 たまらなく好きだ。


 心が落ち着く。



 『先生の奥さん』も『K氏』も、


 ぼくの心・・・魂をゆさぶることはできなかった。


 K氏のあとを追うようにして、


 冥府めいふへと旅立っていった『先生』・・・


 その遺志をたくされた『私』。


 先生が生前、ずっと孤独に背負い続けていた『罪業ざいごう』『罪の意識』『重い十字架』を知ってもなお、


 『私』の、


 先生への思いや尊敬の心は、


 いっさい変わることはなかった。


 ・・・亡くなった先生を軽蔑することも。


 作品全体に満ちているのは、


 『私』からの、


 亡き先生に対する・・・


 『愛のこころ』なのかもしれない。


 ・・・そしてぼくは思う。


 受け取った、先生から『私』への『最後のメッセージ』を読んで、


 先生のもとへ駆けつけた、


 『私』の悲しみを。


 ・・・喪失感を。


 先生の葬儀が済み、


 ただ涙と悲しみにくれる奥さんをなぐさめ、


 励まし・・・


 思い出すごとに『私』自身も涙し、


 やがて青年の『私』は、


 先生と同い年になる。


 先生よりも年上になる。


 ・・・結婚し、


 子供もできたのかもしれない。


 『先生の奥さん』も亡くなり、


 世に、


 『先生の遺志』を解き放つ時期・・・タイミングがやってくる。


 ・・・ようやくやってくる。


 「さいが生きている限りは、この手紙を世に出してはくれるな」という、


 男と男の約束を誠実に、


 固く守り・・・


 ひたすら封印し続けてきた『先生の遺書』を、


 こうして、


 後世のぼくたちの前に、公開するときがきたのだ。


 ・・・先生を回想する『私』のまなざしは、


 おだやかでやわらかく、


 そしてまた・・・


 あたたかい。


 ぼくは、


 そんなふたりの関係が、


 とてもうらやましい・・・。


 年を取っても、


 こうしてまぶたを閉じると、ありありと浮かんでくる・・・


 その人の記憶を呼び起こすたびに、


 つい、


 『先生』と呼びたくなる・・・


 そんなすばらしい、


 『人生の師』が、


 ぼくも、ほしかった・・・。


 m(_ _)m

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