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第4話 僕の名前


「あぁ、いらっしゃいオルデグ。お茶でも飲みに来たのかい」


部屋の中では1人の初老の男性が椅子に腰掛け優雅に読書していた。この人がオルデグさんの友達で、Sランク冒険者の僧侶らしい。渋さと清楚さが滲み出て、微笑む姿が格好良い。


「いや、それはまた今度。今日はお客さんを連れて来たんだ」


そう言って僕を前に出す。


「初めまして、よろしくお願いします」


ぺこりとお辞儀をする。この流れで名乗れないのが変な感じだ。


「ええ、初めまして。私はルイヒ・ガーイスト・クラージ。貴方は?」


「え、えーと」


ルイヒさん?聞かないでおくれ……


「それが名前を忘れちまったんだと。ルイヒは僧侶だろ?赤子の名付けみたいに、名前付けてやってくんないか?苗字もな」


「名前を忘れた? そんなことが…… それは災難ですね。神から名前を授かると良いでしょう」


気を使ってあまり事情を聞いてこないのが優しい。そういえば、苗字と名前ってどこからどこまでなんだろう。神様から名前を貰う形式なのか。じゃあ元の名前が返ってきたり……なんて。 ルイヒさんが付けてくれるのだろう。


「お願いします」


「勿論。ではこれから、儀式を行います。そこに正座して下さい」


早速……! どうしよう!ちょっと緊張してきた。わくわくしてきた!


「汝、神のもとに……」


なんか難しそうな呪文?を言い出した!意味が分からないけど、じっとしていよう。


「さあ、目を閉じて…… 神から名を授かるのです」


言われた通りに目を閉じる。すると不思議なことに、耳元で聞き覚えのある声がした。


『転生したのにまだ縁があるとは、可笑しなことですね』


嘘…… この声……あれだ。神様らしき人だ……!ルイヒさんが付けてくれるんじゃないの?というか、僕が死んだ時の神様だ!


「え、か、神様?」


オルデグさんとルイヒさんは、様子がおかしい僕を見て困惑していたらしいが、突然のことで驚いていたから気が付かなかった。


『貴方は前世の名前を失い生まれ変わりました。それだと言うのに、奪った張本人に名前を乞うのですね……全く不思議なものです』


え、名前奪われてたのか……!なんて反応すればいいのか……


「奪わないで下さいよ、僕困ったんですからね!」って、何言ってるんだろう……


いいや、本当に何言ってるんだ。おかしい。どうしても嫌な予感がしてならない。思考が働かない。


もっと言うべきことがあるはずだ。疑問も。

僕は神様に殺されたのか?

転生させられて酷い目にあったのか?


名前乞うなんて知らないし、意味わかんないし、なんだか酷い、腹立ってきた……!


なーんて、神様に言えるわけないよね。拗ねるくらいが関の山…… でもこれは怒っていいんじゃ……? いいや、訳も分からないのにそれは違うはずだ。落ち着け…… 落ち着け……


「……とにかく、名前を下さい。……お、お願いします」


今度は奪わないでよね、ふん!……とか言いたかったけど、流石に傲慢だよね。名前を奪われることにそこまでのデメリットがあるのかも分からないのに。


『…………聞こえてますよ。心の声』


……うぇ!?本当に?!


か、神様許して下さい……! 変な名前にしないで! え、また殺され……



『"また"ってなんですか? 絶望させるようですが、貴方の身に起きた全てのことは、貴方の運命であり、私のせいではありません。死んでしまったのも、転生することになったのも、酷い目に遭うのも』



…………本当に?



ごくりと唾を飲み込む。


思いがけず殴られた様な衝撃で目眩がする。



絶望したよ……凄くしたよ……!



何でもかんでも人のせいにしてた僕を戒めるってこと……?! でも、どうかそれは言わないで欲しかった。


どうしても、どうしても違うと、嘘だと思ってしまう。そう思いたい。


いや、反省すべきは僕。いやいやいや……


妙な力が入って心臓が痛い。視界にフィルターがかかったようで、現実味が離れていく。



……悲しくなってきた。なんか、もうやだ。



『ふふ、貴方に名前を授けましょう』



嘘じゃないか?違う。許して下さい…… 違う。



これは、僕のせいだったの……?



『エルド・シュトゥルムフート・ガルデリーリニエ…で、どうでしょう』



本当に?



『ではさようなら、エルド』


神様の冷笑が目の端に写った。見えてないけど確かにそう感じた。残酷に僕の疑念を肯定するように。



本当だって。僕の運命が酷いのは、僕のせいだって。


ぼんやりとした不安を、これ以上ないくらいに意識した。突拍子もない言葉に傷ついた。



僕、そんなに悪いことをしたのかな。どこにいても平凡なくせに、良いことなんてないくせに。そんな僕になんでわざわざ…… いいや、僕は自分の悪いところにも気付かない酷いやつなんだ、きっと。どうしたらいいのだろう……? どんな態度でいたら……




「あの…… 大丈夫、ですか?」


ルイヒさんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。何が起こったか分からないようだから、神様の声は僕にしか聞こえていなかったのだろう。


真っ青になって冷や汗だらだら…… ルイヒさんを心配させないように、何か応えないと。


「え、えぇ…… あ、名前貰えましたよ……!」


「それはそれは…… 教えて下さい。どんな名前を授かったのですか?」


色々あり過ぎたけど、ちゃんと名前は貰ったからね……! 空元気大事!


「えーと…… エルド……シュトゥなんちゃら……」


長過ぎて覚えられないよ……! えーと…… シュトゥるむ……



エルド・シュトゥルムフート・ガルデリーリニエだ!



「エルド・シュトゥルムフート・ガルデリーリニエです。」

「良い名前ですね、エルド・シュトゥルムフートくん。改めてよろしくお願いします。」


「えへへ……こちらこそよろしくお願いします……!」


この先覚えてられるか心配だ!色々と心配だ!



「……なぁ、これ聞いていいのか分からないが……」


オルデグさんが耐え兼ねた様子で言った。



「神様ってなんだ?」



ぐっ!遂に聞かれた!当たり前だよね……!


「ほら、神様!とか叫んだと思ったら、ひとりでずっと喋ってるし、顔色も悪いから何かあったのかと思ってな?どうなっちゃったんだ?」


うっ…… これは……誤魔化せない……!


「えぇっと…… 神様の声がして……ひと悶着してから名前を貰いまして…… そのー……」


名前は神から授かるっていうから、ワンチャン普通の事かもしれないし……!素直に言ってみた!


「神から直接!?貴方は神官様だったのですか?!」


うわっ!普通じゃないみたい……!ルイヒさんの顔が全てを物語ってる……!


「神官ではありません……!一般人です……」


「ルイヒ、なんだっけか?神官は神の声を聞いた事のある人しかなれないとか……」


何それオルデグさん!聞いてないよ!


「えぇ、そうです。つまりは神官の素質があるというということですね…… 名前を授かる時は、普通頭に文字で浮かんでくるものなんですよ。私が付けるものでもなくて……」


そうだったの!? なんだか怖くなってきた……


「えぇーっと…… とりあえず…… 冒険者登録したら帰ります……! ルイヒさん、お世話になりました!」



逃げよう。うん。逃げよう。



べこりとまたお辞儀をして部屋を出る。オルデグさんも軽く手を上げて部屋を後にする。


この場の全員が困っていたけど、説明出来ないからとりあえず最初の部屋に戻ろう……


物凄く疲れた気がする。


何と言うべきか…… 不安だ……!


読んでいただきありがとうございます!


遅い展開もご愛嬌ということで許してください……


どうか今後ともよろしくお願いします……

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