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第5話 無謀な冒険者デビュー


凄く気まずいんだけど……


オルデグさんの視線が背中に刺さるのが分かる。とてもじゃないけど振り返る勇気なんて無い! 部屋に着くと、そそくさと部屋の隅に逃げる。


「……ありがとうございましたオルデグさん。冒険者登録の続き、お願いしていいですか……?」


「あ、あぁ…… じゃあこの紙に名前と年齢、職業と種族を書いてくれ……」


色々言いたそうな顔をしてる……!


「あ、すみません……文字が書けなくて……」


「珍しいな…… 記憶喪失とやらのせいか? ほら、紙を貸せ」


凄い怪しんでる顔だ!凄い怪しんでる顔だ!


「ど、どうも……?」


オルデグさんは紙を受け取る寸前で手を止め、僕の顔をじっと見つめた。


「いや、うん、流石におかしい。冒険者たるもの詮索はしないもの…… ただ!俺はギルド職員だ。すまないが聞かせてもらおう。君は一体何者なんだ?」


うわー……! 本当にどうしよう……! なんて、なんて答えたら……!


「き、記憶喪失の一般人です!」


これ以外答えようがないもん! 口が裂けても転生してきました! なんて言えないもん!


やばい。とってもやばい。目が合わせられない……!


「…………まぁ、いいか! 隠し事の1つや2つ、誰にだってあるものだ。聞いて悪かったな、エルド・シュトゥルムフートさん!おっと、名前は……エルド・シュトゥルムフート・ガルデリーリニエっと。年齢は?」


「あ、14です……」


うわぁ、何だろう、罪悪感。でもオルデグさんは優しい…… 優しいから罪悪感を感じるのかな。


「14? にしては小さいな。てっきり12くらいかと…… まぁそのくらいなら冒険者になっても大丈夫そうだな」


いくら小さいからって、そんなに幼く見えるもの? 友達も変わらないようだったし…… もしかして、この世界の子供は成長が早いのかな?


「職業はステータスを見てからでいいだろう。書かなくても問題ないんだ。種族は?混血だと見た目じゃ分からないときがあるからな」


「人間だと思います」


1度死んでいるからアンデッドってことはないだろう、多分。


「よし。出来た! 次はステータスを測ろう」

これで分かるのは大体の能力傾向と4大属性の適性、固有スキルの有無だ。細かいことは流石に分からないがな」


なるほど、物理タイプか魔法タイプか大体知れるのか。でも、固有スキルの内容や、魔法の4大属性以外の適性は分からないってことね。ゲームみたいでわくわくする……! 魔法がある世界っていうのが受け入れ難いけどね。もう完全に別世界なんだ。


でも魔法は使ってみたい……!


「この紙に触れてくれ」


オルデグさんが引き出しから茶色がかった紙を取り出した。


言われた通りに触れると、かさかさした紙が青白い光を放つ。


アルミニウムの燃焼みたい……でもこれ紙だよね?これが魔法なのか!


スっと光が消えると、紙には焼き付けたような文字が残っていた。勿論読めないけど、多分さっき言ってたことが書いてある。


「おし、出来たな?どれどれ……」


魔法使えますように……!


「能力傾向は…魔力特化だな。うん。体力は低めで、速さはまずまず。賢さは高めだな。完全に魔法使いタイプだ」


「わぁ!魔法!」


やったぁ! 魔法使えるみたい!

でも、賢さには心当たりがない。体力と速さの貧弱さは分かるけど、テストの点はいつも平均スレスレだったし、謎解きみたいな閃き力もない。ごく平凡だろうに。もしかして魔法って頭を使う……? それはやだなぁ……


「えっと、適性は……おぉ! 4大属性全て使えるじゃないか! 珍しい。ただ、特に秀でているものは無いな。これだともしかして、4大属性以外の適性があるのかもしれない。そればっかしは試してみるしかないがな」


ちょっとでも魔法が使えるなら優秀でなくても全然いい。いや、優秀だったらそれはもう嬉しいけれど、高望みをする気力がない。……うーん。魔法使えますようにってやつも高望みだったかな。叶ったみたいだけど! えへへ……


「さて、固有スキルの有無は…… ある!へぇ、珍しいな! 今までこのタイプは見たことがない」


「固有スキル?あるのですか?!」


絶対無いと思ったのに! 特別感あってなんだか凄く嬉しい……


珍しいって言葉は何よりも僕を喜ばせる。

ごめんなさい、僕は結構強欲だ。自分から目立つようなことを望むなんてね。非合理的の塊だ。反省はしてない……


「あぁ、今内容は分からないが、発動したときにはスキルが分かる。他には、少し値の張る魔道具を使えば内容まで分かるな。いつまで経っても見つからないときに使いに来たらどうだ?今は予想大会でもしたらいい」


「なるほど、楽しみです……!」


とんでもなく強い攻撃スキルとかだったら良いなー! もしくは無敵の防御スキル! 最強の補助スキルでもかっこよさそう!……流石に無いな。


「そうだよなぁ! ちなみに職業はどうする?まだ固有スキルも定かではないし、空けておくか?」


「そうですね、お願いします」


もしかしてこれで……?


「よしよし、これで冒険者登録完了だ! 必要な情報を書いたカードを渡すから、絶対無くすなよ? これは身分証になるし、国境を越えときの関税がかからなくなるんだ。ほら」


飲食店でもらえるポイントカードみたいだ。そのくらいの大きさってこと。


「わぁ、ありがとうございます!」


「記憶喪失ってことで何かと大変だろうし、何か困ったことがあったらまた直ぐに来てくれよ。エルド・シュトゥルムフートさん!」


オルデグさん……!! 異世界に来て心細いけど、こんな人がいると本当に支えになる。僕の精神安定剤だ…… もう素性を問い詰められることは無さそうだしね。ギルドが使いやすくなる。


「はい!ありがとうございました!」


お辞儀大切。


扉を開けると、騒がしさがが戻ってくる。僕もここに仲間入りしたんだ。騒がしさの一員だ!


さて、登録も出来たし、夜になる前にお金を稼がなくては。この半袖半ズボンを何とかしないと……うん、死んでしまう。凍えるのはもうトラウマなんだ。


依頼を受けてお金を稼ごうかと思ったけど、多分もたもたして日没ゲームオーバーになりそうだから、先に手持ちの日本円を売って布の1枚でも買えたらいい。他にも売れるものがないか探してみよう。


あ、すっかり忘れてた。ポケットにハンカチが入っていたんだ……って、売れるわけないじゃないか! 日本円だって売れるか怪しいけど。白銅に青銅、紙幣か……


まずどこで売ればいいんだろう…… 質屋? ゲームではどこでも売れていたものだから、こうしてみるとどこに行けばいいのか分からないな。


はぁ……こういうとき人に聞けたらいいのだけれど、僕はどうしても人に話しかけることが出来ない。無意識的にそうすることを避けてしまう。聞けば1発、でも経緯を説明したりするのが苦手で苦手で…… しどろもどろになって相手に迷惑をかけるのが本当に嫌だ。



……分かってる。言い訳せずに行きなさい。



ぐあぁー…… 行くしかない。



あの丁寧なギルド職員の女性なら怖くないはず…… ぐぬぬ……



「あ、あの……すみません…… 異国の貴重なコインを売りたいと思っているのですが…… そういったものを売れる場所を教えてくれませんか……?」


「あぁ!先程の方ですね。無事に登録出来たようで…… えーと、質屋もありますが、折角なら近くにある商業者ギルドに行ってみてはいかがでしょうか。異国のコインは行商で遠くの国に行く方にとって良い商品ですから」


なるほど、結構需要ありそうで良かった。


道を聞いてからお礼を言ってすぐ外に出る。

良くやった僕! 良い子だ僕!




ーーーーー



聞いた通りに進んでいると、一際大きくて、お洒落な銀行みたいな建物に到着した。これが商業者ギルドらしい。異国情緒漂うザ・商人が大渋滞している…… 冒険者ギルドとはまた違った雰囲気だ。


は、入っていいのかな? 少し緊張する……


でもこっちのギルドは扉が無くて、荘厳さと親しみやすさを感じさせる。流石商業者ギルド!そんなところまで考えられているのか。まぁ想像だけど。


老若男女出入りしているのを見て勇気を貰い、遂に入ってみた。


わぁ!凄い!声が響いてる!宮殿みたいに広い!


冒険者ギルドよりとても広くて、反響音でがやがやしているものの、混雑した入口と違ってちゃんと落ち着ける余裕がある。


商人のような人以外にも、主婦のような人や大工っぽい人、若い風貌の男性など、客層が幅広い。なんだか安心した…… そこまで身構える必要はないみたい。


さて、僕が売る物を確認しておこう。10円玉が3枚に100円玉が5枚、そして野口さん在住の1000円札だ。


いくつか窓口があるうちの、入口から遠い2番目に並ぶ。緊張してきた…… 日本円って売れるのかなぁ……? 貴重っちゃ貴重だけど、この場合はちょっと違うからね。貴重というのは、珍しいだけじゃなくて欲しがる人がいないと成り立たない。あれ?不安になってきた……



「もし、そこのお方」



……ん?僕、話しかけられた?



「また会いましたね」



「あ、ルージンさん!」


振り返ると、そこには僕の命の恩人、ルージンさんが立っていた。商人だと聞いたから、商業者ギルドに用があってきたらしい。



「記憶喪失は治りましたかね?ははっ、分かってますって、そんな簡単じゃあありませんよねぇ。ただ、せっかくまた会ったのだから、名前くらい分かるといいなと思いまして」


「あぁ!名前、出来ましたよ! エルド・シュトゥルムフート・ガルデリーリニエです」


「ほう、エルド・シュトゥルムフートさんと言うのですね? 改めてよろしくお願いします。さて、私は前に言った通り商人ですから、遠くの国に売りに行く品物を仕入れに来たのです。貴方は何をしに?」


「僕は異国のお金を売りに来ました」


「ほう…… もし良ければ見せてくれませんか?」


もしかして、プレゼンしたらルージンさんに売れるんじゃ? ここはひとつやってみようじゃないか。


「はい。これは、ジュウエンと言います。地図にも載らない国の珍しいコインなのですよ」


嘘は言ってない。罪悪感? あるとも! でも、でも売るんだ。格好の悪い決意である。


「ほほう、見たことのない文字が書いてありますね。裏にはこれまた見たことのない建物が…… ふむ、中々質の良い……」


なんだかいい感じかも!


「この建物は平等院鳳凰堂と言いまして、大昔の建物なんですよ」


「ほう!聞いたことないですね。この構造、どこの国の建物でしょうか……」


あ、ここまで言って大丈夫だったのかな……


「何故か持っていた物なので分かりません…… 商業者ギルドに行けば分かると思ったのですが、心当たりがないようですね……」



どうしよう。珍しいとか鳳凰堂とか言っちゃったのに…… 誤魔化していいかな……?



「えぇ、っと。このコインの知識は覚えているのですが、国が全く思い出せないのですよー」


「ふむ。記憶喪失は断片的に起こっているのでしょうか…… それにしても興味深いコインだ」


多分誤魔化せた! 記憶喪失さまさま……いや喪失してないけど。


「ありがとうございます。他にはこんなのも……」


次は100円玉と1000円札を取り出す。


「なんと! 銀色のコインも美しいですが、この紙は素晴らしい! 小さいのにこんなに細かく描かれているものは絵画でも見られませんよ! ところでこの人は誰でしょう。 ここら辺では見ない顔つき……ん? 雰囲気というか、なんだか少し貴方に似ていますね…… 」


野口さん! 日本人だしそりゃ似るよね。


「僕はこの紙が作られた場所出身のようですね」


「そのようですね。ところで…… これらを買い取らせてもらえませんか?」


よし! ルージンさんなら安心だし、野口さんファインプレー!


「良いのですか? ありがとうございます!」


「お礼を言うのは私の方ですよ。良い商品を仕入れることが出来そうだ。ささ、列を抜けて私の馬車に行きましょう」


読んでいただきありがとうございます!

今後ともよろしくお願いします!

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