1話 7不思議
1話まるまるプロローグですが是非読んでいただければ幸いです。
「キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン」
昼休みの終わりを鐘は告げた。
「んーっ。」
俺、可解 らんぶ[かかい らんぶ]は息を吐きながら伸びをした。
(もうちょっと寝たかったな。今日の夜は長いだろうから)
らんぶは教科書を用意しながら考えた。彼は母親と弟と3人で仲良く暮らす中学二年生だ。普通とは言い難い人生だったが友人には常に恵まれていた。
「早く教科書を準備しないと授業に遅れるぞ。次の時間は美術室なんだから急いでくれ。」
「ごめん霧。ちょっとだけ待って!」
彼の名前は明日明 霧[あすあ きり]。容姿端麗で高身長、さらに性格もよく美術部所属で絵が上手い。長々と言ったが要は――― モテる。
「お前はさっさと起きるんだなゴリラ。起こさなきゃ授業そっちのけで寝たまんまだからな。」
「先駆は起こしても授業中に寝ちゃうと思うけどね。」
らんぶは苦笑いした。霧が寝ている男の頭をポカリと叩く。
「痛ってえなぁ。何してくれんだよ。これ以上頭悪くなったらどうすんだよ。」
「もうこれ以上悪くなる頭もないだろう?」
霧の発言に義死見 先駆[ぎじみ せんく]はムッとした。霧は先駆にだけ少し意地悪をするクセがある。
「まぁとりあえず授業に向かおうよ。時間もないしさ。」
「そうだな。じゃあ美術室まで競争な!よーい、ドン!!」
「おいっ。廊下は走るな。」
そう言いながらも霧は走って追いかける。
「待ってよ。」
その二人をらんぶは笑顔を浮かべながら追いかけた。
◇◇◇◇◇
「やっと部活まで終わったな。マジ長過ぎたぜ。」
先駆が呟く。
「静かにしろ。俺達は今不法侵入してるんだからな?夜中の学校に残ろうとするなんて警備員にバレたらどれほど叱られることか・・・。」
彼らは今日学校で7不思議を確かめるためにここにとどまったのだった。
「どこから行こうかなあ。」
「やっぱいちばん有名な花子さんじゃね?」
「バカ言うなよ。花子さんが現れるのは旧校舎3階女子トイレ。他で出なかったときに最後に仕方なく向かうところだ。最初から行こうとするんじゃない。」
霧が呆れる。
「最上階の四階から下って行くのはどうかな?新校舎と旧校舎は繋がってないから最後は外に出ないといけないから最後は一階のほうがいいんじゃないかな。」
「それが良さそうだな。それなら最初に階段を登るときに13階段、次に理科室、そして音楽室で美術室・・・みたいな流れか?」
「まぁそんな感じだろ。そっから先は後で決めればいい。とりあえず階段だ、階段!」
「いつもだったらしっかり計画を立ててというところだが俺もワクワクするな。先に向かってから考えても遅くないだろう。」
「さぁ。校舎の中に入ろう。」
らんぶは二人を促した。
「うっわ寒っ。」
校舎に入った途端あたりが急激に冷え込み先駆は思わず叫んでしまった。
「まずは階段・・・。」
「13段目を踏むと異世界に連れて行かれるらしいな。」
怖くなり、らんぶはゴクリとつばを飲む。
「グダグダ言っててもなんにもなんねえ。行くぞ。」
先駆に声をかけられ、らんぶは目を瞑り恐る恐る足を踏み出した。
「1、2、3、4、5・・・」
3人の互いの声だけを心の拠り所として歩みを進める。
「8、9、10、11、12、13!」
(本来ならここが踊り場のはず・・・)
らんぶはあるはずのない14段目を目掛けて左足を振り下ろした。
「ガコッ」
らんぶ達は思いっきり足が床に激突した。右足は既に踊り場の上にある。
「うーん。最初は外れちゃったか。」
「外れるくらいがちょうどいいからな。肝試しに来てるものの本当の怪異に出会ってしまったら困る」
「そーゆーのは口にしないのがお約束だろうがよぉ。」
先駆が項垂れて呟く。
「そういう先駆もお約束とか言ってるんだから信じてないんだろう?」
「・・・確かに。」
霧の発言にらんぶは気が付かされる。
「いいんだよ。とにかく次だ次ぃ。」
先駆は恥ずかしさを隠すかのように早足で理科室に向かった。
「ガラガラッ」
理科室の扉が音を立てて開く。さらに冷気が流れ込んできたかのようにらんぶは感じた。中はシーンとしていて怪異がありそうにもなかった。
「人体模型が動くって話だったがこれもウソか。」
「もう全部ウソなんじゃね?」
「一応次の音楽室も行ってみよう。」
らんぶがそう口にした矢先だった。
「ガコッ」
何かが動く音が理科室の中に響き渡った。3人は思わず人体模型の方を見た。全員が驚きを隠すことが出来なかった。
「少しだけ位置がズレてる?」
「はっ。ま、まさかそんなわけ。」
「ガコンッ ベリッ」
「ひっ。」
人体模型の皮膚が剥がれ落ち、それは骸骨となり動き出した。
「うわああああああああああっ。」
先駆は思わず叫びだし理科室から飛び出していった。霧の姿は既にいつの間にか消えていた。
(逃げないと・・・)
らんぶはそう頭では分かっているものの尻もちをついてしまい恐怖で震えて体は微動だにしなかった。
「ザッ ザッ」
骸骨は足を引きずりながらも少しずつらんぶに近づいていく。
(近づくな!やめてくれっ。)
そう思ってもらんぶの口からはヒュウヒュウと声にならない声が溢れ出す。
(ここでおしまいなのか?止め――)
そこでらんぶの意識は途絶えた。
長かったので2話はプロローグの続きにします。