11話 落ち着け
「もちつけ!!」
いや、僕が落ち着くべきでしたね。読者さん達はこんなやり取りをどんな感情で読めばいいんでしょうね。
「あの時の俺らとはひと味もふた味も違うぜ?ゼッテーに許さねぇ!」
「ダッ」
先駆はルシファーに勢いよく近づく。先駆のスピードは舞武の瞳にはっきり見えたものではなかったがただ一つだけ分かったことがあった。
「先駆!危ない!」
そう口にするも既にときは遅かった。先駆はきれいに弧を描いて殴り飛ばされる。先駆は額から血を流しながらもきちんと受け身をとっていた。
「感情的になってはいけない。落ち着くんだ。」
(そうだ、今俺が口にした通りだ。落ち着け。落ち着くんだ。怒りは冷静な判断力を奪う。『心は熱く頭は冷静に。』経済学者、アルフレッド・マーシャルの言葉だ。よし、これがパッと出てくるのであればまだ我を忘れて怒り狂っているわけではない。俺は落ち着ける。)
「計画はあるのか?2対2で更に相手は格上。きちんとした計画性がなければ命を棒に振ってるようなものだぞ。」
悪魔が声をかけてくる。舞武はその発言に呆れる。
「命のやり取りなんだよ。計画性はなくともドロップのタイミングを見誤ることは無いと思いたいね。所持金がゼロになったら意味がないんだから。次のゲームにかければいい。」
「貴様らは趣味でよくポーカーをやっているが口でいうほど上手くは無いだろう?俺が貴様らからドロップする結果にならなければいいが。」
「安心しやがれ。絶対にレイズさせてやるからよ。」
「炎龍!」
炎で出来た龍は更に温度を上昇させながらルシファーと風音を包み込もうとしていた。
「こんなぬるい攻撃で僕に勝とうというのかい?」
ルシファーに片手で軽くあしらわれてしまう。
「おらぁ!」
先駆がもう一度二人に向かって突撃した。ルシファーは顔をしかめる。
「何度突撃しようと結果は同じだよ。そんな事も分からないとは君は実に馬鹿だよ。頭にまで筋肉が詰まっているのかい?」
ルシファーは先駆をまた殴り飛ばそうとする。
「ビュウンッ」
一陣の風が吹きルシファーの拳と風音は吹き飛ばされた。
「頭の硬い発想力のないやつに言われたくはないぜ。」
先駆はそのままルシファーを蹴り飛ばす。彼は少し動いただけだったがダメージが全く入っていないというわけでは無さそうだった。
「背中は頼んだぜ?」
「分かった!」
先駆は風音の方へと駆けていく。拳を握りしめ、先駆は突撃する。
「ガシッ」
先駆の拳は風音に受け止められてしまう。彼はそのまま放り投げられた。宙を舞いながら先駆は風音に向けて人差し指を向ける。
「一筋縄ではいかねぇか。でもよ!ここまで想定内だぜ?竜巻!」
先駆の指から風の渦が生み出され風音は避ける余裕がなく仕方なく両腕で受け止める。
「ビュンッ」
(後ろ!?)
先駆は蹴り飛ばされて壁に激突する。彼の動きは先駆にすら見ることが出来なかった。
「早いな。ただどこから来るか分からなくてもよ・・・。」
またもや風音は消え去る。
「ビュウンッ」
先駆は全身が風で包まれた。
「どこから来ても俺に触れるにはこの風を突破する必要があるぜ?」
「いい魔法だね。羨ましいよ。僕にもそんな魔法が使えたら良かったのに。」
彼らの戦闘は攻撃を最低限受けたとしてもいかに最大限の攻撃で返すのか、という戦いだった。それに対し舞武とルシファーの戦いはいかにダメージを最小限に抑えるか、という戦いだった。
(俺が鎌や炎で連撃を繰り出しても全てを受け切られる。それに対しルシファーの攻撃は確実に少しずつ俺にダメージを与えている。)
舞武はジリジリと負けそうになり焦ってしまう。
(焦っては駄目だ。落ち着くんだ。落ち着けば勝てない相手などではない。)
「おしゃべりは嫌いかな?」
ルシファーが舞武に語りかけてくる。正直それはとても鬱陶しかった。
「別に。嫌いじゃないよ。」
「ああ、ごめんね?喋る余裕が無かっただけか。」
(相手は意図して煽っている。挑発に乗ってしまったが最後もう勝ち目はないだろう。)
「!?」
いつの間にか舞武の視界は壁で埋め尽くされていた。
(そうか、俺は無意識の内に挑発に乗っていた。戦いに集中できていなかった。その時点で負けていた―――いやまだだ。追い詰めたと思っている今こそ最大の隙が発せられるそこを狙うんだ。)
舞武が体の中で魔力を貯めていることにルシファーは気が付かない。ルシファーが鎌を振るったその時だった。
「炎龍の反し蜷局!」
舞武の背中に魔法陣が現れそこから炎龍が飛び出す。舞武はそのまま前方に突撃し、体をちじ込めて壁を勢いよく蹴りルシファーの方へと勢いを変えてみせる。
「首を切れる!」
「ザクッ」
肉を裂く音が聞こえる。勝てたのだと舞武が喜びに浸ったその時だった。ドスッと鈍い音を立てて舞武は倒れ込む。その手刀を振り落としたのは風音だった。
「危なかったよ。体を捻らなければもうすぐで切り落とされてしまうところだった。」
(先駆はどこに・・・。)
その時舞武の視界の端には血溜まりに転がる先駆の姿が見えた。ルシファーは風音に話しかける。
「君の成長のために活きが良いままとどめを刺さずに待っていてよかったよ。正直隙だらけで見れたものではなかった。君はよく頑張った。とどめを刺してくれ。それも君の仕事だ。」
風音の刃が振り下ろされるその時だった。
「ガッ」
誰かがその刃を受け止める。
「騒がしいと思えば悪魔の仕業ですか。日本魔法学校中等部3年稲光 雷[いなびかり らい]の名に賭けて、私があなた達を成敗いたしましょう。」
そこにいたのはまた一人の少年だった。金色の髪が似合っている。彼の左目はぐるぐる巻きにされた包帯隠されている。突然の乱入に舞武は驚かされた。
「君は誰かな?まあ殺してしまえば誰なのかも関係ないよね。」
「私を殺す?殺れるものなら殺ってみてください。私の刃があなたの首に届くほうが早いでしょう。」
彼の右目はギラリと光った。
ポーカーって難しくないですか?どうか読者の皆さん、僕からドロップしないでください。絶対に後悔はさせませんので!・・・多分




