誘拐は新天地の上で(ゾルサリーノ)
「ここは、何処なんだ。」
木谷は周りを見渡し、そう呟いた。四方八方に渦巻く赤紫の陽炎。
それは遠く近い。足場となり、僕らが居座る空間となる。現実とは無縁の“魔法の世界”。始めてこの光景を目にした筈が、僕には懐かしい光景に思えた。あの前世の美しい山林のように。
「多分、空間移動魔法の一種でしょう。僕等のような軍隊の後進を分散させ、戦争に従事できる人員を削ぐ作戦のようです。」
木谷と僕は、彼の独り言に自然と耳を傾ける。年齢は、見た目的にも同級生であろうか。現役の指揮官や歴戦の戦士のような落ち着きを見せ、今も床に座っている。
「でも、移動魔法にしては動いてる実感ないよね〜。」
呆然と上を見上げるのをやめ、床に面する陽炎に座った。今でも異世界から来た余所者である事を、忘れてはいけない。
「いい所に気が付きますね、これは移動させる”空間”とその移転距離が比例する時に起こる……る………。」
彼は徐に、口を詰まらせた。
「魔法の時空改変……だよね。」
木谷は彼を助けると共に、いつの間にか彼に近寄り、僕と対面し、彼の横に位置する場所に座った。
「そうそう、それで実際には動いていても感覚が魔法をかけられる前で停滞して恰も一瞬で移動した様に見せかける。って言うやつ。」
(魔法学についてはサッパリだが、彼らが高度な推理をしている事くらいは分かる。今は首を突っ込ませないのが身の為だ。)
「……そろそろだな。」
「「!?」」
彼がそう呟くと、右側の赤紫色をした陽炎がひび割れ、徐々に太陽の光に侵食される。
空間が削られ、現実の景色が見える様になった時、夕焼けが澄む山々の小槍で、僕は陽炎に代わる土の上に着地し、空に浮かぶ赤紫色の隕石を眺めていた。
「運がいいな、まさか綺麗に着地できるとは……」
木谷はこの間、危機を察知し直ぐに立ち上がり陽炎の様子を伺っていた。僕も彼を見習い立ち上がっていたが、
「着地点に山脈があって良かったな。少しズレてたら100m上から叩きつけられる所だった。」
彼もこの無事が奇跡のように語り始めた。まぁ、集会を襲撃する輩の魔法で、無事に着地できると思う方が少ない。僕らにとっても敵側にとっても。
(何か、無事に着地させる必要があったのか?)
僕が今まで転生を繰り返して来た中で、初めて元祖の復讐と関連する感覚 ”赤紫色の陽炎”
奇跡を装った意図を隠し、何か裏があるようにしか思えない ”着地点”
その答えは、多分この世界にある。いや、この世界にしかない。
転生で通じたこの人生で、解明しなければならない。
今までの苦労を全て、意味付けるのが今である。
「本当に、奇跡だな………」




