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第6話 半袖半ズボン卒業


ルージンさんについてギルドの外に行く。少し離れた道に僕が乗せてもらったあの馬車があった。


「では、早速。先程見せてもらったコインと紙をあるだけ買い取らせて貰えませんか? 」


「ええ、喜んで。ですが、僕は物の相場がよく分からないのです。値段はルージンさんにお任せしてもいいですか?」


多分ルージンさんなら不当に安く買い取ったりしないだろう。根拠は無いけど、こんなに良くしてくれる人を疑うことはない。


「お任せしてもいいですか……って、逆に良いのですか? ええ、その信頼に報いますから。出来る限り高値で買い取りましょう」


どこまでもいい人だ。ひとまず安心していいよね。


「あ、そういえば、ルージンさんはこれらを他の国で売るのですよね?」


1000円札の凄いところを伝えれば、ルージンさんが売るときに助かるかもしれない。


「この紙を太陽にかざして見てください」


そう、すかしを見せようとしたのだ。


「おぉ!中央に人の絵が!こんなに薄いのに……とてつもない技術力を感じます。貴方の出身はどこなのでしょうか!あぁ!本当に素晴らしい!」


喜んでもらえたようで良かった! 中世と言ってもまだすかしの技術が無い時代らしい。


「では……銅色のコイン1枚で銅貨5枚、銀色のコイン1枚で銀貨1枚、この紙を金貨1枚でどうでしょうか?」


十円玉3枚、百円玉5枚、1000円札が1枚で……

銅貨15枚、銀貨5枚、金貨1枚か!

それがどのくらいか分からないけど、高く買取ってくれたのだろう。


「はい、それでお願いします」


日本円達をルージンさんに手渡し、代金を受け取る。


金貨1枚に……銅貨5枚と銀貨6枚?なるほど、銅貨は10枚で銀貨1枚になるのか。


「いやぁ、こんなにいい物を売っていただいて……」


「いえいえ、こんなにすぐに買い取ってもらえてありがたいです。 早めにお金が欲しくて、助かりました」


「それは、お役に立てたようでなにより」


爽やかな笑顔を向けるルージンさんを見ていると、商人として上手くいっているのだろうなと想像出来る。


あぁ! そうだ、ついでにルージンさんに聞いてしまおう。


「あの、ところでルージンさん。」


お金は手に入ったけれど、服が買えるか分からないから相場を聞いておきたかった。店で買えないことに気が付くより効率的だし、なにより貨幣の価値に目安が欲しい。


「服の相場、ですか? ふーむ…… 特に旅人用のものだとピンキリですが、安いもので金貨1枚から2枚程度で買えるかと。ほら、あそこに赤い看板の店があるでしょう? あそこは旅人に人気の服屋なのですよ。中古ですが小綺麗で質のいいものばかりですし、手に取りやすい値段なのです」


なるほど、それなら買えるかもしれない。良かった!

……でも正直貨幣の価値は分からないかった。服の価格なんて生活の違いで変動しまくりだよね。昔は既製品の服なんて無かったとも聞くし、貴族や商人のお古を買うものなんだろう。聞いてよかった!




「ルージンさん、本当にありがとうございました!」


どうしても返せない恩を少しでも伝えようと深々と頭を下げる。僕に出来るのはこれくらいしかない。いや、何もやっていないのと同じだ。だから感謝と謝罪の気持ちを込めて精一杯にお辞儀をした。


「いえいえ、こちらこそですよ、私はここから西にある街に行くのです。また会う機会があれば是非、声をかけてくださいね。では、私はこれで」




さて、ルージンさんが教えてくれた赤い看板の服屋に行こう。


すぐそこに周りと比べてやや大きな店があった。旅人に人気の服屋…… 窓は木製で小さく開いているだけだから、中を把握出来ない。


人気っていうから大丈夫だよね……? 元いた世界では…… 服に無頓着なものだから、母に適当に買ってきてもらっていた。だからなんというか、ハードルが高い。……半袖半ズボンのままでいられないし、意を決して入らなくては……!



「あら、いらっしゃい!」


中に入ると、感じの良い中年の女性店主が挨拶してきた。なんだか大丈夫そうだ! 服は並べてあるわけではなく、法則はあるだろうが無造作にいくつもある広いカウンターの上に置かれていた。いや、畳んではあるけれど、種類や大きさがばらばらで統一感が無い。でも、それが逆に僕を安心させる気がした。


「どんな服が欲しいんだい? 坊やくらいのサイズはあんまり無いからねぇ、探すよ?」


「えっと、金貨1枚と銀貨5枚くらいの範囲で、夜でも外に出られる服が欲しいのですが……一式お願いします」


「任せな! 坊やに似合う服、探したげるから」


快活な笑みが心強い。


そうして店主がカウンター上を探し始めると、誰かが入店してきた。


「あら、おかえりアンナ」


入ってきたのは若くて可愛らしい女の子だった。娘さんかな? アンナと呼ばれた少女は店主と同じ、カールした赤毛だ。大きな丸眼鏡と、少し皺のあるエプロンを付けている。


「ただいま! お母さん、向かいのラスじいさんが呼んでいたわよ。この間と同じ用件で」


「あれまあ大変、また破いたのねあの人? ごめんなさいねぇ、急用ができてしまったから、接客は娘に代わってもらうよ」


ラスじいさんとやら、大丈夫かなぁ? …………待って?接客娘さんに代わる?! 歳の近い女の子と話すなんてハードルが! ハードルが!


「あら、お客さんがいたのね?それも小さくて可愛らしい…… 任せて! 私、着せ替え大好きよ!」


…………話すとか話さないとか以前の問題かもしれない。いい獲物を見つけたという目で見られている。


「こら、お客さんを困らせちゃあ駄目でしょう! 私は行ってくるけど、嫌ならちゃんと拒否するのよ? アンナも、無理矢理は駄目だからね?」


「分かってるって、ふへへへへ……」


お母様!分かっていなさそうですわ!


店主が出て行ってしまった……! アンナさんが、しめたという顔でにじり寄ってくる。


「お客さん……! ちょーっとだけ!ちょーっとだけでいいから着せ替えさせて欲しいのだけれど……!! この店、若い子が中々来ないのよ! 私、将来色んな服を作って、お客さんに喜んでもらうことが夢なの…… ! だから……私を助けると思って、お願い!」


…………なんだ。執念の正体はこんなに良いことだったのか! それならば勿論、協力するよね!


「そういうことなら……」


「ほ、本当?! ありがとうー! ふへへ……」


私欲が混じっているな……? ……でも、正直もう急いでいないし、別にいいか。 うん、人助け! これは人助け! アンナさんの執念が恐ろしかっただけで、着替えなんて悪いことじゃないもの!





「どう?お客さん! この服、可愛いと思わない? 私が仕立てたのだよ!えへん!」


「え、えぇ……とても。僕が着ていなければ……」


まさかこんなに可愛い服を着せてもらえるとは。着せられるとは……!


たっぷりと膨らんだスカートに、上品なレースで飾り付けられたワンピース。若干古めかしいが、現代でも通用しそうなほど良いデザインだとは思った。思ったが、僕にこういうのを着る趣味は無い……! 恥ずかしさのあまり、次々と着せ替えられる間ずっと固まっていた。



「えへへ! ありがとう、とても参考になったわ!」


「それなら良かったです……」


散々着せ替えされてずいぶんくたびれた………


「……あ!忘れてたわ! 本来の目的を果たさないとね。仕事はきっちりやるから、本来の目的を教えてくれないかしら?」


あぁ、僕も忘れてた…… そうだ、服を買いに来たんだ。


「ええと、夜に外出しても凍えないような服を一式貰いたいのですが…… 予算は金貨1枚と銀貨5枚程度で、お願い出来ますか?」


「えぇ、今度こそ任せて頂戴! お客さんにピッタリな服、選んであげるわ!」


良かった、これで目的は達成出来そうだ。



「お待たせ!これを着てみてくれないかしら?」


渡されたのは、腰まである黒い上着に、厚くてダボっとした薄茶のズボン。膝下まである革のブーツに、ウエストに巻くベルトに付いたポーチと、柔らかい革でできたグローブだった。現代の服と比べると固くて厚めだけど、動きやすくて思ったより快適だ。まさに冒険者! といった素朴で洗練された服、もう既にかなり気に入った。


「やっぱりピッタリね!どう?」


「とてもいい感じです、気に入りました! 」


「ふふん!そうでしょう? いくら寒いと言っても

今は春寒。もう3日もしたら暖かくなるから、あまり暑すぎる服は避けたのよ」


「春寒……?」


春寒って、春の初めに残る寒さの春寒?


「あれ、知らないの? この地域では4年に1度くらい、春の半ばに突然寒くなるのよ。まるで突然冬を思い出したかのように」


「へぇ…… 初めて知りました……」


僕の知っている春寒と少し違うようだ。つまり、今は冬じゃなくて春の半ばだったということか。




「お客さんにはお世話になったし、安くしておくからね!」


「良いのですか? ありがとうございます……!」


それは嬉しい! 疲れた甲斐があった!


金貨1枚と銀貨2枚にまけてもらって、元々着ていた服を銀貨2枚買い取ってもらったから、所持金は銀貨6枚と銅貨5枚になった。お得に買い物できて結果オーライだ!


お礼を言って店を出る。人通りが増え、さっきルージンさんの馬車が停まっていたところに別の馬車がいくつも並んでいた。


そうだ、せっかく冒険者らしくなったのだから、ギルドで依頼を受けられそうか見に行こうじゃないか。


こうして、ギルドへの道を思い出しながらのろのろと歩いていった。


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