第3話 冒険者ギルドに行った
暫くじっとしていると、市場の準備をする人や働きに行く人が増えて、想像以上に活気が出てきた。
そろそろ活動開始だ。
じっとしている間に、異世界でのお金の稼ぎ方を考えていたから、早速実行してみよう。と、いうか。これが定番過ぎて、あまり他が思い付かなかった。
候補1 冒険者ギルドでクエストをこなす。
よく漫画で見るやつだ。上手くいくか分からないけど、やっぱりこれしかないだろう。どうやってこなすのかはノープランだけど。
ちなみに、候補2は日本円を売り捌くこと。まぁ、いつでも出来ると思うし、後でやればいいだろう。
取り敢えずギルドの存在を確かめないと。無かったら候補1は消えるからね。うーん……門の周りにいる金髪の警備兵っぽい人に聞いてみよう。
「あの、すみません。冒険者ギルドって……」
「え、ギルドに行きたいのかい?ここの道を左に曲がってすぐだよ。でも、君みたいな子供が行くところじゃないぞ?」
あったみたいだ。でも僕みたいなのが行くのはおかしいみたい。まぁ14歳は子供だよね……
玉砕覚悟で行くしかない。惰性を続ける訳にはいかないもの。
「ありがとうございます。観光に行ってみます」
「なるほど観光か! この街のギルドは有名な冒険者もいるからね。でも余所者狙いの荒くれ者もいっぱいいるから、気を付けるんだよ」
冒険者!なんて素敵な響き……!
忠告通り荒くれ者には気を付けなきゃ。というか、一瞬で僕が余所者だと見抜かれた。有名らしい冒険者ギルドの場所を知らないせいもあるだろうけど、ルージンさんが言っていた通り黒髪黒目が珍しいからもあるのだろう。変に目立たないようにしなくちゃね。
あ、ルージンさんと言って思い出した。記憶喪失設定はこれからも使おうと思うけど、名前は無いままじゃ困る。未だに思い出せない。
名前…… ルージンさんは横文字って感じだから、僕も合わせた方がいいのかな。
横文字の名前…… 折角なら格好良い名前が良いなぁ。海外の小説家の名前とか?いやいやゲームや漫画から取るか……? うーーーん。
あ、着いちゃった。後で考えるかぁ。
ギルドの周りには色んな人がいて、さっきいた道と比べると、でかい斧を持った半裸の男や、魔法使いみたいな人など、明らかに、冒険者です!もしくはゴロツキです!という風貌の人が多かった。何を経験してきたのだろうか。前世の人とは皆顔付きが違う様に見える。
なんだかどきどきしてきた。まるでゲームみたい。いや、それ以上に熱っぽくて、生き生きとしていて……
そうだよね!僕はもうずっと辛いことしかないと思っていたけど、諦めてしまえば異世界も割と楽しいのかも。少なくとも、前世より刺激はある。しかも絶体絶命な訳では無いじゃないか。
いやいや、割り切れないのは薄々分かっている。だからといって悲しみ続けるのはもう疲れたのだ。どうにでもなれ!但し良い方向に……!
あれ、なんとかなりそうかも……?
謎の自信が出てきた。一瞬で背水の陣が解かれた気がする。高揚感が覚める前に…… ギルドの重い木製の扉を開く。
うわぁ……! 本当に想像通り……!いや、それ以上!
この寒いのに熱気を感じるくらい。緊張感や期待感、脱力感の入り交じった独特の雰囲気は、僕の心臓を動かし、心地の悪い喧騒さえも呑み込むようだった。
紙に書かれた依頼が、長い鉄釘でコルクボードに貼り付けられている。その数の多い事といったら……! わくわくしっぱなしである。よく分からない話をしてゲラゲラ笑う人々、難しい顔して仲間と話し合う人々。あ、目が合った…… やっぱり目立つみたい。
なるべく人と目を合わせないようにしながら受付カウンターらしき場所に向かう。人にものを聞くのは怖いけれど、なんだか今はそんなのどうだっていい心地だ。
「あの、すみません。冒険者ギルドというものを初めて利用するのですが、あ、お金が稼ぎたくて…… どうしたらいいでしょうか」
「初めてですか? 珍しいですね。大丈夫ですよ!まず……」
受付の女性は、面倒くさいだろうに、懇切丁寧に説明してくれた。
冒険者ギルドは、発生した問題を依頼として出し、それを報酬と引き換えに武力や知恵を用いて冒険者が解決。という場所らしい。よくあるアレである。
この街では、新米冒険者応援のために、冒険者登録が無料で、ステータスも測ってくれるという。街までご丁寧だ。
ランクというのもあるらしいが、今は考えなくていいだろう。他にもあるが、大体こんな感じだった。聞く方は適当で呆れてしまうよね。我ながら……
あと、この世界の文字が読めないことに気付いた。意外なことに識字率は高いらしく、あまり文字が読めない人はいないらしいから、これは結構痛い。
「説明は以上ですが、他に聞きたいことがあれば、いつでもご利用ください。測定と登録はこの先の部屋です」
親切な人で良かった。
「ありがとうございました」
お互い軽く会釈する。
さてと、早速登録しに行こう。
部屋に入ると、先程とは打って変わって、髭面のゴツイおっさんが、暇だったから丁度いいという感じで待ち構えていた。大きくて威圧感が……
「あの……」
「おぉ!よぉ坊主!ステータス測りに来たんだろ?任しとけって!大体これで冒険者としてどうすりゃいいのか分かるからよ!」
わぁ、凄い食い気味。でも友好的な感じだ。
「んじゃ、まずはこの紙に名前と年齢、職業と種族を書いてくれ」
えっ!名前……!?名前……どうしよう。
名前名前名前名前…………
「うーん……」
「ん?何悩んでんだよ。もしかして字書けねぇのか?なら俺が代わりに書いてやるから、ほら、教えてみろ」
確かに書けないけど、違うのだ。
「あ、え、あの…… な、まえ……」
「ん?」
どうしようどうしようどうしよう……!!
「あ、えぇと……」
「んんん?」
「名前、覚えてないんです!」
言ってしまった……! 仕方ないじゃないか。本当に分からないのだから、ずっと隠しているなんてできっこない。驚くよね……
ゴツイおじさんは一瞬ぽかんとしていたが、やっぱり驚いた顔をした。
「はぁ?え、はぁ?名前覚えてないって……」
どうしよう…… 後悔しても遅い。完全に自分のせいだけど、名前は忘れたくて忘れた訳じゃないもん!考えておけばよかったなぁ。
「え、えーと、記憶喪失でして…… 覚えてないんです……」
嘘である。 名前以外は覚えてるけど、この世界のことをなんにも知らないし、記憶喪失同然だろう。嘘をつくことに抵抗がなくなってきたのが心苦しい。
「そうか…… 言っちゃ悪いが確かに、格好もおかしいし、挙動もおかしい。容姿も見慣れないし、何もかも、奇妙……だなぁ」
「はは…… そうですねぇ」
おかしいですか…… 奇妙ですか…… 確かにとしか言いようがないけど。
「記憶喪失か、困ったなぁ………… あ! そういえば! ……なぁ、これから名前貰いに行かないか?」
名前を貰う……?どういうこと?
「だ、誰にです?」
「僧侶にだよ。ほら、生まれた子供の名前をよく有名な僧侶に貰ったりするだろ?」
神社やお寺で名前付けてもらうみたいな?寿限無、寿限無……ってならないかなぁ……?でも正直ありがたいかも。
「最近ここのギルドに来たんだよ。僧侶。有名なSランク冒険者でさ?俺の友達!」
「わぁ、ありがたいです! お願いしていいですか?」
聡明そうな感じがするし、変に自分で付けるより信頼できるよね。
「任しとけ!お前なんだか放っておけなくてよ!俺はオルデグ・スタンク・ワドイルだ。よろしくな!」
「よろしくお願いします!オルデグさん!」
登録の仕事を置いてまでも面倒見てくれるなんて、良い人……!
教会にでも行くのかと思ったけど、案内された先はギルドの端にある一室だった。
Sランク冒険者ってどんな人だろう…… 名前、どうなるのかなぁ。この扉の先にいるのか。
オルデグさんがドアノブに手をかける。
いざ……!
読んでいただきありがとうございます。
次回で遂に彼の名前が……!
やはり遅いですが今後ともよろしくお願いします。




