夢現(ゆめうつつ)の歩夢〈あゆむ〉 〜僕の見る夢は現実になる〜
初投稿します。感想聞けたら嬉しいです。
1.『はじまり』
誰がこんなことを信じてくれるだろうか。
夢が現地に反映されるなんて、、、
藤原歩夢15歳 男
とりわけ、特徴のない陰キャないじめらっこ
今日も今日とて憂鬱な気持ちで登校し自分の席へ座り、机に顔をうずめて
気配を消して過ごす。
クラスメイト達が挨拶をし、雑談をしている。
「おい!根暗」
教室に響く大きな声で、声を掛けてきたのは
いじめっこ1号 如月喧耶だ。
寝たふりを続けたいがそうもいかず、起きる。
「どうしたの?」さも今起きたかのように、答える。
「どうしたの~?じゃねぇよ! お前昨日、綺麗な女と歩いてただろ」
昨日大学生の姉に傘を届けて、一緒に帰ったことをいっているんだろうか。
「姉ちゃんかな、、たぶん」
そう言うと、喧耶は一瞬ぽかんとした後、みるみる顔をしかめて笑い出した。
「ぷはっ、ははははっ! お前に彼女なんてできるわけねーよなぁ! 姉ちゃんかよ! だっせぇ!」
その声につられるように、取り巻き達もゲラゲラと笑い声を上げる。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる感覚――もう慣れたはずだったのに、やっぱり痛い。
歩夢は視線を机に落とし、黙り込んだ。
……そのときだ。
カランッ
机の上のペンが勝手に転がり落ちた。
いや、「勝手に」というのは正確じゃない。
転がるというより、「誰かが弾いた」ような速さだった。
「……え?」
小さく呟いたその声は、誰にも届いていなかった。
喧耶たちはまだ笑っている。
だけど、歩夢の視線は床に落ちたペンに釘付けだった。
……あれは、夢で見た光景とまったく同じだったから。
昨夜見た夢――
クラスでいじめられている自分。
喧耶が馬鹿にして笑う中、ペンが床に落ちて、そこから――
黒いひび割れが床を走る。
「……!」
目の前で、ペンの転がった先の床に――ぱきっと、黒い線が浮かび上がった。
ひびはじわじわと広がり、教室の床を這うように伸びていく。
誰も気づいていない。
見えているのは、歩夢だけだった。
心臓がどくん、と脈打つ。
嫌な予感しかしない。
けれど、目を逸らすこともできない。
――夢が、現実に反映されている。
「……なんで」
震える唇から、かすれた声が漏れた。
その瞬間――
ひび割れの隙間から、何かが這い出てこようとする気配が、ぞわりと空気を震わせた。
ひび割れの隙間から、黒いもやのようなものが、ゆらり…と立ち上った。
冷たい空気が足元から這い上がり、歩夢の全身に鳥肌が立つ。
そのもやは形を持たないまま、次第に人影のような輪郭を形づくっていく。
――ガタッ!
突然、椅子を蹴るような音が響き、喧耶がびくりと肩を揺らした。
「……おい、今なんか揺れたか?」
「え?なに? 地震?」
取り巻きたちもざわつきはじめる。
――でも、黒いもやには誰も気づいていない。
見えているのはやはり、歩夢だけだった。
(やっぱり……俺だけが……)
もやの目と思しき位置に、真っ赤な光点が二つ、ぱちりと灯る。
空気が凍る。
息を吸うだけで胸が痛いほどだ。
その瞬間――
2.『夢世界』
その瞬間――
「……ふじ……わら……あゆむ……」
低く、どろりとした声が歩夢の脳内に直接響いた。
鼓膜を震わせたわけではない。頭の奥に、直接叩きつけられるような声だった。
「ひっ……!」
喉がひゅっと鳴る。
全身が金縛りにあったように動かない。
「……おまえの……ねがい……は……?」
「ね、願い……?」
唐突に問われたその言葉に、歩夢は無意識に答えてしまいそうになった。
――喧耶たちなんか……消えてしまえばいい。
その黒いもやが、にぃ……と笑った気がした。
そして、世界がぱちんと弾けるように切り替わった。
次の瞬間、歩夢は――誰もいない教室に立っていた。
喧耶も、取り巻きも、先生もいない。
さっきまでいたはずの彼らの痕跡も、まるで最初から存在していなかったかのように消えている。
静寂。
時計の針の音すらしない。
「……消えた……?」
呆然と呟いた声が、広い教室に虚しく反響する。
そのとき、黒いもやが再び囁いた。
「――これが……おまえの……夢……」
教室は静まり返っていた。
時計も止まっている。
風の音も、人の声もない。
「……夢……世界……?」
黒いもやは、ふわりと歩夢の目の前に漂いながら、囁いた。
「ここは……おまえの ねがいが かたちになる ばしょ……
おまえが “現実”だと しんじたものだけが うまれる……」
「……俺の、願い……」
歩夢は手を握りしめた。
頭の奥に、ずっと押し込めていた言葉がこぼれそうになる。
――誰かに、優しくされたい
――誰かに、必要とされたい
――独りじゃないって言ってほしい
そのとき――
**ぱぁっ……**と、目の前の床に白い光が咲いた。
花のように広がる光の中から、ひとりの少女が現れた。
長い銀色の髪が、風もないのにふわりと揺れる。
透き通るような白い肌に、静かな湖のような碧い瞳。
「……あなたが、呼んだの?」
鈴のような声だった。
少女は歩夢をまっすぐ見つめ、柔らかく微笑んだ。
歩夢は、呆然として言葉が出ない。
けれど、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「わ、わかんない……でも……君は……」
少女は歩夢に一歩近づき、そっと右手を差し出した。
「わたしは《セラ》。
あなたの夢が生んだ、“願いを叶える導き手”……だと思う」
「ガイド……」
「うん。
この『夢世界』で、あなたの心が望むことなら、すべて現実にできる。
でもね……」
セラは小さく首を傾げ、その瞳に一瞬、翳を落とした。
「――“望み”は、代償と引き換えに叶うの」
「……代償?」
「そう。
ひとつ願いを叶えるたびに、あなたの『現実の記憶』が少しずつ消えていく……」
歩夢の背筋に、冷たいものが走った。
記憶が……消える……?
でも、それでも――
(喧耶たちに馬鹿にされない自分になれるなら……
消えても……いいのかもしれない)
そう思った瞬間、セラはにっこりと微笑んだ。
「……さぁ、歩夢。
最初の『現実』を……書き換えてみる?」
気づくと歩夢は――さっきまでいた教室に立っていた。
窓から差し込む光、時計の針の音、ざわめく声……
喧耶たちも、いつものように騒いでいる。
(……夢は、終わった?)
そう思ったそのとき。
「――おはよう、歩夢!」
突然、後ろから明るい声が飛んできた。
「お、おはよう……?」
振り返ると、クラスメイトの何人もが笑顔で手を振っていた。
さっきまで無視していたはずの彼らが――まるで、ずっと仲の良い友達だったかのように。
「昨日のサッカー、お前マジで神セーブだったよな!」
「今日の昼、一緒にコンビニ行こうぜ!」
「ノート写させて〜、歩夢の字きれいだからさ!」
次々と声がかかる。
胸の奥が、熱くなる。
(……本当に……現実が、変わった……)
視線を教室の隅にやると――
誰にも気づかれず、セラが窓際に座って微笑んでいた。
彼女は口元に人差し指を当て、そっと「内緒だよ」と囁く。
歩夢はうなずいた。
そのとき、ふと――頭の中に小さな空白があることに気づく。
(……あれ……俺……今朝、何を食べたっけ……?)
思い出せない。
胸の奥が、ほんの少しだけ冷たくなる。
でも――今は、それ以上に嬉しかった。
ずっと夢見ていた「普通の輪」に、やっと入れたのだから。