スキル【検索】はどないもならへん
「ケン〜! ちょっとこれ読み上げてみてや」
地面にズラズラ書いた字。
今度こそ大丈夫やと思うねん。
『一、二、三、四、五、解読不可能、七……』
「あ、そこ間違うとったか」
自分の名前と数字と単位くらいわかるようにならなと思てんねんけど。
大人んなってから知らん言葉覚えんのって、ほんま大変やねんな。
まぁ覚えられへんのはアホやからかもしれんけど。
「ぴぴっ、ぴゅい!」
セバスちゃんが羽でバサバサして消してくれる。
まっ白やから汚れる言うとんのに。いっつも手伝うてくれんねんな。
「ぴっ!」
「わかっとるて。もっかいやるわな」
せやけど。なんかちょっとスパルタなん、気のせいちゃうよな……。
なんか異世界転移ってやつをしたらしく。ある日突然まったく知らん場所に来てた。
そこでキラキラした人型が説明してくれたんやけど。
私は【検索】ってスキルが使えるんやって。
スキルのことは短くケンて呼ぶことにした。
ケンはなんかに書いてあることやったら調べられるらしいねんけど、ほんま融通利かんくて。
結局こっちがいちいち指示したらなあかん。
しかも鑑定と違てそのものを調べるんやなくて、書かれてあることと比べとるだけやから結構間違っとるし。
スキルも進化するて聞いたけど。
今んとこケンはどないもならへんな。
あのあと間違えんと書けるようになったからか知らんけど、やっとセバスちゃんに許してもろた。
あ〜あ、もう。羽で字ぃ消すから土まみれやん。
そこに川流れとるからええけど。
場所によっちゃ流してあげられへんねんから。
「セバスちゃん。身体洗いに行くで」
「ぴぃっ!」
ええ返事してから、セバスちゃんは私を追い越してった。
前をちょこちょこ走っとんねんけど。あほ毛と尻尾の羽根がピコピコなっとんの、めっちゃかわええなぁ。
セイバットゆう魔物のセバスちゃん。
なんや懐いてくれたから、一緒に行くことにした。
見た目は手乗りサイズのぬいぐるみのシマエナガやけど、色々進化するらしい。
まぁセバスちゃんは雛やから、まだまだ先の話やろうけどな。
川の浅瀬でセバスちゃんを洗て、ちょっと奥の方で水も汲んでくる。
最初にもろてた皮の袋だけやと足りんくて、大きいんと小さいんを買い足してんけど。
フルで入れたら当たり前やけど重いねんな。
せやけど飲むんも手ぇ洗うんも全部この水使わなやし。
ここ来るまでは現代人やっとったから、それなりに清潔さは気になんねん。
川の水もきれいやし、使える水があるだけマシやけねんけど。
もうちょい水事情ようなってくれたらありがたいんやけどな。
「ケン、明日にはどっか着けるて言うとったよな。どんくらいに着くん?」
『明日の六セッターにシャーラムに到着予定です』
六セッターてことは、お昼過ぎてからやな。
向こうでゆう何時の部分がこっちではセッターやねんけど。一日を十に分けとんねんな。
そんで一セッターは五十メッターで、一メッターは百モッター。
……ややこしいやろ。
絶対聞き間違えるやん。
ケンに何っ回も聞いて最近やっと覚えられてんけど。
ここの人らて記憶力ええんか聞き取り能力高いんかどっちかちゃうやろか。
私何回も聞き間違えたで。
しかも距離かてリッターに……ってあかん忘れた。なんやこっちもッターばっかりついとんねんもん。わけわからんから覚えんのあとまわしにしてん。
ほんま皆ややこしないんか思うわ。
それとも最初っからこれやったら気にならんのかな。
正直一日が二十四時間かどうかもわかれへんねんし、もう素直にこっちの時間感覚に慣れなしゃーない。
ケンに聞いたら時間も教えてくれんねんけど、いちいち聞くのもめんどいし、携帯用の時計もあるみたいやからそれ買おかな思てて。
けどなんや結構お高いんよな。
ケンがまた変なとこから調べてきとるだけやったらええねんけど。
ほんまにそんな値段やったら、かなり稼がな買われへんわ。
まぁ急ぐもんでもないんやけどな。
シャーラムはちっちゃい村やった。
「ボウズ、ひとりか?」
最初に会うたガタイのええ髭のおっちゃんが声掛けてくれたんやけど。
……まぁわかるんやけどな。
童顔やし。身長低いし。……胸ないし。
実際向こうでも女に見えへん言われてたもんな。
旅の途中に寄ったって言うたら、村役場開けてくれた。
ギルドの支部は村役場が兼ねてんねんて。ちっちゃい村や町やとよくある話みたいやな。
「これ登録証です」
名前書かれた登録証を渡したら、それ見たおっちゃん、途端に微妙な顔になった。
「……わりぃ。嬢ちゃんだったか」
その『嬢ちゃん』て何歳ぐらいや思て言うとんねやろな。
一応立派な大人やねんけど。
「慣れてるんで気にせんでください」
「ぴぴぃ……」
セバスちゃん、ドンマイ、みたいに鳴かんといて。
時計買いたいて話したら、おっきい街やないと売ってへんねんて。
相場もケンが言うとったくらい。旅生活やったらこんなんがええやろてのも教えてもろた。
まだまだ足らんし、お金稼がんとなぁ。
おっちゃんに仕事ないか聞いたら、草むしりしかない言われた。
なんや繁殖力の強い草が畑にはびこって困っとんねんて。
今は白い花咲いとるからすぐわかるらしいし。ケンに聞かんでもいけるやろ。
前そっくりの雑草ん中から薬草探すやつやった時、ケンのやっちゃ、見せる度にちゃう答え言うてきおったからな。
ほんま当てならんわ。
おっちゃんが村のすぐ隣の畑に連れてってくれた。
真ん中が畑なんやろけど、どこが境目かわからんくらい白い花が咲いとんな。
ほんで隣の畑も向こうの畑も似たような状況みたいやし。
辺り一面白い花の花畑みたいになっとった。
おっちゃんが作業しとるおばちゃんらに紹介してくれて、あとはおばちゃんらに聞いて言うて帰ってった。
おばちゃんは四人。畑は村の共有財産やから、皆で作業しとるんやて。
作業は至って簡単。白い花の草を引っこ抜くだけ。
おばちゃんらと並んで話しとってもできる仕事でよかったわ。
「これってなんて草なんですか?」
「これかい? ヤバラミだよ」
ヤバいんかい。いや確かにヤバいけど。
「えらい量ですね」
「そうなんだよ。もうきりがなくって」
ブチブチ根っこを引きちぎりながら、右隣のおばちゃんがボヤく。
「もうここ数年これに振り回されてばかりで。うんざりするよ」
「数年前からこんなにすごいんですか」
ちっちゃい白い花はかわいらしいんやけど。おばちゃんらからしたら見たくもないんやろな。
「いや、こんなになったのは去年からなんだけどね。ちゃんと芽が出るか心配してた頃が懐かしいよ」
どっかの国から来てた人に、親切にしたお礼かなんかで種もろてんて。
薬効あるお茶になる言うてたらしねんけど、不味いわ効果ないわで持て余しとるうちにこんななってしもたんやて。
てゆうかヤバラミもその国やとヤバないんやろけど。ここやと完全にヤバい植物やんな。
「鑑定してもらっても間違いないって言われてね。街の図書館でも調べたんだけどわからなかったんだよ」
「せやったんですね」
そん人もちゃんと使い方教えといてくれたらええのに。お礼の気持ちやったんやろうに、これやと浮かばれへんよな。
「ぴぴっ」
て勝手に殺すなてな。
ちゅうかセバスちゃん、めっちゃええタイミングで鳴きよんな。
ツッコミの素質あるんやない?
そんなこんなで半分くらい引っこ抜いたとこで、おばちゃんらが休憩しよ言うてくれた。
おばちゃんら、家からお茶と甘いもん持ってきてくれんねんて。
甘いもんてなんやろ? 無難なとこで果物やろか? お菓子出てきたらめっちゃ嬉しいねんけど。
ケーキどころか、チョコもクッキーも食べられへんもんな。
どっかには売ってたりするんやろか。
「なぁケン、チョコってあるん?」
目の前に画面。あぁもうそうやったなほんまに。
「読み上げてて」
『チョコはハウンド地方の特産物で――』
あるんや!
『――軽く炙って裂いて食べるのが一般的です』
…………スルメやん。炙って裂くてまんまスルメやん。
いやスルメも嫌いやないけど。ないねんけどな。今は違うやん。
喜んで損したわ。
「ぴぴぃ……」
せやからセバスちゃん。余計むなしなるからドンマイやめてて。
すりすりしてくるセバスちゃんをわしゃわしゃしたって落ち着いたとこで、ケンに聞こ思てたことあったん思い出した。
「ケン、ヤバラミのお茶の作り方てわかる? 読み上げてな」
『該当数は約十二万件です』
十二万?
「なんでそんなにあるん?」
『ヤバラミはコルコラーム国全土に自生する植物で、現地では日常的に茶葉として利用されています。茶葉への加工は各家庭で行うため、それを記したものの数が十二万だと推測されます』
要するに家庭料理みたいなもんてことか。
コルコラームて国がどこにあるか見せてもろたら、だいぶん遠くのちっちゃい国やった。
せやから図書館に資料とかもなかったんやろな。
お茶にする方法わかりそうやけど。十二万も見てられへんし。
なんや上手いこと絞られへんかな。
「ほんなら、大体の作り方に共通しとることてわかる?」
家庭料理みたいなもんなら、多少は違ててもそんなに差ぁないやろし。基本的な工程は同じとちゃうやろか。
『多くに共通する工程は、葉を摘む、洗う、干す、蒸す、揉む、乾燥させる、というものです』
お、ええ感じに出たやんか!
もうちょい詳しぃ聞いといて、おばちゃんらにこれやってみたら言うてみよか。
おばちゃんら戻ってきて。四人全員これ食べて言うていろいろくれた。
甘いもんはやっぱ果物やな。見た目ブドウっぽいんと桃っぽいんと見たことない細長いんと。
あとはお茶。そういやお茶はどこで飲んでも紅茶っぽいんよな。
皆で果物つつきながら、ヤバラミのお茶をどんな風に作っとったんか聞いてみたけど。
そのまま淹れたり干したり揉んでから干したりしとってんて。
「私調べる系のスキル持ちで。なんや蒸したらどうかて出たんですけど」
「蒸すの?」
「したことないけど、どんな風に?」
おばちゃんら喰い付きええなぁ。
ケンから聞いたん話すと、早速やってみよ言い出した。
「今日中にはできないだろうし。リンちゃんよかったらうちに泊まって」
「それなら広場で説明と作業がてら皆で食事すれば?」
「いいねぇ! 持ち寄って皆で食べようか」
なんや急に賑やかんなったけど。
おばちゃんら、皆楽しそうやな。
そっからは大忙しやった。
村の人総出で、引っこ抜きまくったヤバラミの葉っぱ取って洗ろたり干したり蒸したり揉んだり食べたり飲んだり喋ったり。
十五軒しかあらへんちっちゃい村やけど。
ほんま皆明るぅて元気やな。
子どもらが頑張って扇いでくれた、ちょっと乾いたやつでお茶淹れてみてんけど。
今まで見たことない色と味やて皆興奮しとった。
効能あるかはまだわかれへんけど、飲めるお茶にはなりそうやな。
引っこ抜いてもうた分はやってまおてことんなって。結局その日は夜通し作業しとったけど。
皆全然疲れた顔しとらんくて。
祭りみたいに楽しそうにしとった。
次の日は皆交代で休んで。
私が村を出たんはそん次の日。
お土産いっぱい持たせてくれた。
ほんまありがたいわ。
念願の甘いもん、パンケーキみたいなんも食べさせてもろて嬉しかってんけど。
それよりあの細長い果物がめっちゃ美味しかってん。その辺で採れるからええよ言われたから思っきし食べてもた。
食感はライチで、味は桃とマンゴー混ぜたみたいなんで。
シルドゆうねんて。
どっちかゆうとソードやろ思うんやけどな。
見た目はバナナまっすぐしたゆうか、砂浜で穴に塩入れると出てくる棒みたいな貝。固い殻ん中に半透明のにゅるんとした実が入っとんのもそれっぽいねんな。
あんま見ると食べる気なくすから、見たあかんやつやけどな。
完全に乾燥してへんかったけど、またお茶も淹れてくれた。
なんやすっとするような味しとった。
これやったら普通に飲める言うて、皆喜んどったわ。
乾燥さすのにちょっと掛かるけど、できたお茶っ葉あげるからまた来てな言われた。
皆ええ人やったなぁ。
田舎帰ったみたいやったわ。
まぁ田舎ないからどんなもんか知らんけど。
時計も買わなやし、とりあえず予定通りおっきな街目指してこか。
「ケン、こっから一番近い町までどんくらい? あ、道沿いのやで」
……せやったな。なんも言うてないねんから、地図だけ出すわな。
「読んでて」
『現地点から道沿いにある町村で一番近いものはシャーラムです』
「今出たとこやん。なんで戻んねん」
「ぴぴぃ……」
ケンもセバスちゃんも、多分私も相変わらずやけど。
まぁ、気楽にいこか。
お読みくださりありがとうございました。
前日譚のリンクが下↓にあります。
旅の始まりと、セバスちゃんとの出会いのお話です。