レポートは自分の足掛かり(ゾルサリーノ)
正門を抜け、周りを見渡すと、正面に訓練場や射撃場に通じる本道とその道中に枝分かれし、寮やPXといった施設に繋がる支道がアリの巣のように絡み合う。
ソウスケは僕には目もくれず、本道に向かい走る。ただ単に寮へ帰るような温厚さはなく、必死さだけが見て伝わる。
本道を抜け、訓練場から通じる寮と隣り合わせの獣道。そこにはここ何十年も整備されていない<第三武器庫>と書かれた看板が目立つ3階建ての建物が、密かに聳え立つ。
そこでソウスケは立ち止まり、後を追う僕を待っていた。
「……行くぞ。」
そう言った彼は、階段の横にある石畳に目を向け、手慣れた様子で地下へと続く道を作った。
古びた階段と錆びたランプ、虫が湧いた木製の壁。
その先には中央のデカデカとした机に図面を広げて口論する二人と、ランプを直す翔太の姿がある。
ソウスケは即座に口論の輪に入り、図面を指して何かを言っている。
「できた〜!!」
翔太はランプを両手に持ち、上に掲げてそう言った。口論する三人は特に気にせず会議を続け、少ししょんぼりした翔太が目立つ。
一方、僕は何もわからないままである。
「お前もこっち来いよ。」
前まで口論して来た中の一人が言うのだから仕方がない。僕は、空いているスペースから図面を見た。
五つの大陸国図の中には、数字と記号が区画ごとに乱立していて、一見読み取れそうにないのだが、スラスラと読めてしまう。元の僕がいかに熱心な心でこの地図を見てきたかが分かる。
どうやらこれは各国の国境を表しているらしく、記号の間に線が引いてあるのがその証拠。そして重要な施設や都市は、記号や数字を割り振れられている。
「この課題だるいよな〜。」
僕の肩に体重を乗せ、前屈みで地図を見る。
「課題って?」
「魔界と人間界の違いをレポートにして書くやつ。」
「あ〜ね。」
「とりあえずいつものやっといて。」
振り返り様に資料を手渡した。おおよそ1000ページはあるだろう。いつもの、というのは分からないが少なくとも激務である事は確実。
授業から解放されたと思っていたが、こんな罠があったのか。
仕事を与えられ、一時間が経過した。辺りには地図と学校の教材が散らかり、それでも三人は熱弁を続ける。
作業前はふざけていた木谷も、今は僕と一緒に資料を整理していた。
どうやら僕と面識のない二人は高2で僕たちの1つ上の先輩らしく、そして二人共々西方戦線を担うソルベン帝国出身の留学生らしい。
……それだと合点がいかない。国の防衛を唯一執行できる機関に、留学生など余程な平和大国か千年由来の友好国でしか実行できないだろう。
学校も、教室も、言語も、人も、全てが僕がいた国に順次している。そんな中、強制的とも言える協力をせざるを得ない。
現実世界と酷似した異世界と、些細ながらも圧倒的な矛盾。それには矛盾以上の要因が必要となる。
「魔界と人間界、それに全てが記してある。」
現時刻19時00分、僕は異世界という遠国の地でたった一人。戦わなければならない。何かもわからない感情の中で………