僕の性格、自分の性格(ゾルサリーノ)
「お前今日元気ないやん、珍しい〜。」
「え?」
僕が重度の授業過多によって項垂れていると、彼は僕の目線に合わせるように姿勢を低くして話しかけてきた。
今自分が憑依しているこの人物は、学校生活に関する一部の事以外、忘れてしまっている。だが、クラス名簿から察するに彼の名前は木谷 翔太と言うらしい事は分かった。
「いつもだったらオネェ口調でダル絡みしてくるのに、今日は来ないやん。」
「なんだよそれ……」
その瞬間日常会話の異変を察知し、脳裏に電流走る。
(オネェ?ダル絡み?元の自分個性強くない?普通の僕が逆に不自然になってるじゃん。)
「まぁ嘘だけど。」
「……………………」
(いや嘘でも事実でも怖いって!!)
「はぁ…。」
思わずため息が出た。転生した当時は、高校生ならではの青春を謳歌できると思っていたのに………
今は元の自分に振り回されているだけで、部活や勉学、文化祭、体育祭、恋愛………その他全てが心配である。
そう思っていると、扉から先生らしき人物が教卓に立ち、教材を広げ、少し溜息をする。
「それでは授業を始める、起立!!!!」
その号令を皮切りに、延長授業がスタートした。魔法特進クラスという名に恥じない物であったらいいがどう見ても聴いても捉えても…自称進の香りがする。
「始まったな、ホリモトの授業。」
隣の席にいる、名前は…そうすけみたいな響きの奴が話しかけてきた。
延長授業前までは話し声はおろか咳以外はまともに聞こえなかったのに、今は話し声があちこちから聞こえる。
まるで、元々話す場であるかのように声量は勢いを増す。
普通逆だろ。
「あの人の時は話しても叱られないから楽だよな〜。」
「あ、あぁそうだな。」
そうすけとの会話を躱し、取り敢えずは授業に集中する。
いろんな事が起きて忘れかけているが、転生の性質を図る為にも頭をいつも以上に回さなければならない。
今はそういうフェーズだ。
「まず、君達が想像しているような戦場や戦地には比にならない程、人は凄惨になれる。残酷ではなく、凄惨だ。
知略、謀略、戦術、技巧、体術、運、その全てを利用して、賭けて、手柄欲しさに味方をも、罵り蹴落とし悪魔とも言えぬ凄惨な何かになる。けれどもこれは序章に過ぎず………」
この後も先生の授業、というより”思想の享受”は続いた。正直、魔法特進なのにこんな精神論を教わるとは思わなかった。
今の所転生についての事例や能力解説はおろか"魔法"という言葉もまったく耳にしない。
という事で、今正式に暇になった。そうすけと喋るのもいいが、話題が見つからない。
正直、赤の他人と流暢に喋れる語彙力は持ち合わせていない。だからこそ、話しかけてくれる時を待つしかないのだ。
暫くの間、沈黙。両者授業に集中しているフリをしてゲームをやっていたが、ふとそうすけが、気まぐれか話題を振る。
「サリーノさー、防大附属来てから性格変わったよね〜。」
「?」
(ボウダイ付属?って事はここ私立の高校だよな………
ん?待てよ。防、大ってまさか。)
「なぁ、ここってどこの付属?」
「え?防衛大学だけど……なんで?」
「……」
(…‥)
防衛大、その言葉に僕は、唖然とする他なかった。
この先、待っているのは青春ではなく戦線であるという事実を、今はただ飲み込む他なかった。