第4話 再会
月日は少しづつ流れ、カイルが一歳になりました。トコトコと歩けるようになり、お尻フリフリして歩いてます。かわいい。
言葉もあーあー、と言い、みんなそれぞれ呼んで欲しい言葉をカイルに覚えさせている。もちろん私は"ママ"をいち早く覚えさせたい。
そして、カイルの一歳の誕生日会。
内輪でする会なのに、かなり人のです。私自身,社交パティーや、お茶会は出たことがなく、この国でデビュタントもしていない。
だけど、キャロラインとステインの子で、現在セルジュとセリーヌの養女となっていることはみんな知っている。カイルという子供がいることも知っている。
口さがない人は、父親が誰だかわからないなんて、という人もいるが、そんなの関係ない。私だけが知っていればいいこと。カイルや他の人は知らなくてもいいこと。誰かに言ったら、それがゆくゆくカイルの耳に入ってしまうのを恐れて、絶対父親の名前なんて言わない。知らなくていい。
「お義父さま、カイルの一歳の誕生日会なのにかなり人がいますね。内輪だけでよかったのに」
「そういうな。カイルのお祝いに来てくれているのだ。邪険にできない貿易関連の人だ」
「ふーん、そうですか」
「ふふ、むくれるな」
と言って頭を撫で回す。
「もう、お義父さま、髪の毛がぐちゃぐちゃになってしまいます。もう」
「あなた、リリが困ってますよ。はい、あなた、カイルを連れて壇上に行きましょう」
「カイル、おー、かわいいな、今日も。おめかしして、一段と可愛いじゃないか、こんなに可愛くしてどうするんだ」
もう、ほんとの好々爺状態。まだ、40過ぎですが。
「この度は、我が孫のカイルの誕生会にお越しいただきありがとうございます。こんなにかわいい、一歳のカイルです、カイル、挨拶できるか」
「あー、あっあー」
「うんうん、よくできまちたね。カイルえらいぞ」
「今後とも、カイルの成長を温かく見守ってください。ごゆるりとご歓談ください。本日はありがとうございました。」
「もうあなたったら、赤ちゃん言葉出ていたわよ。もう困ったおじじでちゅね」
もうジジバカ、バババカです。かくいう私も親バカです。カイル第一主義。
先ほどから視線が感じられたが、キョロキョロしてもわからなかった。このざわめきは何だ。
また、視線を感じる方を向くと、レオ、いやカイザール ルドルフ フォン ナサエル公爵子息がいた。隣にはあの時の秘書。
冷や汗が出てきた。なぜいるここにいるの?
貿易関連の人が来ていると先ほど義父が言っていたから、あの人が来ているのか。たまたまか。あちらにしたら、二度と会わないという誓約書を書いたわけだが、ここにいるとなると、私が追ってきたと難癖つけられても困るので、伯母さまたちのところ、カイルを連れて避難した。
「リリ、大丈夫。顔が青いわよ」
「こちらに来て、こんなに人が多い会は初めてで、緊張してしまったのです。」
「そうよね、ごめんね、私たちの配慮が足りなかったわ」
「違うの。大丈夫だから。心配かけてごめんなさい」
「何言っているの、初めてカイルの一歳の誕生日会と称した晩餐会になってしまってごめんなさいね。いきなり、隣国の海運王の公爵子息が来るというから、主要人物は集めなくてはならなかったの。本当にごめんね。リリ」
「ううん、大丈夫だから。人が多くてびっくりしちゃって。ちょっとカイルと人がいないところで涼んでくるわ」
「すぐ帰ってくるのよ」
「はぁい」
人混みがいない、陰の方で涼んでいた。
「ふう、疲れた。カイル大丈夫」
ご機嫌なようだから、大丈夫だ。よかった。
(カイザール視点)
あれから、父が事故に遭い、生死を彷徨い、そのことで記憶が完全に甦った。あの時の女性と子供は自分の妻だった。あんなに愛していたのに、なぜ忘れていたのだ。どうして、あの時、あんな残酷なことを言ったのだ。
あれから、ずっと探していた。そしてやっと見つけた。
「あの、リリアナ嬢。話をしてもよろしいでしょうか」
お互い見つめ合った。動揺した瞳を見下ろす。
「何か御用ですか?」
冷たい一言だった。
「昨年、私のところに来ていただいたことがありますよね」
「私はあなたに近づいていません。私はあの宣誓を破っておりませんが。むしろあなたが宣誓を破っていると思われますが、何か御用ですか」
「あなたと話がしたいと思い、こうしてやってきました」
「私との宣誓書は、私とカイルに二度と近づかない、探さないというお約束でしたが、何か」
「あの時、本当にあなたとの記憶がなかった。それは申し訳ないと思っている。あなたとカイルを忘れるなんて、自分でも取り返しがつかないことをしたと思っている。だが、あなたとカイルとのことを含めて全て記憶を取り戻した。もう一度私とのことを考えて欲しい、頼む、もう一度、私の元に帰ってきて欲しい」
「ふー、何かの勘違いではないですか?私はあなたのことは知りません。カイザール ルドルフ フォン ナサエル公爵子息様。二度と私とカイル前に現れないで欲しい。ただ、それだけです。宣誓書は守ってくださいね。そこの秘書のあなたも、あの時のことは覚えておりますわよね。あなたも、もう二度と会うことはないとおっしゃってましたわよね。金輪際この話は出すことも、私たちの前に現れることも許しません」
許されないのはわかっていた。ほんの少しの望みがあると思っていた。だが、拒絶である。それだけ、この子の心を傷つけてしまった。
「また、落ち着いたら話がしたい。頼む。あと、お礼が言いたい。リリ、君が渡してくれたポーション。私の父が事故で瀕死の状態だった。ひどい状態だった。首にいつもかかっていた瓶がずっと外せなかった。なぜ外せなかったわからなかった。絶対外してはいけないとだけはわかっていた。そして、父が本当に危ない状態だった時に、君の言葉が思い出され、君が私にくれたポーションを思い出し、その時に君の存在を思い出したんだ。そのポーションでひどい状態が治り、父が回復した。母は父を愛していたので、父が亡くなってしまったら廃人のようになってしまうと危惧していた。全て君のおかげだ。ありがとう。このポーションの瓶のシリアルナンバーでオーウェン公国のことを知り、今回あなたとカイルに会いにきた。本当にすまなかった。俺はもう一度あなたとカイルと共に生きていきたい」
「そうですか。あなたのお父様が無事回復されてよかったですね。身内をなくすのは辛いですからね。ですが、私はあなたに今後会うことは金輪際ないです。ぜったいに」
強い瞳だった。バカな男だ、俺は。
「また、会いたい」
リリとカイルは席を立って行ってしまった。リリがいた席に座った。
「カイザール様、大丈夫ですか」
「本当にバカな男だよ、俺は。なぜ、大事な2人のことを忘れていたのだろう。なぜ,なぜ」
「カイザール様がカイル様の父親であることを伝えれば、何かしら違った動きができるのではないでしょうか」
「リリとカイルを捨てた男という事実が上乗せされるだけだ」
「ですが、あなた様がこのように悲しんでいることを知って欲しいです」
「知ったところで、リリの心を傷つけたことは事実だ。自業自得なのだ。もう、私を愛する心は死んでしまったのだろうか。できることなら、リリとカイルと共に過ごしていきたい」
「お義父さま、お義母さま、お祖父様、お祖母様、カイルが疲れてきたようですので、退席しますね。すみません」
「おお、そうだね。あまり大人数での会は疲れてしまうな。やはり身内だけの誕生会の方が良かったな。すまない,リリ」
「ふふふっ、また、明日お祖父様とお祖母様のところに伺います」
「「まっているぞ(わ)」」
ふう、退席できてよかった。レオいやカイザール様がまさかきているなんて、びっくりした。もう二度と会えないと思っていたのに。
私の気持ちはどうなんだろう。まだ、わからない。二度と会うこともない、私たちのことを思い出すこともない、それぞれの人生を歩むんだと思っていた。
私は別の人と結婚することはしないだろう。カイルが1番である。
逆に新聞などの報道でカイザール様が美女と結婚!と出た時に初めは心を痛めた。苦しかった。諦めもあった。今はどうだろう。わからない。
あの人たち、自分がカイルの父親であるということを暴露してしまったらどうしょう。みんな許すのかな。でも、私とカイルを捨てた父親だからな、お義父さまに殴られるかな。ふふっ。
私はいったいどうしたい。何度考えても、考えてもわからない。
数日後、貿易の話で、王宮に来るらしい。でも、私には関係ない。
お義父さまが、心痛な面持ちで、部屋には入ってきた。あの人は言ったのか?
「リリ。少し話をしていいか」
「はい」
「王宮で、リリとカイザール殿の話を聞いていたものがいた。カイルの父親がカイザール殿だということを。本当なのか」
「違いますと言いたいところですが、血の繋がりはありますが、他人です」
「カイザール殿は、今までのことを包み隠さず話してくれた。お前にも謝罪している。お前はどうしたい」
「私はあの時にあの方への気持ちを捨てました。あの方が私とカイルの記憶がないのですから、思い出したくない記憶だったのでしょう。あの方も自分ではっきりと私は好みではないと言っていました。長年秘書の人も同じことを言っていましたし、今は感情的になっているだけです。少し落ち着けば、また、自分の好みの女性に目がいくでしょう。もう、振り回されたくありません。それに私はカイザール様をしらない。他人です」
「そうか、わかった。リリがそういうのなら、我々はリリとカイルを応援するぞ」
「お義父さま、ありがとう」
ドア越しにカイザール様がいた。その場を離れ、応接室に着いた。
「さて、リリの思いは聞いていたね。カイザール殿のことは知らないということだ。君はどうしたい」
「諦めることはできません。私にとって、リリとカイルは家族です。何年経っても、私はリリとカイルに家族だと言ってもらいたい。そうですね、私には強さがあります。諦めることは絶対しません」
「はぁ、まぁ、今後、オーウェン公国も、ナサエル公爵との貿易を推進するようになる。そなたは時々こちらに来るのであろう。その時にリリやカイルに会えるようにしょう」
「いえ,私はこちらの支店長に就任しましたので、こちらにいます」
「はぁ、用意周到だな」
「もうすでに、こちらに生活拠点を移しておりますので大丈夫です」
「私の意思は強いので、ブレることはありません」
「はぁ、リリが心配になってきた。リリを王宮に住まわせるかな」
「やめてください。王宮に移られたら、会う機会がなくなってしまいます」
「まぁ、君の健闘を祈るよ」
「ありがとうございます。もう、間違えることはしません。お義父さま」
「誰が君の義父なんだ。リリに許してもらえてから言え。全く」
リリ、義父さんはがんばれとしか言えなくなってしまった。