第2話 転生してしまった?
うわ。本当に送られたんだ…… かなり意味分かんない…… ここどこぉ……
またまた目を開けると、今度は野性味溢れすぎている森の中にいた。道路や謎空間も無く、分かりやすいほど人の手が入っていない森だった。肌寒く、乾いた地面が木の根でボコボコしていて歩きづらい。半ズボンなので低木が刺さって痛かったし、寒さのせいか、少し震えた。
何これ最悪だ。得体の知れない森を彷徨うなんて御免だし、取り敢えず早く抜け出そう。
ガサガサ音をたてながら何も考えずに進んだが、幸い直ぐに森を抜け出すことが出来た。
良かった、でも抜けたはいいけど、人工物がひとつも見えない。
とても広くて乾いた草原だ。少し乾燥した草が風に吹かれてざわざわと言っている。地平線のすぐ上に太陽が沈みかけていた。仄暗い空に点々と広がる雲は夕日に染っている。
段々不安になってきて辺りを見回すが、なんにもない。
あまりにも暗くて寒かったから、遂に考えないようにしていたことが頭に過ぎった。
もしかして人っ子1人いない場所に飛ばされちゃったのかな。ここは地球なの?
考え始めると止まらず、1番考えたくなかったことが浮かんでしまい、縮こまって座り、耳を塞いだ。
それに、何より死んだらしいじゃないか。
もしかしなくても、もう両親や友達に会えないんじゃ……
背筋に冷たいものを感じ、ぶるっと身震いをした。きっと寒さのせいだろうとはもう思えなかった。怖いし悲しいし、急に弱ってしまったのを感じてびっくりした。
酷く狼狽し、突然立ち上がると、俯いてまた座り込んでしまった。
地獄かもしれない……ここは地獄みたいだ!
死んだあとはみーんなこうして見捨てられるものなのか。いや、そんなこと決まってない…… 違う。そんな訳ない。飛躍しすぎだ…… そう、少し困惑しただけなんだ、取り乱しただけなんだ…… あぁ、もう嫌だ。
歩こう…… もうそれしかない。
腰が重かったが、何とか立ち上がると、行くあてもなくただトボトボと歩き出した。
彼の悲しみを無視して日はどんどん沈み、とてもじゃないが半袖半ズボンで耐えられる寒さじゃなくなってきた。暗さで足元すら見えず、闇の中から轟々と風が大地を駆けずり回る音しか聞こえない。
早いうちから手足の感覚は無くなり、1歩進む度に膝の関節が鳴った。遂には歩くこともままならなくなり、ぼうっと立っていることしか出来なくなった。低く響く風の唸り声も、目に滲む暗闇も、心を掻き乱す悲しみも、寒さで熱を帯びた頭には留まらない。
あぁ、良かった。ようやく安心した……
何もかも疲れ果てて、全てを放棄しようかと思った。
そのとき。
「すみません。そこの人、大丈夫です?」
ハッと我に返り、もしやと高鳴る心臓を押さえつけて、おそるおそる振り返る。
「……!」
「あぁ!良かった。貴方があまりにもおかしな様子に見えたので。どうかしました?」
人だ……! 馬車を引いた西洋風の男で、前に出た腹と、古臭い服装が見慣れないが、親しさを感じさせる。どうやらここは日本ではないどころか、現代でもないらしい。それに気付いてギョッとしたが、それよりも今は人に出会えたことが嬉しかった。
"それより"と思ってしまうぐらい参っていたらしい。
明らかな異常事態に対する反応を忘れたみたいだ。
先程の苦しみが嘘のように、余所行きの仮面を付けて調子よく返事をする。
「え、えっとぉ…… 道に迷ってしまいまして…… 」
道に迷うような外出をしている筈なのに半袖半ズボンは違和感があったが、咄嗟にこれしか思いつかなかった。
「そんな格好で外出を?いや失礼。ですがそのままでは凍え死んでしまいますよ。乗っていきませんか?狭くて悪いですが……」
言われてしまった。だが乗せてもらうのは助かる。是非!と言いたいところだが、小銭入れは持っていても日本円じゃ通用しないだろう。実質無一文だ。
「あの、無一文なんです。それじゃあ申し訳ないし……」
命の危機な気がしていたし、少ししか申し訳ないなんて思わなかったが、こう言えば相手は僕を見捨てづらいだろう。その考え方については申し訳ない。だが、これを逃したらどうなるか分からないと結構必死で……
……いや、違う。相手はそんなこと少しも思っていないはずだ。何だかおかしい。何故こう思ったのだろう?僕ってこんな感じだっけ?
「あぁ、いえ。私は商人でして、近くの街に仕入れに行くだけなので全然大丈夫ですよ」
あぁでも良かった、助かった……
お礼を言って、乗せてもらうことにした。言っていた通り、細々とした雑貨や、よく分からない小瓶で狭かったが、僕1人分くらいは難なく座れた。ほんのり暖かくて気持ちが落ち着いてくる。
あと、今更ながらに思った。死後、おかしい気候、旅商人、馬車。これ、異世界転生というやつでは?
確かにそうかもしれない。僕の友達が熱弁していた。異世界に転生して最強になり無双したり、魔法や剣で魔物を倒してモテまくり、俺も転生してー!と。勧められて僕も読んだ。
あ……彼にはもう会えないのか……
転生なんて、全然良い事ないじゃないかって、言ってやりたかった。人知れず心が寂しくなっていく。駄目だ、考えるのは。
「失礼ですが、何故そのような格好を……?あ、いえ、何を目的に外出していたのです?」
えぇ、何って…… 思いつかない。何も答えないのは変だし、何か答えなきゃだよね…… 何か、何か……
「…………お、覚えてません」
…………明らかに駄目な回答をしてしまった! 何故これでいいと思ったんだ……?! まだ寝ぼけてるのかもしれないが、口に出してしまうとは破壊的な阿呆だ……!
変な汗をかきながら、商人の返答を待つ。
「えぇ?!それはもしかして、記憶喪失ですか?! 可哀想に…… 出身地や名前は分かりませんか? 名前の感じや出身地から身元を特定出来ないかと思いまして。貴方みたいな黒髪黒目は初めて見ましたし、ここら辺の出ではないのでしょう」
まさかそれでいけるとは。でも出身はなんて答えよう…… これも覚えてないでいいかな……? 名前は…… ん? 嘘だよね?な、名前………………
覚えてない。
なんだこれは。本当に?
名前が分からないなんて。急に不気味で不安になってきた。なんて言えばいいか分からない、良くない事をしている気持ちになった。
「…………覚えてない、です」
「あぁ、それは…… 可哀想に。ほら、もう街に着きますから、そこでゆっくりしていれば思い出しますよ!大変だろうけど、頑張って下さいね」
「はい、本当にありがとうございました。えーと……」
「ルージン・ハバダール・ガスです」
おぉ、長い。僕の名前は確かこんな感じではなかった気がする。
「ルージンさん。ありがとうございました」
良い人だった。命の恩人と言っても過言ではない。得体の知れない僕を助けてくれるなんて、もし僕がルージンさんの立場なら、僕を気味悪がって素通りするかもしれないのに。
ー ー ー ー ー
さて、これからどうしようか。
真夜中だからか、中世ヨーロッパ風の街に人通りはあまり無く、軽装の警備兵がこちらを珍しそうに見てくるくらいしかなかった。閑散とした広場には、色々な大きさ、向きの足跡が残り、昼間は賑わっていたことを感じさせる。
灰色の石造りの家々に明かりが灯り、見慣れない光景に本能的にわくわくしてしまったが、問題は山積みで、わくわくしている余裕は無い。
1番の問題はお金だ。僕は勿論お金を稼いだことなんかないし、どうやって稼げばいいのか分からない。ただ衣住食を揃えるためには絶対に必要だろう。あ、それどころか単位や価値だって分からないじゃないか。
それに、なんにも食べていなかったからお腹がすいてきてしまった。持ってあと3日くらいかも。いや、寒さで1晩も越せないかもしれない。簡単に言ってしまうとそうだったが、そのときはどうする?
あれ?そのとき、僕はどうなる?
分かっているだろう。
死ぬ…… また。……また?
本当に僕は死んだのだと考えるしかないから、そうなのだとしたら、タイムリミットを過ぎるとまた死ぬことになる。
絶対に、絶対に何とかしなくては。
取り敢えず今夜は人目のつかない塀近くで丸くなって過ごした。既に空が明るくなり始めていたから、凍死することもないだろうと考えたのだ。
思っていたより直ぐに朝日が昇り、朝を知らせる鐘が鳴り始めた。
背水の陣であることを意識して…… 今日から頑張ろう。
最悪のモチベーションだが、1番これが効くだろう。心が涙目になりつつ、今はひたむきに生きることを考えようと思った。
読んでいただきありがとうございます……!
頑張ります……
今後ともよろしくお願いします!




