第5話 もう一度信じること〜そして
毎日の日課のカイルの散歩、ポーション作り、魔道具開発の話をしに行く。
さて、カイルを連れて散歩だ。
歩いていると、門の先の木にもたれかかっている男に気づいた。
「リリアナ嬢。おはようございます。いい天気ですね。お散歩ですか。ご同行いたします」
「おはようございます。ナサエル卿。本日はいかがいたしましたか。何か御用ですか」
「いえ、いい天気でしたので、散歩に行こうかと思いました」
「それでは、散歩すればよろしいのではないのですか」
「いえ、リリアナさまとカイルさまと一緒に散歩に行ければ楽しいのではないかと思い、待っていた次第です」
「ふぅ、お付きの秘書さんがあちらで待っておりますわよ。そちらと散歩すれば良いのではないですか」
「いえ、私はリリアナさまとカイルさまと散歩がしたいので、秘書とはしたくないです」
「時間が過ぎてしまうので、散歩にいきましょう」
諦めて、散歩に行こうとすれば、手を握ってきた。恋人繋ぎである。離そうとするも、余計絡められた。
「どうして、こんなことをするのですか」
「リリアナさまは私のことを知らない、他人だとおっしゃったので、これから知り合いになろうかと思いました。これから徐々に私カイザールのことを知っていただきたいと思いまして,このようにしています」
この男、この前の義父との会話を聞いていたのか。
「あなたは強引な方ですね。そういえば、新聞や噂などで、仕事でも女性関係でもやり手だと出ておりましたわね。私はあなたが好意を抱くような女性ではないのですが。私がナサエル卿のことを知る必要はないと思うのですが」
「噂は噂です。これから本当の私を見てください。私のことはカイザール、もしくはカイと呼んでください。私もあなたのことをリリと呼びますので」
心臓が飛び上がった。リリと言われることに。咄嗟に唇を噛んだ。
カイザールの指が私の唇に触れ
「唇を噛んではいけない。傷がついてしまう」
優しい声で囁いてくる。
「やめて!」
カイザールの指を払った。泣きそうになってしまった。もうやめて欲しい。
どれだけ、私の気持ちを逆撫でさせれば気が済むの。
「泣かないで愛しい人。あなたを苦しめようとしていない。私は、私はあなたとカイルと、また家族になりたい。ごめん、性急し過ぎたようだ。もう少しこのまま散歩しよう」
そうしてカイザールは、今までの穴を埋めようと自分の出生のこと、家族のことを話し続けた。
「今日はありがとう、一緒に散歩できて嬉しかった。毎日とは言わないが、時々散歩や食事に行って欲しい。頼む」
「そうですか。一つ聞きたいのですが、どうして私に付きまとうのですか?あなたの子供を作ったというだけではないのですか?あなたのご趣味は美女で、豊満な方だと聞いています。いずれ、あなたはまた、正気に戻るでしょう。もう少し距離を置きませんか?あなたが正気に戻るまで」
「なぜ、そんなことをおっしゃるのですか?私のあなたに対する気持ちは本気です。信じてもらえないのはわかってます。ですが、私の気持ちは本物です。また、散歩に行きましょう」
リリと別れてから秘書であり、小さい時からの友人のベルナーが謝ってきた。
「カイザール様、あの、申し訳ございません。私がリリアナ様に言ったことが気がかりだったかもしれないのです。
私はあの時、リリアナ様がカイル様を連れてやってきて、あなたはリリアナ様やカイル様をみても胡散臭い目で見ていた。
誓約書を書いた時です。
"あなたは詐欺師ですね。カイザール様があなたのような方に食指が動くとは思えません。カイザール様はグラマラスな美女が好みですから"、と言ってしまったのです。小さい時から私はあなたをみていましたが、今までにない、いい意味で言えば清楚な、悪く言えば今までのグラマラスな女性に比べたら貧相な感じでしたので、違うと感じてしまい、リリアナ様に言ったこと、大変申し訳ございません。リリアナ様がカイザール様を疑心暗鬼で捉えるのは私の一言が原因だと思います。本当にすみませんでした」
「ふぅ、私も直接言ってしまったから、全ては自業自得なことだ。リリにどうすれば信じてもらえるのか」
その後も散歩の時に待っていた。何ヶ月続けるのだろう。この人は。何回も何回も会い、レオといるような錯覚にもあう。絆されてはいけないと思いつつ、感情が揺さぶられる。どんどんレオへの思いが強くなる。
なぜ、この人はあの時のレオではないのだろう。
この人はカイザール ルドルフ フォン ナサエル公爵令息なのだ。
「まだ、正気に戻らないのですか?祖国に帰れば、あなたのお気に入りの人がいっぱいいるでしょう」
「私が愛しているのはあなただけだ。他の人はいらない。それに私は浮気性ではない。愛する人に一途だ」
手を恋人繋ぎされ、最近カイルはカイザールが抱っこしている。こうしてみると夫婦のように見えてしまう。
私はレオのことをまだ愛している。カイザールといるというよりレオといるという感覚になる。カイザールに拒絶された。たぶん、私はまた拒絶されるのが怖いのだ。だから、カイザールとのことは一歩踏み出せないでいる。本心を言ってみよう。
「カイデール様、私はまた、カイザール様に拒絶されることを恐れているのだと思う。口では愛しているとか言っているが、いざその時に拒絶の態度を取られる寂しさ,裏切り、悲しみ、もう二度とそういうは思いはしたくないの。これは私の気持ちの問題なのだけど」
ふわりとカイルを挟んで、抱きしめられた。
「ごめん、リリ、ごめん。謝っても謝っても、許せないのも、信じられないのも全て俺が悪い。でも、俺にとって,リリとカイルは家族なんだ。他の誰でもない2人が家族なんだ。あー、でも、今後リリとの子供が増えれば、みんな家族だ」
「ふふふっ、今後の私との子供なんて、何人考えているの?
「そうだな、カイルの他に3人欲しいな。カイルが筆頭男子で,あとは君に似た女の子。可愛いだろうなぁ」
「カイル1人が男の子じゃ可哀想じゃないの?」
「じゃー、カイルともう1人男の子。女の子は2人、3人。でも、出産は命懸けだから、リリの体を見ながら考えよう」
「あはは、何で私たち子どもの人数の話をしているのかしら」
「リリ、愛している」
ダメだ、この感情に蓋をすることができない。やっぱり愛している。
「私も、愛しているわ」
唇がふれあい、間にいた窮屈だったカイルが泣いてしまった。
2人は顔を見合わせて笑った。
こうして、リリアナとカイザールは、もう一度よりを戻すことになった。
お義父様やお祖父様に報告に行った時は、カイザールは説教されていた。お義父様は1発殴りたかったのにと言っていた。
その後、順調にお互いの信頼関係を築いていき、結婚式の話もするようになった。幸せだった。
そんな時、カイザールの海運船と他に数社の船から原因不明の病気が発生しているという連絡が入り、急遽帰国することが決まった。
「すまない、リリ。我が会社の船員が原因不明の病に患ってしまい、港に乗り入れることができなくなったため、急遽帰国することになった」
「そ、そうなのね。気をつけてくださいね」
脳裏に前回の別れの時のことが思い出された。
「リリ、一緒に、リリとカイルと一緒に戻りたい。もう離れ離れになりたくない。一緒に戻ってくれないか。こういう状況下ではあるが、両親に紹介したい。一緒に戻って欲しい。離れたくないんだ」
「ええ、私ももう離れ離れになりたくないので、一緒に行くわ」
「ありがとう、リリ」
もう、離れ離れになりたくない。二度とあんな悲しい思いはしたくない。そんな思いもあり、一緒に行くことを決意。一緒に困難を乗り越えていきたい。
そして、悲しい思い出しかないレザール王国へと向かう。